土星どせいの大気たいきはオーロラに加熱かねつされている

【2020年ねん4月がつ13日にち NASA JPL】

地球ちきゅうの大気たいきの最さい上層じょうそう部ぶは「熱ねつ圏けん」と呼よばれ、密度みつどはきわめて薄うすいが、太陽たいようからのX線せんや紫外線しがいせんで加熱かねつされるために温度おんどが約やく2000℃にもなっている。これは木星もくせいから海王星かいおうせいまでのガス惑星わくせいでも同おなじで、いずれも上層じょうそう大気たいきは高温こうおんに保たもたれている。

2008年ねん11月1日にちに探査たんさ機き「カッシーニ」によって撮影さつえいされた土星どせいの南半球みなみはんきゅうの近赤外線きんせきがいせん画像がぞう。青あおい領域りょういきは太陽たいようからの赤外線せきがいせんを反射はんしゃしている部分ぶぶんで、赤あかい領域りょういきは土星どせい本体ほんたいの熱ねつ放射ほうしゃの赤外線せきがいせんを示しめしている。緑色みどりいろのリングが土星どせいのオーロラで、水素すいそイオンが赤外線せきがいせんを放射ほうしゃしている（提供ていきょう：NASA/JPL/ASI/University of Arizona/University of Leicester）

木星もくせいより外側そとがわの惑星わくせいは太陽たいようから遠とおく離はなれているため、地球ちきゅうの熱ねつ圏けんとは違ちがって太陽光たいようこうによる加熱かねつはあまり強つよく働はたらかないはずだ。にもかかわらず、たとえば土星どせいの上層じょうそう大気たいきは、太陽光たいようこうだけが熱源ねつげんであると考かんがえた場合ばあいよりも数すう百ひゃく度ども温度おんどが高たかい。この食くい違ちがいはガス惑星わくせいの大気たいきにおける「エネルギー危機きき（energy crisis）」とも呼よばれ、惑星わくせい科学かがくの大おおきな謎なぞの一ひとつとなっている。

米べい・アリゾナ大学だいがくのZarah Brownさんたちの研究けんきゅうチームは、探査たんさ機き「カッシーニ」の観測かんそくデータを新あらたに解析かいせきして、土星どせいの上層じょうそう大気たいきを高温こうおんに保たもつ熱源ねつげんの有力ゆうりょく候補こうほを見みつけた。それは、土星どせいの北極ほっきょくと南極なんきょくに生しょうじるオーロラだ。太陽たいよう風ふうと土星どせいの衛星えいせいから放出ほうしゅつされる荷電かでん粒子りゅうしとが相互そうご作用さようすると電流でんりゅうが生しょうじる。この電流でんりゅうによってオーロラが発光はっこうし、上層じょうそう大気たいきを加熱かねつするとBrownさんたちは考かんがえている。

2005年ねん6月がつ21日にちにカッシーニの紫外線しがいせん撮像さつぞう分光ぶんこう計けい（UVIS）で撮影さつえいされた土星どせいのオーロラ。南北なんぼく両極りょうきょく付近ふきんに見みえる青白あおじろいリングがオーロラ。2枚まいの画像がぞうは約やく1時じ間あいだ差さで撮影さつえいされたもので、土星どせいのオーロラが1時間じかん以上いじょう持続じぞくすること、短時間たんじかんで変化へんかすることを示しめしている（提供ていきょう：NASA/JPL/University of Colorado）

大気たいきの中なかを循環じゅんかんする熱ねつの流ながれを完全かんぜんに描えがき出だすことができれば、オーロラの電流でんりゅうが土星どせいの上層じょうそう大気たいきをどのように加熱かねつして風ふうが生しょうじるかを深ふかく理解りかいできるようになる。Brownさんたちによれば、オーロラによって土星どせいの極きょく域いきにたまった熱ねつエネルギーは全ぜん球たま的てきな風ふうの流ながれによって赤道あかみち地域ちいきへと運はこばれ、これによって上層じょうそう大気たいきは太陽光たいようこうだけで加熱かねつされる場合ばあいよりも2倍ばいも高たかい温度おんどにまで熱あつくなりうるという。

「今回こんかいの結果けっかは惑星わくせいの上層じょうそう大気たいきを広ひろく理解りかいする上じょうで欠かかせないものです。また同時どうじに、カッシーニの遺産いさんの中なかでも重要じゅうような位置いちを占しめる成果せいかです」（カッシーニ紫外線しがいせん撮像さつぞう分光ぶんこう計けいチーム Tommi Koskinenさん）。

1997年ねんに打うち上あげられたカッシーニは2004年ねんに土星どせいを周回しゅうかいする軌道きどうに投入とうにゅうされ、13年ねん以上いじょうにわたって土星どせいの観測かんそくを行おこなった。2017年ねん9月がつに探査たんさ機きは土星どせいの大気たいきに突入とつにゅうして運用うんようを終了しゅうりょうしたが、この突入とつにゅうの前まえに「グランド・フィナーレ」と呼よばれる土星どせいへの最後さいごの接近せっきん周回しゅうかい飛行ひこうが22周しゅうにわたって行おこなわれた。

今回こんかいの研究けんきゅうで分析ぶんせきされた重要じゅうようなデータは、このグランド・フィナーレの接近せっきん飛行ひこうで得えられたものだ。カッシーニはオリオン座ざとおおいぬ座ざの明あかるい恒星こうせいが土星どせいの後うしろに隠かくされる掩蔽えんぺい現象げんしょうを6週間しゅうかんにわたって観測かんそくした。恒星こうせいが様々さまざまな緯度いどで土星どせいの縁えんに潜入せんにゅうし、再ふたたび出現しゅつげんする様子ようすをとらえたデータから、Brownさんたちは星ほしの光ひかりが土星どせいの大気たいきを通過つうかする際さいの変化へんかを調しらべ、上層じょうそう大気たいきの密度みつどを求もとめた。また、大気たいきの密度みつどは高度こうどが高たかくなるほど薄うすくなるが、この減少げんしょうの度合どあいは温度おんどによって変かわるため、この観測かんそくデータから土星どせいの上層じょうそう大気たいきの温度おんども緯度いどごとに導みちびくことができた。

この分析ぶんせきの結果けっか、土星どせいの上層じょうそう大気たいきの温度おんどはオーロラが発生はっせいする緯度いど付近ふきんで最もっとも高たかいことが明あきらかになった。これはオーロラ電流でんりゅうが上層じょうそう大気たいきを加熱かねつしていることを示唆しさする結果けっかだ。また、Brownさんたちは大気たいきの密度みつどと温度おんどから土星どせい大気たいき内ないの風速ふうそくも求もとめている。

惑星わくせいの上層じょうそう大気たいきは宇宙うちゅう空間くうかんと接せっする領域りょういきであり、土星どせいの上層じょうそう大気たいきを理解りかいすることは、太陽系たいようけい内ないでの太陽たいよう風ふうや磁場じばの変動へんどうといった「宇宙うちゅう天気てんき（space weather）」を理解りかいする鍵かぎにもなる。さらには、こうした宇宙うちゅう天気てんきが太陽系たいようけいの他ほかの惑星わくせいに与あたえる影響えいきょうを理解りかいしたり、他たの恒星こうせい系けいでの系けい外がい惑星わくせいと宇宙うちゅう天気てんきの関係かんけいを知しる上じょうでも重要じゅうようになるだろう。

（文ぶん：中野なかの太郎たろう）