「埋もれた作品というのはプリントするコストも掛けられず、ずっと提供される会社に眠っていたものですから、フィルムが化学変化を起こして劣化している場合が多いのです。缶を開けたとたんに酸化した酢の匂いが部屋中に立ちこめて、換気したら外にまで匂いが漏れて、向いにお寿司屋さんがあるんですがそこの匂いと思った人もいたくらい…なんていうこともありましたからね」と今では笑い話のようなエピソードだが、現在でもフィルムの状態が悪い事はしばしばあり、映写技師の苦心は並々ならぬものがある。ただ、こうした映写技師泣かせのプリントは実は第一世代と呼ばれているプリントが多く、傷だらけであるにも関わらず画面の抜けが素晴らしく、ニュープリント版が再現出来ない画面の明るさやピンの光り方が素晴らしいという。「第一世代のモノクロ映画は老朽化して、いつか消えて行く運命ですから、こうしたフィルムに巡り会えた方はむしろラッキーなのです。(笑)是非、その違いを感じて頂きたい」と大矢氏は語る。
スタジアム式の場内は照明が抑えられ、非常に落ち着いた雰囲気を醸し出している。さすが演劇を上演しているだけに音の通りは抜群で、セリフの聞き易さはトップクラスといっても過言ではない。外観と同様、壁面を黒く塗られたロビーも心地良い重厚感に満ち溢れており、丸い窓からこぼれる外からの明かりが柔らかいコントラストを生み出している。また、空きスペースを埋め尽くすかのように置かれたチラシを収集するのも楽しみのひとつだ。入口の受付では特集上映の関連資料や関連グッズの販売を行っており、コアなファンの方向けの回数券もコチラで購入する事が出来る。元々、映画館で回数券を導入したのはコチラが最初で、特集によって異なるが40〜50本の上映を行う際は10、5、3回券を用意している他、特集期間は何度でも入場出来るフリーパスも発行している。