8億おく年ねん前まえ、月つきと地球ちきゅうを襲おそった小惑星しょうわくせいシャワー

【2020年ねん7月がつ30日にち 大阪大学おおさかだいがく】

地球ちきゅうでは地震じしんや火山かざん活動かつどうといった地殻ちかく変動へんどう、津波つなみなどによる侵食しんしょくや風化ふうかが起おこるため、昔むかしのクレーターがあまり残のこっていない。特とくに全ぜん球たま規模きぼで地球ちきゅうが氷河ひょうがに覆おおわれたスノーボールアース時代じだい（6.5～6.4億おく年ねん前まえごろと7.3～7.0億おく年ねん前まえごろ）以前いぜんのクレーターの形成けいせい頻度ひんどは、これまでよくわかっていなかった。

大阪大学おおさかだいがくの寺田てらだ健太郎けんたろうさんたちの研究けんきゅうチームは、風化ふうかがほとんどない月つきのクレーターに着目ちゃくもくして年代ねんだい測定そくていを試こころみた。月つきへの天体てんたいの衝突しょうとつ頻度ひんどは地球ちきゅうへの衝突しょうとつ頻度ひんどと同どう程度ていどと推測すいそくできるからだ。寺田てらださんたちは日本にっぽんの月つき周回しゅうかい衛星えいせい「かぐや」が地形ちけいカメラでとらえた画像がぞうから直径ちょっけい20km以上いじょうのクレーター59個こを選えらび、その周囲しゅういに存在そんざいする直径ちょっけい0.1～1kmの微小びしょうクレーターを数かぞえた。クレーターの形成けいせい直後ちょくごは周囲しゅういに物質ぶっしつが飛とび散ちるので、その上うえに小しょう天体てんたいが落下らっかすることで生しょうじる微小びしょうクレーターが多おおいほど形成けいせいから時間じかんが経たっている、つまり古ふるいクレーターだと判定はんていすることができる。

形成けいせい年代ねんだいを調しらべた直径ちょっけい20km以上いじょうのクレーターの位置いちを示しめした月面げつめんマップ。赤丸あかまるはコペルニクスクレーターと同どう時期じきに形成けいせいされたクレーター。画像がぞうクリックで拡大かくだい表示ひょうじ（提供ていきょう：Terada et al. 2020）

精査せいさの結果けっか、59個このクレーターのうち8個こ（モデルによっては17個こ）の形成けいせい年代ねんだいが一致いっちすることが、世界せかいで初はじめて突つき止とめられた。このような現象げんしょうが偶然ぐうぜん起おこる確かく率りつは極きわめて低ひくく、小惑星しょうわくせいが破砕はさいされて破片はへんが月つき全体ぜんたいに相次あいついでシャワーのように降ふり注そそいだと考かんがえられる。

アポロ計画けいかくで月つきから持もち帰かえられた試料しりょうのインパクトガラス（天体てんたい衝突しょうとつでできる天然てんねんガラス）の放射ほうしゃ年代ねんだい、月面げつめんのクレーターのサイズ、月つきと地球ちきゅうの衝突しょうとつ断だん面積めんせきなどを考慮こうりょすると、地球ちきゅうが全ぜん球たま凍結とうけつを起おこす直前ちょくぜんの8億おく年ねん前まえに大おおきさ100km以上いじょうの小惑星しょうわくせいが破砕はさいし、少すくなくとも総量そうりょう40～50兆ちょうtの天体てんたいが地球ちきゅうに飛来ひらいしたことになる。これは6550万まん年ねん前まえに恐竜きょうりゅうを絶滅ぜつめつさせた天体てんたい衝突しょうとつの30～60倍ばいに匹敵ひってきするもので、当時とうじの地球ちきゅう環境かんきょうに甚大じんだいな影響えいきょうを与あたえたと考かんがえられる。

地球ちきゅうと月つきを襲おそった小惑星しょうわくせいシャワーの想像そうぞう図ず（提供ていきょう：Murayama/Osaka Univ.）

この8億おく年ねん前まえの小惑星しょうわくせいシャワーで地球ちきゅうに降ふったリンの総量そうりょうは、現在げんざいの海洋かいよう中ちゅうのリンの10倍ばい程度ていどと見積みつもられている。過去かこの研究けんきゅうからも、地球ちきゅうが7億おく年ねん前まえに全ぜん球たま凍結とうけつする直前ちょくぜんに海洋かいよう中ちゅうのリンの濃度のうどが4倍ばいに急増きゅうぞうし、生命せいめいの多様たよう化かを促進そくしんした可能かのう性せいが指摘してきされている。8億おく年ねん前まえの環境かんきょう変動へんどうが、地球ちきゅう外がいの原因げんいんによるものという観点かんてんから、今後こんごの地球ちきゅう科学かがくの進展しんてんが期待きたいされる。

小惑星しょうわくせい帯たいには直径ちょっけい37kmのオイラリアを中心ちゅうしんとした、1つの母はは天体てんたいが破壊はかいされて作つくられたと思おもわれる「オイラリア（Eulalia）族ぞく」と呼よばれる一群いちぐんの小惑星しょうわくせいが存在そんざいするが、月つきと地球ちきゅうに飛来ひらいしたのはその際さいに形成けいせいされた破片はへんの一部いちぶかもしれない。オイラリア族ぞくの反射はんしゃスペクトルは探査たんさ機き「はやぶさ2」が調しらべた小惑星しょうわくせい「リュウグウ」やNASAの探査たんさ機き「オシリス・レックス」が探査たんさしている「ベンヌ」と似にていることから、この2つの小惑星しょうわくせいもオイラリア族ぞくと同おなじ母はは天体てんたいから生うまれたのではないかという見方みかたもある。

このように今回こんかいの研究けんきゅう成果せいかは、地球ちきゅう科学かがくや太陽系たいようけい科学かがくにおける全まったく新あたらしい視点してんを提示ていじするものであり、幅広はばひろい分野ぶんやへの波及はきゅう効果こうかが期待きたいされる。