ISSで月つきや火星かせいの重力じゅうりょくを再現さいげん、砂すなの挙動きょどうを測定そくてい

国際こくさい宇宙うちゅうステーションの「きぼう」日本にっぽん実験じっけん棟とうで、低てい重力じゅうりょく下かにおける砂すなや微小びしょう粒子りゅうしのふるまいを測定そくていする「Hourglassミッション」が実施じっしされた。

【2023年ねん8月がつ17日にち JAXA宇宙うちゅう科学かがく研究所けんきゅうじょ】

地球ちきゅう以外いがいの固体こたい天体てんたいの表層ひょうそうは、細こまかい砂すな（レゴリス）で覆おおわれている。また、地球ちきゅうより小ちいさな天体てんたいでは、表面ひょうめんの重力じゅうりょくも小ちいさくなる。そのため、将来しょうらいの天体てんたい探査たんさでは、探査たんさ機きの着陸ちゃくりく脚あしパッドが砂すなに埋うずもれてしまったり探査たんさ車しゃが走はしれなくなってしまったりするおそれがある。こうした影響えいきょうの度合どあいを調しらべておくことは重要じゅうようだが、微小びしょう重力じゅうりょく環境かんきょうにおける砂すなのふるまいを地球ちきゅう上じょうで調しらべるのは難むずかしい。

横浜国立大学よこはまこくりつだいがくの尾崎おざき伸吾しんごさんたちの研究けんきゅうチームは、国際こくさい宇宙うちゅうステーション（ISS）の「きぼう」日本にっぽん実験じっけん棟とうに設置せっちされている細胞さいぼう培養ばいよう実験じっけん装置そうち（CBEF; Cell Biology Experiment Facility）に注目ちゅうもくした。CBEFには遠心えんしん力りょくによって任意にんいの低てい重力じゅうりょく環境かんきょうを安定あんていして長時間ちょうじかん保たもつ機能きのうがある。尾崎おざきさんたちは地球ちきゅう上じょうの砂すなや模擬もぎレゴリスを封入ふうにゅうした砂時計すなどけい型がたの容器ようきをCBEFに入いれて流動りゅうどう特性とくせいを調しらべる「Hourglassミッション」を実施じっしした。

細胞培養実験装置
細胞さいぼう培養ばいよう実験じっけん装置そうちCBEF（提供ていきょう：JAXA、以下いか同どう）

砂時計型の容器
「Hourglassミッション」の名前なまえの由来ゆらいになった、サンプルを入いれる砂時計すなどけい型がたの容器ようき

CBEFは0.063Gから2.0Gの重力じゅうりょくを作つくり出だせる（地上ちじょうは1G）。研究けんきゅうチームはこの範囲はんいで、月つきや火星かせいの地表ちひょう相当そうとうを含ふくむ複数ふくすうの重力じゅうりょく環境かんきょうを再現さいげんした。容器ようきに封入ふうにゅうする粉こな粒つぶ体たいとしては、月つきや火星かせい、火星かせいの衛星えいせいフォボスのレゴリスを模もした砂すなに加くわえて、実験じっけんでよく使つかわれる地上ちじょうの砂すなやアルミナビーズが比較ひかく対象たいしょう用ように選えらばれた。

実験で使用された8種類の粉粒体
実験じっけんで使用しようされた8種類しゅるいの粉こな粒つぶ体からだ

粉こな粒つぶ体からだを封入ふうにゅうした容器ようきは、CBEFで重力じゅうりょくを変かえながら7時じ間あいだで420回かい反転はんてんされ、その間あいだの挙動きょどうと堆積たいせき状態じょうたいが計測けいそくされた。また、データ分析ぶんせきにあたっては、人工じんこう重力じゅうりょく環境かんきょう特有とくゆうの影響えいきょうは重力じゅうりょくそのものの大おおきさによる変動へんどうと比くらべれば小ちいさいことを数値すうちシミュレーションで確認かくにんしてあり、今回こんかいの実験じっけんが自然しぜん重力じゅうりょくにおける粉こな粒つぶ体たいの重力じゅうりょく依存いぞん性せいを十分じゅうぶんに再現さいげんできていると結論けつろんづけている。

分析ぶんせきの結果けっか、粉こな粒つぶ体たいが砂時計すなどけいのように狭せまい排出はいしゅつ口こうから流ながれ出でるときの流量りゅうりょうについては、地上ちじょうでの研究けんきゅうでよく知しられた法則ほうそく（Beverloo則そく）が低てい重力じゅうりょく環境かんきょうでも成なり立たつことがわかった。また、これまで仮説かせつでしかなかった「砂すなの種類しゅるいによっては、低てい重力じゅうりょく条件下じょうけんかでの流動りゅうどう速度そくどは重力じゅうりょくの大おおきさの平方根へいほうこん（√G）に比例ひれいする」という関係かんけいも実証じっしょうされた。そのほか、砂すなのかさ密度みつどが重力じゅうりょくと共ともに減少げんしょうすることを示唆しさする結果けっかも得えられた。

実験データの分析結果
実験じっけんデータの分析ぶんせき結果けっか。（a）と（b）は、それぞれ自然しぜん重力じゅうりょく環境かんきょう下かと人工じんこう重力じゅうりょく環境かんきょう（0.1G）下したで流動りゅうどう中ちゅうのアルミナビーズのスナップショット。（c）自然しぜん重力じゅうりょくと人工じんこう重力じゅうりょく環境かんきょう下かでのボックス内ないの粒子りゅうし速度そくど場じょうのカラーマップ。重力じゅうりょく・遠心えんしん力りょく方向ほうこうの速度そくど場じょう（マスフローモードの場合ばあい）が環境かんきょうによらず類似るいじしていることなどが明あきらかになった（提供ていきょう：Ozaki et al. (2023) npj Microgravity、以下いか同どう）

砂の流動速度の重力依存性
砂すなの流動りゅうどう速度そくどの重力じゅうりょく依存いぞん性せい（回帰かいき解析かいせきの結果けっか）

これまでの探査たんさ機きの設計せっけいでは、着陸ちゃくりく時じのレゴリス飛散ひさんなどへの対策たいさくを施ほどこす際さいに、極端きょくたんなケースも想定そうていして大幅おおはばな余裕よゆうを持もたせる必要ひつようがあった。今回こんかいの研究けんきゅう結果けっかから、不ふ確定かくてい要素ようそが減へって効率こうりつ的てきな設計せっけいが可能かのうになり、設計せっけい検証けんしょうの信頼しんらい性せい向上こうじょう、探査たんさ機きの軽量けいりょう化か、開発かいはつ期間きかんの短縮たんしゅくが実現じつげんすると期待きたいされる。