24時じ間あいだ365日にちのつきっきりも実現じつげんする
あなたの知しらない重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごの世界せかい

ーー第だい2回かい（全ぜん6回かい）　専門せんもん職しょくの口くちコミが大切たいせつですーー

医学書院いがくしょいん『訪問ほうもん看護かんごと介護かいご』2020年ねん2月がつ号ごうp158-161掲載けいさい
大野おおの直之なおゆきさん（全国ぜんこく障害しょうがい者しゃ介護かいご保障ほしょう協議きょうぎ会かい）の提供ていきょうにより連載れんさい（全ぜん6回かい）のうち第だい1回かい、第だい2回かいを掲載けいさいいたします

全国ぜんこく障害しょうがい者しゃ介護かいご保障ほしょう協議きょうぎ会かい
大野おおの直之なおゆき

■目次もくじ

■ 第だい2回かい　専門せんもん職しょくの口くちコミが大切たいせつです

第だい1回かいでは、都市とし部ぶではすでに数すう千せん人にん単位たんいの重度じゅうど訪問ほうもん介護かいご制度せいどの利用りよう者しゃがおり、近年きんねんようやく全国ぜんこくの農のう山村さんそん地域ちいきや離島りとうの利用りようも増ふえつつあること、しかしいまだ多おおくの自治体じちたいや医療いりょう者しゃの間あいだでこの制度せいどの存在そんざいや仕組しくみが知しられていないがために、利用りように至いたれぬ人ひとが多おおいことを説明せつめいしました。

そうした状況じょうきょうにあって、秋田あきた県けんでは重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごの利用りよう者しゃがじわりと広ひろがっています。決けっして大都市だいとしとは言いえぬ東北とうほく北部ほくぶの同どう県けんにおいて、なぜ重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごが広ひろまりを見みせているのか。今回こんかいはその背景はいけいとなっているエピソードと、実際じっさいに利用りようしている方ほうはどのような生活せいかつを送おくっているのかをご紹介しょうかいします。

■秋田あきた初はつの自薦じせんヘルパー方式ほうしき誕生たんじょう

秋田あきた県けんはもともと、ＡＬＳに限かぎらず、重度じゅうど障害しょうがい者しゃの長時間ちょうじかんのヘルパー利用りよう実績じっせきがほとんどない県けんでした。そうした中なか、今いまから20年ねんほど前まえに秋田あきた県けん大潟おおがた村むらに住すむ、日本にっぽんＡＬＳ協会きょうかいの名誉めいよ会長かいちょうであった故こ・松本まつもと茂しげるさん（ＡＬＳ患者かんじゃで人工じんこう呼吸こきゅう器きを利用りよう）が、自費じひで数すう人にんのヘルパーを雇やとって24時じ間あいだ介護かいご体制たいせいを組くんだ生活せいかつをスタートさせました。現行げんこうの重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごの制度せいどが整ととのうよりもずっと前まえのことです。

２００３年ねんの制度せいど改正かいせいにより、ヘルパー派遣はけん事業じぎょうをＮＰＯ法人ほうじんや営利えいり法人ほうじんが運営うんえいできるようになりました。その改正かいせいを受うけ、私わたしたちの団体だんたい（全国ぜんこく障害しょうがい者しゃ介護かいご保障ほしょう協議きょうぎ会かいと、事業じぎょう所しょ実務じつむを行おこなう「全国ぜんこくホームヘルパー広域こういき自薦じせん登録とうろく協会きょうかい」）が、松本まつもとさん宅たくにヘルパー事業じぎょう所しょを設置せっちすることになりました。

また、制度せいど改正かいせいに伴ともなって障害しょうがいヘルパー制度せいど（当時とうじは別べつ名称めいしょうで、現在げんざいの重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごに当あたる）の支給しきゅう時間じかんが十分じゅうぶんに伸のびたため、もともと自費じひで来きてもらっていたヘルパーを「松本まつもとさん専任せんにん」として事業じぎょう所しょで雇用こようし、介護かいご保険ほけんと障害しょうがい福祉ふくしの公的こうてきなヘルパー制度せいどで派遣はけんする「自薦じせんヘルパー方式ほうしき」の体制たいせいをとることに。これにより、松本まつもとさんの自己じこ負担ふたんもなくなりました。

■ 口くちコミで広ひろがった秋田あきた県けんの重度じゅうど訪問ほうもん介護かいご

松本まつもとさんは「自薦じせんヘルパー方式ほうしき」を県内けんないの他ほかのＡＬＳ患者かんじゃなどにも勧すすめましたが、最初さいしょの5年間ねんかんは同おなじような仕組しくみを整ととのえて生活せいかつしようという人ひとは現あらわれませんでした。「介護かいご保険ほけんだけを使つかい、家族かぞくが24時じ間あいだ体制たいせいで介護かいごするのが当あたり前まえ」という感かんじで、障害しょうがいヘルパー制度せいどの申請しんせいをためらう方々かたがたばかりだったようです。

その中なか、白神山地しらかみさんちの麓ふもとにある秋田あきた県けん最北端さいほくたんの八はち峰みね町まちに住すんでいた長門ながと輝美てるみさん（ＡＬＳ患者かんじゃ）が、県内けんないで2人ふたり目めの自薦じせんヘルパー方式ほうしきの利用りよう者しゃとなりました。長門ながとさんも松本まつもとさんと同様どうよう、介護かいご保険ほけんと障害しょうがい福祉ふくしの重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごを合あわせ、1日にち24時じ間近まぢかい自薦じせんヘルパーの時間じかんを利用りようしながら生活せいかつを送おくり始はじめたのです。

2人ふたり目めの事例じれいをきっかけに、その後ご15年ねんをかけ、秋田あきた県けんでは重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごおよび自薦じせんヘルパー方式ほうしきがじわじわと広ひろまっていくことになります。その要ようになったのが、訪問ほうもん看護かんご師しやケアマネジャーの存在そんざいでした。

訪問ほうもん看護かんご師しやケアマネジャーは日々ひびの仕事しごとで、さまざまな職種しょくしゅと連携れんけいします。そのような中なか、勉強べんきょう会かいや現場げんばにおける医療いりょう関係かんけい者しゃの横よこのつながりによって、「人工じんこう呼吸こきゅう器きを利用りようする難病なんびょう患者かんじゃや重度じゅうど障害しょうがい者しゃのための重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごという制度せいどと、自薦じせんヘルパーによる24時じ間あいだ介護かいごという方法ほうほうがあるらしい」という口くちコミが広ひろまっていったのです。

その結果けっか、北部ほくぶの過疎かそ地ちで始はじまった24時じ間あいだ重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごの利用りようが、その後ご、県けんの中央ちゅうおうや東部とうぶ、南部なんぶでも出でてきて、県内けんないで20件けんと一気いっきに増ふえることになりました。そして、ほとんどが自薦じせんヘルパー方式ほうしきを取とり、1つの事業じぎょう所しょを使つかっています。
家族かぞく同居どうきょの人ひとがほとんどですが、1人ひとり暮くらしを実現じつげんしている方ほうもいます。今回こんかいは秋田あきた市しで1人ひとり暮くらしを実現じつげんしている安保あんぽ瑠女さんを紹介しょうかいしましょう。

■ 24時じ間あいだの支援しえんで、1人ひとり暮くらしも実現じつげん

安保あぼさんは自薦じせんヘルパーを使つかいながら24時じ間あいだ介護かいごを実現じつげんしている方ほうで、ＡＬＳで気管きかん切開せっかいの人工じんこう呼吸こきゅう器き利用りよう者しゃです。自薦じせんヘルパーを常勤じょうきんを中心ちゅうしんに5人にんほど雇用こようし、1日にち2〜3交代こうたい制せいの勤務きんむシフトを組くむことで、親元おやもとを離はなれて1人ひとり暮くらしをしています（安保あぼさんの週しゅうプランは図ずの通とおり）。

安保あぼさんは10年ねんほど前まえ、秋田あきた県けん外がいで仕事しごとをしていたときにＡＬＳと診断しんだんされました。診断しんだんを受うけた後のち、秋田あきた県けん北きたの藤里ふじさと町まちに戻もどり、実家じっかで親おやの介護かいごを受うけながら1日にち24時じ間あいだの重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごを申請しんせい。支給しきゅう決定けっていを受うけ、自薦じせんヘルパーを使つかい始はじめました。
安保あぼさんは生活せいかつを続つづける中なか、「同おなじ境遇きょうぐうにいる難病なんびょう者しゃや障害しょうがい者しゃの支援しえんをする活動かつどうをしたい」と考かんがえるようになり、秋田あきた市内しないに家いえを借かりて転居てんきょ。自薦じせんヘルパーの力ちからを借かりながら、1人ひとり暮くらしの生活せいかつを送おくることにしました。

なお、転居てんきょした際さいの支給しきゅう決定けってい内容ないようについてですが、秋田あきた市しは藤里ふじさと町まちの支給しきゅう決定けってい内容ないようを引ひき継つぎ、毎日まいにち24時じ間あいだ重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごの時間じかんを支給しきゅうしました。市町村しちょうそんへの説明せつめいや自薦じせんヘルパーの雇用こよう・育成いくせい方法ほうほうなどのノウハウが必要ひつようとなりましたが、そのあたりは障害しょうがい者しゃ団体だんたいのアドバイスを受うけながら、安保あぼさん自身じしんで今いまの生活せいかつを整ととのえていきました。

現在げんざい、安保あぼさんは、日本にっぽん筋きんジストロフィー協会きょうかい秋田あきた県けん支部しぶに所属しょぞくする鷲谷わしや勇孝ゆうこうさん（筋きんジストロフィーで、同おなじく自薦じせんヘルパー利用りよう）とともに「ＣＩＬくらすべＡｋｉｔａ」という団体だんたいを設立せつりつ。当初とうしょの希望きぼうの通とおり、人工じんこう呼吸こきゅう器き利用りよう者しゃの自立じりつ生活せいかつに関かんする映画えいがの自主じしゅ上映じょうえいや講座こうざ開催かいさいなどを通とおして、障害しょうがい者しゃやその関係かんけい者しゃ・医療いりょう者しゃへの啓発けいはつ活動かつどうを開始かいししています。

■ 専門せんもん職しょくの口くちコミ力りょくに期待きたいしています

秋田あきた県けんでは、1人ひとりのＡＬＳ患者かんじゃが重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごを使つかい始はじめ、それが訪問ほうもん看護かんご師しやケアマネジャーなどの専門せんもん職しょくの口くちコミで広ひろまることにより、県内けんない各地かくちで利用りよう者しゃが続つづきました。地域ちいきに点在てんざいする専門せんもん職しょくの横よこのつながりの強つよさに気付きづかされるとともに、専門せんもん職しょくが有用ゆうようなサービスの存在そんざいを理解りかいして告知こくちすれば、きちんと必要ひつようとしている人ひとに届とどき、その人ひとが自分じぶんらしい生活せいかつを送おくる手助てだすけができるのだと実感じっかんします。

今回こんかいご紹介しょうかいした安保あぼさんも、間違まちがいなく、そうした広ひろがりの中なかで本ほん制度せいどを使つかうに至いたったお1人にんです。専門せんもん職しょくの皆みなさんの口くちコミにはそれだけの力ちからがありますので、重じゅう訪問ほうもん介護かいごにたどりつけていない方ほうがいれば、ぜひ本ほん制度せいどの存在そんざいをお伝つたえください。

現場げんばの専門せんもん職しょくの方々かたがたに今後こんごも期待きたいしています。

■ 重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごを活用かつようする人ひと

□秋田あきた県けんの故こ・松本まつもと茂しげるさんと、長門ながと輝美てるみさん［いずれもALS］

奥おくの車椅子くるまいすが長門ながとさん。長門ながとさんが、収穫しゅうかく期きの松本まつもとさん（手前てまえの車椅子くるまいす）の田たんぼを応援おうえんに来きたときの1枚まい。

人工じんこう呼吸こきゅう器きを付つけたままコンバインに乗のって稲刈いねかりに参加さんかする松本まつもとさん（手前てまえ右みぎ）。この写真しゃしんが「人工じんこう呼吸こきゅう器きをつけることへの後押あとおしとなった」という当事とうじ者しゃ・家族かぞくは少すくなくない。

□秋田あきた県けんの安保あんぽ瑠女さん［ALS］

自宅じたくでPC操作そうさの準備じゅんびをするところ。わずかに動うごく部位ぶいにワンスイッチのマウスをつけ、PCを操作そうさしている。

買かい物もの風景ふうけい。外出がいしゅつ時じはヘルパーを2人ふたり、同どう時間じかん帯たいに利用りようする。重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごでは、介護かいご保険ほけんにはない外出がいしゅつの介護かいごが認みとめられている。
青森あおもりで行おこなわれたイベント参加さんか時じの写真しゃしん。前列ぜんれつ中央ちゅうおうが安保あぼさん、右みぎが鷲谷わしやさん。
気管きかん切開せっかいをする前まえの安保あんぽさん。当時とうじは鼻はなマスク型がたの呼吸こきゅう器きを利用りよう。東京とうきょうに出掛でかけたときは電車でんしゃで移動いどうした。

■キーワード解説かいせつ

□＊1 自薦じせんヘルパー（方式ほうしき）

重度じゅうど訪問ほうもん介護かいご等とうにおいて、障害しょうがい者しゃ自身じしんで確保かくほした介助かいじょ者しゃを、自分じぶん専用せんようであるけれど制度せいど上じょうのヘルパー（＝自薦じせんの登録とうろくヘルパー）として利用りようする仕組しくみが設計せっけいされている（ただし、雇やとい入いれる障害しょうがい者しゃと家族かぞくが労働ろうどう基準きじゅん法ほうなどを守まもって適切てきせつに行おこなえるかの審査しんさはある）。

自薦じせんヘルパー採用さいよう後ごは、全国ぜんこく障害しょうがい者しゃ介護かいご保障ほしょう協議きょうぎ会かい傘下さんかの全国ぜんこくホームヘルパー広域こういき自薦じせん登録とうろく協会きょうかいを通つうじ、各かく県けんの障害しょうがい者しゃ団体だんたいのヘルパー事業じぎょう所しょなどにヘルパーとして登録とうろくされる。これにより制度せいど上じょうは通常つうじょうのヘルパー利用りようとなり、そのヘルパー事業じぎょう所しょから利用りよう時間じかんの範囲はんい内ないで給与きゅうよが払はらわれるが、働はたらき方かたとしては「雇やとい入いれた当事とうじ者しゃ専用せんようのヘルパー」になる。なお、「自薦じせんヘルパー（方式ほうしき）」は公的こうてきな名称めいしょうではなく、障害しょうがい者しゃ団体だんたいが運用うんよう方法ほうほうに名前なまえを付つけたもの。

2002年ねんまでは障害しょうがい者しゃ団体だんたいが各かく市町村しちょうそんと個別こべつに交渉こうしょうし、市町村しちょうそんが自薦じせんヘルパーの制度せいどを整ととのえている状況じょうきょうだった。しかし、制度せいどの変更へんこうを受うけ、2003年度ねんどから障害しょうがい当事とうじ者しゃ団体だんたいが全国ぜんこく47都道府県とどうふけんで居宅きょたく介護かいご（ヘルパー）指定してい事業じぎょう者しゃになれるようになったので、実質じっしつ、全国ぜんこくどこでも自薦じせんヘルパーが使つかえるようになっている。

□＊2 重度じゅうど訪問ほうもん介護かいご制度せいど利用りよう時じの自己じこ負担ふたん

重度じゅうど訪問ほうもん介護かいごの制度せいどを利用りようするにあたっての自己じこ負担ふたんは、たいていの利用りよう者しゃの場合ばあいは0円えん。ただし、夫婦ふうふの所得しょとくが多おおい場合ばあいは何なん百ひゃく時じ間あいだ利用りようでも月つき37200円えんが負担ふたん上限じょうげん、介護かいご保険ほけんと併用へいようの場合ばあいは介護かいご保険ほけんの自己じこ負担ふたんと合あわせて月つき37200円えんが負担ふたん上限じょうげんと、個別こべつに変動へんどうする要素ようそもある。

■どなたからの個別こべつ相談そうだんにも応おうじます

■秋田あきたの２４時じ間あいだ介護かいご情報じょうほう【外部がいぶサイト】

この文章ぶんしょうは、医学書院いがくしょいんと大野おおの直之なおゆきさんの提供ていきょうにより掲載けいさいされています。