1つの恒星こうせいから65種しゅの元素げんそを検出けんしゅつ

【2022年ねん5月がつ17日にち Michigan News／UF Liberal Arts and Sciences News】

恒星こうせいから発はっせられて私わたしたちのところに届とどく光ひかりは、星ほしの大気たいきに含ふくまれる元素げんそに応おうじて、特定とくていの波長はちょうの成分せいぶんが吸収きゅうしゅうされている。星ほしの光ひかりをスペクトルに分解ぶんかいして、どの波長はちょうが吸収きゅうしゅうされたかを調しらべると、元素げんその特定とくていができ、さらにその元素げんそがどれくらい含ふくまれているかも知しることができる。スペクトルの情報じょうほうは、いわば恒星こうせいの「指紋しもん」のようなものだ。

きょしちょう座ざの方向ほうこう約やく1500光年こうねんの距離きょりにある恒星こうせいHD 222925からの光ひかりには、そうした指紋しもんがびっしりとついていた。米べい・ミシガン大学だいがくのIan Roedererさんたちの研究けんきゅうチームは、ハッブル宇宙うちゅう望遠鏡ぼうえんきょうを使つかって紫外線しがいせんスペクトルを、チリ・ラスカンパナス天文台てんもんだいにあるマゼラン望遠鏡ぼうえんきょうで可視かし光線こうせんスペクトルを取得しゅとくして、太陽系たいようけい外がいの単独たんどくの星ほしでは最多さいたとなる65種類しゅるいの元素げんそを同定どうていした。

きょしちょう座ざの9等とう星ぼしHD 222925（提供ていきょう：The STScI Digitized Sky Survey）

今回こんかいの発見はっけんで注目ちゅうもくされるのは、原子げんし番号ばんごう31以上いじょうの元素げんそが42個こも見みつかったことだ。鉄てつ（原子げんし番号ばんごう26）よりも重おもいこれらの元素げんそは、恒星こうせい内部ないぶでの通常つうじょうの核かく融合ゆうごう反応はんのうでは作つくられない。大量たいりょうの中性子ちゅうせいしが飛とび交かう環境かんきょうで、鉄てつなどの原子核げんしかくに次々つぎつぎと中性子ちゅうせいしが捕獲ほかくされ、中性子ちゅうせいしが陽子ようしに変かわるベータ崩壊ほうかいを経へてセレン、銀ぎん、テルル、白金はっきん、金きむ、トリウムなどが作つくられる「rプロセス（r過程かてい）」で作つくられたと考かんがえられる。

HD 222925から見みつかった元素げんそ。色いろはどの波長はちょう帯たいのスペクトルで検出けんしゅつされたかを示しめす。青あお：紫外線しがいせん／緑みどり：紫外線しがいせんと可視かし光線こうせん／黄き：可視かし光線こうせん／赤あか：近赤外線きんせきがいせん。斜線しゃせんが表示ひょうじされているのは検出けんしゅつできなかった元素げんそで、灰色はいいろは観測かんそく対象たいしょうにならなかった元素げんそ。画像がぞうクリックで拡大かくだい表示ひょうじ（提供ていきょう：Roederer et al.）

rプロセスのrはrapid（高速こうそく）を表あらわし、その名なのとおり秒びょう単位たんいで次々つぎつぎと反応はんのうが進すすむ。「大量たいりょうの自由じゆうな中性子ちゅうせいしが必要ひつようで、それらを解放かいほうして原子核げんしかくに付つけ加くわえるには極きわめてエネルギーの高たかい条件じょうけんが必要ひつようです。それが起おこりうる環境かんきょうはあまり多おおくありません。おそらく2つだけでしょう」（Roedererさん）。

一ひとつは、超ちょう高密度こうみつど天体てんたいである中性子星ちゅうせいしせい同士どうしの合体がったいだ。中性子星ちゅうせいしせいの合体がったいは2017年ねんに初はじめて重力じゅうりょく波はでとらえられており、その際さいにrプロセスによって元素げんそが生成せいせいされた証拠しょうこも観測かんそくされた。rプロセスが起おこるもう一ひとつの環境かんきょうとしては、大だい質量しつりょう星ぼしが生涯しょうがいを終おえるときの超新星ちょうしんせい爆発ばくはつが挙あげられている。

HD 222925を構成こうせいする物質ぶっしつは、中性子星ちゅうせいしせいの合体がったいか超新星ちょうしんせい爆発ばくはつのいずれかを経へて星ほし間あいだ雲くもとなったもので、これを材料ざいりょうとしてHD 222925が誕生たんじょうしたのだろう。HD 222925は年代ねんだいの古ふるい恒星こうせいと考かんがえられるので、その材料ざいりょうを生うんだrプロセスは宇宙うちゅうの歴史れきしで比較的ひかくてき早はやい時期じきに起おこっていたことになる。

rプロセスがどこで起おこっていたにせよ、この反応はんのうに関かんする理論りろんは、今回こんかい観測かんそくされた元素げんそ構成こうせいを再現さいげんできるものでなければならない。その意味いみで、今回こんかいの発見はっけんはrプロセスや元素げんそ合成ごうせいの研究けんきゅうにおける重要じゅうような道みちしるべになるかもしれない。