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井狩 恵「障害者雇用促進法の成果と限界――障害者、企業の多様性に注目して」
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かり めぐみ障害しょうがいしゃ雇用こよう促進そくしんほう成果せいか限界げんかい――障害しょうがいしゃ企業きぎょう多様たようせい注目ちゅうもくして」

障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかい報告ほうこく要旨ようし 於:立命館大学りつめいかんだいがく
20090927


報告ほうこく要旨ようし
 かり めぐみ京都府立大学きょうとふりつだいがく大学院だいがくいん公共こうきょう政策せいさくがく研究けんきゅう
 「障害しょうがいしゃ雇用こよう促進そくしんほう成果せいか限界げんかい――障害しょうがいしゃ企業きぎょう多様たようせい注目ちゅうもくして」

 障害しょうがいしゃ労働ろうどう市場いちばにおける就業しゅうぎょうりつ障害しょうがいしゃくらべて極端きょくたんひくい。そのため、政府せいふは「障害しょうがいしゃ雇用こよう促進そくしんとうかんする法律ほうりつ」(以下いかほう)を制定せいていすることにより、企業きぎょうとうでの一般いっぱん就労しゅうろう機会きかい拡大かくだいはかってきた。このほうは、義務ぎむ雇用こよう雇用こよう納付のうふきん職業しょくぎょうリハビリテーションのみっつの制度せいどはしらとして、雇用こようぬし障害しょうがいしゃ双方そうほうけた施策しさく規定きていする。ほん研究けんきゅうでは、ほう障害しょうがいしゃ就労しゅうろう機会きかい拡大かくだいたいして、限定げんていてき有効ゆうこうせいしかちえず、むしろ結果けっかてき障害しょうがいしゃ雇用こよう阻害そがい要因よういんとなっていることをあきらかにする。
 ほう雇用こようぬしがわである企業きぎょうたいし、社会しゃかい連帯れんたい理念りねんした企業きぎょう規模きぼ産業さんぎょう形態けいたいとうといった個別こべつ要素ようそ考慮こうりょしない一律いちりつ雇用こようりつ義務付ぎむづけ、それを達成たっせいしない場合ばあいには納付のうふきん支払しはら義務ぎむしている。しかし義務ぎむ雇用こよう納付のうふきん制度せいどは「まけ強化きょうかさく」として機能きのうしており、企業きぎょうたいして障害しょうがいしゃ雇用こよう責務せきむかんじさせてはいるが、一方いっぽう積極せっきょくてき障害しょうがいしゃ雇用こようしようとするインセンティブをもちにくくさせている。
 ほう障害しょうがいしゃたいしても、職業しょくぎょうリハビリテーション(以下いかしょくリハ)制度せいど中心ちゅうしん能力のうりょく向上こうじょう開発かいはつはかってきた。企業きぎょうとうにおける一般いっぱん就労しゅうろうには、最低さいてい賃金ちんぎん以上いじょう労働ろうどうもとめられるため、それをたすためにしょくリハは有効ゆうこうであるとかんがえられている。しかしほん研究けんきゅうではしょくリハの有効ゆうこうせい限定げんていてきであると指摘してきする。その限定げんていせいあきらかにするために、ほん研究けんきゅうでは現行げんこう一般いっぱん就労しゅうろうにおいて、よっつの障害しょうがいしゃそう想定そうていする。そこでは、障害しょうがいゆえにしょくリハによってもその能力のうりょく障害しょうがいしゃいつかない障害しょうがいしゃそう存在そんざいすることをあきらかにする。この障害しょうがいしゃそうは、既存きそん障害しょうがい程度ていど区分くぶんでは重度じゅうど判定はんていされず、しょくリハによる能力のうりょく向上こうじょう期待きたいされるそうである。この障害しょうがいしゃそう一般いっぱん就労しゅうろう困難こんなんであり、結果けっかてき福祉ふくしてき就労しゅうろうまらざるをない。福祉ふくしてき就労しゅうろうから一般いっぱん就労しゅうろうへの移行いこうりつとし1%という現状げんじょうは、しょくリハと義務ぎむ雇用こようあいだまる障害しょうがいしゃそう存在そんざいかんがえられる。
 げん制度せいどは、障害しょうがいしゃ雇用こよう促進そくしんたいして有効ゆうこうでないばかりか、企業きぎょう積極せっきょくてき障害しょうがいしゃ雇用こようたいするインセンティブをぎ、また障害しょうがいしゃ就労しゅうろう希望きぼう減退げんたいさせる要因よういんとなっていることを指摘してきする。

報告ほうこく原稿げんこう

2009ねん9がつ26にち/27にち                          障害しょうがい学会がっかい だいかい大会たいかい
於:立命館大学りつめいかんだいがく

障害しょうがいしゃ雇用こよう促進そくしんほう成果せいか限界げんかい――障害しょうがいしゃ企業きぎょう多様たようせい注目ちゅうもくして」

京都府立大学きょうとふりつだいがく公共こうきょう政策せいさくがく研究けんきゅう・M2
かり めぐみ(いかりめぐみ)

0.はじめに
 障害しょうがいしゃ就労しゅうろうろんじる場合ばあい福祉ふくし施設しせつないおけるいわゆる福祉ふくしてき就労しゅうろうではなく、労働ろうどう市場いちばにおける一般いっぱん就労しゅうろうがその目指もくしすべき方向ほうこうとされることがおおい。その前提ぜんていとして想定そうていされていることには、(1)障害しょうがいしゃ自身じしん一般いっぱん就労しゅうろうのぞんでいること、(2)国際こくさいてきなノーマライゼーションのながれのなかで、障害しょうがいしゃ社会しゃかい参加さんか目指めざされてきたことがある。これらの前提ぜんていからは、障害しょうがいしゃ職業しょくぎょうてき自立じりつつうじて社会しゃかい参加さんかをすることが、障害しょうがいしゃにとっても社会しゃかいにとってものぞましいことだという結論けつろん帰結きけつする。そしてこれを実現じつげんしていくために、企業きぎょう障害しょうがいしゃ雇用こようあたえること、同時どうじ障害しょうがいしゃ一般いっぱん就労しゅうろうけての意識いしき向上こうじょう職業しょくぎょう能力のうりょく開発かいはつおこなっていくことが要求ようきゅうされる。
 実際じっさい障害しょうがいしゃ就労しゅうろうかんする政府せいふ方針ほうしんには、障害しょうがいしゃの「経済けいざいてき自立じりつ」や「職業しょくぎょうてき自立じりつ」がうたわれ、「障害しょうがいしゃ雇用こよう促進そくしんとうかんする法律ほうりつ」(以下いか雇用こよう促進そくしんほう)を中心ちゅうしんに、一般いっぱん就労しゅうろう目標もくひょうえた施策しさく展開てんかいされる。
 しかし周知しゅうちとおり、企業きぎょうされた障害しょうがいしゃ法定ほうてい雇用こようりつ雇用こよう促進そくしんほう制定せいてい以来いらいいち達成たっせいされたことがなく、また雇用こようりつ達成たっせい企業きぎょうすうは、対象たいしょう企業きぎょう半数はんすうえる。
 ほん発表はっぴょう目的もくてきは、こうした現状げんじょうたいしてこうじられる制度せいど施策しさくがいかなる有効ゆうこうせい限界げんかいをもつのかを、障害しょうがいしゃ企業きぎょうのそれぞれに注目ちゅうもくして検討けんとうすることである。そのための手順てじゅん以下いかとおりである。(1)障害しょうがいしゃ一般いっぱん就労しゅうろう全体ぜんたいぞう把握はあくする。(2)つづいて、障害しょうがいしゃ一般いっぱん就労しゅうろうをめぐる実態じったい確認かくにんする。企業きぎょうけると、産業さんぎょう形態けいたいべつ雇用こようする障害しょうがい種別しゅべつことなること、また産業さんぎょう形態けいたいにより法定ほうてい雇用こようりつ達成たっせい割合わりあいしょうじていることがかる。障害しょうがいしゃけると、おおくの福祉ふくしてき就労しゅうろうしゃ存在そんざい問題もんだいとされるなかで、一般いっぱん就労しゅうろうのぞまない障害しょうがいしゃ多数たすう存在そんざいすることがかる。これらから、企業きぎょう/障害しょうがいしゃ多様たよう実態じったい確認かくにんする。(3)以上いじょう実態じったい把握はあくしたのち障害しょうがいしゃ雇用こよう促進そくしん制度せいど施策しさく特徴とくちょうおよびその射程しゃてい検討けんとうする。具体ぐたいてきには、制度せいど施策しさく企業きぎょうたいしては「まけ強化きょうかさく」、障害しょうがいしゃたいしては「自助じじょ努力どりょく要請ようせい」を強調きょうちょうしていることを確認かくにんする。最後さいごにこうした制度せいど施策しさくが、企業きぎょう/障害しょうがいしゃ多様たようせい考慮こうりょしていないことを検討けんとうする。その結果けっか障害しょうがいしゃなかには制度せいどによってみだされた福祉ふくしてき就労しゅうろうそう存在そんざいすることをしめす。最後さいごに、ほん発表はっぴょう課題かだいをあげる。
1.報告ほうこく解説かいせつ
1.1 障害しょうがいしゃ一般いっぱん就労しゅうろう全体ぜんたいぞう
 厚生こうせい労働省ろうどうしょう発表はっぴょうによると、障害しょうがいしゃ就業しゅうぎょうりつ身体しんたい障害しょうがいしゃが43%、知的ちてき障害しょうがいしゃが52.6%、精神せいしん障害しょうがいしゃが17.3%となっている。これらから知的ちてき障害しょうがいしゃ就業しゅうぎょうりつもっとたかく、精神せいしん障害しょうがいしゃのそれがもっとひくいことがかる。しかしこの就業しゅうぎょうりつには、労働ろうどう市場いちばにおけるいわゆる一般いっぱん就労しゅうろうだけではなく、授産じゅさん施設しせつ作業さぎょうしょでの福祉ふくしてき就労しゅうろうふくまれる。一般いっぱん就労しゅうろう福祉ふくしてき就労しゅうろう割合わりあいをみてみると、じゅん身体しんたい障害しょうがいしゃが51%と7%、知的ちてき障害しょうがいしゃが20%と61%、精神せいしん障害しょうがいしゃが35%と41%となっており、とく知的ちてき障害しょうがいしゃ精神せいしん障害しょうがいしゃにおいて、福祉ふくしてき就労しゅうろうめる割合わりあい非常ひじょうおおきいことがかる。
 つづいて、民間みんかん企業きぎょうにおける障害しょうがいしゃじつ雇用こようりつをみてみると、近年きんねんじつ雇用こようりつ上昇じょうしょうしていることがかる。とく重度じゅうど障害しょうがいしゃにんやとうと2人ふたりぶんとしてカウントされるダブルカウント制度せいどにより、重度じゅうど障害しょうがいしゃ雇用こよう増加ぞうかしている。
以上いじょうをまとめると、障害しょうがいしゃ就業しゅうぎょう形態けいたいとしては一般いっぱん就労しゅうろうだけでなく福祉ふくしてき就労しゅうろう存在そんざいおおきく、とく知的ちてき障害しょうがいしゃ場合ばあい福祉ふくしてき就労しゅうろう割合わりあい一般いっぱん就労しゅうろうの3ばいとなっている。
一方いっぽう一般いっぱん就労しゅうろう注目ちゅうもくすると、企業きぎょう雇用こようりつ上昇じょうしょう傾向けいこうにあり、とくにダブルカウント制度せいどによる重度じゅうど障害しょうがいしゃ雇用こよう増加ぞうかがうかがえる。

1.2 障害しょうがいしゃ一般いっぱん就労しゅうろうをめぐる企業きぎょう障害しょうがいしゃ実態じったい
1.企業きぎょう
 かく産業さんぎょう形態けいたいべつ雇用こようされる障害しょうがい種別しゅべつをみてみると、つぎのような特徴とくちょうかびがる。身体しんたい障害しょうがいしゃかんしては産業さんぎょう形態けいたいによるかたよりはほとんどみられないが、とくに知的ちてき障害しょうがいしゃ産業さんぎょう形態けいたいによる雇用こよう割合わりあいいちじるしいかたよりがみられる。身体しんたい障害しょうがいしゃもっとおお雇用こようしている産業さんぎょう形態けいたいもっとひくいそれとのが4.37ポイントであるのにたいし、知的ちてき障害しょうがいしゃは23.8ポイントである。雇用こようされている知的ちてき障害しょうがいしゃぜん障害しょうがいしゃたいする雇用こよう割合わりあい内訳うちわけをみてみると、「金融きんゆう保険ほけん不動産ふどうさん」(0.98%)、「建設けんせつぎょう」(1.38%)、「情報じょうほう通信つうしんぎょう」(1.79%)のじゅんひくく、「飲食いんしょくてん宿泊しゅくはくぎょう」(24.78%)、「卸売おろしうり小売こうりぎょう」(14.64%)、「医療いりょう福祉ふくし」(14.01%)のじゅんたかい。また企業きぎょう雇用こようりつ達成たっせい割合わりあい産業さんぎょう形態けいたいべつでみてみると、「情報じょうほう通信つうしんぎょう」(21.5%)、「金融きんゆう保険ほけん不動産ふどうさんぎょう」(31.2%)、「卸売おろしうり小売こうりぎょう」(33.1%)のじゅん達成たっせい割合わりあいひくく、ぎゃくに「医療いりょう福祉ふくし」(57.4%)、「製造せいぞうぎょう」(55.3%)、「運輸うんゆぎょう」(51%)のじゅんたかい。これにも産業さんぎょう形態けいたいべつかたよりがあるといえる。

2.障害しょうがいしゃ
 おおくの障害しょうがいしゃ福祉ふくしてき就労しゅうろうにあることはさきにみた。厚生こうせい労働省ろうどうしょうによるとやく20まんにん授産じゅさん施設しせつ利用りようしゃとされる。これは一般いっぱん就労しゅうろうしゃやく24まんにんくらべても、非常ひじょうおおきな割合わりあいであるといえる。またこの福祉ふくしてき就労しゅうろうしゃのうち、一般いっぱん就労しゅうろうへの移行いこうりつ年間ねんかん1%程度ていどわれており、一般いっぱん就労しゅうろうへの移行いこうきびしさがうかがえる。政府せいふはこうした福祉ふくしてき就労しゅうろうしゃおおさ、移行いこうりつひくさを問題もんだいし、「はたらくことを希望きぼうする障害しょうがいしゃが・・・・就労しゅうろうつうじた社会しゃかい参加さんか実現じつげんするとともに、職業しょくぎょうてき自立じりつはかるため」雇用こよう拡大かくだいさせるといった対策たいさくはかっている。しかし福祉ふくしてき就労しゅうろうしゃおおさ、移行いこうりつひくさはほんとうに問題もんだいといえるのであろうか。
 このことを検討けんとうするために、障害しょうがいしゃ自身じしん就業しゅうぎょう意欲いよく注目ちゅうもくしてみる。就業しゅうぎょう障害しょうがいしゃに、希望きぼうする就業しゅうぎょう形態けいたいをたずねた調査ちょうさ結果けっかでは、知的ちてき障害しょうがいしゃの21%が常用じょうよう雇用こよう、15%が臨時りんじ・アルバイト、37%が授産じゅさん施設しせつとうでの福祉ふくしてき就労しゅうろう希望きぼうしている。また精神せいしん障害しょうがいしゃの、40%が常用じょうよう雇用こよう、30%が臨時りんじ・アルバイト、12%が福祉ふくしてき就労しゅうろう希望きぼうしており、希望きぼうする就労しゅうろう形態けいたい多様たようであることがかる。また福祉ふくしてき就労しゅうろうしゃに、今後こんご就労しゅうろう形態けいたいをたずねた調査ちょうさ結果けっかでは、身体しんたい障害しょうがいしゃ知的ちてき障害しょうがいしゃの7わりちかくが一般いっぱん就労しゅうろう希望きぼうしないとこたえている。さらに一般いっぱん就労しゅうろう希望きぼうしない理由りゆうをたずねたところ、「能力のうりょく自信じしんがない」および「はたら自信じしんがない」といった回答かいとうと、「いま生活せいかつ満足まんぞくしている」および「無理むりをしたくない」といった回答かいとう過半かはんめた。このうち前者ぜんしゃ回答かいとうは「一般いっぱん就労しゅうろうたいする不安ふあん」を表明ひょうめいしているといえ、これを「移行いこう不安ふあんそう」としてとらえることとする。また後者こうしゃ現在げんざい生活せいかつおおむ満足まんぞくしいるといえ、これを「現状げんじょう維持いじそう」としてとらえることとする。このことから、一般いっぱん就労しゅうろう希望きぼうしない障害しょうがいしゃにもおおきくふたつのそう存在そんざいするとかんがえられる。
 以上いじょうからは、かならずしも障害しょうがいしゃ自身じしん一般いっぱん就労しゅうろう希望きぼうしていない場合ばあいおおいことがかった。このてんからかんがえると、さき政府せいふ問題もんだいする福祉ふくしてき就労しゅうろうしゃおおさ、移行いこうりつひくさも問題もんだいではない場合ばあいがあるとかんがえられる。また一般いっぱん就労しゅうろう希望きぼうしない障害しょうがいしゃにも、「移行いこう不安ふあんそう」と「現状げんじょう維持いじそう」が存在そんざいするとかんがえられる。

1.3 障害しょうがいしゃ雇用こよう促進そくしん制度せいど施策しさく特徴とくちょうおよびその射程しゃてい
1.企業きぎょう
 企業きぎょう障害しょうがいしゃ雇用こようたいする中心ちゅうしんてきほうは、雇用こよう促進そくしんほうである。このほうは「雇用こよう義務ぎむ制度せいど」と「納付のうふきん制度せいど」をおおきなはしらとしている。「雇用こよう義務ぎむ制度せいど」は、一定いってい規模きぼ以上いじょう従業じゅうぎょう員数いんずうが56にん以上いじょう)の企業きぎょうたいし、ぜん従業じゅうぎょういんの1.8%以上いじょうとなる障害しょうがいしゃ雇用こよう義務付ぎむづける。法制ほうせい定時ていじ(1960)には努力どりょく目標もくひょうであったのが、76ねん改正かいせい義務ぎむ雇用こようとなった。またその雇用こようりつほう制定せいてい以来いらいすうかいにわたってげられてきたという経緯けいいがある。「納付のうふきん制度せいど」は、企業きぎょう雇用こようする障害しょうがいしゃすう当該とうがい企業きぎょう雇用こようすべき障害しょうがいしゃすうたない場合ばあい企業きぎょうたいしその「不足ふそくする障害しょうがいしゃすう」と「一定いってい金額きんがく毎月まいつきまんえん)」をわせたがく支払しはらいを義務付ぎむづける。
 こうしたほう制度せいど背景はいけいに、障害しょうがいしゃ雇用こようりつ上昇じょうしょうさせるため政府せいふ企業きぎょうたい規制きせい強化きょうか方針ほうしんをとってきた。毎年まいとし発表はっぴょうされる「6がつにち現在げんざい障害しょうがいしゃ雇用こようじょうきょうについて」においては、2002ねん以来いらい雇用こようりつ達成たっせい指導しどう強化きょうか」を中心ちゅうしんてき対策たいさくとしてかかげてきた。具体ぐたいてきには、雇用こよう改善かいぜんとくおくれている企業きぎょうたいしておこなわれる企業きぎょうめい公表こうひょう前提ぜんていとした「特別とくべつ指導しどう」の件数けんすうが、2002ねん以降いこうはほぼ毎年まいとし増加ぞうかしている(2002ねん→4けん、2003ねん→11けん、2004ねん→14けん、2005ねん→14けん、2006ねん→24けん、2007ねん→25けん、2008ねん→31けん、2009ねん→46けん)。また雇用こようりつ達成たっせいしていない企業きぎょうたいする「やとい計画けいかく発出はっしゅつ命令めいれい」の件数けんすうも、2004ねんの21けんから、もっとおおい2008ねんの143けんやく7ばいになっている(2004ねん→21けん、2005ねん→51けん、2006ねん→71けん、2007ねん→124けん、2008ねん→143けん、2009ねん→123けん)。
 以上いじょうのように、政府せいふ対策たいさく規制きせい指導しどう強化きょうか(「まけ強化きょうかさく」)が中心ちゅうしんとなっており、企業きぎょう産業さんぎょう形態けいたいといった多様たようせい考慮こうりょした制度せいど施策しさくはほとんど存在そんざいしない。

2.障害しょうがいしゃ
 雇用こよう促進そくしんほうにおける障害しょうがいしゃたいする一般いっぱん就労しゅうろう支援しえん制度せいどは、「職業しょくぎょうリハビリテーション」(以下いかしょくリハ)である。この制度せいど職業しょくぎょう訓練くんれん職業しょくぎょう紹介しょうかいとうつうじて、「障害しょうがいしゃ障害しょうがいのないひと同様どうように、その能力のうりょく適性てきせいおうじた雇用こようくことができる」ことを目指めざすものである。しょくリハは全国ぜんこく設置せっちされた「公共こうきょう職業しょくぎょう安定あんていしょ」や「障害しょうがいしゃ雇用こよう支援しえんセンター」、「障害しょうがいしゃ就業しゅうぎょう生活せいかつ支援しえんセンター」にくわえ、民間みんかん職業しょくぎょう能力のうりょく開発かいはつ施設しせつおよ社会しゃかい福祉ふくしほうもとづく「法定ほうてい授産じゅさん施設しせつ」、それ以外いがいの「小規模しょうきぼ授産じゅさん施設しせつ」において実施じっしされる。これらの実施じっし機関きかんにおいては障害しょうがいしゃ同様どうよう職業しょくぎょう相談そうだん職業しょくぎょう紹介しょうかいおこなわれるが、中心ちゅうしんとなるのは職業しょくぎょう訓練くんれんである。政府せいふ基本きほん方針ほうしんにおいても、「職業しょくぎょうリハビリテーションの推進すいしん」、「職業しょくぎょう能力のうりょく開発かいはつ充実じゅうじつ」を中心ちゅうしんに、障害しょうがいしゃ就労しゅうろうつうじた社会しゃかい参加さんか実現じつげん職業しょくぎょうてき自立じりつはかるとされている。つまり、職業しょくぎょう訓練くんれんつうじた一般いっぱん就労しゅうろう実現じつげん目指めざされるということである。職業しょくぎょう訓練くんれん重点じゅうてんいたしょくリハが有効ゆうこうであるといえるためには、障害しょうがいしゃしょくリハをおこなったのち一般いっぱん就労しゅうろういていることがもとめられる。しかし、福祉ふくしてき就労しゅうろうから一般いっぱん就労しゅうろうへの移行いこうりつとし1%程度ていどであるというのはさきにもべたとおりである。このことの理由りゆうには、一般いっぱん就労しゅうろう希望きぼうしない障害しょうがいしゃがいること、企業きぎょうにおける障害しょうがいしゃ雇用こようひろがらないことにくわえ、しょくリハの有効ゆうこうせい限定げんていてきであることもかんがえられるのではないだろうか。
 ここでしょくリハの有効ゆうこうせい検討けんとうするために、障害しょうがいしゃの「就業しゅうぎょう能力のうりょく多様たようせい」をかんがえてみたい。しょくリハの有効ゆうこうせいかんして、「しょくリハによって生産せいさん能力のうりょく障害しょうがいしゃ同等どうとうかそれにちかくなる障害しょうがいしゃ」(Tそう)、「しょくリハによっても、生産せいさん能力のうりょく障害しょうがいしゃ同等どうとうにならないが、重度じゅうどとも判定はんていされていない障害しょうがいしゃ」(Uそう)、「しょくリハによっても、生産せいさん能力のうりょく障害しょうがいしゃ同等どうとうにならないが、重度じゅうど判定はんていされている障害しょうがいしゃ(ダブルカウント適用てきようしゃ)」(Vそう)、「重度じゅうどのため、就業しゅうぎょう困難こんなん障害しょうがいしゃ」(Wそう)におおきくけることができる。Tそうには、職場しょくば復帰ふっき目指めざ中途ちゅうと障害しょうがいしゃ障害しょうがいしゃ同等どうとう条件じょうけん雇用こよう形態けいたいはたらくような障害しょうがいしゃかんがえられる。Uそうには、就業しゅうぎょう能力のうりょくひくさを理由りゆう福祉ふくしてき就労しゅうろうまるような障害しょうがいしゃかんがえられる。Vそうには、重度じゅうど判定はんていされた障害しょうがいしゃかんがえられる。このVそうがUそうことなるてんは、ダブルカウント制度せいど適用てきようされるかかである。Wそうには、年金ねんきんとう所得しょとく保障ほしょう制度せいど生活せいかつするような障害しょうがいしゃかんがえられる。
 このかい層分そうわけによれば、しょくリハが有効ゆうこうであるのはおもにTそうであるとかんがえられる。就業しゅうぎょう能力のうりょくたかめることを目標もくひょうえたしょくリハは、就業しゅうぎょう能力のうりょくひく障害しょうがいしゃを、そのひくさを理由りゆう福祉ふくしてき就労しゅうろうることがかんがえられる(Uそう)。Vそうにはダブルカウント制度せいどによる、就業しゅうぎょう能力のうりょくによらない雇用こよう機会きかい増大ぞうだいかんがえられる。
 以上いじょうでは、しょくリハが有効ゆうこうなTそう、ダブルカウント制度せいど有効ゆうこうなVそうと、こうした雇用こよう促進そくしん制度せいど効果こうかけにくいそうとしてのUそう存在そんざい検討けんとうした。またこのUそうには、しょくリハ制度せいどによって福祉ふくしてき就労しゅうろうまらざるをないような障害しょうがいしゃされていることも検討けんとうした。このことから雇用こよう促進そくしん制度せいどは、Uそうのような障害しょうがいしゃをその射程しゃていないめていないということができる。

2 おわりに
 ほん発表はっぴょうは、企業きぎょう/障害しょうがいしゃ多様たよう実態じったい注目ちゅうもくすることによって、従来じゅうらい制度せいど施策しさくのもつ有効ゆうこうせい検討けんとうした。具体ぐたいてきには企業きぎょうの「産業さんぎょう形態けいたいべつ多様たようせい」、障害しょうがいしゃの「就業しゅうぎょう意欲いよく多様たようせいおよび「就業しゅうぎょう能力のうりょく多様たようせい」を提示ていじしたが、この典型てんけいれい抽出ちゅうしゅつ実証じっしょうてき確認かくにん作業さぎょう今後こんご課題かだいである。さらに障害しょうがいしゃおよ企業きぎょう多様たようせいそくした具体ぐたいてき制度せいど施策しさく検討けんとう今後こんご課題かだいである。しかし企業きぎょうたいする「まけ強化きょうかさく」、障害しょうがいしゃたいする「自助じじょ努力どりょく要請ようせい」といった制度せいど射程しゃていにはおさまりらない問題もんだいしめすことはできたのではないだろうか。

作成さくせい
UP:20090905 REV:20090921
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