「日本書紀にほんしょき」に記しるされている日本にっぽん最古さいこの天文てんもん記録きろくは扇形せんけいオーロラ

【2020年ねん3月がつ18日にち 国立こくりつ極地きょくち研究所けんきゅうじょ】

今年ことし令れい和わ2年ねんで編纂へんさんから1300年ねんになる「日本書紀にほんしょき」には、日本にっぽん最古さいこの天文てんもん記録きろくとして「十二月じゅうにがつの庚かのえ寅とらの朔ついたちに、天てんに赤あか気き有あり。長ながさ一いち丈余じょうよなり。形かたち雉尾に似にれり」という620年ねん（推古天皇すいこてんのう二に十じゅう八はち年ねん）の記録きろくが残のこされている。

国宝こくほう岩がん崎本さきもと「日本書紀にほんしょき」に残のこる赤あか気きに関かんする記述きじゅつ（提供ていきょう：リリースより／赤あかい傍線ぼうせんはアストロアーツによる）

この記録きろくについて、オーロラを指さしているという説せつと彗星すいせいを指さしているという説せつが提唱ていしょうされてきた。中国ちゅうごくの歴史れきし書しょには同年どうねんにオーロラや巨大きょだい黒点こくてんが目撃もくげきされたという記述きじゅつが見みつかっておらず、この点てんがオーロラ説せつとするには不利ふりな材料ざいりょうである。一方いっぽう、日本書紀にほんしょきで彗星すいせいは「箒星ほうきぼし」として区別くべつして書かかれており、色いろについても彗星すいせいなら赤しゃっくはないだろうという点てんが、彗星すいせい説せつには不利ふりだ。このようにこの天文てんもん記録きろくは、これまで科学かがく的てきに謎なぞめいた記述きじゅつとして知しられてきた。

国立こくりつ極地きょくち研究所けんきゅうじょ／総合研究大学院大学そうごうけんきゅうだいがくいんだいがくの片岡かたおか龍りゅう峰みねさんたちの研究けんきゅうチームは、この赤あか気きの記録きろくはオーロラを指さしている可能かのう性せいが高たかいことを明あきらかにした。

研究けんきゅうチームが着目ちゃくもくしたのは「形かたち雉尾に似にれり」という記載きさいだ。雉のオスはメスに対たいして尾羽おはをアピールする際さいに、尾羽おはの上面うわつらをメスに向むけて扇状せんじょうに開ひらく。また、胸むねを張はり激はげしく羽はばたく「母衣ほろ打うち」も扇形せんけいの形状けいじょうであることが知しられている。片岡かたおかさんたちは過去かこの研究けんきゅうで、日本にっぽんのような中なか緯度いどで見みられるオーロラは、赤あかく扇形せんけいの構造こうぞうを示しめすものであることを示しめしていた（参照さんしょう：「60年ねん前まえの扇形せんけいオーロラと巨大きょだい磁気嵐じきあらしの関連かんれん」）。つまり、この記録きろくがオーロラである説せつは、色いろと形状けいじょうの点てんで整合せいごう性せいがある。

扇形せんけいに見みえるオーロラの例れい。（左ひだり）1770年ねん9月がつに京都きょうとから見みえたオーロラを描えがいた絵図えず（古典こてん籍せき『星ほし解かい』より）、（右みぎ）フランスの天文学てんもんがく者しゃ・画家がかエティエンヌ・レオポール・トルーヴェロが描えがいた1872年ねん3月がつ1日にちのオーロラの絵画かいが（提供ていきょう：（左ひだり）三重みえ県けん松阪まつさか市し、（右みぎ）リリースより）

日本書紀にほんしょきの写本しゃほんの中なかには、赤あか気きの形状けいじょうに関かんする該当がいとう箇所かしょに「雉」でなく「碓うす」と書かいてあるものも多おおい。この点てんについては、幕末ばくまつ・明治めいじ期きの国学こくがく者しゃであった飯田いいだ武郷たけさとの研究けんきゅうにより、「雉」という記述きじゅつに落おち着ついたと考かんがえられている。赤あか気きが雉の尾おを思おもわせるオーロラであったという解釈かいしゃくは、この文献ぶんけん学がく的てき研究けんきゅうを科学かがく的てきに裏付うらづけるものともなる。

当時とうじの日本にっぽんの磁気じき緯度いどは現在げんざいより10度どほど高たかかったため、大だい規模きぼな磁気嵐じきあらしが起おこればオーロラが見みられたはずだと考かんがえられている。夜よるの長ながい新年しんねんの新月しんげつ期きに空そらに現あらわれた、巨大きょだいな扇形せんけいオーロラを見みて驚おどろいた当時とうじの倭やまとの人々ひとびとが、天てんの使つかいと考かんがえられていた雉が時折ときおり見みせる美うつくしい尾羽おはにたとえて記録きろくしたとする考かんがえは納得なっとくできるものだ。

日本にっぽん最古さいこの天文てんもん記録きろくである赤あか気きの記述きじゅつはオーロラであるという根拠こんきょが得えられたことは、当時とうじの日本にっぽんが現在げんざいよりもオーロラが観測かんそくしやすい状況じょうきょうにあったという地磁気ちじきモデルとの整合せいごう性せいを支持しじする材料ざいりょうとなる。過去かこの地球ちきゅう物理ぶつり的てきな状況じょうきょうを特定とくていするデータとしての価値かちも持もつ研究けんきゅう成果せいかと言いえる。