それでもたまに自分が観て気に入った映画をコソッと入れたりする事もあるという重松さん。東京でヒットしたので間違いない!と思って組んだ映画に、お客様が全く来なかった…と肩を落とすなんて事も何度も体験してきたと苦笑する。そんな経験を繰り返して、間もなく10周年を迎える。「10年前はわけも分からず、地元の人から見れば余所者の私が、ここまでやって来れたのも、全てお客様から教えてもらったからなんです。“この場所に映画館を作ってくれてありがとう”と言ってくださるんですけど、私たちは何もしていなくて、地元の方がいてくれたからこそ。皆さんの思いに背中を押されて、ここまでやって来れました。経験も無い私がいきなり支配人を任されるなんて、今から考えると恐ろしいですよね(笑)」と重松さんは振り返る。最初はお叱りを受ける事もあったが、最近になってようやく認められて来た…と感じているという。
「何よりも今まで続けられた事が一番嬉しいです」だからこそ重松さんは、この映画館を自分たちだけではなく、お客様と一緒に作って行きたい…と述べる。「どんな映画館にしたいですか?ってよく聞かれるんですけど、自分が描くイメージよりも皆さんの思いが集まって現在の形になったので、これからも多分、そういうふうにしてしか続けていけないんだろうな…と思っています。だって、私がこんな風にしたいと思っても周りの人たちが、それを求めていなかったら続かないですものね?」
取材を終えて外に出ると辺りはすっかり日が暮れて、ぽつりぽつりと飲屋街に灯がともり始めていた。ここは昼よりも夜の方が賑やかなんです…という重松さんの言葉を思い出す。駅に向かって通りを歩きながら、昔の映画館ってこんな繁華街にあったよな…と懐かしさがこみ上げて来た。映画帰りに気が向いたら小料理屋に立ち寄ったり…最近は若い料理人がリーズナブルな価格で美味しい料理を提供して、女性でも気軽に入れそうなお洒落なお店も増えている。「いつもと違う変わった環境で映画を観て、街全体を丸ごと楽しんでもらいたい」こうしたプラスαの楽しみがあるから映画館で映画を観るのをやめられないのだ。(取材:2017年1月)
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