2015 年ねんから毎年まいとしシンガポール国際こくさい映画えいが祭さいに招待しょうたいされ、東南とうなんアジアのクリエイターと交流こうりゅうを深ふかめていく中なかで、2017 年ねんの頭あたまにフェスティバルディレクターから「今年ことしの映画えいが祭さいに向むけて現代げんだい美術びじゅつの展示てんじをしませんか？」とお話はなしをいただきました。内心ないしん、なぜ映画えいがバカの僕ぼくが突然とつぜん現代げんだい美術びじゅつの展示てんじを？と戸惑とまどいもありましたが、僕ぼくが若わかいころ音楽おんがくや美術びじゅつ作品さくひんを制作せいさくしていたことを以前いぜんお話はなししたことがきっかけになったようでした。映画えいが祭さいが、スポンサーでもある“アート・サイエンス・ミュージアム”と初はじめて行おこなうコラボレーション企画きかくの展示てんじ依頼いらいで、「現代げんだい美術びじゅつの展示てんじである上うえに映画えいが祭さいと関連かんれんづけた映画えいがっぽい作品さくひんを」という難むずかしい課題かだいの企画きかく書しょを1 週間しゅうかんほどで仕上しあげなくてはなりませんでした。急きゅうな依頼いらいだったため当初とうしょはアバウトな企画きかく書しょでしたが美術館びじゅつかんでは着々ちゃくちゃくと大だい工事こうじが進行しんこうし『SPECTORS AND TOURIST：亡霊ぼうれいたちと観光かんこう客きゃく』という展示てんじタイトルで、特殊とくしゅな３面めんスクリーンを使つかい過去かこ作品さくひんのミックス映像えいぞうを上映じょうえいし、郊外こうがいに幽閉ゆうへいされた人々ひとびとがテーマの「亡霊ぼうれいの部屋へや」とそこからの逃亡とうぼうをテーマにした新作しんさくを上映じょうえいする「観光かんこう客きゃくの部屋へや」を作つくり上あげました。新作しんさく映像えいぞうには短編たんぺんを予定よていしていましたが、これを機きに新作しんさくを撮とりたいという欲よくもあったので、話はなし合あいとブラッシュアップを重かさねて現在げんざいの『TOURISM』の元もととなる映像えいぞう作品さくひん(約やく60 分ふん尺じゃく)を製作せいさくしました。結果けっかとして展示てんじには延のべ1 万まん人にん以上いじょうが来場らいじょうし、声こえがかかってから終演しゅうえんまで、自分じぶんでも幸運こううんで奇妙きみょうな体験たいけんをしたと思おもっています。作品さくひん自体じたいも撮影さつえいした素材そざいも権利けんりをいただくことができたので、展示てんじが終おわってからも編集へんしゅうを続つづけていきました。

時間じかんも限かぎられていましたし、スケジュールが流動的りゅうどうてきである中なかで見みず知しらずのキャストを招まねいて進すすめていくのではなく、ある程度ていど分わかり合あっているふたりを知しらない景色けしきに連つれていき演出えんしゅつをするということを念頭ねんとうにキャスティングを進すすめていきました。普段ふだん仲良なかよくしている遠藤えんどう新しん菜さいさんを主演しゅえんにしようとは考かんがえていたので、さまざまなバランスからプライベートでも交流こうりゅうがあるというSUMIRE さんにオファーを出だしたら快こころよく引ひき受うけてくれました。初日しょにちは皆みなさんの癖くせや関係かんけい性せいを見みるために数時間すうじかんリハーサルをしましたが、あとは現場げんばで話はなし合あいながら撮とり進すすめました。

製作せいさくの開始かいしは2017 年ねん7 月がつからで、東京とうきょうでの撮影さつえいは1.5 日にち、シンガポールは4 日間にちかんフルで撮影さつえいをし、クランクアップしてからすぐに空港くうこうへ向むかうようなギリギリのスケジュールでした。成田空港なりたくうこうでのシーンは僕ぼくがシンガポールと日本にっぽんを行いき来きしていた関係かんけいで不在ふざいの撮影さつえいとなり、事前じぜんにカット割わりを伝つたえておいてから準備じゅんびを進すすめて当日とうじつは電話でんわなどを駆使くしし遠隔えんかく演出えんしゅつを行おこないました。一方いっぽうシンガポールでは到着とうちゃくしてからほとんどがゲリラ撮影さつえいで、隠かくしカメラのような状態じょうたいで撮影さつえいをしました。シンガポールでは何なんヶ月かげつも前まえからロケ地ちを交渉こうしょうし、許可きょかを取とり進すすめていくのが普通ふつうではあるので、各所かくしょであつかましく撮影さつえいしてあっさりと帰国きこくする僕ぼくらに当地とうちの関係かんけい者しゃは驚おどろいていました。撮影さつえいの渡邉わたなべ寿ことぶき岳たけしくんはこの作品さくひんの前まえに一いち度どMV を撮とったことがあり、良よいなと思おもっていました。その渡邉わたなべ君くんから手渡てわたされた黒川くろかわ幸則ゆきのり監督かんとくの『VILLAGE ON THE VILLAGE』を観みて、その自由じゆうさと不思議ふしぎさがなんとも面白おもしろくて今回こんかいの撮影さつえいをお願ねがいしました。撮影さつえい前まえに観みた作品さくひんに関かんしては、自称じしょうアメリカ映画えいが原理げんり主義しゅぎ者しゃとして今いままでは恥はずかしくてできなかったフランスのヌーヴェルヴァーグ的てきなことに今回こんかいの作品さくひんではチャレンジしようと思おもっていたので、自分じぶんの中なかでは、日本にっぽんでそういうことにチャレンジされている冨永とみなが昌あきら敬けい監督かんとくや瀬田せたなつき監督かんとくの作品さくひんを見直みなおしたりしていました。二人ふたりの少女しょうじょが旅たびに出でてから、“旅たび”の過程かていで2017 年ねんの日本にっぽんの社会しゃかい的てき背景はいけいや、比くらべて同時どうじにシンガポールの情勢じょうせいを感かんじられることもテーマだったので現代げんだい美術家びじゅつかのアイ・ウェイウェイの作品さくひんも少すこし参照さんしょうにしましたね。撮影さつえい機材きざいとしては今いまのデバイスを日本にっぽん映画えいがにありがちな舞台裏ぶたいうらネタ的てきなことではなく、アメリカのコメディ映画えいがのようにライトに使つかっていくためにiPhone やiPad などコマ数すうが違ちがうものもじゃんじゃん取とり入いれていきました。編集へんしゅう段階だんかいでそれらを混まぜていくことはすごく大変たいへんな作業さぎょうではありましたが、コマ落おちやノイズが走はしってしまうこと自体じたいもこの作品さくひんのアジであり重要じゅうようなポイントです。渡邉わたなべくんが持もってきてくれたカメラはBlack Magic Pocket というiPhone サイズのもので、そこに60 年代ねんだいのフランスのレンズを特殊とくしゅなアダプターでつけています。それが作用さようしてフィルムっぽい質感しつかんや8mmフィルムで撮とっているようにも見みえるし、デジタルで撮とっているようにも見みえるような画がになりました。

僕ぼくは今いままで制作せいさくした作品さくひんがすべてつながっているつもりで毎回まいかい撮影さつえいしているので、『TOURISM』は『大和やまと（カリフォルニア）』から地続じつづきで、「大和やまと」の舞台ぶたいとなった地域ちいきの近所きんじょに住すんでいる似にたような境遇きょうぐうの少女しょうじょたちが旅たびに出でる作品さくひんにしようと考かんがえました。ですから、劇げき中ちゅうで３人にんが住すんでいる家いえの中なかは実際じっさいには横浜よこはまなんですが、それ以外いがいは基本きほん的てきに大和やまと市しで撮影さつえいを行おこないました。シンガポールは厳きびしいセキュリティー下かでのゲリラ撮影さつえいを行おこなっていくことになることが事前じぜんにわかっていたので、どのシーンをどのデバイスでどう効率こうりつよく撮影さつえいするか、それでいて新味しんみのある演出えんしゅつができるかを入念にゅうねんに検討けんとうして撮影さつえいしていきました。僕ぼく自身じしんは旅たびをするときに、観光かんこう地ちを巡めぐるだけでなく現地げんちの人ひとと深ふかく関かかわることが好すきでして、この映画えいがには多おおくの実体験じつたいけんが投影とうえいされています。劇げき中ちゅうでは少すこし違ちがう演出えんしゅつになっていますが、突然とつぜんのスコールに打うたれ携帯けいたいが壊こわれて迷子まいごになったり、民家みんかで突然とつぜんライブが始はじまったりというのは実体験じつたいけんです。はじめて訪おとずれたときは過剰かじょうに整備せいびされていて、そんなに面白味おもしろみを感かんじなかったシンガポールですが、毎年まいとし通かよっているうちに華僑かきょうやムスリムやインド系けい、そして日本人にっぽんじんが入いり乱みだれているシンガポールが東南とうなんアジアの縮図しゅくずのように見みえてきて、次第しだいに面白おもしろみを感かんじるようになりました。そんな中なか、「大和やまと」の上映じょうえいを通つうじ知しり合あった現地げんち在住ざいじゅうの中山なかやま雄太ゆうたさんからは様々さまざまな知見ちけんを得えました。ある夜よる、「シンガポールのダーク・ツーリズムに行いきますか？」と、清潔せいけつに見みえるシンガポールの中なかでも社会しゃかい問題もんだいが吹ふき出でているようなスポットに片かたっ端ぱしから連つれて行いっていただいて、様々さまざまな撮影さつえい候補こうほ地ちを見出みいだすことができました。劇げき中ちゅうでも遠藤えんどうさんが佇たたずむバス停ばすていは国境こっきょうを越こえてマレーシアに行いくためのバス乗のり場ばで、シンガポールに居住きょじゅうできない貧まずしい人々ひとびとがマレーシアに毎日まいにちシンガポールでの仕事しごとを終おわり えた後のちに帰かえるために集あつまる場所ばしょです。現地げんちスタッフからすればなんの面白おもしろみもないごく日常にちじょう的てきな風景ふうけいだったようですが、彼かれらの当あたり前まえを僕ぼくらは当然とうぜん知しらないわけで、そういった異邦いほう人じんとしての視点してんを映画えいがに持もち込こむのは外国がいこく人じんにしかできないことなので、当然とうぜん現地げんちの方々かたがたに敬意けいいは払はらいながらその辺あたりは意識いしき的てきにやっていきました。また、中華ちゅうか街がいやリトル・インディアの出店しゅってん、カラフルなアパート群ぐんなどはシンガポールの急速きゅうそくな都市とし開発かいはつ、ジェントリフィケーションによって今いまはすべてなくなっていて、今いまとなっては映画えいがの中なかにだけ残のこる幻想げんそうのようです。

アート・サイエンス・ミュージアムでの展示てんじの際さいに上映じょうえいされたバージョンから20 分ふんほど上映じょうえい時間じかんが延のびたバージョンへ、その後ご大阪おおさかアジアン映画えいが祭さいなどを経へて上映じょうえいの度たびに細こまかく修正しゅうせいを重かさねていきました。大阪おおさかアジアン映画えいが祭さいでの上映じょうえいが終おわってから、画がに東南とうなんアジア独特どくとくの色味いろみが出でていないことがずっと気きになっていて、『５TO９』の際さいに知しり合あったマカオ人じんの映画えいが制作せいさく者しゃに相談そうだんを持もちかけたところ、ゴンサロ・フェレイラというペドロ・コスタのフィルム時代じだいからのカラリストを紹介しょうかいしてくれました。（新作しんさく『VIDEOPHOBIA』でもゴンサロがカラリストを担当たんとう）カラコレ前まえの素材そざいは、西洋せいよう人じんからみるとどちらが日本にっぽんでどちらがシンガポールなのかわからないほど景色けしきや全体ぜんたいの雰囲気ふんいきが似通にかよっていると指摘してきされました。これは狙ねらいでもあったけれど、「同おなじだけど違ちがう」というテーマを強調きょうちょうするためにも、ゴンサロが清潔せいけつ感かんを維持いじしつつも視覚しかく的てきにハッキリと隔へだたりを持もたせてくれました。ケバケバしくもかっこよく、現代げんだい的てきな、他たで見みたことがない色いろになったと思おもっています。デバイスを幾いくつもまたいだにも関かかわらず安心あんしんして見みられるのもゴンサロのお陰かげです。 本編ほんぺんの編集へんしゅうは、ほぼすべて僕ぼくが行おこなっています。今いままでは周囲しゅういから作品さくひんに対たいして客観きゃっかん的てきな視点してんを持もつことを勧すすめられることが多おおく他ほかの方ほうに編集へんしゅうをお願ねがいしてきましたが、僕ぼく自身じしん編集へんしゅうが嫌きらいなわけでもないので今回こんかいは珍めずらしく自分じぶんでやってみることにしました。初はじめて撮影さつえい前まえに曲きょくをいただいたこともあり、曲きょくに合あわせて演出えんしゅつしたり編集へんしゅうしたり、足たりないと思おもうカットは後日ごじつまたシンガポールに仕事しごとで行いく機会きかいを利用りようして自分じぶんでカメラを担かついで撮どりに行いったりなど、今いままでしていなかったアプローチもしました。『TOURISM』の仕上しあげ作業さぎょうの面白おもしろいところは、スタッフがほぼ顔かおを合あわせず進行しんこうしていったことです。素材そざいの受うけ渡わたし、グレーディング（色いろ調整ちょうせい）、音おと、ほとんどの作業さぎょうをネット上じょうで行おこなっていきました。高田たかださんが昼ひるは他たの現場げんばをやりながら夜よるに整せい音おんしたデータを送おくってくださって、編集へんしゅうした作品さくひんも動画どうがリンクを共有きょうゆうして意見いけんをもらって、リスボンやマカオでグレーディングをして、PC 上じょうで作品さくひんが完成かんせいしていったのです。本来ほんらいの進行しんこう方法ほうほうであればスタジオにスタッフ皆みながいちいち集あつまって進行しんこうしていく作業さぎょうですが、コスト・労働ろうどう力りょく対策たいさくとしても今回こんかいは現代げんだい的てきな方法ほうほうで自由じゆうに進すすめることができましたし、それでそれなりに上手うまくいった手てごたえがあるので、また更さらに映画えいが作づくりが身近みぢかなものになったような気きがします。そんなこともあり、近年きんねん、以前いぜんよりもある意味いみ図々ずうずうしく撮影さつえいができるようになりました。映画えいが制作せいさくはかくあるべきみたいなものからだいぶ解放かいほうされつつあります。また、ある程度ていど無理むりを言いってでも納得なっとく行いくまで追求ついきゅうすべきポイントが分わかってきたような気きがします。タイのミュージシャンの友人ゆうじんに言いわれた「日本人にっぽんじんはなんでも100%を追求ついきゅうしすぎるのよ。おかれた状況じょうきょうでやれることをやりながら、好すきなことからだけは離はなれないで生いきていくのが人生じんせいよ」という言葉ことばを忘わすれないようにしながら、毎回まいかい違ちがう状況じょうきょうに対応たいおうし、自分じぶんなりの映画えいが制作せいさくの楽たのしみ方かたをこれからも追求ついきゅうしていけるといいですね。