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スーダン視覚障害学生支援の現状と課題――立命館大学における支援の現状からスーダンでの支援を考える○植村要(立命館大学大学院)青木慎太朗(立命館大学大学院)韓星民(立命館大学大学院)
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スーダン視覚しかく障害しょうがい学生がくせい支援しえん現状げんじょう課題かだい
――立命館大学りつめいかんだいがくにおける支援しえん現状げんじょうからスーダンでの支援しえんかんがえる

植村うえむらかなめ立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん
青木あおきまき太朗たろう立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん
かんほしみん立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん

障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかい 於:熊本学園大学くまもとがくえんだいがく


要旨ようし

Ⅰ 目的もくてき

 

障害しょうがいへの教育きょういくみには、なが歴史れきしがある。ほりは、障害しょうがいしゃ問題もんだいについての諸説しょせつ社会しゃかいてき問題もんだいとしてらえなおし、歴史れきしてき変遷へんせんから障害しょうがい教育きょういくのパラダイムについて考察こうさつしている(ほり 1994)。中村なかむら荒川あらかわは、ヨーロッパと日本にっぽんにおける障害しょうがいたいするおおやけ教育きょういく歴史れきしてき変遷へんせん記述きじゅつしている(中村なかむら荒川あらかわ 2003)。

これらの記述きじゅつなかに、ほとんどといっていいほど登場とうじょうしない地域ちいきが、アフリカである。では、アフリカでは、障害しょうがい教育きょういくたいするみがなかったかというと、かならずしもそうではない。亀井かめいは、フォスターという人物じんぶつ注目ちゅうもくして、今日きょう西にし中部ちゅうぶアフリカ諸国しょこくにおけるろうしゃへの教育きょういく手話しゅわ・コミュニティのありかたが、いかなる経緯けいい形成けいせいされ、現在げんざいいたったかを歴史れきしてきあきらかにした(亀井かめい 2006)。では、アフリカにおける視覚しかく障害しょうがい教育きょういくは、どのようにおこなわれているのか?また、これらのほとんどは、初等しょとう学校がっこうにおけるおおやけ教育きょういく対象たいしょうにしている。それでは、障害しょうがい高等こうとう教育きょういくは、どのようにおこなわれてきたのか?

 途上とじょうこく障害しょうがいしゃ開発かいはつについて、もりは、近代きんだい成長せいちょうモデルでは、障害しょうがいしゃ開発かいはつそとかれて、慈善じぜん対象たいしょうにされてきたが、途上とじょうこく障害しょうがいしゃへの援助えんじょにおいては、先進せんしんこくおなどうおこなって、おな課題かだいかかえることのないようにおこなわなければならないこと、また、途上とじょうこく障害しょうがいしゃは、障害しょうがい問題もんだいだけでなく、障害しょうがいしゃおなじく貧困ひんこん失業しつぎょう差別さべつ問題もんだい両方りょうほうにさらされていることに注意ちゅうい必要ひつようであること、などを指摘してきする(もり 2008)。この指摘してきまえて、ほん報告ほうこくは、視覚しかく障害しょうがいのある学生がくせい院生いんせい大学だいがく学習がくしゅう研究けんきゅう遂行すいこうするために必要ひつようとする支援しえん充実じゅうじつさせるために、日本にっぽんとアフリカの現状げんじょうとらなおし、今後こんごみにけての課題かだい整理せいりするものである。

 アフリカの現状げんじょうとしてはスーダンをげ、CAPEDS(Committee for Assisting and Promoting Education of the Disabled in Sudan:スーダン障害しょうがいしゃ教育きょういく支援しえんかい)の活動かつどう事例じれいとする。国際こくさい援助えんじょ機関きかんみが人道じんどう援助えんじょ復興ふっこう支援しえん重視じゅうしするのにたいして、見過みすごされがちな障害しょうがいしゃへの教育きょういく充実じゅうじつ目的もくてき活動かつどうするのがCAPEDSである。その中心ちゅうしんメンバーは、ハルツーム大学だいがく卒業そつぎょう日本にっぽん大学だいがく留学りゅうがくしている3にん視覚しかく障害しょうがいのある学生がくせいである。このCAPEDSの活動かつどうからあきらかになるスーダンにおける視覚しかく障害しょうがいのある学生がくせいへの支援しえん現状げんじょう整理せいりする。

 日本にっぽん現状げんじょうとしては、立命館大学りつめいかんだいがくみを事例じれいとする。2007ねん障害しょうがい学会がっかいだい4かい大会たいかいでは、立命館大学りつめいかんだいがくにおける障害しょうがい学生がくせい支援しえん題材だいざいに、4つのポスター発表はっぴょうおこなわれた。報告ほうこくしゃらは、視覚しかく障害しょうがいのある学生がくせい必要ひつようとする支援しえんとその技術ぎじゅつ整理せいりし、立命館大学りつめいかんだいがくにおいてしょうじた問題もんだいひとつの事例じれい報告ほうこくした(青木あおき植村うえむら後藤ごとう成松なりまつかん 2007、かん青木あおき亀甲きっこう 2007、植村うえむら青木あおき伊藤いとう山口やまぐち 2007)。また、後藤ごとう二階堂にかいどうは、教育きょういく機関きかんである大学だいがくにおける障害しょうがいのある学生がくせいたいする「支援しえん」が、結果けっかとして現状げんじょう社会しゃかい順応じゅんのうする(批判ひはんな)主体しゅたいさい生産せいさんになっていることを指摘してきした(後藤ごとう二階堂にかいどう 2007)。

 スーダンの現状げんじょうについては、ほん報告ほうこく連続れんぞくする報告ほうこくである斉藤さいとう植村うえむらかん(2008)において報告ほうこくする。そこで、ほん報告ほうこくでは、日本にっぽん現状げんじょう紹介しょうかいする。こうして整理せいりされた課題かだいつうじて、視覚しかく障害しょうがいのある学生がくせい院生いんせいへの支援しえんのさらなる充実じゅうじつけての提案ていあんこころみる。

 

Ⅱ 全国ぜんこく障害しょうがいゆうする学生がくせい現状げんじょう

 

 2007年度ねんど日本にっぽん学生がくせい支援しえん機構きこうが、国内こくない大学だいがく短期大学たんきだいがく高等こうとう専門せんもん学校がっこう対象たいしょう実施じっしした障害しょうがい学生がくせい修学しゅうがく支援しえんかんする実態じったい調査ちょうさでは、以下いか結果けっかられた。

 在席ざいせきする障害しょうがい学生がくせいすうは、5404にんであり、その障害しょうがい種別しゅべつ内訳うちわけは、視覚しかく障害しょうがい577にん(10.7%)、聴覚ちょうかく言語げんご障害しょうがい1355にん(25.1%)、肢体したい不自由ふじゆう2068にん(38.3%)、重複じゅうふく79にん(1.5%)、病弱びょうじゃく虚弱きょじゃく703にん(13.0%)、発達はったつ障害しょうがい178にん(3.3%)であった。この視覚しかく障害しょうがい577にん内訳うちわけは、めくら137にん弱視じゃくし351にん不明ふめい89にんであった。

 視覚しかく障害しょうがい学生がくせいたいする授業じゅぎょう保障ほしょう実施じっしこうは、149こうであり、その実施じっし内容ないようは、教材きょうざいのテキストデータ51こう(34.2%)、拡大かくだい78こう(52.3%)、点訳てんやくぼくやく63こう(42.3%)、リーディングサービス31こう(20.8%)であった。

 

Ⅲ 立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつ実施じっしする支援しえんと、先端せんたんけん院生いんせいかい要望ようぼうしょ

 

Ⅲ-Ⅰ 立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつ実施じっしする支援しえん

 立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつ実施じっししている支援しえんは、以下いかのようである(*1)。

 

立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつ概要がいよう

機能きのう障害しょうがいをもった学生がくせいへのサポートにかかわる総合そうごう窓口まどぐち

支援しえん技術ぎじゅつ関連かんれん情報じょうほうとう資源しげん蓄積ちくせき

支援しえん対象たいしょう障害しょうがい学生がくせい障害しょうがい学生がくせいへサポートを提供ていきょうするサポート学生がくせい教職員きょうしょくいん

支援しえん対象たいしょうとなる障害しょうがいをもつ学生がくせい視覚しかく障害しょうがい聴覚ちょうかく障害しょうがい肢体したい不自由ふじゆうとう障害しょうがいにより学習がくしゅう学生がくせい生活せいかつ制限せいげんけるもので、本人ほんにん支援しえんけることを希望きぼうし、かつ、その必要ひつようせいみとめられたもの(病気びょうきやけがとうにより、一時いちじてき障害しょうがいった学生がくせいふくむ)。

支援しえん範囲はんい正課せいか授業じゅぎょうけるうえ必要ひつよう事項じこう

 

障害しょうがいをもつ学生がくせいへの支援しえん内容ないよう

共通きょうつう入学にゅうがくぜん相談そうだん履修りしゅう事務じむ手続てつづきの情報じょうほう保障ほしょう語学ごがく演習えんしゅう実習じっしゅう科目かもくにおける配慮はいりょ授業じゅぎょう担当たんとう教員きょういんへの配慮はいりょ事項じこう相談そうだん伝達でんたつ情報じょうほう機器きき利用りよう支援しえん設備せつび整備せいび

視覚しかく障害しょうがいにかかわるサポート:教材きょうざいのテキストデータ拡大かくだい点訳てんやく語学ごがく・ゼミ指定してい教科書きょうかしょなど一部いちぶ)。対面たいめん朗読ろうどく代筆だいひつ介助かいじょしゃ紹介しょうかい

聴覚ちょうかく障害しょうがいにかかわるサポート:通訳つうやくしゃ紹介しょうかい(ノートテイク・パソコンテイク)。

肢体したい障害しょうがいにかかわるサポート:教室きょうしつ配置はいち調整ちょうせい介助かいじょしゃ紹介しょうかい(ポイントテイク、身体しんたい介助かいじょ)。駐車ちゅうしゃスペースの確保かくほ多目的たもくてきスペース(休憩きゅうけいなど)の確保かくほ

・その点字てんじ用紙ようし・フロッピーなどの消耗しょうもうひん、テキストだい、コピーだい調査ちょうさ実習じっしゅう交通こうつうなど障害しょうがいがあることによってしょうじる特別とくべつ経費けいひ補助ほじょ

定期ていき試験しけん配慮はいりょ時間じかん延長えんちょう別室べっしつ受験じゅけん点字てんじ受験じゅけんなどの配慮はいりょ

 

・サポートをけるまでのながれ:

1.もうみ → 2.相談そうだん → 3.書類しょるい提出ていしゅつ → 4.サポートの開始かいし

 

【サポート学生がくせいへの支援しえん内容ないよう

・サポートスタッフへの支援しえん:ボランティア保険ほけんへの加入かにゅう、サポートにかんする相談そうだん、スキルアップ講座こうざなど。(サポートの内容ないようによっては、謝礼しゃれいあり)

・サポートスタッフ登録とうろくのながれ:1.支援しえんしつ連絡れんらく → 2.コーディネーターによる説明せつめい → 3.サポートスタッフ登録とうろく → 4.学生がくせいサポートスタッフの活動かつどう開始かいし

 

教職員きょうしょくいんへの支援しえん内容ないよう

教職員きょうしょくいんへの支援しえん障害しょうがい学生がくせい所属しょぞくするかく学部がくぶ職員しょくいんと、受講じゅこうする科目かもく担当たんとう教員きょういんたいする、コーディネーターによる相談そうだん情報じょうほう提供ていきょう

 

Ⅲ-Ⅱ 先端せんたんけん院生いんせいかい要望ようぼうしょ

 立命館大学りつめいかんだいがく大学院だいがくいん先端せんたん総合そうごう学術がくじゅつ研究けんきゅう以下いか先端せんたんけん院生いんせいかいでは、学習がくしゅう研究けんきゅう環境かんきょう改善かいぜん充実じゅうじつもとめて、先端せんたんけん教授きょうじゅかい継続けいぞくてきはないのもうけている。今年度こんねんどは、そのひとつとして、立命館大学りつめいかんだいがくにおける障害しょうがい学生がくせい支援しえん改善かいぜんげた。要望ようぼうしょでは、まず支援しえんしつ実施じっしする支援しえんて、院生いんせい研究けんきゅう活動かつどう遂行すいこうするじょうでの問題もんだいを5てん指摘してきし、つづいて11てん要望ようぼうもうれた。

 以下いかに、先端せんたんけん教授きょうじゅかいつうじて障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつ提出ていしゅつした要望ようぼうしょ要点ようてんしるす(*2)。

 

問題もんだいてん

A.支援しえんしつ専従せんじゅうスタッフの不足ふそく … 2008ねん4がつ現在げんざい視覚しかく障害しょうがい学生がくせい担当たんとうは、コーディネーター2めいとテキスト校正こうせい専従せんじゅう1めい後者こうしゃ平日へいじつ午後ごごのみの勤務きんむ

B.支援しえん必要ひつようとする個々ここ大学院生だいがくいんせいのニーズと、支援しえんしつ提供ていきょう想定そうていしていた支援しえん乖離かいり … 支援しえんしつは、学部がくぶせいけ・所属しょぞくキャンパスない限定げんていした支援しえんのみを想定そうてい

C.利用りよう手続てつづきの煩雑はんざつさ … つきごと事前じぜん詳細しょうさい利用りよう計画けいかく提出ていしゅつしなければならない

D.支援しえん金額きんがく年額ねんがく上限じょうげんひくさ … 2008年度ねんどからげられたが、大学院生だいがくいんせいへの支援しえんとして十分じゅうぶんとはいえない

E.支援しえん金額きんがく年額ねんがく上限じょうげんまで支援しえんけた場合ばあい、それ以後いご年度ねんどはじめまで支援しえんけられなくなる … そのばあい私費しひでの業務ぎょうむ依頼いらい無償むしょうボランティアの紹介しょうかい不可ふか

 

要望ようぼうてん

1.支援しえん金額きんがく年額ねんがく上限じょうげん撤廃てっぱい、ないしは、さらなる増額ぞうがく

2.障害しょうがい学生がくせい学会がっかいなどへの参加さんか報告ほうこくさいして、同行どうこうする介助かいじょしゃへの介助かいじょりょうおよび旅費りょひ支給しきゅう学生がくせい本人ほんにんへの旅費りょひ支給しきゅうもとめていない) … 障害しょうがいしゃ自立じりつ支援しえんほうにもとづくサービスでは、不十分ふじゅうぶんてんがあるため

3.支援しえんけるさい事前じぜん申請しんせい簡素かんそおよび事後じご柔軟じゅうなん対応たいおう … 状況じょうきょう変化へんかなどによって、実際じっさい必要ひつようとする支援しえん事前じぜん申請しんせいとのあいだにズレがしょうじることは(普通ふつうきているならば)常態じょうたいである

4.支援しえんしつ専従せんじゅうスタッフの増員ぞういん

5.支援しえんしつ登録とうろくスタッフに支払しはらわれるテキスト校正こうせい単価たんかげ … TA,RAなどのほか業務ぎょうむして、単価たんかひく

6.障害しょうがい学生がくせい支援しえんのために、日本にっぽん私立しりつ学校がっこう振興しんこう共済きょうさい事業じぎょうだんから大学だいがく支給しきゅうされている補助ほじょきん全額ぜんがくを、原則げんそくとして障害しょうがい学生がくせいへの直接ちょくせつ支援しえん充当じゅうとうすること … 立命館大学りつめいかんだいがくにおける当該とうがい補助ほじょきん使途しとは、キャンパスないのバリアフリーを目的もくてきとしたインフラ整備せいび重点的じゅうてんてき投入とうにゅうされているが、公共こうきょう施設しせつであるキャンパスないのバリアフリー当該とうがい補助ほじょきん有無うむかかわらずなされるべきことである

7.支援しえんしつ登録とうろくスタッフにたいする学生がくせい院生いんせい私費しひによる業務ぎょうむ支援しえん)の依頼いらい可能かのうとすること … 上記じょうきE.および休学きゅうがくにおける支援しえんとして必要ひつよう

8.図書館としょかんにおけるやく書籍しょせき授受じゅじゅ返却へんきゃく手続てつづき、および書籍しょせきのコピー(テキストよう)の申請しんせい授受じゅじゅ返却へんきゃく手続てつづきを、代理人だいりにんとすること … 本人ほんにん以外いがい不可ふかとなっている現状げんじょうでは、有職ゆうしょくおよび遠隔えんかく在住ざいじゅう障害しょうがい学生がくせい利用りよう困難こんなん

9.障害しょうがい学生がくせいおよび受験じゅけん希望きぼうしゃたいする、立命館大学りつめいかんだいがくにおける障害しょうがい学生がくせい支援しえん制度せいど周知しゅうち徹底てってい 

10.中長期ちゅうちょうきてき課題かだいとして、休学きゅうがくちゅう障害しょうがい学生がくせいへの支援しえん、および障害しょうがいゆうするPD・OD・研究けんきゅうせいへの支援しえん検討けんとう

11.障害しょうがい学生がくせいにたいするニーズ調査ちょうさ早急そうきゅうなる実施じっし

 

Ⅳ 論点ろんてん整理せいり

 

 Ⅲにしるした立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつ実施じっしする支援しえんと、先端せんたんけん要望ようぼうしょから、視覚しかく障害しょうがいをもつ学生がくせいへの支援しえん中心ちゅうしんてき課題かだいが、かみ媒体ばいたい文字もじ情報じょうほうへのアクセスの支援しえんであることがわかる。Ⅱにしるした調査ちょうさ結果けっかでは、おおくの大学だいがくなどでなんらかのかたち文字もじ情報じょうほうへのアクセスの支援しえん実施じっししているが、おおくの大学だいがくなどで実施じっししていないことがしめされている。とすると、立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつは、障害しょうがい学生がくせい支援しえんへのみの先駆せんくてき事例じれいひとつとみることができるだろうが、そこにはⅢ-Ⅱにしるした問題もんだいてんそんするのである。

 以下いかでは、ここまででわかった視覚しかく障害しょうがい学生がくせいへの文字もじ情報じょうほうへのアクセスを支援しえんするじょうでの論点ろんてん整理せいりする。

 

【1.財源ざいげん確保かくほ

 中心ちゅうしんてき課題かだいは、財源ざいげん確保かくほといえるだろう。ひとつは、設備せつびである。テキストデータ点訳てんやく拡大かくだい対面たいめん朗読ろうどくといった媒体ばいたい変更へんこうするいずれの方法ほうほうにおいてもパソコン、スキャナー、OCRソフト、コピー点字てんじプリンター、これらの機器きき設置せっちする部屋へや、および対面たいめん朗読ろうどくのための部屋へや必要ひつようになる。これは、機器きき購入こうにゅう必要ひつよう一時いちじてき経費けいひである。そして、これらの維持いじ継続けいぞくてき必要ひつようになる。

 またひとつは、人件じんけんである。上記じょうき機器きき活用かつようして文献ぶんけん媒体ばいたい変更へんこうする作業さぎょうたいして支払しはら対価たいかである。これは、視覚しかく障害しょうがい学生がくせい文献ぶんけん媒体ばいたい変更へんこうようするごとに、継続けいぞくてき必要ひつようとなる経費けいひである。

 くわえて、下記かきする人材じんざい養成ようせいにかかる経費けいひ必要ひつようである。

 

【2.技術ぎじゅつ習得しゅうとくした人材じんざい確保かくほ

 媒体ばいたい変更へんこう、とりわけ点訳てんやくには一定いってい技術ぎじゅつ習得しゅうとく必要ひつようになる。まずこれらの技術ぎじゅつ習得しゅうとくした人材じんざい要請ようせいされなければならない。媒体ばいたい変更へんこうにはおおくの時間じかんようするため、視覚しかく障害しょうがい学生がくせい文献ぶんけん講読こうどく希望きぼうしてから作業さぎょう完了かんりょうまでをすみやかにおこなうためには、よりおおくの人材じんざいもとめられる。くわえて、それらおおくの人材じんざいたいする作業さぎょうりなどのコーディネートをする担当たんとうしゃもとめられる。

 

【3.学習がくしゅう支援しえん研究けんきゅう支援しえん位置いちづけ】

 立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつでは、その支援しえん範囲はんいを「正課せいか授業じゅぎょうけるうえ必要ひつよう事項じこう」としていることからもわかるように、支援しえん範囲はんい学習がくしゅう支援しえんのみにかぎっている。学部がくぶせいからはとりたてて要望ようぼう提出ていしゅつされていないところをると、その支援しえん円滑えんかつ実施じっしされているものと推測すいそくされる。しかし、学習がくしゅうよりも研究けんきゅう重点じゅうてんかれる院生いんせいにおいては、Ⅲ-Ⅱにしるした要望ようぼう提出ていしゅつされている。これは、研究けんきゅう支援しえん支援しえん範囲はんいとしない障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつ提供ていきょうする支援しえんのみでは、その研究けんきゅう活動かつどう十全じゅうぜん遂行すいこうできていないことをしめしている。

 

 以上いじょうは「作業さぎょう」と「費用ひよう」というふたつの負担ふたん分配ぶんぱい問題もんだいとして考察こうさつすることができる。

 立命館大学りつめいかんだいがくにおけるみでは、「作業さぎょう」は、障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつおよび支援しえんしつ養成ようせいした学生がくせいサポートスタッフがになっている。「費用ひよう」は、大学だいがく補助ほじょきん支給しきゅうするというかたちで、日本にっぽん私立しりつ学校がっこう振興しんこう共済きょうさい事業じぎょうだんになっており、支援しえんをその補助ほじょきん範囲はんいないにとどめていることからすると、立命館大学りつめいかんだいがくは「費用ひよう」の負担ふたんになうことを拒否きょひしているといえる。

 しかし、立命館大学りつめいかんだいがくがこの負担ふたんになうことは、不当ふとう負担ふたん分配ぶんぱいであるともいえる。「配慮はいりょ平等びょうどう」(石川いしかわ 2004)という観点かんてんからいえば、かみ媒体ばいたい書籍しょせきは、視力しりょくがあるもののみに配慮はいりょをした形式けいしきであり、視覚しかく障害しょうがいをもつものなど一部いちぶものを、配慮はいりょ対象たいしょうから除外じょがいしているのである。であるなら、この負担ふたんは、本来ほんらい出版しゅっぱんしゃになうべきものともいえる。げんになっている出版しゅっぱんしゃもある。一部いちぶ出版しゅっぱんしゃ書籍しょせきについては、書籍しょせき奥付おくづけに「テキストデータ引換ひきかえけん」が添付てんぷされ、それを出版しゅっぱんしゃ郵送ゆうそうすることで、その書籍しょせきのテキストデータが読者どくしゃ提供ていきょうされるのである。

 また、一部いちぶには、読者どくしゃ要望ようぼうたいしても、テキストデータを提供ていきょうしない出版しゅっぱんしゃもあり、植村うえむらは、その背景はいけい著作ちょさくけんほう印刷いんさつ技術ぎじゅつ、コスト、出版しゅっぱん社内しゃないのルールが関係かんけいしていることをあきらかにした(植村うえむら 2008)。たとえ著作ちょさくけんほうじょう問題もんだい解消かいしょうされたとしても、技術ぎじゅつてき理由りゆうからテキストデータを提供ていきょうしえない書籍しょせきは、以前いぜんとしてのこる。テキストデータは組版くみはんがDTPでおこなわれるようになって以降いこう書籍しょせきについて作成さくせいしえるものであり、DTP以前いぜん技術ぎじゅつ組版くみはんされた書籍しょせきについては、テキストデータの作成さくせいもちいる印刷いんさつようデータが存在そんざいしないのである。しかも、そのような書籍しょせき膨大ぼうだい存在そんざいする。これをテキストデータする「作業さぎょう」および「費用ひよう」の負担ふたんを、だれになうべきかがかんがえられなければならない。現状げんじょうにおいては、その書籍しょせき講読こうどくのぞ視覚しかく障害しょうがいしゃやボランティア団体だんたいになっているが、それはやむをえないからであり、不当ふとうなことといわねばならない。

 

Ⅴ スーダン視覚しかく障害しょうがい学生がくせい支援しえんへの提案ていあん

 

 視覚しかく障害しょうがいをもつ学生がくせいへのかみ媒体ばいたい文字もじ情報じょうほうへのアクセスの支援しえんには、設備せつび人件じんけん人材じんざい養成ようせいのための財源ざいげんと、作業さぎょうとコーディネートをにな人材じんざい必要ひつようである。しかも、これは十分じゅうぶんりょう継続けいぞくてき確保かくほされなければならない。くわえて、学習がくしゅう支援しえん研究けんきゅう支援しえん両者りょうしゃにわたる制度せいど設計せっけい必要ひつようである。

 さらに、おおきな枠組わくぐみとして、視覚しかく障害しょうがいしゃかみ媒体ばいたい文字もじ情報じょうほうへのアクセスにようする「作業さぎょう」と「費用ひよう」の負担ふたん分配ぶんぱいがいかにあるべきかを検討けんとうする必要ひつようがある。

 

ちゅう

(*1)本節ほんぶしは、立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつホームページを要約ようやくしたものである。

(*2)本節ほんぶしは、先端せんたんけん院生いんせいかいが、2008年度ねんど先端せんたんけん教授きょうじゅかい提出ていしゅつした要望ようぼうしょ要約ようやくしたものであり、草稿そうこう段階だんかいで、先端せんたんけん院生いんせいかい指示しじしたがって必要ひつよう修正しゅうせいくわえたうえで、掲載けいさい許可きょか掲載けいさいするものである。

 

参考さんこう文献ぶんけん

青木あおきまき太朗たろう植村うえむらかなめ後藤ごとう吉彦よしひこ成松なりまつ一郎いちろうかんほしみん, 2007, 「視覚しかく障害しょうがい学生がくせい支援しえん技法ぎほう・1――情報じょうほう保障ほしょう方法ほうほう課題かだい障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかいポスター発表はっぴょう.

・CAPEDS(Committee for Assisting and Promoting Education of the Disabled in Sudan:スーダン障害しょうがいしゃ教育きょういく支援しえんかい) http://capeds.org/default.aspx

後藤ごとう吉彦よしひこ二階堂にかいどう祐子ゆうこ, 2007, 「大学だいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえん」についてのいち考察こうさつ障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかいポスター発表はっぴょう.

かんほしみん青木あおきまき太朗たろう亀甲きっこう孝一こういち, 2007, 「視覚しかく障害しょうがい学生がくせい支援しえん技法ぎほう・3――情報じょうほう保障ほしょうのための活字かつじ支援しえん技術ぎじゅつ現状げんじょう課題かだい障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかいポスター発表はっぴょう.

ほり正嗣まさつぐ, 1994, 『障害しょうがい教育きょういくのパラダイム転換てんかん──統合とうごう教育きょういくへの理論りろん研究けんきゅう柘植つげ書房しょぼう.

石川いしかわじゅん, 2004, 『えないものとえるもの――社交しゃこうとアシストの障害しょうがいがく医学書院いがくしょいん.

亀井かめいしんこう, 2006, 『アフリカのろうしゃ手話しゅわ歴史れきし明石書店あかししょてん.

もりたけしへん, 2008, 『障害しょうがい開発かいはつ――途上とじょうこく障害しょうがい当事とうじしゃ社会しゃかい研究けんきゅう双書そうしょNo.567)』日本にっぽん貿易ぼうえき振興しんこうかいアジア経済けいざい研究所けんきゅうじょ.

中村なかむらみつる紀男のりお荒川あらかわさとし, 20031020, 『障害しょうがい教育きょういく歴史れきし明石書店あかししょてん.

日本にっぽん学生がくせい支援しえん機構きこう学生がくせい生活せいかつ特別とくべつ支援しえん, 200806, 「平成へいせい19年度ねんど(2007年度ねんど大学だいがく短期大学たんきだいがく高等こうとう専門せんもん学校がっこうにおける障害しょうがい学生がくせい修学しゅうがく支援しえんかんする実態じったい調査ちょうさ結果けっか報告ほうこくしょ

立命館大学りつめいかんだいがく障害しょうがい学生がくせい支援しえんしつ http://www.ritsumei.ac.jp/acd/ac/kyomu/drc/index.html

斉藤さいとう龍一郎りゅういちろう植村うえむらかなめかんほしみん, 2008, 「スーダン視覚しかく障害しょうがい学生がくせい支援しえん現状げんじょう課題かだい――スーダンにこん必要ひつよう技術ぎじゅつ支援しえん当事とうじしゃによる支援しえん障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかいポスター発表はっぴょう.

植村うえむらかなめ, 2008, 「出版しゅっぱんしゃから読者どくしゃへ、書籍しょせきテキストデータの提供ていきょう困難こんなんにしている背景はいけいについて」『Core Ethics』4:13-24.

植村うえむらかなめ青木あおきまき太朗たろう伊藤いとうみのる知子ともこ山口やまぐち真紀まき, 2007, 「視覚しかく障害しょうがい学生がくせい支援しえん技法ぎほう・2――立命館大学りつめいかんだいがくにおける視覚しかく障害しょうがいのある大学院生だいがくいんせいへの支援しえんについてのいち事例じれい障害しょうがい学会がっかいだいかい大会たいかいポスター発表はっぴょう.
UP:20081004


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