木星もくせいの「熱あつすぎる高層こうそう大気たいき」の原因げんいんはオーロラだった

【2021年ねん8月がつ13日にち JAXA宇宙うちゅう科学かがく研究所けんきゅうじょ】

木星もくせいは太陽たいようから約やく5.2天文てんもん単位たんい（約やく7.8億おくkm）の距離きょりにあり、降ふり注そそぐ太陽光たいようこうの量りょうは地球ちきゅうの約やく1/25にすぎない。この日射にっしゃで暖あたためられる木星もくせいの高層こうそう大気たいきの温度おんどを理論りろん的てきに計算けいさんしてみると、平均へいきんでおよそ摂氏せっし-70度ど（絶対温度ぜったいおんどで約やく200K）という答こたえになる。

しかし、実際じっさいの木星もくせい高層こうそう大気たいきの温度おんどはこの計算けいさん値ちとは大おおきく食くい違ちがっていて、摂氏せっし420度ど（約やく700K）もあることが観測かんそくからわかっている。なぜこれほど木星もくせいの高層こうそう大気たいきが高温こうおんなのかはいまだ謎なぞで、研究けんきゅう者しゃの間あいだでは木星もくせいの「エネルギー危機きき (energy crisis)」とも呼よばれている。

JAXA宇宙うちゅう科学かがく研究所けんきゅうじょのJames O'Donoghueさんを中心ちゅうしんとする研究けんきゅうチームは、2016年ねんと2017年ねんの2回かいにわたって、米べい・ハワイのケックII望遠鏡ぼうえんきょうに搭載とうさいされた近赤外線きんせきがいせん分光ぶんこう器き「NIRSPEC」を使つかって木星もくせいを5時じ間あいだずつ観測かんそくした。O'Donoghueさんたちはこの観測かんそくで、木星もくせいの大気たいきに含ふくまれるH₃⁺イオン（水素すいそ原子げんし3個こが結むすびついた陽ひイオン）が放はなつ赤外線せきがいせんの輝線きせんを木星もくせいの全ぜん緯度いどにわたって検出けんしゅつした。H₃⁺イオンは木星もくせいの高層こうそう大気たいき（電離層でんりそう）に多おおく存在そんざいする分子ぶんしイオンで、この輝線きせんの強つよさを測定そくていすると高層こうそう大気たいきの温度おんどがわかるのだ。

木星もくせいの可視かし光線こうせん画像がぞうに、今回こんかい得えられた赤外線せきがいせんスペクトルの輝度きどを重かさねて描えがいたイラスト。赤あかからオレンジ、黄き、白しろに向むかうほど温度おんどが高たかいことを表あらわす。極ごく域いきのオーロラが発生はっせいする領域りょういきが最もっとも高温こうおんで、その熱ねつエネルギーが風ふうによって赤道せきどうへと運はこばれ、木星もくせい全体ぜんたいの大気たいきを暖あたためている（提供ていきょう：J. O'Donoghue (JAXA)/Hubble/NASA/ESA/A. Simon/J. Schmidt）

これまで、木星もくせいの高層こうそう大気たいきの温度おんど分布ぶんぷは非常ひじょうに解像度かいぞうどの粗あらいデータしか得えられていなかったが、O'Donoghueさんは高たかい分解能ぶんかいのうを持もつケック望遠鏡ぼうえんきょうを活用かつようすることで、最高さいこうで2×2度どというきわめて高たかい解像度かいぞうどの温度おんどマップを作つくることに成功せいこうした。「データを注意深ちゅういぶかく抽出ちゅうしゅつしてマッピングし、分析ぶんせきするには何なん年ねんもかかりました。最終さいしゅう的てきに出来上できあがったのは、1万まんを超こえる個別こべつのデータポイントから成なる温度おんどマップでした」（O'Donoghueさん）。

この温度おんどマップから、木星もくせいの高層こうそう大気たいきはオーロラが発生はっせいする高緯度こういど領域りょういきが最もっとも高温こうおんで、そこから赤道せきどうに向むかって温度おんどが低ひくくなることが明あきらかになった。この結果けっかは、高緯度こういどの領域りょういきで加熱かねつされた大気たいきが惑星わくせい風ふうによって低ひくい緯度いどへと運はこばれていることを示唆しさしている。つまり、木星もくせいの上層じょうそう大気たいきを高温こうおんにしている大おおもとのエネルギー源げんはオーロラだということになる。

これまでの研究けんきゅうでも、オーロラが上層じょうそう大気たいきを加熱かねつしているのではないかという説せつはあったが、従来じゅうらいの木星もくせい大気たいきの温度おんどモデルによると、高緯度こういど地域ちいきから赤道せきどうに向むかう風かぜは木星もくせいの速はやい自転じてんの影響えいきょうで西にしへと曲まげられてしまい、木星もくせい大気たいき全体ぜんたいを暖あたためることはできないとされていた。今回こんかいの観測かんそくで木星もくせいの全ぜん球たま温度おんどモデルの精度せいどが向上こうじょうしたおかげで、このような惑星わくせい風ふうの折おれ曲まがりは実際じっさいには起おこっていないことがわかった。

研究けんきゅうチームでは、オーロラが増ぞう光ひからしたときに高温こうおん領域りょういきが低てい緯度いどへと伸のびていき、木星もくせい大気たいきの加熱かねつが強つよまる様子ようすもとらえている。すでに日本にっぽんの惑星わくせい分光ぶんこう観測かんそく衛星えいせい「ひさき」の観測かんそくによって、太陽たいよう風ふうが強つよまると木星もくせいの磁場じばが圧縮あっしゅくされてオーロラが増ぞう光ひかりすることはわかっていた。ケック望遠鏡ぼうえんきょうによる観測かんそくで、それが大気たいきの加熱かねつにつながることも判明はんめいした。

「熱ねつが伝播でんぱする様相ようそうをとらえられたことはとても幸運こううんでした。もし木星もくせいを観測かんそくしたのが別べつの日ひで、太陽たいよう風ふうが強つよいという条件じょうけんが揃そろわなかったら、私わたしたちはこのような成果せいかを得えられませんでした」（O'Donoghueさん）。

オーロラが惑星わくせいの大気たいきを加熱かねつしているという証拠しょうこは、木星もくせい以外いがいの巨大きょだいガス惑星わくせいでも得えられている（参照さんしょう：「土星どせいの大気たいきはオーロラに加熱かねつされている」）。今回こんかいの発見はっけんは、木星もくせいの「エネルギー危機きき」を解決かいけつする有力ゆうりょくな手てがかりになりうるが、一方いっぽうで、惑星わくせい風ふうの発生はっせいの仕方しかたは様々さまざまな条件じょうけんで変かわるため、実際じっさいにオーロラが巨大きょだいガス惑星わくせいの大気たいきを加熱かねつする詳細しょうさいなメカニズムは、惑星わくせいごとに異ことなっているかもしれない。

今回こんかいの研究けんきゅう成果せいかの紹介しょうかい動画どうが（提供ていきょう：JAXA）