【Interview】かつて本気ほんきで三里塚さんりづかに関かかわった人ひとを訪たずねて 『三里塚さんりづかのイカロス』 代だい島とう治彦はるひこ（監督かんとく）×加藤かとう孝信たかのぶ（キャメラマン）

 “初志しょし”を大切たいせつにする人々ひとびと

——元もと公団こうだん職員しょくいんの前田まえだ伸夫のぶおさんの存在そんざい感かんが強烈きょうれつでした。彼かれは土地とちを買収ばいしゅうする立場たちばの人ひとですが、当初とうしょから撮影さつえい構想こうそうに入はいっていたのですか。

代だい島とう　加瀬かせ勉つとむさんと話はなしていると、新しん左翼さよくの敗北はいぼくや移転いてんした人々ひとびとのことがテーマに上あがるのですが、自おのずと移転いてんさせた側がわのことも視野しやに入はいってくるのです。その中なかで「特命とくめい交渉こうしょう人じん用地ようち屋や」（アスコム刊かん）という本ほんを書かいていた前田まえださんの存在そんざいが浮うかび上あがりました。

前田まえださんは最後さいごまで用地ようち買収ばいしゅうに反対はんたいしていた人ひとたちを次々つぎつぎに移転いてんさせて、公団こうだんの総裁そうさいから表彰ひょうしょうされ、空港くうこう建設けんせつに多大ただいな功績こうせきがあった人ひとです。ところが70歳さいになる前まえぐらいに、突然とつぜん暴露ばくろ本ほん的てきな内容ないようの本ほんを書かいて、公団こうだんを出入でいり禁止きんしになるんですね。僕ぼくはそれを読よんで、会あいに行いってみたら、話はなしをしてもいいよと言いわれて。前田まえださんは、中核ちゅうかく派はに家いえを爆破ばくはされたり、台所だいどころにマムシを投なげ込こまれたり、いろいろひどい目めにあった人ひとなんです。家いえのそばに中核ちゅうかく派はの幹部かんぶが立たっていて「あなたはいつかやられるよ」と囁ささやかれたりして。本ほんには当時とうじの裏話うらばなしがもっとたくさん載のっています。逆ぎゃくの立場たちばからの証言しょうげんは、ほんとうに貴重きちょうでした。

——管制塔かんせいとう占拠せんきょ事件じけんの当事とうじ者しゃたちの話はなしも、臨場りんじょう感かんがありましたね。

代だい島とう　管制塔かんせいとう占拠せんきょ事件じけんの実行じっこう部隊ぶたいは15人にんぐらいいるのですが、原はら勲いさおさんという、刑務所けいむしょから出でた後のちで拘禁こうきんノイローゼになって自殺じさつされた方ほうがいて、彼かれの分骨ぶんこつされたお墓はかが横堀よこぼりの鉄塔てっとう（※3）の下したにあるんです。そこで毎年まいとし、亡なくなった日ひの前後ぜんごに仲間なかまが集たかってお酒さけを飲のむ会かいがあって、一度いちど顔かおを出だし、中川なかがわさんとはそこで会あいました。

今回こんかい、平田ひらた誠まこと剛つよしさんと中川なかがわ憲一けんいちさんが話はなしてくださったエピソードは、管制塔かんせいとう占拠せんきょ事件じけんの全体ぜんたい像ぞうの10分ぶんの１とか20分ぶんの１ぐらいなんです。前日ぜんじつの準備じゅんび段階だんかいから話はなしがあるから。相手あいてに触ふれると電気でんきが流ながれるエレキ銃じゅうを開発かいはつしたけど、役やくに立たちそうもないから途中とちゅうで捨すてちゃったとか、マンホールから排水溝はいすいこうに入はいって、暗闇くらやみの中なかで仲間なかまと一いち晩ばん過すごしたとか、リアリティがあって面白おもしろい。ふたりとも一生懸命いっしょうけんめい思おもい出だして話はなしをしてくれますが、同おなじ場面ばめんなのにふたりが持もった印象いんしょうが違ちがっていたり。映画えいがではそれが面白おもしろく編集へんしゅうできましたね。

——中川なかがわさんは、奥おくさんとのエピソードが素晴すばらしいですね。

代だい島とう　哀かなしみだけでなく、光ひかりも見みたいし、愛あいも見みたいからね。結局けっきょく中川なかがわさんが刑務所けいむしょを出でたのは30歳さい代だい後半こうはんで、子供こどもはおらず、今いまも奥様おくさまと二人ふたりで暮くらしているそうです。

——愛あいといえば、歳月さいげつを重かさねると闘争とうそう一辺倒いっぺんとうでは生いきられなくなるという、農家のうかに嫁とついだ加藤かとう秀子ひでこさんの話はなしにも感銘かんめいを受うけました。『三里塚さんりづかのイカロス』に登場とうじょうされる皆みなさんは、生いき方かたの変化へんかを余儀よぎなくされる中なかで、何なにを大切たいせつにしてこられたのか。監督かんとくはどう思おもわれましたか。

代だい島とう　やっぱり初志しょしですかね。最初さいしょに三里塚さんりづかに行いこうと思おもった時ときの思おもい、自分じぶんがこう生いきよう、と思おもった気持きもちは、根ねっこにあるんじゃないかなと話はなしを聞きいて思おもいました。そういう意味いみでは転向てんこうはしていないと思おもうんです。加藤かとう秀子ひでこさんも、家庭かていを作つくって子供こどもを産うんで、育そだててとなった時ときに、家族かぞくと生いきていく選択せんたくの中なかに、彼女かのじょの初志しょしがあったことが見みえてきますしね。

『三里塚さんりづかのイカロス』より

いま三里塚さんりづか闘争とうそうを映画えいがに残のこす意味いみ

——今回こんかいの映画えいがでは、三里塚さんりづか闘争とうそうの歴史れきしを後世こうせいに伝つたえる側面そくめんもあるかと思おもいますが、歴史れきしの継承けいしょうという部分ぶぶんでは、どういう姿勢しせいで臨のぞまれたのですか。

代だい島とう　『三里塚さんりづかのイカロス』に登場とうじょうする人々ひとびとが若者わかものだった時代じだいは、既存きそんの社会しゃかいに対たいして異議いぎ申もうし立たてをするのが当あたり前まえでした。異議いぎ申もうし立たてがあることで社会しゃかいは変かわっていくものだし、世代せだいの循環じゅんかんみたいなものもあるはずなのに、日本にっぽんでは全共闘ぜんきょうとう世代せだいの挫折ざせつ以降いこう止とまってしまった。例たとえば2015年ねんにSEALDsが国会こっかいの前まえで声こえを上あげた時ときも、「全共闘ぜんきょうとう世代せだい以来いらいだね」と言いわれていました。全共闘ぜんきょうとうや新しん左翼さよくの党派とうはの闘たたかいが悲惨ひさんになってしまったことで、若者わかものが異議いぎ申もうし立たてをする文化ぶんかが潰ついえ、政治せいじに対たいするアレルギーが慢性まんせい化かしてしまいました。

そのアレルギーからいまの若者わかものを解放かいほうしたい。全共闘ぜんきょうとう世代せだいに責任せきにんを取とってください、とまでは言いわないけど、実態じったいはこうだったよ、という話はなしは残のこしておきたいと思おもいました。最後さいご、僕ぼくが岸きし宏一こういちさんに「岸きしさんの責任せきにんでもあるんですよ」といったら、「そうですね」と言いって映画えいがが終おわるのは、そういう思おもいがあるからなんです。

——新しん左翼さよくの暴力ぼうりょくや党派とうは対立たいりつの問題もんだいは、この映画えいがでは、必要ひつよう最小限さいしょうげんの情報じょうほうの紹介しょうかいに留とめた印象いんしょうを受うけました。そこは意識いしきしましたか。

代だい島とう　今いまの若わかい人ひとや、就職しゅうしょくして普通ふつうの日常にちじょう生活せいかつを送おくってきた人ひとにとっては、「セクトの人ひと」と聞きくだけで「えっ？」と思おもうよね。実際じっさい会あってみるまでは、僕ぼくも同おなじ印象いんしょうを持もっていました。『三里塚さんりづかに生いきる』の時ときからそうなんですが、僕ぼくが撮とる人ひとは、言いってみれば絶滅ぜつめつ危惧きぐ種しゅ。未いまだに国家こっかに抵抗ていこうを続つづけている農民のうみんも、新しん左翼さよくの活動かつどう家かも、世よの中なかから見みたらアウトサイダーの見本みほんのような人種じんしゅです。ただ、自分じぶんの感受性かんじゅせいに忠実ちゅうじつに「生いきてきた」。この映画えいがではステレオタイプな色眼鏡いろめがねを全部ぜんぶ外はずして、あの時代じだいやこの人々ひとびとを、自分じぶんの感受性かんじゅせいでしっかり受うけ止とめてほしいなと思おもっています。

僕ぼくの作つくった２本ほんの映画えいがは、三里塚さんりづか闘争とうそうという風景ふうけいの万華鏡まんげきょうがあるとしたら、そのひと振ふり目め、ふた振ふり目めです。万華鏡まんげきょうって、ひと振ふりすると風景ふうけいが変かわるでしょう？　ひとつの模様もようを見みつめるだけで、それが全すべてとは思おもわないし、また変かわって見みえますからね。

——そういう意味いみでは、『三里塚さんりづかを生いきる』と『三里塚さんりづかのイカロス』を2本ほん見みて、はじめて見みえてくることがあるかもしれません。もっと知しりたくなったら、昨年さくねんよりDVD化かされている小川おがわ紳しん介かい監督かんとくの三里塚さんりづかシリーズを観みる手てもありますね。最後さいごに、三里塚さんりづかを撮とってみて、思おもいを新あらたにしたことはありますか。

加藤かとう　小川おがわプロが解散かいさんした後のちも山形やまがたへは何なん度ども行いきましたが、一方いっぽうで三里塚さんりづかへは撮影さつえいで行いきたい、映画えいがを撮とらないと訪おとずれる意味いみは無ない、とどこかで思おもっていました。だから、代だい島とうさんから撮影さつえいの依頼いらいがあった時ときは素直すなおに嬉うれしかったですね。三里塚さんりづかでキャメラを回まわすチャンスにようやく巡めぐりあえた感かんじがしました。

代だい島とう　『三里塚さんりづかを生いきる』を撮とった時ときに、映画えいが批評ひひょう家かの藤井ふじい仁子さとこさんに「小川おがわプロの撮とった三里塚さんりづかに呪縛じゅばくされた自分じぶんを解放かいほうしてくれた」と評ひょうしていただきましたが、今回こんかいは、小川おがわプロが映画えいがを撮とった時代じだいにフリーズしたままになっていた三里塚さんりづかの歯車はぐるまを、少すこし回まわせた気きがします。

今いまの三里塚さんりづかは、一見いっけん桃源郷とうげんきょうのように見みえる緑みどり豊ゆたかな光景こうけいの上うえを飛行機ひこうきが飛とんでいくみたいな不思議ふしぎな場所ばしょになっていますが、実際じっさいは全部ぜんぶ公団こうだん（現げん：成田空港なりたくうこう会社かいしゃ）が買収ばいしゅうした土地とちです。歴史れきしの負まけの側面そくめんをひきずった風景ふうけいが、時代じだいの痕跡こんせきとして残のこっている。そこで農業のうぎょうをつづけている人ひとたちの上うえを飛行機ひこうきが飛とんでいくのを見みると、こちらが思おもっている当あたり前まえの社会しゃかい、経済けいざい成長せいちょう優先ゆうせん、人間にんげん中心ちゅうしん主義しゅぎの価値かち観かんがちょっと揺ゆらぐんですね。三里塚さんりづかに行いくと感かんじる価値かち観かんの揺ゆらぎも映画えいがから感かんじてもらえたら。「爆音ばくおんや　若者わかものどもが　夢ゆめの跡あと」。そんな感かんじです。飛行機ひこうきから眺ながめると、やっぱり単たんに美うつくしい光景こうけいにしか見みえないけどね。

※3 反対はんたい同盟どうめいが、飛行機ひこうきの離発着りはっちゃくを妨害ぼうがいするため空港くうこう建設けんせつ予定よてい地ち内ないに建たてた鉄塔てっとうのひとつ。現在げんざいも存在そんざいし、飛行機ひこうきの誘導ゆうどう路ろが曲まがっている。

『三里塚さんりづかのイカロス』より

【映画えいが情報じょうほう】

『三里塚さんりづかのイカロス』
（2017年ねん／日本にっぽん／カラー＆白黒しろくろ／138分ふん／DCP／5.1ch）

監督かんとく：代だい島とう治彦はるひこ
出演しゅつえん：加瀬かせ 勉つとむ　岸きし 宏一こういち　秋葉あきば恵美子えみこ　秋葉あきば義光よしみつ　前田まえだ深雪みゆき　ほか
撮影さつえい：加藤かとう孝信たかのぶ　音楽おんがく：大友おおとも良英よしひで　写真しゃしん：北井きたい一夫かずお
本編ほんぺん写真しゃしんは全すべて© 2017 三さん里塚さとづかのイカロス製作せいさく委員いいん会かい

9月9日にち、シアター・イメージフォーラム他たにて全国ぜんこく順次じゅんじロードショー

公式こうしきサイト→moviola.jp/sanrizuka_icarus
※9/17までドキュメンタリーの大だい宇宙うちゅう　小川おがわプロダクションとあの時代じだい1969−73　上映じょうえい中ちゅう！
※9/18より『三里塚さんりづかに生いきる』アンコール上映じょうえい！
各かく作品さくひんの上映じょうえい時間じかん・内容ないようはこちらから

【監督かんとく・キャメラマンプロフィール】

代だい島しま治彦はるひこ（だいしま・はるひこ）
1958年ねん埼玉さいたま県けん生うまれ。早稲田大学わせだだいがく政経学部せいけいがくぶ卒そつ。1994年ねん9月がつから2003年ねん4月がつまでミニシアター「BOX東中野ひがしなかの」を経営けいえい。多数たすうの映画えいが・テレビ番組ばんぐみを製作せいさく・演出えんしゅつ。2007年ねんより映画えいが美び学校がっこう講師こうしを務つとめる。映画えいが作品さくひんに劇映画げきえいが『パイナップル・ツアーズ』（1992年ねん / 製作せいさく）、『まなざしの旅たび　土本どもと典昭のりあきと大津おおつ幸四郎こうしろう』（2010年ねん / 監督かんとく・編集へんしゅう）、『オロ』（2012年ねん / 製作せいさく・編集へんしゅう）など。映像えいぞう作品さくひんに『日本にっぽんのアウトサイダーアート』（全ぜん10巻かん、紀伊國屋きのくにや書店しょてん）などがある。製作せいさく・監督かんとく・編集へんしゅうを担当たんとうした長編ちょうへんドキュメンタリ−映画えいが『三里塚さんりづかに生いきる』（大津おおつ幸四郎こうしろうと共同きょうどう監督かんとく）を2014年ねんに公開こうかいした。編著へんちょ書しょとしては『森もり達也たつやの夜よるの映画えいが学校がっこう』（現代書館げんだいしょかん）、『ミニシアター巡礼じゅんれい』（大月書店おおつきしょてん）がある。2017年ねん4月がつから音楽おんがくドキュメンタリー『まるでいつもの夜よるみたいに〜高田たかだ渡わたる 東京とうきょうラストライブ〜』を公開こうかい中ちゅう。

加藤かとう孝信たかのぶ　（かとう・たかのぶ）
1989年ねんより小川おがわプロダクションに参加さんか。1992年ねんの小川おがわプロの解散かいさんに伴ともない、以降いこうフリーで活動かつどう。フリーになって以降いこうのドキュメンタリー撮影さつえい作品さくひんに『Kidnapped!』（2005 メリッサ・リー監督かんとく）、『映画えいがは生いきものの記録きろくである　土本どもと典昭のりあきの仕事しごと』（2006年ねん 藤原ふじわら敏史としふみ監督かんとく）、『Bolinao 52』（2007年ねん / 米べい / デューク・グエン監督かんとく）、『日々ひびの呟つぶやき』（2009年ねん / 仏ふつ / ジル・シオネ、マリー=フランシーヌ・ル・ジャリュ監督かんとく）、『無人むじん地帯ちたい』（2012年ねん / 藤原ふじわら敏史としふみ監督かんとく）、『石川いしかわ文洋ふみひろを旅たびする』（2014年ねん / 大宮おおみや浩一こういち監督かんとく）、『沖縄おきなわ うりずんの雨あめ』（2015年ねん / ジャン・ユンカーマン監督かんとく）、『筑波つくば海軍かいぐん航空こうくう隊たい』（2015年ねん / 若月わかつき治おさむ監督かんとく）など。『小森こもり生活せいかつ向上こうじょうクラブ』（2008年ねん / 片かた嶋しま一貴かずたか監督かんとく）、『お元気げんきですか？』（2016年ねん / 室賀むろが厚あつし監督かんとく）、『キリマンジャロは遠とおく』（2016年ねん / 柏原かしわばら寛ひろし司し監督かんとく）など劇映画げきえいが作品さくひんも手てがける。