はじめに
■ 総合福祉部会の背景と経過
平成21(2009)年12月、障害者の権利に関する条約(以下、「障害者権利条約」という)の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革を目的として「障がい者制度改革推進本部」が設置され、この下で、障害者施策の推進に関する意見をまとめる「障がい者制度改革推進会議」(以下「推進会議」という)が発足しました。
このことは、障害者権利条約の基本精神である「私たち抜きに私たちのことを決めるな!」(Nothing
about us without us!)を踏まえた政策立案作業の開始を意味します。
平成22(2010)年4月には、この推進会議の下に、障害者、障害者の家族、事業者、自治体首長、学識経験者等、55名からなる「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」(以下「総合福祉部会」という)が設けられました。
さらには、平成22(2010)年6月29日、政府は閣議決定を行い、推進会議の「第一次意見」を最大限に尊重し「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」を定めました。その中で、とくに「『障害者総合福祉法』(仮称)の制定」に関しては、
「応益負担を原則とする現行の障害者自立支援法(平成17年法律第123号)を廃止し、制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体系の整備等を内容とする「障害者総合福祉法」(仮称)の制定に向け、第一次意見に沿って必要な検討を行い、平成24年常会への法案提出、25年8月までの施行を目指す。」
と定められました。
こうして総合福祉部会は障害者総合福祉法の制定に向けた検討という使命を背負って18回の検討を重ねてきました。
第1回〜3回(平成22(2010)年4月〜6月)では「障がい者総合福祉法(仮称)制定までの間において当面必要な対策について」の議論を行い、「利用者負担の見直し」などを含む「当面の課題」の要望書をまとめました。
第4回〜7回(6月〜9月)では、9分野30項目91点の「論点」を整理し、それに沿って議論し共通理解を図りました。
第8回〜15回(10月〜平成23(2011)年6月)では、複数の作業チームに分かれて議論・検討を行いました。これらの作業チームに参加した構成員の精力的な検討の成果は「部会作業チーム報告・合同作業チーム報告」としてまとめられています。なお各チーム報告に対して、厚生労働省からのコメントが出されています。
第16回〜18回(7月〜8月)では、これまでの議論を踏まえ、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(以下「骨格提言」)に向けて議論をまとめる作業を行いました。
■ 骨格提言の基礎となった2つの指針
総合福祉部会の55人の立場や意見は多様ですが、次の2つの文書を前提として検討作業を行ってきました。それは、平成18(2006)年に国連が採択した「障害者権利条約」、そして、平成22(2010)年1月に国(厚生労働省)と障害者自立支援法訴訟原告ら(71名)との間で結ばれた「基本合意文書」です。
これらの文書は、総合福祉部会が、障害者総合福祉法の骨格をまとめるに際し、基本的な方向を指し示すなど重要な役割を果たしました。
(1)障害者権利条約
この条約は、すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することなどを目的としています。
とくに、第5条(平等及び差別されないこと)において、合理的配慮の確保が求められています。
また、第19条では、「すべての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を認める」とし、
「(a)
障害者が、他の者と平等に、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の居住施設で生活する義務を負わないこと。」
「(b)
地域社会における生活及び地域社会への受入れを支援し、並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援[personal assistance]を含む。)を障害者が利用することができること。」
を締約国は確保するとしています。
このように条約は、保護の客体とされた障害者を権利の主体へと転換し、インクルーシブな共生社会を創造することをめざしています。
(2)「基本合意文書」
この文書では、
「国(厚生労働省)は、速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し、遅くとも平成25年8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する。そこにおいては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」
「(障害者自立支援法、とくに応益負担制度などが)障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、・・心から反省の意を表明する」
「・・新たな福祉制度の構築に当たっては、現行の介護保険制度との統合を前提とはせず・・」
「今後の障害福祉施策を、障害のある当事者が社会の対等な一員として安心して暮らすことのできるものとするために最善を尽くす」
などが確認され、利用者負担、支給決定、報酬支払い方式、「障害」の範囲、予算増などについて原告らの指摘を踏まえてしっかり検討するとしています。
■ 障害者総合福祉法がめざすべき6つのポイント
本骨格提言は以上の経過と指針の下に、次の6つの目標を障害者総合福祉法に求めました。
【1】障害のない市民との平等と公平
障害者と障害のない人の生活水準や暮らしぶりを比べるとき、そこには大きな隔たりがあります。障害は誰にでも起こりうるという前提に立ち、障害があっても市民として尊重され、誇りを持って社会に参加するためには、平等性と公平性の確保が何よりの条件となります。障害者総合福祉法がこれを裏打ちし、障害者にとって、そして障害のない市民にとっても新たな社会の到来を実感できるものとします。
【2】谷間や空白の解消
障害の種類によっては、障害者福祉施策を受けられない人がたくさんいます。いわゆる制度の谷間に置かれている人たちです。また制度間の空白は、学齢期での学校生活と放課後、卒業後と就労、退院後と地域での生活、働く場と住まい、家庭での子育てや親の介助、消費生活など、いろいろな場面で発生しています。障害の種別間の谷間や制度間の空白の解消を図っていきます。
【3】格差の是正
障害者のための住まいや働く場、人による支えなどの環境は、地方自治体の財政事情などによって、質量ともに大きく異なっています。また、障害種別間の制度水準についても大きな隔たりがあります。どこに暮らしを築いても一定の水準の支援を受けられるよう、地方自治体間の限度を超え合理性を欠くような格差についての是正をめざします。
【4】放置できない社会問題の解決
世界でノーマライゼーションが進むなか、わが国では依然として多くの精神障害者が「社会的入院」を続け、知的や重複の障害者等が地域での支援不足による長期施設入所を余儀なくされています。また、公的サービスの一定の広がりにもかかわらず障害者への介助の大部分を家族に依存している状況が続いています。これらを解決するために地域での支援体制を確立するとともに、効果的な地域移行プログラムを実施します。
【5】本人のニーズにあった支援サービス
障害の種類や程度、年齢、性別等によって、個々のニーズや支援の水準は一様ではありません。個々の障害とニーズが尊重されるような新たな支援サービスの決定システムを開発していきます。また、支援サービスを決定するときに、本人の希望や意思が表明でき、それが尊重される仕組みにします。
【6】安定した予算の確保
制度を実質化させていくためには財政面の裏打ちが絶対的な条件となります。現在の国・地方の財政状況はきわめて深刻であるため、障害者福祉予算を確保するためには、給付・負担の透明性、納得性、優先順位を明らかにしながら、財源確保について広く国民からの共感を得ることは不可欠です。
障害者福祉予算の水準を考えていくうえでの重要な指標となるのが、国際的な比較です。この際に、経済協力開発機構(OECD)各国の社会保障給付体系のなかにおける障害者福祉の位置づけの相違を丁寧に検証し、また高齢化などの要因を考慮した上での国民負担率など、財政状況の比較も行わなければなりません。当面の課題としては、OECD加盟国における平均並みを確保することです。これによって、現状よりはるかに安定した財政基盤を図ることができます。
■ 改革への新しい一歩として
わが国の障害者福祉もすでに長い歴史を有しておりますが、障害者を同じ人格を有する人と捉えるよりも、保護が必要な無力な存在、社会のお荷物、治安の対象とすべき危険な存在などと受けとめる考え方が依然として根強く残っています。
わが国の社会が、障害の有無にかかわらず、個人として尊重され、真の意味で社会の一員として暮らせる共生社会に至るには、まだまだ遠い道のりであるかもしれません。
そのような中で総合福祉部会に参集した私たちは、障害者本人をはじめ、障害者に関わる様々な立場から、違いを認めあいながらも、それでも共通する思いをここにまとめました。ここに示された改革の完成には時間を要するかも知れません。協議・調整による支給決定や就労系事業等、試行事業の必要な事項もあります。
また、本骨格提言に基づく法の策定、実施にあたっては、さらに市町村及び都道府県をはじめとする幅広い関係者の意見を踏まえることが必要です。
私たちのこうした思いが、国民や世論の理解と共感を得て、それが政治を突き動かし、障害者一人ひとりが自身の存在の価値を実感し、様々な人と共に支えあいながら生きていくことの喜びを分かち合える社会への一歩になることを信じて、ここに骨格提言をまとめました。
今、新法への一歩を踏み出すことが必要です。
平成23(2011)年8月30日
障がい者制度改革推進会議総合福祉部会
T−1 法の理念・目的・範囲
【表題】前文
【結論】
○ 障害者総合福祉法には、下記の通り、本法制定の経緯、この法に求められる精神等を内容とする前文を設けるべきである。
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【説明】
全国1000万人を超えると思われる障害者とその家族、支援者、一般国民、全ての人にとって、今回の改革の経緯と理念が伝わり、障害者総合福祉法の意義が共有され、さらに、個別規定の解釈指針とするためにも、前文でこの法の精神を高らかに謳うことが不可欠である。盛り込むべき前文の内容は以下のとおりである。
記
わが国及び世界の障害者福祉施策は「完全参加と平等」を目的とした昭和56(1981)年の国際障害者年とその後の国連障害者の十年により一定の進展を遂げたが、依然として多くの障害者は他の者と平等な立場にあるとは言いがたい。
このような現状を前提に、平成18(2006)年国連総会にて障害者権利条約が採択され、わが国も平成19(2007)年に署名した。現在、批准のために同条約の趣旨を反映した法制度の整備が求められている。
障害者権利条約が謳うインクルージョンは、障害者が社会の中で当然に存在し、障害の有無にかかわらず誰もが排除、分離、隔離されずに共に生きていく社会こそが自然な姿であり、誰にとっても生きやすい社会であるとの考え方を基本としている。
そして、それは、障害による不利益の責任が個人や家族に帰せられることなく、障害に基づく様々な不利益が障害者に偏在している不平等を解消し、平等な社会を実現することを求めるものである。
とりわけ人生の長期にわたって施設、精神科病院等に入所、入院している障害者が多数存在している現状を直視し、地域社会において、自己決定が尊重された普通の暮らしが営めるよう支援し、地域生活への移行を推進するための総合的な取り組みを推進することが強く求められる。
そのうえで、障害者の自立が、経済面に限らず、誰もが主体性をもって生き生きと生活し社会に参加することを意味するものであり、また、この国のあるべき共生社会の姿として、障害者が必要な支援を活用しながら地域で自立した生活を営み、生涯を通じて固有の尊厳が尊重されるよう、その社会生活を支援することが求められていることを国の法制度において確認されるべきである。
この法律は、これらの基本的な考え方に基づき、障害の種別、軽重に関わらず、尊厳のある生存、移動の自由、コミュニケーション、就労等の支援を保障し、障害者が、障害のない人と平等に社会生活上の権利が行使できるために、また、あらゆる障害者が制度の谷間にこぼれ落ちることがないように、必要な支援を法的権利として総合的に保障し、さらに、差異と多様性が尊重され、誰もが排除されず、それぞれをありのままに人として認め合う共生社会の実現をめざして制定されるものである。
【表題】法の名称
【結論】
○ この法律は『障害者総合福祉法』と称する。
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【説明】
「障害者総合福祉法」という名称は、すでに、障害者や関係者の中で一定の共通理解の下で使われ、定着してきた。平成22(2010)年6月29日の閣議決定でも「仮称」付きではあるがこの名称の法律を平成24(2012)年の国会で制定するとされている。したがって、この名称を使用すべきである。
なお、法の名称について、作業チーム報告では「障害者の社会生活の支援を権利とし総合的に保障する法律」という案が示されている。これは、社会福祉分野の法律であるか否かがわかりにくいという難点はあるが、恩恵的な意味で理解される恐れのある「福祉」の用語を避け「社会生活」「権利の保障」「総合的」などを用いて新法の性格を示したものであり、新法の制定と実施にあたっては、この視点にも留意すべきである。
【表題】法の目的
【結論】
○ この法律の目的として、以下の内容を盛り込むべきである。
・ この法律が、憲法第13条、第14条、第22条、第25条等の基本的人権や改正された障害者基本法等に基づき、全ての障害者が、等しく基本的人権を享有する個人として尊重され、他の者との平等が保障されるものであるとの理念に立脚するものであること。
・ この法律が、障害者の基本的人権の行使やその自立及び社会参加の支援のための施策に関し、どこで誰と生活するかについての選択の機会が保障され、あらゆる分野の活動に参加する機会が保障されるために必要な支援を受けることを障害者の基本的権利として、障害の種類、軽重、年齢等に関わりなく保障するものであること。
・ 国及び地方公共団体が、障害に基づく社会的不利益を解消すべき責務を負うことを明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加に必要な支援のための施策を定め、その施策を総合的かつ計画的に実施すべき義務を負っていること。
・ これらにより、この法律が、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するものであること。
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【説明】
今回、障害者自立支援法にかわる新たな法律を必要とするに至った大きな要因は、障害者権利条約の批准に当たって障害者自立支援法を抜本的に改革する必要があること及び障害者自立支援法違憲訴訟原告らと厚生労働省との間に障害者自立支援法の廃止を含む基本合意文書が成立したことに存する。
まず、障害者自立支援法違憲訴訟原告らと厚生労働省との間で交わされた基本合意文書の一項では、障害者自立支援法を廃止することを前提に、新たな総合的な福祉法制においては、「障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」とされている。
日本国憲法13条の幸福追求権及び22条の居住・移転の自由は、支援選択権を保障すると解すべきであり、25条の生存権は、地域間格差を是正するナショナルミニマムとしての支援請求権を保障するものであるので、以上の合意の趣旨を踏まえ、目的条項において、憲法の基本的人権に関する規定を盛り込むことは必須と考えた。
また、障害者総合福祉法に関連する障害者権利条約の中心的課題は、同条約第19条の
a項 障害者が、他の者と平等に、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の居住施設で生活する義務を負わないこと。
b項 地域社会における生活及び地域社会への受入れを支援し、並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援 [personal assistance]を含む。)を障害者が利用することができること。
c項 一般住民向けの地域社会サービス及び施設が、障害者にとって他の者と平等に利用可能であり、かつ、障害者のニーズに対応していること。
である。
作業チーム報告では、そのことを、支援選択権と支援請求権と表現している。同条約19条a項の「どこで誰と暮らすかの選択権」は、b項の「必要な支援を請求する権利」が無ければ成立しないだけでなく、c項の「一般市民と平等の選択肢」が無ければ、特定の生活様式以外の選択肢が成立しないからである。
さらに、同条約のこの趣旨に基づき「障害者制度改革の推進のための基本的な方向」(第一次意見)においては「地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築」が大きな課題とされ、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(閣議決定)においては「地域生活の実現とインクルーシブな社会の構築」なかで「障害者が自ら選択する地域への移行支援や移行後の生活支援の充実、及び平等な社会参加、参画を柱に据えた施策の展開」が求められている。
とくに、これらの制度改革推進の中で改正された障害者基本法を踏まえる必要がある。
まず、同法第1条は、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生することができる社会の実現を目的としている。このことは、障害者総合福祉法の目的においても基調に据えなければならない。
また、同法第3条が、あらゆる分野の活動に参加する機会の確保やどこで誰と生活するかについての選択の機会の確保等を規定していることに鑑みると、上記目的においてこれらを明記することは必須であり、それらの機会が保障されるために必要な支援を受けることを障害者の基本的権利とするとともに、支援の選択権と支援の請求権を財政面で裏付ける公的な責務・保障として「国及び地方公共団体等の責務を明らかに」する規定を盛り込む必要がある。
なお、必要な支援を受けることを障害者の基本的権利とした規定は、たとえばカリフォルニア州の発達障害者支援サービスがエンタイトルメント(支援サービス選択・請求権)であるとされていることを踏まえて規定している。
すなわち、「地域支援センターの適格基準に合致するすべての障害者に、その本人支援計画の目標に見合った支援サービスを提供しなければならないことを意味する。法的に、待機者リストはあってはならず、もしそのサービスが無ければ、それは創出されねばならない。」(Federal
funding in California’s DSS ARCA March 2011 p.54)
つまりは、法に該当する障害者本人が選択した希望・目標に見合った支援サービスを提供することが、待機リストに入れられることなく、義務づけられていることが、エンタイトルメント(支援サービス選択・受給権)ということになる。そのことも踏まえて、「・・どこで誰と生活するかについての選択の機会が保障され、あらゆる分野の活動に参加する機会が保障されること・・」という表記とした。
さらに、谷間の障害者をなくすことについては、本総合福祉部会の総意であることは論を待たないところであるので、障害の種類、軽重、年齢等に関わりなくという文言に、その趣旨を込めている。
これは、法の下の平等を実現するためにとりわけ重要な要素であり、上記の障害の種類、軽重、年齢等の等には、入院中、入所中、刑事施設、入管施設、その他の施設も含まれる。
なお、これまで谷間におかれてきた障害者は制度から除外されてきたために必要な支援内容の開発が十分ではない。
そのため、発達障害、高次脳機能障害、難病、軽度知的障害等のある人たちのニーズを当事者参画のもとで明らかにし、必要な人が必要な支援を得られるようにサービス内容の拡充を行う必要がある。
【表題】法の理念
【結論】
○ 以下の基本的視点を理念規定に盛り込むべきである。
・ 保護の対象から権利の主体への転換を確認する旨の規定
・ 医学モデルから社会モデルへの障害概念の転換を確認する旨の規定
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【説明】
従来、障害者は、障害者施策の対象、保護の対象とされ、当事者としては扱われない面があった。しかし、この法律においては、障害者が権利の主体であり、当事者であることを明確にする必要性がある。また、障害の本質とは、機能障害や疾病を有する市民の様々な社会への参加を妨げている社会的障壁にほかならないことをここに確認し、機能障害や疾病をもつ市民を排除しないようにする義務が社会、公共にあることが今後の障害者福祉、支援の基本理念であることをここに確認する必要がある。
なお、このことは、障害者の支援を自己責任・家族責任として、これまで一貫して採用されてきた政策の基本スタンスを、社会的・公的な責任に切り替えるということを意味することを確認するものである。
医学モデルの視点からいえば、障害者の問題は、障害者自身が自己責任により訓練と努力で克服するべきものということになるが、かかる古い考え方から脱却し、むしろ、障害者の社会参加を排除して、適切な支援を実施しない社会の側が障害の原因であるという社会モデルへの転換を明確化しない限り、この国の障害者施策のあり方は旧態依然として変わらない。なお、社会モデルは、障害概念の転換を示すものであり、治療やリハビリテーションそのものを否定するものではない。
身体障害児・者実態調査や知的障害児者基礎調査等によれば、社会的支援が進んできた今日においてもなお、障害者の介助・支援のほとんどを家族が担っているという事態に大きな変化は見られない。介護保険制度の制定過程でも「介護の社会化」が目標とされたが、いまだ実現の見通しは立っていない。
障害者総合福祉法は、すべての人が尊重され、安心でき、そうした尊重と安心を与えてくれる社会のために自ら参加し・貢献しようという気持ちを育てる法律であり、また家族責任から社会責任への転換、家族依存からの脱却を図る法律である。
【表題】地域で自立した生活を営む基本的権利
【結論】
○ 地域で自立した生活を営む権利として、以下の諸権利を障害者総合福祉法において確認すべきである。
1. 障害ゆえに命の危険にさらされない権利を有し、そのための支援を受ける権利が保障される旨の規定。
2. 障害者は、必要とする支援を受けながら、意思(自己)決定を行う権利が保障される旨の規定。
3. 障害者は、自らの意思に基づきどこで誰と住むかを決める権利、どのように暮らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利を有し、そのための支援を受ける権利が保障される旨の規定。
4. 障害者は、自ら選択する言語(手話等の非音声言語を含む)及び自ら選択するコミュニケーション手段を使用して、市民として平等に生活を営む権利を有し、そのための情報・コミュニケーション支援を受ける権利が保障される旨の規定。
5. 障害者は、自らの意思で移動する権利を有し、そのための外出介助、ガイドヘルパー等の支援を受ける権利が保障される旨の規定。
6. 以上の支援を受ける権利は、障害者の個別の事情に最も相応しい内容でなければならない旨の規定。
7. 国及び地方公共団体は、これらの施策実施の義務を負う旨の規定。
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【説明】
以上は、前記の法の目的で確認された中核的権利を確認するものである。
とりわけ、障害者の完全参加を実現するためには、一人ひとりの支援を必要とする個別事情に沿ったものである必要があり、障害者総合福祉法の支援のあり方も、個別事情にふさわしいものであることが必要であるという障害者支援の基本的なあり方を規定することが重要である。
そのためには、障害者の意思(自己)決定にあたり、自己の意思決定過程において十分な情報提供を含む必要とする支援を受け、かつ他からの不当な影響を受けることなく自らの意思に基づく選択にしたがって行われるべきである。
また、情報・コミュニケーションの保障は到底裁量的に実施されれば足るようなものでなく、民主社会を成立させる前提としての基本的人権保障としての意義があることを明記しておかなくては、障害者権利条約において、「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいうとされ、障害者基本法においても、言語に非音声言語である手話が含まれると確認された意義なども没却される。
さらに、障害者自立支援法は移動支援を裁量的事業と位置付けたが、移動の自由の保障は基本的人権に基づく重要な施策であることは判例等でも確認されていることであり、障害者総合福祉法でしっかり明記することが肝要である。
【表題】国の義務
【結論】
○ 国の義務として、以下の規定を設けるべきである。
1. 国は、障害の有無、種別、軽重等に関わらず障害者がどの地域に居住しても等しく安心して生活することができる権利を保障する義務を有すること。
2. 国は、障害種別や程度による制度の谷間や空白及び制度上の格差が生じないように制度設計を行う責務を有すること。
3. 国は、地域間に支援の格差が発生することを防止し、又は発生した格差を解消することができる制度設計を行う責務を有するとともに、市町村への支援施策に関し必要な財政上の措置を行うこと。
4. 国は、都道府県と共に、市町村が実施する支援施策の実態を把握し、障害者総合福祉法の基本的権利に基づいて、それが実施されるように、広くその実施状況を国民に明らかにし、同法の実施を監視し、推し進める責務を有すること。
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【説明】
憲法に示された基本的人権を保障する義務は第一義的には、国にあることから、障害者支援の最終責任は国にあることを確認した上で、障害種別による制度の谷間、制度上の格差の防止に関する義務、地域間格差の防止と財政的支援等の諸支援、実施状況に関する監視や情報開示等について、規定を設ける必要がある。
また、国は、障害者が地域で自立した生活を営む権利をもつことを、障害者を含む国民に広く周知しなければならない。
【表題】都道府県の義務
【結論】
○ 都道府県の義務として、以下の規定を設けるべきである。
1. 市町村の行う支援施策の実態を把握すると共に、障害者総合福祉法の基本的権利に基づいて、それが実施されるように、広くその実施状況を都道府県民に明らかにし、同法の実施を推し進めること。
2. 市町村の支援施策に対して、必要な財政的補助を行うこと。その際、特定の市町村に集中する実態等があればそのことを勘案すること。
3. 市町村の支給決定に対してなされる不服申し立てを受理し、障害者総合福祉法の基本的権利に基づいて審査する等、必要な措置を講じること。
4. 市町村と連携を図りつつ、相談支援体制の整備及び広域でなければ実施が困難な支援を行うこと。
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【説明】
都道府県については、特に市町村間の格差是正に向け施策の実施状況に関する情報公開と財政的補助を障害者総合福祉法の基本的権利をふまえて行うと共に、不服申し立てに関する責務があることを明記した。
【表題】市町村の義務
【結論】
○ 市町村の義務として、以下の規定を設けるべきである。
1. 障害者総合福祉法の基本的権利に基づいて、当該市町村の区域における障害者の生活の現状及び障害者がどこで誰と生活し、どのような分野で社会参加を希望・選択するかなどを把握した上で、関係機関との緊密な連携を図りつつ、必要な支援施策を総合的かつ計画的に実施すること。
2. 障害者総合福祉法の基本的権利に基づいて、障害者の支援施策の提供に関し、必要な情報の提供及び適切な説明を尽くし、並びに相談に応じ、必要な調査及び指導を行うと共に、そのサービス利用計画等を勘案して必要な支援施策を提供すること。
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【説明】
市町村については、障害者総合福祉法で明記された基本的権利としての「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されることを前提とした義務を規定した。また、公的支援からこぼれる人をなくす上で、行政の説明責任が重要であることに鑑み、これも明記した。
【表題】基盤整備義務
【結論】
○ 国及び地方公共団体は、支援を実施する事業者が地域に偏在しないよう事業者への財政援助、育成を含めた基盤整備義務を有する。
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【説明】
原則として契約制度により実施されている障害者施策において、地域で暮らす権利が保障される前提条件は、支援を実施する事業者が地域に十分に存在していることであり、地域での自立生活の保障をいくら謳ったところで、当該地域に事業所が存在しなければ絵に描いた餅である。本来障害者福祉施策の履行責任者は国及び地方公共団体であることから、事業所任せは許されず、基盤整備義務を規定しておくことは絶対不可欠である。
【表題】国民の責務
【結論】
○ すべての国民は、その障害の有無にかかわらず、相互にその人格と個性を尊重しあいながら共生することのできる社会の実現に協力するものとする。
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【説明】
国民の責務については、障害者権利条約のインクルーシブ社会の構築の理念を踏まえたものとして規定した。
【表題】介護保険との関係
【結論】
○ 障害者総合福祉法は、障害者が等しく基本的人権を享有する個人として、障害の種別と程度に関わりなく日常生活及び社会生活において障害者のニーズに基づく必要な支援を保障するものであり、介護保険法とはおのずと法の目的や性格を異にするものである。この違いを踏まえ、それぞれが別個の法体系として制度設計されるべきである。
○ 介護保険対象年齢になった後でも、従来から受けていた支援を原則として継続して受けることができるものとする。
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【説明】
障害者自立支援法は介護保険と障害者福祉の統合を予定して策定され、そのために応益負担、障害程度区分、日額制、常勤換算等が障害者福祉に持ち込まれた。その結果、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけることとなり、この反省から政府は障害者自立支援法の廃止と新たな総合的な福祉法制の実施を約束した。憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものとして新たな総合的な福祉法制を策定することになった。
こうした経過から、障害者自立支援法訴訟原告団との基本合意文書では、「新たな福祉制度の構築に当たっては、現行の介護保険制度との統合を前提とはせず」とされている。これらを前提としつつ、さらに、国民的な議論によってそれらの本来のあり方を、今後検討する必要がある。
なお、障害者が介護保険対象年齢となった後であっても、それまでの障害者の地域生活の継続が保障されなければならない。また、介護保険が適用される40歳以上の特定疾病をもつ者については、本人が希望する場合には、障害者福祉による支援が利用可能となるようにすべきである。現行の介護保険優先原則を見直し、障害者総合福祉法のサービスと介護保険のサービスを選択・併用できるようにすることも視野に含め、今後さらに検討を進めることが期待される。
もっとも、これは若いときからの障害者の特性を重視し、生活の継続性の確保をすることを主眼においた提言であるが、一方では65歳以上で要介護状態となった高齢者にも平等な選択権が保障されるべきであるとの意見もあることから、更に慎重な議論が必要である。
具体的な運用面では、まず、障害者自立支援法の重度訪問介護や行動援護等は介護保険には「相当する」サービスがないことは明確であり、継続的に利用できるようにすべきである。
次に、障害者自立支援法では、介護保険対象者になると訪問系サービスの国庫負担基準が低くなるように設定されており、市町村に財政的な負荷が増えるため、従前のサービス量確保に困難をきたすことから、従前のサービス量を確保できるよう、その仕組みの廃止を検討すべきである。
さらに、障害者自立支援法の下では、施設入所支援と生活介護の利用者は原則的に介護保険の被保険者になれない制度となっているが、こうした人たちも地域移行などに際して希望すれば介護保険サービスを選択・併用できるようにすることを検討すべきである。退所しないと被保険者になれず要介護認定も受けられないため、移行計画が作成されている場合、要介護認定を受けられるようにすべきである。
T−2 障害(者)の範囲
【表題】法の対象規定
【結論】
○ 障害者総合福祉法が対象とする障害者(障害児を含む)は、障害者基本法第二条第一項に規定する障害者をいう。
障害者基本法(平成23年8月5日公布)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
二 社会的障壁 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
○ 上記の定義における心身の機能の障害には、慢性疾患に伴う機能障害を含むものとする。
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【説明】
(1)「谷間」を生まない包括的規定について
これまでの国際的、国内的確認を踏まえれば、支援を必要としている全ての障害者をもれなく支援の対象とするべきことは、全ての関係者で共有されている。また、年齢の規定を設けることによって支援の対象から排除されることのないように、障害者の定義に障害児を含むことを明記した。
(2)「心身の機能の障害」について
改正された障害者基本法の障害は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害が含まれることから、包括的な規定となっている。
もっとも、本件を検討した作業チーム報告は、障害者を「身体的または精神的な機能障害(慢性疾患に伴う機能障害を含む)を有する者と、この者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により、日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいう」とまとめている。これは、特定の障害名に着目し例示列挙した場合に、例示列挙されない障害が除外される危険性があることを考慮し、包括的な規定とするべきであるという趣旨である。
これは必ずしも障害者基本法の規定ぶりと矛盾するものではないので、法律で使われる文言を本骨格提言においても障害者基本法の定義との整合性を図る観点から採用した。
なお、障害者基本法の「機能の障害」は、世界保健機構(WHO)の「機能障害」であり、この概念については、国際障害分類(ICIDH 昭和55(1980)年)において「機能障害(impairments)」は「心理的、生理的又は解剖的な構造又は機能のなんらかの喪失又は異常である」と規定されており、国際生活機能分類(ICF 平成13(2001)年)においても「著しい変異や喪失などといった、心身機能または身体構造上の問題」として、その網羅的な分類項目も示されている。
また、障害者権利条約においても「障害(disability)」や障害者の概念を整理する要素として「機能障害(impairments)」が使われており、世界的にも公知のものとなっている。
(3)慢性疾患に伴う機能障害について
障害者基本法の改正審議においては、上記の障害者基本法の「障害」に、難病に起因する機能障害が含まれることや「継続的に」は断続的なもの、周期的なものが含まれることが確認されている。ただし、障害者基本法には「その他の心身の機能の障害」に慢性疾患に伴う機能障害を含めることが明示されてはいないため、それを明らかにするために文言を加えることとした。
難病等の慢性疾患に罹患した者は、疾患に対する医療的サービスとともに、生活の支障に対する福祉サービスの両方が必要となる場合が多い。しかし難病等で症状が変動する場合には「障害」と認定されず生活支援から除外されるのが一般的である。この現状に照らせば、慢性疾患による機能障害の存在を明らかにする必要があるため、この文言を注意的に規定した。
(4)障害及び社会的障壁による制限について
障害者基本法では、障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者も障害者としており、社会的障壁には、障害者の日常生活又は社会生活で障壁となるもの全般が含まれる。
従来の福祉サービスの提供は機能障害を中心に提供されてきたが、障害者総合福祉法において、社会的障壁を定義に取り込むことにより、この障壁を除去するという観点から必要な支援が提供されることが求められることになる。改めて、この意義が確認されなければならない。
T−3 選択と決定(支給決定)
【表題】支給決定の在り方
【結論】
○ 新たな支給決定にあたっての基本的な在り方は、以下のとおりとする。
1. 支援を必要とする障害者本人(及び家族)の意向やその人が望む暮らし方を最大限尊重することを基本とすること。
2. 他の者との平等を基礎として、当該個人の個別事情に即した必要十分な支給量が保障されること。
3. 支援ガイドラインは一定程度の標準化が図られ、透明性があること。
4. 申請から決定まで分かりやすく、スムーズなものであること
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【説明】
支給決定は、他の者との平等を基礎とし、障害者の意向や望む暮らしが実現できるよう必要な支援の種類と量を確保するためのものであり、上記事項を基本として行われなければならない。
特に、申請から決定まで分かりやすくスムーズなものにするためには、支給決定プロセス全体についても一定の共通事項をルール化し、公平性や透明性を担保することが大切である。
また、必要書類や分かりやすい解説書を市町村役所等、誰もが手にしやすい場所に置き、求めに応じて十分な説明をするなど、新しい支給決定の仕組みについての周知を図ることが求められる。
さらに、支給決定のプロセスにおいても、障害者の希望に応じてコミュニケーション支援を提供することが求められる。
【表題】支給決定のしくみ
【結論】
○ 支給決定のプロセスは、原則として、以下のとおりとする。
1. 障害者総合福祉法上の支援を求める者(法定代理人も含む)は、本人が求める支援に関するサービス利用計画を策定し、市町村に申請を行う。
2. 市町村は、支援を求める者に「障害」があることを確認する。
3. 市町村は、本人が策定したサービス利用計画について、市町村の支援ガイドラインに基づき、ニーズアセスメントを行う。
4. 本人又は市町村により、申請の内容が支援ガイドラインの水準に適合しないと判断した場合には、市町村が本人(支援者を含む)と協議調整を行い、その内容にしたがって、支給決定をする。
5.4の協議調整が整わない場合、市町村(または圏域)に設置された第三者機関としての合議機関において検討し、市町村は、その結果を受けて支給決定を行う。
6. 市町村の支給決定に不服がある場合、申請をした者は都道府県等に不服申立てができるものとする。
○ 支給決定について試行事業を実施し、その検証結果を踏まえ、導入をはかるものとする。
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【説明】
新たな仕組みにおいては、障害程度区分は使わずに支給決定をする。障害者自立支援法の一次審査で用いられる障害程度区分認定調査項目の106項目は、特に知的障害、精神障害については一次判定から二次判定の変更率が4割から5割以上であり、かつ地域による格差も大きいことから、障害種別を超えた支給決定の客観的指標とするのには問題が大きい。
新たな支給決定の仕組みが機能するための前提としては、当事者によるエンパワメント支援事業の充実や相談支援事業の充実、さらには市町村におけるニーズアセスメント能力の向上が図られなければならない。特に、支援ニーズを的確に伝えることが困難な人のニーズをくみ取るためには、日常的にかかわりのある支援者等がコミュニケーション支援するなどし、本人の意思や希望が確認されなければならない。
市町村においては、支給決定にかかわる職員等のニーズアセスメント能力の向上に向けて、一定の研修及び仕事をしながら教育を受ける職場内訓練(OJT)を充実することも必要である。
【表題】サービス利用計画
【結論】
○ サービス利用計画とは、障害者総合福祉法上の支援を希望する者が、その求める支援の内容と量の計画を作成し、市町村に提出されるものをいう。なお、そのサービス利用計画の作成にあたり、障害者が希望する場合には、相談支援専門員等の支援を受けることができる。
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【説明】
サービス利用計画は、障害者総合福祉法による支援等を利用するにあたって、市町村に提出する必要な支援の内容と量を示すものである。障害者がどの支援をどの程度利用したいのか、本人のニーズに基づいて利用希望を明らかにするものである。サービス利用計画は、本人自身が策定する(セルフマネジメント)こともできるが、本人が希望する場合には相談支援専門員とともに策定することもできる。また、本人を中心に、家族や本人が信頼する日常的な支援者、契約行為等を締結する際の支援者を加えて相談支援専門員とともに策定することもできる。
なお、サービス利用計画は、障害者総合福祉法による支援の利用の申請と同時に、又はニーズアセスメントが行われるまでに提出する。サービス利用計画が未提出であることをもって、市町村は申請を却下することはしない。
【表題】「障害」の確認
【結論】
○ 市町村は、「心身の機能の障害」があることを示す証明書によって法律の対象となる障害者であるか否かの確認を行う。証明書は、障害者手帳、医師の診断書、もしくは意見書、その他、障害特性に関して専門的な知識を有する専門職の意見書を含むものとする。
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【説明】
障害者総合福祉法に基づく支援は、障害者手帳の有無にかかわらず、支援を必要とする障害者に対して提供される。
機能障害を示す具体的資料としては、障害者手帳があればそれで足りるが、まず、医師の診断書の利用が考えられる。医師の診断書は、機能障害の存在を示す資料として、公正性が担保される点で優れているが、他方で、発達障害、高次脳機能障害、難病等、医師の診断書が得にくい場合も考えられる。
医師の診断書が得られにくい場合に対処する方策としては、以下の2つがある。
@
医師の診断書に限定せず、意見書でもよいものとする。
A 「機能障害」の存在を判断する者を医師のみとせず、その他障害特性に関して専門的な知識を有する専門職の意見書でもよいとする。
なお、精神疾患又は難治性疾患については、生活上の制限を生み出すことから、その診断書等の文書をもって上記の機能障害の証明書に代えることができる。
また、市町村によって格差が生じないように、国際生活機能分類(ICF)の「心身機能・身体構造」を参考にしつつ機能障害を例示列記するなど、市町村、利用者(障害者)、医師その他の専門職に対して包括的な規定の内容を明らかにすることも検討すべきである。
【表題】支援ガイドライン
【結論】
○ 国及び市町村は、障害者の地域生活の権利の実現をはかるため、以下の基本的視点に基づいて、支援ガイドラインを策定するものとする。
1. 国は、障害者等の参画の下に「地域で暮らす他の者との平等を基礎として生活することを可能とする支援の水準」を支給決定のガイドラインのモデルとして策定すること。
2. 国及び市町村のガイドラインは、障害の種類や程度に偏ることなく、本人の意思や社会参加する上での困難等がもれなく考慮されること。
3. 市町村は、国が示すガイドラインのモデルを最低ラインとして、策定すること。
4. 市町村のガイドラインは、障害者等が参画して策定するものとし、公開とすること。また、適切な時期で見直すものとすること。
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【説明】
ガイドラインは、障害者が住み慣れた地域で生活していくために必要な支援の必要度を明らかにすると共に、その人の生活を支援する支援計画を作成する過程において、何が公費により利用できる福祉サービスであるかを明らかにすることを目的に作られるものである。
また、ガイドラインで示す支給水準は、障害者権利条約に規定されている障害者の「他のものとの平等」や「地域生活の実現」を基本原則にするべきである。この基本原則に基づき、障害者の支援の必要度を類型化し、類型ごとの標準ケアプランに基づく支給水準を示すべきである。
また、類型化にあたっては、長時間介助、見守り支援、複数介助、移動支援等の必要性を含めて検討されるべきである。
市町村は国のガイドラインのモデルを最低ラインとして、ガイドラインを策定する。
策定にあたっては、当事者(障害者、家族及びその関係団体等)と行政、相談支援事業者、サービス提供事業者等の関係者が参画し、地域のその時点での地域生活の水準を踏まえて協議しなければならない。
この策定過程を通して、当事者、行政、事業者の協働が生まれることが期待される。
なお、地域生活をする重度障害者が少なく当事者の声が出にくい地域などでは、格差が広がるリスクも懸念される。そのため、国がガイドラインのモデルを示し、自治体ごとにその指針内容を最低ラインとして、独自のガイドラインを策定するものとする。市町村のガイドラインは、現在の支給決定の際に自治体で用いられている「要綱」等とは異なることから、適切に作成されるように国が助言すべきである。さらに、財政面から国基準をそのまま引用することがないようにするため、国がモデルとして策定したガイドラインの水準を超えて、市町村が必要に応じた支給決定ができる財源的な保障が必要となる。
さらに、国及び都道府県は、各市町村のガイドラインとそれに適合しない事例にかかわる情報を集約して、国のモデルガイドラインの見直しに反映させるとともに、その情報を自治体やその合議機関等に提供し、各市町村におけるガイドラインの作成や見直し、さらには支給決定事務の参考に資するように努めなければならない。
【表題】協議調整
【結論】
○ 障害者又は市町村において、サービス利用計画がガイドラインに示された水準やサービス内容に適合しないと判断した場合、市町村は、障害者(及び支援者)と協議調整を行い、これに基づいて支給決定する。
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【説明】
協議調整による支給決定は、ガイドラインで示される水準やサービス内容に当てはまらない事例(類型を超える時間数等が申請された場合)について、個別の生活実態に基づいて本人と市町村間で行われるものをいう。
【表題】合議機関の設置と機能
【結論】
○ 市町村は、前記の協議が整わない場合に備え、第三者機関として、当事者相談員、相談支援専門員、地域の社会資源や障害者の状況をよく知る者等を構成員とする合議機関を設置する。
○ 合議機関は、本人のサービス利用計画に基づき、その支援の必要性を検討するとともに、支援の内容、支給量等について判断するものとする。
○ 障害者が希望する場合には、合議機関で意見陳述の機会が設けられる。
○ 市町村は、合議機関での判断を尊重しなければならない。
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【説明】
障害者と市町村の協議において調整がつかない場合は、市町村に設置された合議機関において検討し、その結果を受けて、市町村が支給決定を行うことができるものとする。
合議機関では、障害特性や障害福祉サービス等の必要性をより適切に支給決定に反映するため、本人の状況について必要な情報をもとに個別事例についての検討を行う。障害者が希望する場合には、どのような支援をどの程度必要であるのか、合議機関で意見を述べる機会が設けられる。
ある合議機関での判断に不服がある場合には、他の合議機関で再調整ができる仕組みとすべきである。また、合議機関の構成員は、第三者として公平中立な役割を担うことができる人物とすべきである。
【表題】不服申立
【結論】
○ 市町村は支給決定に関する異議申立の仕組みを整備するとともに、都道府県は、市町村の支給決定に関して、実効性のある不服審査が行えるようにする。
○ 不服申立は、手続き及び内容判断の是非について審議されるものとし、本人の出席、意見陳述及び反論の機会が与えられるものとする。
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【説明】
支給決定は、一連のプロセスに基づいた行政処分であるが、本人がその決定に不服がある場合には、極めて簡便に不服申立ができる仕組みが求められる。市町村への異議申立や都道府県への不服申立の手続きのハードルを低くするため、相談支援機関に不服審査の支援等を求めることができるようにすべきである。
国は、支給決定にかかわる決定処分取り消しに止まらず、申請に対する一定の処分をすることを都道府県が市町村に義務付けることができる仕組みを検討すべきである。
T−4 支援(サービス)体系
【表題】支援体系
【結論】
○ 障害者の支援体系は以下の通りとする。
A.全国共通の仕組みで提供される支援
1.就労支援
2.日中活動等支援
3.居住支援
4.施設入所支援
5.個別生活支援
6.コミュニケーション支援及び通訳・介助支援
7.補装具・日常生活用具
8.相談支援
9.権利擁護
B.地域の実情に応じて提供される支援
市町村独自支援
・福祉ホーム
・居住サポート
・その他(支給決定プロセスを経ずに柔軟に利用できる支援等)
C.支援体系を機能させるために必要な事項
1.医療的ケアの拡充
2.日中活動の場等における定員の緩和等
3.日中活動の場への通所保障
4.グループホームでの生活を支える仕組み
5.グループホーム等、暮らしの場の設置促進
6.一般住宅やグループホームへの家賃補助
7.他分野との役割分担・財源調整
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【説明】
障害者総合福祉法の支援体系について、障害者権利条約を踏まえ、障害者本人を主体(自律・自己決定)として、地域生活が可能(施設・病院から地域自立生活への移行を含む)となるような支援体系として構築する必要がある。
また、障害者自立支援法の「介護給付」「訓練等給付」「地域生活支援事業」といった体系は、介護保険との整合性を意識した制度構築の結果であり、さらには、「介護給付」という名称も、そのニーズと支援実態を適切に表しているとは言い難い上に、介護保険の「介護保険給付」との混同も生みかねない。また、障害程度区分は介護給付の利用に対してのみ適用されているが、障害程度区分の廃止に伴い「介護給付」と「訓練等給付」に分ける必要性はなくなる。
A.「全国共通の仕組みで提供される支援」
「全国共通の仕組みで提供される支援」については国庫負担基準を廃止し、市町村が支援の提供に要した実際の費用に対して国・都道府県・市町村が負担する負担金事業とする。さらに、長時間(一日8時間を超える)介助サービスに関しては、市町村の負担を軽減する仕組みを設け、全国どこでも必要な支援が得られるようにする。
B.「地域の実情に応じて提供される支援」
障害者自立支援法に基づく地域生活支援事業のように、市町村の創意工夫と裁量で実施が可能となる支援の仕組みは残しておく必要がある。しかし、大きな地域格差が出ている現状から、全ての自治体で一定水準の事業ができるような財政面を含めた新たな仕組みが必要であり、名称も「地域生活支援事業」ではなく「市町村独自支援」とする。
A.全国共通の仕組みで提供される支援
1.就労支援
【表題】就労支援の仕組みの障害者総合福祉法における位置づけ
【結論】
○ 障害のある人への就労支援の仕組みとして、「障害者就労センター」と「デイアクティビティセンター(仮称、以下同様)」(作業活動支援部門)を創設する。
○ 社会的雇用等多様な働き方についての試行事業(パイロット・スタディ)を実施し、障害者総合福祉法施行後3年をめどにこれを検証する。その結果を踏まえ障害者の就労支援の仕組みについて、関係者と十分に協議しつつ所管部局のあり方も含め検討する。
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【説明】
現行の障害者自立支援法等により制度化されている、就労移行支援事業・就労継続支援A型及びB型事業・生産活動に取組む生活介護事業・地域活動支援センター・小規模作業所等を、障害者総合福祉法では「障害者就労センター」と「デイアクティビティセンター(作業活動支援部門)」として再編成する。障害者総合福祉法の支援体系への移行には、十分な経過措置期間を設ける。これらの対象者については、障害者本人のニーズを基本に、本人にとって最も適切な支援を選択・決定できるよう、必要な支援を行う。なお、現行の就労移行支援事業についてはその成果と課題を検証した上で、一般就労への支援のあり方について関係者の意見を十分に踏まえつつ検討する。
「障害者就労センター」は障害者が必要な支援を受けながら働く場であり、障害者総合福祉法の下で実施することとし、そこで就労する障害者には、一人ひとりの労働実態等に応じて労働法を全面適用または部分適用する。官公需や民需の安定確保の仕組みの構築や同センターの経営基盤の強化、ならびに賃金補填の制度化などにより、そこで就労する障害者に最低賃金以上を確保することを目指す。
また、同センターで就労する障害者のうち、一般就労・自営を希望する者については、ハローワーク等の労働関係機関と密接に協力・連携し、一般就労・自営への移行支援および移行後のフォローアップ支援を積極的に行う。利用期間には、期限を設けない。また、利用料の徴収はしない。なお、障害者就労センターの創設に当たっては、労働法を適用することが適切ではない人が働く場を失うことのないよう十分な配慮を行う。
デイアクティビティセンターにおける作業活動支援部門は就労支援の場であるので、利用者に工賃を支払うものとする。作業活動による収入を高めるため、「障害者就労センター」と同様の事業振興策の構築を行うこととし、労働者災害補償保険法にかわる保障制度の確立を検討する。就労を主目的とした場ではないため、労働法の適用はない。利用者の生活費は、基本的には障害基礎年金や障害者手当等の所得保障制度でカバーする。
また、同センター(作業活動支援部門)を利用する障害者のうち、一般就労・自営、あるいは、「障害者就労センター」への移行を希望する者については、その移行支援および移行後のフォローアップ支援を積極的に行う。「障害者就労センター」同様、利用期間の期限はなく、利用料も徴収しない。
なお、障害者就労センターへの官公需や民需の安定確保の仕組みの構築や同センターの経営基盤の強化等により、工賃の増額を図る。あわせて、就労合同作業チーム報告書で提案している「試行事業(パイロット・スタディ)」に関しては、その内容及び方法等について、本骨格提言とりまとめ後に関係者の意見を踏まえて検討した上で実施し、障害者総合福祉法施行後3年をめどに、就労分野での人的支援・仕事の確保・賃金補填のあり方等について検証する。その結果を踏まえ、障害者の就労支援の仕組みを見直しつつ、賃金補填の制度化についても検討する。見直しにあたっては、関係者の意見を十分に踏まえつつ、障害者の就労支援に係る担当部局のあり方についても検討する。
2.日中活動等支援
【表題】@デイアクティビティセンター
【結論】
○ デイアクティビティセンターを創設する。
○ デイアクティビティセンターでは、作業活動支援、文化・創作活動支援、自立支援(生活訓練・機能訓練)、社会参加支援、居場所機能等の多様な社会参加活動を展開する。
○ 医療的ケアを必要とする人等が利用できるような濃厚な支援体制を整備するなど、利用者との信頼関係に基づく支援の質を確保するための必要な措置を講じる。
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【説明】
障害者自立支援法における生活介護や自立訓練、地域活動支援センター等の利用者等の障害者総合福祉法に基づく活動の場として、デイアクティビティセンターを創設し、よりシンプルな支援体系とする。デイアクティビティセンターでは作業活動支援を行うことができるものとする。また、個々人の必要に応じた個別支援計画により、本人が主体的に自己実現と社会参加をすすめる多様で創造的な活動プログラムを展開する。
デイアクティビティセンターの作業活動支援部門は労働法規が適用されない働く場だが、障害者就労センターや一般就労との行き来を可能とし、障害者の就労を支える仕組みの一環にも位置付けられる。
一方、障害者の社会参加のありかたの多様性を認める必要がある。就労せずとも地域の中で自尊心をもって自らの役割を果たしていける環境を確保することが重要であり、文化・創作活動、社会参加や居場所機能などについても、しっかりと日中活動等支援に位置付けることが重要である。
また、支援の質を確保するため、プログラムの標準化・職員配置及び建物設備等の基準の設定を行う。
なお、その際、医療的ケアが必要な人や移動・コミュニケーションへの支援が必要な人の利用を想定した基準を設けることとする。また、自治体はこれらの基準等を踏まえて、同センターを計画的に整備する。
【表題】A日中一時支援、ショートステイ
【結論】
○ 日中一時支援は、全国どこでも使えるようにするため、個別給付にする。
○ ショートステイは、医療的ケアを必要とする人も安心して利用できるよう条件整備をする。
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【説明】
現行の日中一時支援事業は地域生活支援事業の選択事業であり、助成金や報酬が少ないため受託する事業所が少なく、事業を停止する事業者がみられる。事業者がないとの理由で実施していない市町村も多いようである。全国どこでも使えるようにするために、障害者総合福祉法の日中一時支援は従来のショートステイの日中利用のように個別給付とする。
ショートステイは、家族を含む介助者のレスパイトを保障し、社会的入院・入所を生み出さないための重要な事業である。また、現状からの一時避難としての機能を有することに鑑みると、一般の宿泊施設の利用も念頭において整備されるべきである。さらに、ショートステイについても医療的ケアを必要とする人に配慮した条件整備をする。
3.居住支援
【表題】グループホーム・ケアホームの制度
【結論】
○ グループホームとケアホームをグループホームに一本化する。グループホームの定員規模は家庭的な環境として4〜5人を上限規模とすることを原則とし、提供する支援は、住まいと基本的な日常生活上の支援とする。
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【説明】
地域社会で自立生活をすすめるための共同住居(家)という原点に立った制度構築をする。グループホームでの支援は、居住空間の確保、基本的な生活支援、家事支援及び夜間支援とし、一人ひとりに必要なパーソナルな支援については個別生活支援を利用できるようにする。一人ひとりがよりその人らしさを発揮できる状況を生み出し、住民として暮らしていくことが大切である。一方、グループホームは「特定の生活様式を義務づけられない」ためにも、自分で自分の暮らしを選ぶ、選択肢の一つだと考える必要がある。
グループホーム、ケアホームは実態からしてもグループホームで統一すべきである。また、定員規模は、生活の場なので家庭に近い規模にするという観点から4人から5人とし、複数の住居に分かれて住むことを認める。
なお、市町村独自事業の福祉ホームがグループホームへの移行を希望する場合には、移行できるようにする。
4.施設入所支援
【表題】施設入所支援
【結論】
○ 施設入所支援については、短期入所、レスパイトを含むセーフティネットとしての機能の明確化を図るとともに、利用者の生活の質を確保するものとする。
○ 国は、地域移行の促進を図りつつ、施設における支援にかかる給付を行うものとする。
○ 国及び地方公共団体は、施設入所者の地域生活への移行を可能にするための地域資源整備の計画を策定し、地域生活のための社会資源の拡充を推進する。
○ 施設は入所者に対して、地域移行を目標とする個別支援計画を策定することを基本とし、並行して入所者の生活環境の質的向上を進めつつ、意向に沿った支援を行う。また、相談支援機関と連携し、利用者の意向把握と自己決定(支援付き自己決定も含む)が尊重されるようにする。
○ 施設入所支援については、施設入所に至るプロセスの検証を行いつつ、地域基盤整備10カ年戦略終了時に、その位置づけなどについて検証するものとする。
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【説明】
現行の障害福祉計画では、施設の定員削減目標、地域生活への移行目標が掲げられている。しかし、地域生活への移行が進められているものの、新規入所者が後を絶たないため、施設入所定員の削減目標の達成が難しい状況である。したがって、施設入所に至るプロセスの検証を行うことは重要である。
今まで以上に地域生活の支援体制、グループホーム等の社会資源の拡充、公営住宅等の住宅施策の充実、必要な人へのホームヘルパー等の居宅支援や個別生活支援等、地域生活のための支援を強化すべきである。
ただ現状においては、施設入所支援が果している、地域で様々な困難を抱える人たちのセーフティネットとしての機能に焦点を当てて、医療とリハビリテーション等を含むその役割と位置づけを明確化する必要がある。また、現に、多くの人たちが施設入所支援で生活している実態に鑑み、その人たちの生活の質を確保する必要もある。
そのため、四人部屋から個室への居住環境の改善等を進めるとともに、高齢者の支援や、強度行動障害等により個別的な支援が必要な人及び罪を償った人が地域生活移行を前提に利用できるような支援の強化と、地域との連携を進めることが重要で、これを可能にする職員体制も確保する必要がある。さらに、利用者の生活の質の向上のために小規模化(定員の縮小とユニット化)を進めることが望まれるが、そのために職員体制(とりわけ医療専門職の配置)の確保のあり方を検討すべきである。
また、継続した医療等の支援が必要となる重症心身障害者等の地域移行にあたっては、本人及び保護者や家族の不安や負担を十分に受け止め、命と生活の質が保障されるよう合意を得ながら進めることが必要である。
さらに、入所待機者や入所希望者に、家族同居以外の地域生活への道筋や可能性を示し、特定の生活様式を強いられないように配慮することが肝要である。入所の長期化を避けるために、地域移行を目標にした個別支援計画を策定するべきである。地域生活移行では、あくまでも利用者の意向を尊重し、支援が必要な人には情報提供し、施設入所支援を継続しつつ、地域移行プログラム(T−5参照)等を体験しながら意向確認ができる支援が必要である。
また従来、入所施設利用者は訪問系サービス等を利用できないことになっているが、それでは地域移行が進まないので、施設入所支援と並行して一定期間はグループホームや個別生活支援を利用できることとすべきである。
その上で、今後、地域基盤整備10カ年戦略等、入所施設から地域生活への移行に向けた各種施策により、地域における基盤整備が進展するなかで、入所施設の役割や機能等その位置づけを検証する必要がある。
5.個別生活支援
【表題】@重度訪問介護の発展的継承によるパーソナルアシスタンス制度の創
設
【結論】
○ パーソナルアシスタンスとは、
1)利用者の主導(支援を受けての主導を含む)による
2)個別の関係性の下での
3)包括性と継続性
を備えた生活支援である。
○ パーソナルアシスタンス制度の創設に向けて、現行の重度訪問介護を充実発展させる。
○ 対象者は重度の肢体不自由者に限定せず、障害種別を問わず日常生活全般に常時の支援を要する障害者が利用できるようにする。また、障害児が必要に応じてパーソナルアシスタンス制度を使えるようにする。
○ 重度訪問介護の利用に関して一律にその利用範囲を制限する仕組みをなくす。また、決定された支給量の範囲内であれば、通勤、通学、入院、1日の範囲を越える外出、運転介助にも利用できるようにする。また、制度利用等の支援、見守りも含めた利用者の精神的安定のための配慮等もパーソナルアシスタンスによる支援に加える。
○ パーソナルアシスタンスの資格については、従事する者の入り口を幅広く取り、仕事をしながら教育を受ける職場内訓練(OJT)を基本にした研修プログラムとし、実際に障害者の介助に入った実経験時間等を評価するものとする。
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【説明】
重度訪問介護を発展させ、パーソナルアシスタンス制度を創設するにあたっては、
1)利用者の主導(ヘルパーや事業所ではなく利用者がイニシアティブをもつ支援)、
2)個別の関係性(事業所が派遣する不特定の者が行う介助ではなく利用者の信任を得た特定の者が行う支援)、
3)包括性と継続性(支援の体系によって分割され断続的に提供される介助ではなく利用者の生活と一体になって継続的に提供される支援)
が確保される必要がある。
現行の障害者自立支援法における重度訪問介護の対象者は、「重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者」(第5条3)に限定されているが、障害の社会モデルを前提とする障害者権利条約及び谷間のない制度をめざす障害者総合福祉法の趣旨を踏まえれば、このような機能障害の種別と医学モデルに基づく利用制限は見直しが必要である。
「身体介護、家事援助、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援及び外出介護が、比較的長時間にわたり、総合的かつ断続的に提供されるような支援」(平成19(2007)年2月厚生労働省事務連絡)を難病、高次脳機能障害、盲ろう者等を含む「日常生活全般に常時の支援を要する」(同)すべての障害者に対して利用可能とする。
特に、重度の自閉症や知的障害等により行動障害が激しいなどの理由で、これまで入所施設や病院からの地域移行が困難とされてきた人たちが、地域生活を継続するためには、常時の見守り支援を欠かすことはできない。また、現行制度においては重度訪問介護の対象となっていない障害児についても対象とする。
以上に鑑みると、パーソナルアシスタンス制度は、各障害特性やニーズから来るキャンセルや待機などへの対応等、利用者にとっては柔軟な利用ができ、かつ報酬上も評価される仕組みにすべきである。
また、パーソナルアシスタンスは、利用者の主導性の下、個別の関係性の中で、個別性の強い支援に対応できるかを踏まえることが求められるため、資格取得のための研修は、現在の重度訪問介護研修よりも従事する者の入り口を幅広く取り、仕事をしながら教育を受ける職場内訓練(OJT)を基本にしたものとする必要がある。
【表題】A居宅介護(身体介護・家事援助)の改善
【結論】
○
現行の居宅介護を改善した上で、個別生活支援に位置付ける。
【説明】
居宅介護(身体介護・家事援助)においても、各障害特性やニーズから来るキャンセルや待機などへの対応等、利用者にとっては柔軟な利用ができ、かつ報酬上も評価される仕組みにすべきである。
居宅介護は、家族が同居する場合やグループホームで生活する場合、更に障害児にも利用可能とする。
【表題】B移動介護(移動支援、行動援護、同行援護)の個別給付化
【結論】
○ 障害種別を問わず、すべての障害児者の移動介護を個別給付にする。
○ 障害児の通学や通園のために移動介護を利用できるようにする。
【説明】
「歩く」「動く」は「話す」「聞く」「見る」と同様、基本的権利であり、自治体の裁量で行う支援には馴染まないため、移動介護(移動支援、行動援護、同行援護)は個別給付とし、国1/2・都道府県1/4の補助金精算という仕組みにするなど、国・都道府県の財政支援を強化する。また、車(障害者の自家用車や障害者が借用した車)を移動の手段として認めるよう環境を整備する。移動介護の対象は障害種別を問わず、支援を必要とするすべての障害者が利用できるものとする。
6.コミュニケーション支援及び通訳・介助支援
【表題】コミュニケーション支援及び通訳・介助支援
【結論】
○ コミュニケーション支援は、支援を必要とする障害者に対し、社会生活の中で行政や事業者が対応すべき必要な基準を設け、その費用は求めない。
○ 通訳・介助支援に関しては、盲ろう者の支援ニーズの特殊性・多様性、さらにその存在の希少性等の事情から都道府県での実施とし、個別のニーズに応じたコミュニケーションと情報入手に関わる支援及び移動に関わる支援等を一体的に利用できるようにする。
【説明】
通訳・介助支援とは、盲ろう者向けの通訳・介助を指す。コミュニケーション支援と通訳・介助支援は、「話す」「聞く」「見る」「歩く」「動く」という基本的権利の保障であり、自治体の裁量には馴染まないものでありながら、現状では自治体が個別に判断している。そのことによる自治体間格差も深刻な問題である。これらの支援は、障害者の地域生活支援に不可欠であり、かつ今までその権利性が十分に認められてこなかった類型である。
7. 補装具・日常生活用具
【表題】補装具・日常生活用具
【結論】
○
日常生活用具は補装具と同様に個別給付とする。
【説明】
日常生活用具給付等事業は、自立支援給付である補装具との明確な定義上の違いも不明瞭であり、障害者の地域生活には不可欠である。そこで、日常生活用具の支給も個別給付とすべきである。
8.相談支援 「相談支援」の項参照
9.権利擁護 「権利擁護」の項参照
B.地域の実情に応じて提供される支援
市町村独自支援
【表題】市町村独自支援
【結論】
○ 現在、地域生活支援事業の下で実施されているものは、できるだけ「全国共通の仕組みで提供される支援」とし、柔軟な形の障害者の社会参加を進めるものなど自治体の裁量として残す方がよいものは、市町村独自支援として事業を残す。
○ 現行の福祉ホームと居住サポート事業は市町村独自支援として継続し、前者はグループホームへの移行を可能にする。
【説明】
障害者自立支援法の地域生活支援事業の中で、地域活動支援センターでの活動は多岐に及び、支給決定プロセスを経ずに、より柔軟な形で障害者の社会参加支援を進めているところもある。そうした活動については障害者総合福祉法の下でも、全国共通の仕組みとは別に、市町村独自事業として実施できるようにする。
次に、現行の福祉ホームについては、当面は市町村独自支援に位置付けつつ、希望すればグループホームへ移行できるようにする。
さらに、現行の居住サポート事業は必要な機能を有しているものの、受託する事業者が少なく、住宅部門との連携も不十分であり、実施市町村も多くない。福祉部門だけではなく、住宅部門と連携した形の実効性のある居住サポートの仕組みが必要である。
また、グループホーム等から単身生活に移行する場合も事業対象とする必要がある。同事業は、相談支援事業の付帯事業的な位置づけとなっており、住居の確保や緊急時対応など限定的な場面に限られているが、地域での安心できる暮らしを継続的にサポートする訪問型の生活支援として機能強化し、独立して運営可能な支援とする必要がある。
C.支援体系を機能させるために必要な事項
1.医療的ケアの拡充
【表題】医療的ケアの拡充
【結論】
○ 日中活動支援の一つであるデイアクティビティセンターにおいて看護師を複数配置するなど、濃厚な医療的ケアが必要な人でも希望すれば同センターを利用できるような支援体制を確保する。併せて重症心身障害者については、児童期から成人期にわたり、医療を含む支援体制が継続的に一貫して提供される仕組みを創設する。
○ 地域生活に必要な医療的ケア(吸引等の他に、カニューレ交換・導尿・摘便・呼吸器操作等を含む)が、本人や家族が行うのと同等の生活支援行為として、学校、移動中など、地域生活のあらゆる場面で確保される。
○ 入院中においても、従来より継続的に介助し信頼関係を有する介助者(ヘルパー等)によるサポートを確保し、地域生活の継続を可能とする。
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【説明】
最近、特に濃厚な医療的ケアを必要とする超重症児といわれる人たちが増加の傾向にあり、このため医療型の通所の場の整備が要請されている。デイアクティビティセンターは重症心身障害児・者が利用することも想定されており、その際には看護師の複数配置を必須要件とする。濃厚な医療的ケアを必要とする重症心身障害者が、18歳に達したことを理由に別体系の事業への利用変更を求められ支援者及び支援の方法が変わることは、生命の危機にもつながる重大な環境の変化であることから、仮に法律体系が変わるとしても人権が守られ年齢相応の生活を送ることができるよう、一貫した支援体制が取れるようにする。
また、生活支援行為としての医療的ケアとは、個別性を重視して十分な信頼関係のあるヘルパーが、本人や家族が行うのと同等な行為として特定の者に医療的ケアを行うということであり、信頼関係のある介助者が研修や訓練を受けた上で、医療的ケアができる濃密な支援を可能とする仕組みが求められる。同様の仕組みは、学校においても必要である。また、一方で入院が必要な場合には、信頼関係のある介助者(ヘルパー)によってサポートが得られるようにして、必要な医療を得ながら、地域生活が継続できるようにする。
2.日中活動等支援における定員の緩和など
【表題】日中活動等支援の定員の緩和など
【結論】
○ 過疎地等の事業所が利用者5名でも事業を展開できるようにする。
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【説明】
地方に行けば行くほど人が集まらないため、5名でも事業を展開することができるようにする。現在の重症心身障害児・者通園事業B型は平成24年4月からは生活介護事業への移行も考えられるが、地方や利用者が少ない地域では、利用者が集まらないために運営が困難になる可能性があり、十分な配慮が必要である。
3.日中活動等支援への通所保障
【表題】日中活動等支援への通所保障
【結論】
○ 国は日中活動等支援への送迎を支援内容の一環に位置付け、これに係る費用は報酬上で評価する仕組みとする。
○ 報酬の算定にあたって声かけなどの送迎中の支援を踏まえることや、公共交通機関等による通所者の扱いを併せて検討する。
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【説明】
日中活動等支援を利用するには送迎が必要である。また、医療的ケアを必要とする人の送迎には看護師の添乗も必要になる。現行の生活介護には送迎経費も含まれているとの解釈があるが、他の通所事業には送迎経費は含まれていない。障害者総合福祉法においては、実績に応じて報酬に含まれるような制度にする必要がある。
報酬の算定に当たっては、送迎を声かけや見守りを含めた支援として位置づけるのか、単なる移動の支援として位置づけるのかについて結論を得る必要がある。また、公共交通機関等を利用する通所者の交通費等移動に係る費用の支給についても、その取扱いを検討する。
4.グループホームでの生活を支える仕組み
【表題】グループホームでの生活を支える仕組み
【結論】
○ グループホームで居宅介護等の個別生活支援を利用できるようにする。
○ 高齢化等により日中活動にかかる支援を利用することが困難であるか、又はそれを必要としない人が日中をグループホームで過ごすことができるように、支援体制の確保等、必要な措置を講じる。
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【説明】
障害者総合福祉法におけるグループホームは多様な住まい方支援の一つであることから、他の在宅障害者と同様に、居宅介護等の個別支援を併給できるようにする。
今後、高齢、重度・重複障害、医療的ケアや行動障害等さまざまなニーズのある人たちの利用が多くなることが想定され、介助等個別支援を必要とするそれらの人たちに対して、居宅介護等を活用することで、地域での自立生活が可能となる。
また、それらの人たちも利用できるようハード面での整備を推進するとともに、職員の夜間常駐、休日の日中支援、医療的ケアの実施が可能となるよう、報酬、運営基準、人員配置の見直しを図る必要がある。
したがって、グループホームでの支援をグループホームの機能として全てを包括せず、最低限機能を備えつつ、それ以外のパーソナルな支援はオプションとして、利用できるようにすることが適切である。これらの関係を整理、検討し、生活支援体制を確保することが必要である。
5.グループホーム等、暮らしの場の設置促進
【表題】グループホーム等、暮らしの場の設置促進
【結論】
○ 国庫補助によるグループホームの整備費を積極的に確保する。また、重度の障害や様々なニーズのある人への支援も想定し、安定的運営を可能とする報酬額が必要である。一方、グループホームを建設する際の地域住民への理解促進について、事業者にのみに委ねる仕組みを見直し、行政と事業者が連携・協力する仕組みとすることが必要である。
※ 公営住宅や民間賃貸住宅の活用についてはVを参照のこと。
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【説明】
地域生活への移行を促進する上で、重度の障害者が利用できるグループホームを含む住居を確保するため、国庫補助による整備促進が必要である。また、報酬単価が低く、人材確保や事業運営に困難があるなど、グループホーム単独では経営が成りたない現状があるため、積極的に整備を推進するための予算確保が必要である。
また、グループホームを建設する場合、地域住民の理解を得るのに時間を要し、時には建設を断念する場合もある。建設に当たって地域住民の理解を求めることについては、事業者に委ねるのではなく、地方自治体の責務として事業者と連携・協力し、そして障害者団体等も協力をして住民の理解促進を図る必要がある。
公営住宅は低家賃であり、住まいとしての重要な社会資源といえる。バリアフリー化した公営住宅を拡充して、インクルージョンの視点を配慮しつつグループホームとしての活用を促進することが必要である。
6.一般住宅やグループホームへの家賃補助
【表題】グループホーム利用者への家賃補助等
【結論】
○ グループホーム利用者への家賃補助、住宅手当等による経済的支援策が重要である。
※ 一般住宅に住む障害者への家賃補助、住宅手当等についてはVを参照のこと。
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【説明】
収入が低い障害者の地域移行を可能とするため、家賃補助や住宅手当の創設が望ましい。生活保護と同様に、障害者の基礎年金に住宅手当が上積みされることが望ましいが、住宅手当とした場合、広く国民を対象とした手当制度や生活保護制度における住宅扶助等との関係を整理する必要もある。また、それぞれの住宅の状況を踏まえると一律の金額とはせず、一定の範囲内の家賃に応じて住宅手当を支給するのが現実的であり、また社会の理解も得やすい。
7.他分野との役割分担・財源調整
【表題】シームレスな支援と他分野との役割分担・財源調整
【結論】
○ 障害がいかに重度であっても、地域の中で他の者と平等に学び、働き、生活し、余暇を過ごすことができるような制度とする。
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【説明】
「他の者との平等」の視点から障害がいかに重度であっても、地域の中で「他の者」と同じ生活を営み、共に育ち、学び、「他の者」と同じ職場で仕事をこなし、「他の者」と同様に余暇を過ごすことができるような制度が必要である。
その際、シームレスな支援を確保するために、障害者雇用納付金や介護保険、教育等関連分野の財源との調整をする仕組みも必要である。
T−5 地域移行
【表題】「地域移行」の法定化
【結論】
○ 「地域移行」とは、住まいを施設や病院から、単に元の家庭に戻すことではなく、障害者個々人が市民として、自ら選んだ住まいで安心して、自分らしい暮らしを実現することを意味する。
○ すべての障害者は、地域で暮らす権利を有し、障害の程度や状況、支援の量等に関わらず、地域移行の対象となる。
○ 国が、社会的入院、社会的入所を早急に解消するために「地域移行」を促進することを法に明記する。
○ 国は、重点的な予算配分措置を伴った政策として、地域移行プログラムと地域定着支援を法定施策として策定し、実施する。
【説明】
障害者自立支援法において、平成23年度末までに、身体・知的の施設入所者の1割(13,000人)の地域移行と精神科病院からの72,000人の退院促進が、地域移行政策の目標として謳われた。だが、退院・退所しても新たに入院・入所する現状がある。そうした状況を解消するめに、入院・入所に至るプロセスの検証を行い、地域生活のための社会資源を拡充しなければならない。
本来は誰もが地域で暮らしを営む存在であり、障害者が一生を施設や病院で過ごすことは普通ではない。入院・入所者が住みたいところを選ぶ、自分の暮らしを展開するなど、障害者本人の意志や希望、選択が尊重される支援の仕組みと選択肢を作ることが早急に求められる。とりわけ家族の状況や支援不足から希望していない生活環境にある障害者についても、本来地域移行の支援対象者に含まれるべきであり、一部屋に多数の者が住まう形態を解消し、地域生活を実現できるようにすることを検討されるべきである。
地域移行の促進にあたって、地方における地域基盤整備や財政等の格差等、国と地方の財政負担構造などに課題があるなかで、単に、施設の入所定員や病院の病床数の減少を法定化することだけでは、家族の不安や負担を強いる危険性と混乱を招きかねない。そこで地域移行は、地域移行プログラムと地域定着支援を入所・入院している障害者に提供しつつ、誰もが地域で暮らせるための地域資源と支援システムを整備する必要がある。特に、長期入所者、入院者については、地域移行の阻害要因を検証しつつ、緊急に人権が回復されるよう支援されるべきである。
その上で、今後、「地域基盤整備10カ年戦略」等、入所施設・病院から地域生活への地域移行に向けた各種施策により、地域における基盤整備が進展する中で、入所施設・病院の役割や機能等、その位置づけを見直す必要がある。また、地域移行ホーム、退院支援施設等のように、同一敷地内に移行のための施設の是非を含め、その在り方についても今後検討すべきである。
【表題】地域移行プログラムと地域定着支援
【結論】
○ 地域移行プログラムと地域定着支援は、実際に地域生活を始められるように、一人ひとりの状況に合わせて策定される。地域移行プログラムでは、入院・入所者に選択肢が用意され、本人の希望と納得のもとで施設や病院からの外出、地域生活を楽しむ体験、居住体験等のプログラムも提供される。また、地域定着支援では、地域生活に必要な支援、その他福祉制度に関する手続等の支援や必要とする社会資源に結び付けるなどの環境調整も行うものとする。
○ 地域移行プログラムと地域定着支援の事業は、国の事業として行う。施設及び病院は、これらの事業を受けるよう積極的に努めなければならない。施設及び病院がこれらの事業を行う場合には、地域の相談支援事業者、権利擁護事業者等の地域移行支援者と連携するための体制を整備しなければならない。
○ ピアサポーター(地域移行の支援をする障害当事者)等は、入院・入所者の意思や希望を聴きとりつつ、支援するノウハウを活かし、重要な人的資源として中心的な役割を担う。特に長期入所者や入院者に対する支援は、不安軽減と意欲回復のために、本人に寄り添った支援が必要である。
○ 入所施設・病院の職員がそれぞれの専門性をより高め、地域生活支援の専門職としての役割を果すため、国は移行支援プログラムを用意し、これらの職員の利用に供しなければならない。
※ 地域移行を促進するための住宅確保の施策についてはVを参照のこと。
【説明】
地域移行プログラムは、障害者の意志や自己決定を確認し、それを実現するためのものである。
入院者・入所者が自ら選ぶことを基本として設計されるべきである。地域移行プログラムは、地域移行できる人を選別するものではないので、標準的なプログラムに適応できるかどうかを判断するものであってはならない。あくまでも本人支援という観点から本人に合わせた個別的なものとして準備されるものである。
このような地域移行プログラムの実施に当たっては、入所者・入院者が、どのようなニーズがあって入所・入院しているのか、定期的にそのニーズをき取る必要があり、社会的入所・入院の軽減を目指さなければならない。
その際、施設・病院関係者だけでなく、地域移行支援者(相談支援事業者、権利擁護事業者、障害者団体、地域生活支援協議会、市民等、様々な立場の者)とチームを組むことができる仕組みを作ることが必要である。このことは、安易な新規の入所・入院を避けるためにも重要である。
また、地域移行プログラムを提供しつつ、移行先での地域定着支援として、様々なサービスを受けるため申請や社会資源の配置等が行われるべきである。地域移行プログラム及び地域定着支援の事業は、まず施設・病院から外出したり、地域での生活を楽しむ体験等をしながら、自分の地域生活をイメージする期間も必要である。そのため移動支援等の福祉サービスを利用できる仕組みや経済的に困難な入院・入所者にはその費用を助成する仕組みが不可欠である。
また、この事業を支える人材、特にピアサポーターを地域移行推進のための重要な人的資源と位置づけ、ピアサポーターの育成ならびに地域移行支援活動に対する正当な報酬等の財源を確保すべきである。
さらには、現行の施設・病院の職員がその専門性を地域支援に活かしていくことが、地域移行を推進していく上で求められることになる。その際には、職員には、地域生活支援の観点から支援の在り方について視点の転換が求められるので、その転換を容易にするための移行支援プログラムが用意される必要がある。
T−6 地域生活の資源整備
【表題】 「地域基盤整備10ヵ年戦略」(仮称)策定の法定化
【結論】
○ 国は、障害者総合福祉法において、障害者が地域生活を営む上で必要な社会資源を計画的に整備するため本法が実施される時点を起点として、前半期計画と後半期計画からなる「地域基盤整備10ヵ年戦略」(仮称)を策定するものとする。
策定に当たっては、とくに下記の点に留意することが必要である。
・ 長期に入院・入所している障害者の地域移行のための地域における住まいの確保、日中活動、支援サービスの提供等の社会資源整備は、緊急かつ重点的に行われなければならないこと。
・ 重度の障害者が地域で生活するための長時間介助を提供する社会資源を都市部のみならず農村部においても重点的に整備し、事業者が存在しないためにサービスが受けられないといった状況をなくすべきであること。
・ 地域生活を支えるショートステイ・レスパイト支援、医療的ケアを提供できる事業所や人材が不足している現状を改めること。
○ 都道府県及び市町村は、国の定める「地域基盤整備10ヵ年戦略」(仮称)に基づき、障害福祉計画等において、地域生活資源を整備する数値目標を設定するものとする。
○ 数値目標の設定は、入院者・入所者・グループホーム入居者等の実態調査に基づかなければならない。この調査においては入院・入所の理由や退院・退所を阻害する要因、施設に求められる機能について、障害者への聴き取りを行わなければならない。
※ 地域移行を促進するための住宅確保の施策についてはVを参照のこと。
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【説明】
福祉サービスは、それを提供するマンパワーなくして成立しない。福祉サービスには様々なものがあるが、地域社会で生活を営む上で必要な支援を行う事業所と人材は、いまもって不足している。
とくに、重度障害者が地域で生活するうえで、障害者自立支援法の重度訪問介護等を担う事業所と人材は、大都市部も含め全般的に不足しており、農村部にはほとんどないといった状況が存在することは、このたびの東日本大震災の被災地の状況を見ても明らかである。しかしこれでは、どこで、だれと住むかといったきわめて基本的な権利さえ実現できない。
また、障害者の地域生活を支える上で、ショートステイやレスパイト支援、医療的ケアの充実は欠かすことができない要素である。
例えば、グループホームや一般住宅で暮らす障害者が調子を崩したり、家族との関係が一時的に悪化したときなどに、生活を立て直す支援としてのショートステイがすぐ使えることは、地域生活を継続するうえで欠かすことができない。
同様に家族と同居する場合、家族ケアの観点からの障害児者家族の精神的、物理的な休養を目的としたレスパイトケアの充実も求められる。
しかしながら、必要なときにいつでも使えるショートステイやレスパイト支援を提供するサービス事業体は少なく、法的な制約のもとで、医療的ケアを提供できる介助者も非常に不足しているのが現状であり、これらにかかわる社会資源を拡大することが急務である。
そこで、国は、必要な財源を確保したうえで、上記にかかる社会資源を早急に確保すべきである。
さらに、長期入院や入所を余儀なくされ、そのために住居を失うもしくは家族と疎遠になり、住む場がない状況にある障害者に対する住宅確保のための施策は極めて重要であり、大規模化、多棟化しないよう配慮しつつグループホームを整備することや、家賃補助等の整備は、緊急の課題である。
施設待機者は、全てが真に施設入所の必要な者とは言えない。障害福祉計画等で単純に施設待機者数を施設設置の根拠とすることは妥当ではない。待機者は、さまざまな福祉サービス利用の待機者であるとの視点に立ち、具体的な地域基盤の整備を進めることが必要である。また再入院・再入所についても、障害者本人の問題としてのみ捉えるのではなく、地域支援の不足・不備からくるものとして検証し、再び地域移行にむけて支援を行うことが必要である。
これらを行うためには、入院者・入所者実態調査が不可欠である。
なぜ入院・入所に至ったのか、入院者・入所者の希望は何か、何が退院・退所を阻害する要因であるのかを、国主導で分析すべきである。その際、全国的な把握、地域特性の把握が、地域支援のあり方に関わる貴重なデータであり、地域移行に向けた取り組みの根拠となる。なお、定員が一定数を超える大規模なグループホームについても、病院や入所施設同様に入居者への聴き取り調査の対象に含めるべきである。
以上に基づき、国は、地域における障害者向けの住宅、日中活動、訪問系サービス等を新たに大規模に提供することを目標にした「地域基盤整備10ヵ年戦略」(仮称)を策定すべきである。この際、設定される数値目標は、今後行われる入院・入所者への調査の結果などに基づいて設定されるものとする。
また、都道府県、市町村の障害福祉計画は、この「10ヵ年戦略」に基づいた数値目標を設定すべきである。地方公共団体の障害福祉計画等で掲げられた地域移行者目標数値は、地域支援サービス整備の目標数値とともに現実に達成されることが求められる。しかし、地域移行は施設や病院から住まいを移行しただけで終るものではないため、移行後も地域での生活実態の把握や支援状況の検証を行なうべきである。
【表題】障害福祉計画
【結論】
○ 障害者総合福祉法の支援資源を総合的・計画的に整備するため、市町村は市町村障害福祉計画を、都道府県は都道府県障害福祉計画を策定し、国はその基本方針及びそのための整備計画を示す。
○ 国が定める障害福祉計画のための第1期の整備計画は「地域基盤整備10ヵ年戦略」の前半期の整備計画をもって充てる。
○ 障害福祉計画は、その策定過程と評価・見直し過程で、障害者、障害者の家族、事業者、その他の市民が参加する「地域生活支援協議会」の十分な関与を確保する。とくに知的障害・精神障害やこれまで制度の谷間におかれてきた障害者・難病等の当事者の参加が求められる。
○ 基本方針および障害福祉計画の策定・評価は、客観的な調査データを踏まえて行なう。とりわけ地域社会での日常生活や社会参加の実態を障害のない市民のそれとの比較したデータを重視する。
○ 障害福祉計画は1期5年とする。
○ 国、都道府県、市町村は障害福祉計画の実施に必要な予算措置を講じる。
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【説明】
障害福祉計画は、支援資源の計画的整備、障害当事者・関係者・行政の協議と相互理解の形成、一般市民や議会が障害者支援について理解する手段、実態調査などデータ収集の契機などの多様なメリットがあり、障害者総合福祉法でも既存の計画との関係性をよく整理した上で、継続発展させるべきである。
障害者自立支援法の障害福祉計画は、十分な当事者参加がなく参加する障害者の障害種別が限定されていること、国の目標を人口比で当てはめた計画が多いこと、策定後の実施状況評価とその評価をふまえた改善・修正という面が弱いことなどの課題が指摘されてきた。これらの克服が必要とされる。
また、障害者基本計画が10年計画であり、前半・後半に分けて数値目標を含む「重点施策実施5ヵ年計画」を定め進捗状況を毎年報告することが定着してきた。その中心分野である「福祉」が障害者自立支援法の下では3年計画(数値目標の基本設定は6年間)の障害福祉計画となっているのは、介護保険との統合をめざした結果である。障害者施策の総合的・計画的推進の観点から、障害福祉計画は1期5年とし、障害者基本計画の「重点施策実施5ヵ年計画」と一致させるべきである。
なお、「障害福祉計画」の名称については、障害者基本法に基づく「障害者計画」、社会福祉法に基づく「地域福祉計画」等の類似計画があるので、「障害」分野の「福祉」領域の計画であることを単純明快に示す名称は現行のままがよい。
【表題】地域生活支援協議会
【結論】
○ 地域における既存の社会資源を有機的に連携させ、地域全体にかかる課題を検討して地域社会の支援体制をより充実させる仕組みとして、市町村(ないし圏域)および都道府県単位で、障害者及びその関係者の参画を前提とした地域生活支援協議会を法定機関として設置する。
○ 地域生活支援協議会は、その地域における障害者施策の現状と課題を検討し、改善方策や必要な施策を講じるための具体的な協議を行うほか、市町村又は都道府県における障害者に関する福祉計画策定に意見を述べるものとする。
○ とくに、都道府県単位の地域生活支援協議会は、上記のほか、広域的・専門的な情報提供と助言や市町村障害者福祉計画策定の支援機能を果たすものとする。
○ 地域生活支援協議会は、ライフステージにわたる途切れない支援体制が整備されるよう、地域における様々な社会資源と連携するものとする。
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【説明】
障害者自立支援法の自立支援協議会についての評価はさまざまであるが、その地域に暮らす障害者本人の個別相談支援から、その地域における解決困難な課題に焦点をあてて関係者が議論をし、就労、子ども、住居等の部会を設けるなどして地域生活が実現可能となるための各種社会資源の連携や支援の新たな開発の役割を果たすことや障害福祉計画へとつなげる役割を果たすことなどが新しい地域生活支援協議会に期待される。
さらに、地域生活支援協議会が地域の社会資源等と有機的に連携し、より良い地域づくりの核として機能するようにするためには、以上のような機能を有するものとして、法定化することが必要である。
T−7 利用者負担
【表題】利用者負担
【結論】
○ 他の者との平等の観点から、食材費や光熱水費等の誰もが支払う費用は負担をすべきであるが、障害に伴う必要な支援は、原則無償とすべきである。
ただし、高額な収入のある者には、収入に応じた負担を求める。その際、認定する収入は、成人の場合は障害者本人の収入、未成年の障害者の場合は世帯主の収入とする。
また、高額な収入のある者の利用者負担については、介護保険の利用を含む必要なサービスの利用者負担を合算し、現行の負担水準を上回らないものとすることが必要である。
○ 上記の障害に伴う必要な支援とは、主に以下の6つの分野に整理することができる。
@ 相談や制度利用のための支援
A コミュニケーションのための支援
B 日常生活を送るための支援や補装具の支給
C 社会生活・活動を送るための支援(アクセス・移動支援を含む)
D 就労支援
E 医療・リハビリテーションの支援
なお、Eの医療については、障害者のすべての医療費を全額公費負担にというものではなく、障害に伴う医療費の自己負担を公費負担にすることについて述べたものである。
|
【説明】
(1) 利用者負担の問題点
障害のない人は、食事・排泄・移動・コミュニケーション等の人として生きるための基礎的な生活行為を自らで行えるが、障害者は、そうした生活行為が困難になる。しかも、特に重度の障害者の場合、住宅、交通・移動、医療、福祉支援のみならず、それ以外の分野でも障害に伴い必要とされる支出が多くなる。したがって、こうした行為への支援に係って障害のある人に負担を課すことは、障害のない人との間に新たな格差と差別を生むことになる。
また、厚労省の作成した資料によると障害福祉サービス利用者のうち非課税と生活保護の低所得世帯が86.3%と約9割に上り、こうした世帯にとって、生きるために不可欠な支援への利用料は大きな負担になっている。以上のことから、障害によって生じる日常生活および社会生活上の困難を軽減する支援は、原則として、社会が責任を担うべきである。
「ある程度の負担があった方が、遠慮せずに支援を求めやすい」という意見もあるが、それはそもそも支援に対する報酬(公費)が抑えられたことが背景にあり、必要十分な支給量や報酬が得られれば、「支援をお願いしている」という遠慮は解消される。
ただし、高額な収入のある者には収入に応じた負担を求めることとし、その際、認定する収入は、成人の場合は障害者本人の収入、未成年の障害者の場合は世帯主の収入とする。「高額な収入」の認定基準を設定する際には、サービスの利用抑制にならない水準とし、その場合、負担する金額は現行制度(平成22(2010)年4月以降)の水準を上回らないものとする。
(2)
利用者負担に対する負担軽減策の効果と問題点
障害者自立支援法実施の平成18(2006)年度の段階では、福祉サービスを利用する在宅者のうち52.2%の人が課税世帯とされ、定率(1割)の応益負担が課せられた。その要因は、収入認定の対象に障害者本人以外の同居世帯の収入・資産が含まれたためであった。その後、負担軽減策の効果は、収入認定ならびに資産要件の基準の見直し(同居家族の除外)によってその対象が増えた。
平成22(2010)年4月から自立支援給付・補装具については、非課税世帯の負担上限額はゼロ円となったため、非課税世帯の負担は大幅に軽減された。
しかし課税世帯とはいえ、月額上限37,200円の負担能力を有する人ばかりではなく、中でも障害児のいる世帯は、親が若年であることから収入が相対的に低い等の現状がある。
また、これらは自立支援医療には適用されなかったため、応益負担の問題は改善されなかった。さらに、地域生活支援事業には、非課税世帯でありながら利用料負担が課せられる現状が残されている。
(3)
障害に伴う必要な支援
以上のことを踏まえ、結論に記した障害に伴う必要な支援について具体的に説明する。
@ 相談や制度利用のための支援
自らの希望と最適な選択を尊重するために障害に配慮した相談支援は、公的な支援とし無償とすべきである。
A コミュニケーションのための支援
手話、点字、指点字、要約筆記等のほか、自閉症等の人の良好なコミュニケーションに必要なイヤーマフや会話補助用機器(パソコンや携帯電話等の電子機器を利用したコミュニケーション機器)等も、日常生活用具に含め、無償とすべきである。
B 日常生活を送るための支援や補装具の支給
食事や排泄、身体機能の障害を軽減するための義肢・補装具や、障害に配慮した住宅改修工事等についても公的な支援とし、原則無償とすべきである。
C
社会生活・活動を送るための支援(アクセス・移動支援を含む)
これについては、原則無償とすべきである。加えて、移動支援に係る支援者の交通費・入場料等を障害者の負担としている現状を改めるべきである。
D 就労支援
就労のために必要な人的支援、また障害に伴う必要な移動支援は原則無償とすべきである。
E 医療・リハビリテーションの支援
障害認定・年金申請のための診断書作成や、障害の軽減・改善のための必要な専門医療・リハビリテーションは、原則無償とすべきである。
(4) 実費負担の適切な水準の確保
@ 通所施設等の食材費や送迎利用料
障害者自立支援法実施当時、給食の食材費だけでなく人件費を含めて大幅な削減が実施されたため、通所施設等では多額の利用者負担が生じるという問題があった。食材費は、障害のない人と同等の立場・権利の保障という観点から利用者負担とすることは妥当だが、併せて十分な所得保障が求められる。
ただし、障害が重く、咀嚼・嚥下能力等が著しく困難である場合、再調理に必要な人件費や特別な原料(とろみ剤等)に係る費用を必要とする場合があるが、これは、障害に伴う必要な支援として、利用者負担とせず公的に支援すべきである。
実費負担では、欠席した場合のキャンセル料が問題となった。給食費のキャンセル料を課している事業所は多くあり、しかも食材費だけでなく人件費も含めたキャンセル料を徴収している事業者が存在した。またインスタントラーメンのお湯代を徴収している事業者もあった。
さらに送迎利用料の徴収については、送迎は障害に伴う支援であり、利用料を徴収すべきではなく、公的に支援すべきである。送迎利用料のキャンセル料を徴収している事業者がいるが、これは論外である。こうした負担のあり方と水準が適切であるか否かを判断するための基準を設ける必要がある。
A ガイドヘルパーの交通費
ガイドヘルパーの交通費・入場料等を障害者本人が負担している現状は、平等な社会参加という観点から解消する必要がある。サービスにかかる経費として公的に支出するか、運賃割引制度の見直しなどが検討されるべきである。
B 家賃負担の軽減について
家賃を含む「誰もが払う費用」の負担が困難な低所得障害者に対して、グループホーム入居、アパート等における支援付き自立生活の別にかかわらず、家賃補助が必要である。また、相当額の家賃補助制度の実現を前提としたうえで、入所施設利用者の家賃相当額については、その生活実態を踏まえつつ実費負担とすることが検討されるべきである。
T−8 相談支援
本項は、相談支援の体制をどのように考えるかに当たって、障害者と普段に関わりあう人間関係や地域の中での支え合いの重要性や日頃接する支援者による相談の重要性を指摘する意見、さらには、相談体制の過度な整備に対する危惧の念を示す意見等も踏まえ、全くこれまでなかったものを新たに作り出すというよりも、多くは現状として存在する相談事業の課題を整理したうえで、より機能的に、より本人を中心に相談事業が運用されるよう、基本理念を確認したうえで、その在り方を提言したものである。
【表題】相談支援
【結論】
○ 相談支援の対象は、障害者総合福祉法に定める障害者、同法の支援の可能性がある者及びその家族等とする。
○ 相談支援は、福祉制度を利用する際の相談のみでなく、障害、疾病等の理由があって生活のしづらさ、困難を抱えている人びとに、福祉・医療サービス利用の如何にかかわらず幅広く対応するものとする。
また、障害者本人の抱える問題全体に対応する包括的支援の継続的なコーディネートを行う。
さらに、障害者のニーズを明確にするとともに、その個別ニーズを満たすために、地域でのあらたな支援体制を築くための地域への働きかけも同時に行うものとする。
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【説明】
1.相談支援事業の現状の課題
(1)市町村格差
現行の障害者自立支援法では地域生活支援事業(市町村の裁量)に位置付けられていること等により、実施については市町村による格差が大きい現状にある。
(2)基本的な相談支援体制の不備
障害者本人及び家族の相談の内容に応じて適切な支援を行うという本来の相談支援事業のあり方について十分な理解が定着していないために、問い合わせや情報提供といった「一般相談」をイメージした体制整備にとどまり、具体的な生活を支援するための踏み込んだ訪問相談や同行支援、継続的な支援を行うことが難しい状況にある。
このような現状にあるため障害者本人中心の相談支援が定着しておらず、障害者本人及び家族から相談支援は頼りにならず不要であるとさえ指摘されることもあり、新たな地域相談支援体制の構築が必要である。
(3)限定的な支援
現状の相談支援の限界として、主に次の2点が挙げられる。
@ 各相談事業が個別制度ごとに位置づけられて実施されているために相談事業ごとの守備範囲によって、その対象や制度に合わせた個別的な対応や年齢によっても分断されている現状にとどまり、その結果、限定的な支援となってしまうか、または他の相談機関に「たらいまわし」になりがちである。
A 難病(難治性慢性疾患)、高次脳機能障害、発達障害等の手帳を所持していない谷間の障害について十分に対応できていない。
とくに、これまで手帳を所持することなく谷間におかれてきた障害の特性に応じた専門的な相談支援が必要な場合に、身近な地域での相談支援が整備されていない。
(4)他職種・他機関との連携調整を含む横断的な相談支援体制の不備
社会的障壁による障害の多様化を背景に、個別制度の枠を超える横断的な課題をもった相談内容が増加している中で、障害の多様化に応じた複雑なニーズをもつ人の相談支援に十分にこたえきれない現状にある。こうした横断的な相談支援体制の不備の主な要因としては、他職種・他機関の連携・調整を行う場合の制度的な枠組みがないこと、そして、これらの相談支援体制にかかわる専門職を含めた人材が大幅に不足していることなどが挙げられる。
2.新たな相談支援の枠組み
相談支援は、障害に関するあらゆる生活のしづらさや困難に、幅広く対応するための入口となり、その後の展開にも責任を持つことが重要であり、ワンストップ相談を心がけることが必要である。そのためには、現在分断されている発達相談、教育相談、就労支援相談、医療相談等が統合された相談体制を作ることをめざす。実現のためには、関係する法令、機関との調整を図りつつ、人材育成をする必要があり、段階的に実施すべきである。
また、人口規模に見合った身近な地域での相談支援の体制整備が必要であり、その整備計画については、実態調査の結果に基づき、具体的に検討されるべきである。加えて、今までは社会資源の乏しい中で、市町村が直営で相談支援を行う体制が見られた。市町村は相談窓口ではあるが、今後は地域で継続的に訪問や同行支援等を含む体制が必要であることから、相談支援体制として地域に配置する財政基盤を確立した整備が必要である。
相談支援は、地域による格差なく全国共通の仕組みで提供されるべき支援である。公共的立場から積極的にアウトリーチしていくことが求められることから、必要な相談支援の人材を確保する補助の仕組みが構築されるべきである。
また、相談支援を通じて、相談支援専門員は、障害者や家族の意向、ニーズを聴き取り、それを包括的な支援に結び付けていくために、本人中心支援計画を立案する。さらに必要に応じて、障害者総合福祉法のサービスを利用するためのサービス利用計画を策定する。
なお、障害者自立支援法の「個別支援計画」「サービス利用計画」を本人中心支援計画の代わりとしてはならない。
【表題】相談支援機関の設置と果たすべき機能
【結論】
○ 人口規模による一定の圏域ごとに、地域相談支援センター、総合相談支援センターの配置を基本とし、エンパワメント支援事業を含む複合的な相談支援体制を整備する。
○ 身近な地域での障害種別や課題別、年齢別によらないワンストップの相談支援体制の整備充実、一定の地域における総合的な相談支援体制の拡充を行い、さらに広域の障害特性に応じた専門相談支援や他領域の相談支援(総称して以下、特定専門相談センター)との連携やサポート体制の整備を行う。
○ 身近な地域での障害者本人(その家族を含む)のエンパワメントを目的とするピアサポートや家族自身による相談支援を充実する(エンパワメント支援事業)。
○ 地域相談支援センター、総合相談支援センター(以下「相談支援事業所」と総称する)は、障害者本人等の側に立って支援することから、給付の決定を行う市町村行政やサービス提供を行う事業所からの独立性が担保される必要がある。
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【説明】
1.地域相談支援センターの組織体制と役割
(1)組織体制
地域の相談支援センターは、もっとも住民の生活に身近な圏域(人口3〜5万人に1ヶ所を基準とする)を単位に設置されるものとする。
地域相談センターは、迅速にニーズに応えるため、シンプルかつネットワークする相談支援体制をめざし、その人材と機能を強化していく。
地域相談支援センターは、当該センターのみでは支援が困難な場合において、総合相談センターおよび特定専門相談機関に協力や助言、直接の対応を求めるものとする。
(2)役割
地域相談センターは、障害者に寄り添った相談支援(アウトリーチを含む)や継続的な相談支援を行う。そのうえで、地域相談支援センターに所属する相談支援専門員は、希望する人を対象に本人中心支援計画・サービス利用計画を策定できるものとする。
想定される相談者として、具体的には、以下の障害者及びその家族等である。
@ 支援を受ければ、ある程度の希望の実現やニーズの解決が想定できる人。
A 生活の質の維持や社会参加に継続してサービスを利用する必要があり、また希望の表明や制度手続き、サービス調整等に一貫した支援を希望する人。
B 社会資源の活用をしておらず、生活が困難な状態にあり社会参加が果たせていない人(手帳をもたない人も含む)。
C 部分的にサービス等を利用しているものの、生活の立て直しを必要としている人。
D 既存のサービス等では解決困難な生活課題を抱えている人。
E 家族等の身近な関係のなかで問題を主体的に相談できる人がおらず、踏み込んだ支援を必要としている人(虐待を含む)。
F その他、相談支援を希望する人。
2.総合相談支援センターの組織体制と役割
(1)組織体制
総合相談支援センターは、15万〜30万人の圏域を単位に、都道府県が市町村と協議して一定の条件を満たした事業者に事業を委託して設置する。
総合相談支援センターには、手話通訳士有資格者やろうあ者相談員等を配置する。
(2)役割
総合相談支援センターは、相談支援のなかで、特に複雑な相談事例について対応する。
例えば、地域相談支援センターからの要請に応じて上記B、C、D、Eの相談者の対応にあたるほか、長期に入院・入所をしている人の地域生活への移行の相談、刑事施設等から退所してくる人(入所中も含む)の相談等に対応する。そのうえで、総合相談支援センターに所属する相談支援専門員は、希望する人を対象に本人中心支援計画・サービス利用計画を策定できるものとする。
また、総合相談支援センターは、地域相談支援センターへの巡回を含めた相談支援専門員のスーパービジョン、および人材育成(研修)を行う。
3.特定専門相談支援センターの組織体制と役割
(1)組織体制
特定専門相談支援センターは、原則都道府県を単位として設置される。
現に存する身体障害者総合相談センター、知的障害者総合センター、精神保健福祉センター、発達障害者支援センター、視覚障害者支援センター、聴覚障害者支援センター、難病相談支援センター、高次脳機能障害支援センター、地域定着支援センター等を中心に、特定専門相談支援センターとして整備される。
(2)役割
特定専門相談支援センターは、障害種別や障害特性に応じた専門相談を担うとともに、地域相談支援センター及び総合相談支援センター等への専門的助言や専門的人材の養成支援、本人中心支援計画・サービス利用計画策定にあたっての助言等を行う。
とくに、障害特性に応じた専門相談(重度の障害の場合、医療との連携が必要な場合、難病等の難治性慢性疾患に伴う場合など)については、全国規模の当事者組織等の特定専門相談支援センターを活用し「T‐4 支援(サービス)体系」の「C-1.医療的ケアの拡充」の内容に基づいて、地域相談支援センター、総合相談支援センター等との相互の緊密な連携協力を行い、地域で暮らせる相談支援を行うことが必要となる。
4.相談支援事業所の独立性
相談支援事業所は、市町村やサービス事業所から独立性を担保されるべきであるから、都道府県が指定することを基本とする。また、地域の実情に合わせて障害保健福祉圏域単位や市町村域の単位で障害者本人や障害福祉関係者、行政関係者が参画する運営委員会の設置などを通じて、運営の独立性がチェックされなければならない。
【表題】本人(及び家族)をエンパワメントするシステム
【結論】
○ 国は、障害者本人によるピアサポート体制をエンパワメント事業として整備する。身近な地域(市町村、広域圏、人口5万人から30万人)に最低1か所以上の割合で地域におけるエンパワメント支援を行える体制の整備を行うものとする。
○ エンパワメント支援事業の目的は、障害者たちのグループ活動、交流の場の提供、障害者本人による自立生活プログラム(ILP)、自立生活体験室、ピアカウンセリング等を提供することで、地域の障害者のエンパワメントを促進することである。
○ エンパワメント支援事業の実施主体は、障害者本人やその家族が過半数を占める協議体によって運営される団体とする。
○ エンパワメント支援事業は、地域相談支援センターに併設することができる。
○ 障害者本人(及び家族)をエンパワメントするシステムの整備については、当事者リーダーや、真に障害者をエンパワメントできる当事者組織の養成を図りつつ、段階的に実施する。
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【説明】
実際に地域で生活する障害者の意思(自己)決定・自己選択を支援し、エンパワメントを支援しているのは、本人のことをよく理解する家族や支援者であるとともに、各地の自立生活センター(CIL)や知的障害の本人活動、各種の難病や精神障害等の仲間によるさまざまな当事者相互支援活動(セルフヘルプグループ)である。
問題は、一定の当事者リーダーとその活動をサポートする仕組みが存在する地域と、存在しない地域との間に大きな格差が存在する。
制度改革にあたっては、当事者リーダー養成や真に障害者をエンパワメントできる当事者組織とその活動を公的にサポートする仕組みを創出していくべきである。
なお、アメリカにおいては、リハビリテーション法第7章において、自立生活センターのピアカウンセリングと権利擁護活動等が補助金化されており、また平成13(2001)年度のメディケイドの改正で、精神障害者のピアサポートが予算可能プログラム化されている。
その方法については、各地の取り組みが参考となるが、今後は、当事者活動を先進的に取り組む地域をモデル指定し、その成果を検証しながら、全国的に格差を解消していくことが望まれる。
また、デイアクティビティセンターのサービスのなかには、交流の場の提供やグループ活動を位置づけて、エンパワメント支援を行うことも必要である。
【表題】相談支援専門員の理念と役割
【結論】
○ 相談支援専門員(仮称)に関する理念と役割を示すことが重要である。
○ 相談支援専門員の基本理念は、すべての人間の尊厳を認め、いかなる状況においても自己決定を尊重し、当事者(障害者本人及び家族)との信頼関係を築き、人権と社会正義を実践の根底に置くことである。
○ 上記の理念に基づき相談支援専門員は、本人の意向やニーズを聴き取り、必要に応じて本人中心支援計画およびサービス利用計画の策定にかかる支援を行う。具体的には、本人のニーズを満たすために制度に基づく支援に結びつけるだけでなく、制度に基づかない支援を含む福祉に限らない教育、医療、労働、経済保障、住宅制度等々あらゆる資源の動員を図る努力をする。
また、資源の不足などについて、その解決に向けて活動することも重要である。
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【説明】
1.相談支援専門員の役割
(1)相談支援専門員は、相談する障害者及びその家族それぞれの利益のために存在することを一義とする。そのためには福祉サービス等を決定し提供する役割から独立することを原則とする。但し、行政において相談に応じ、支給決定にかかわる職員は相談支援専門員の研修を受けた者であることが望ましい。
(2)相談支援専門員のなかにはソーシャルワークに関する理念・知識・技術をもって業務を遂行する者が必要である。加えてスーパーバイザーとしての役割や、障害者の地域生活支援システムのコーディネーターとしての役割を担う者が必要である。
(3)相談支援専門員は障害者に寄り添い、信頼関係のもと障害者の生活を成立させ、継続でき、夢・希望などを叶えることを含む個々の人生を支援する専門職である。本人によって選択される立場にあることから、地域などを超えて、相談支援専門員や相談支援事業所を選択できる体制整備やそのための財政措置も検討されるべきである。聴覚障害者、知的障害者等、コミュニケーション支援を必要とする障害者のニーズを把握し、本人の意思を理解するために、それぞれの障害の知識、コミュニケーション技能を身に付けた専門性のある相談支援員の配置等も必要である。
(4)障害者自身が相談支援専門員となり、地域の相談支援体制全般において、協働することが望ましい。なお、障害者が相談支援専門員になる際には、障害者としての生活経験などを実務経験として勘案するなどを検討すべきである。
2.本人中心支援計画について
(1)本人中心支援計画とは、障害者本人の希望に基づいて、相談支援事業所(地域相談支援センター、総合相談支援センター)の相談支援専門員が本人(及び支援者)とともに立案する生活設計の総合的なプランとする。本人の希望を聴き取り、その実現にむけた本人のニーズとその支援のあり方(インフォーマルな支援も含めたもの)の総合的な計画策定となる。
(2)本人中心計画の策定の目的は、障害者本人の思いや希望を明確化していくことであり、それを本人並びに本人とかかわりのある人(支援者を含む)と共有し、実現に向けてコーディネートしていくことである。
(3)本人中心支援計画立案の対象となるのは、セルフマネジメントが難しい意思(自己)決定に支援が必要な人である。なお、本人中心の支援計画の作成に参加するのは、障害者本人と本人のことをよく理解する家族や支援者、相談支援専門員である。
3.相談支援専門員の業務
相談支援専門員は、具体的には以下のような業務内容を担う。
(1)相談支援を求める障害者本人の包括的なニーズを把握する。とくに、聴覚、視覚障害、知的障害者等の意思疎通や情報を知ることに困難を抱える人向けに、相談支援事業者の所在地や相談方法(誰に、どのようなことを、どのように相談できるか)などについても、情報提供を十分に行う。
(2)依頼を受けた場合には、ニーズ中心の支援計画(本人中心支援計画、サービス利用計画)を本人とともに立案する。
(3)本人の地域生活のニーズを満たすために、総合的なフォーマル・インフォーマルサービスの利用、支給決定のために行政等関係機関との協議を行い調整する。
(4)必要に応じて、本人とサービスを提供する者が参加する会議を開催し、複数のサービスを提供する者等との個別調整やそのための会議を開催する。
(5)サービス資源が不足しているときは必要なサービス(社会資源)の開発につなげる。
(6)相談プロセスを通じて、サービス提供のモニタリング及び利用者の権利擁護を行う。
【表題】相談支援専門員の研修
【結論】
○ 国は研修要綱を定め、都道府県において研修の企画から実施までの実務を担う者に対する指導者研修を行う。
○ 都道府県が実施する研修には基礎研修、フォローアップ研修、専門研修、更新研修、その他がある。都道府県はその地域生活支援協議会に人材育成の部会を設け、上記国の行う指導者研修の修了者とともに都道府県が行うべき研修を企画し実施するものとする。研修運営等について委託することもできる。
○ 研修の実施にあたっては、障害者が研修企画や講師となって研修を提供する側になること、または研修を受ける側にもなるなど、研修への当事者の参画を支援することが重要である。
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【説明】
現在行われている相談支援従事者研修は、一部サービス管理者研修と一体的に行われるなど、相談支援専門員固有の役割、機能を習得する研修としては内容が不十分と言わざるを得ない。新法で求められる内容を整理し、相談支援専門員の研修体制については、研修カリキュラム内容の充実とその体制の確立が図られる必要がある。また、すべての相談支援専門員は実務経験に基づき、一定の年限ごとに実践的な研修を義務づけられる。
将来的には相談支援専門員の質を担保するうえでソーシャルワーク専門職を基礎資格とすることを目指すべきである。そのためには、現行の専門職養成課程では、その内容が不十分であり、今般の障害者制度改革の趣旨に照らし、必要な見直しが図られるべきである。
障害者(本人及び家族)との連携は、本人中心の支援を行うにあたり、重要な課題である。
障害者自身が相談支援専門員となり、地域の相談支援体制全般において、協働することが望ましい。
なお、障害者自身が相談支援専門員になる際には、当事者としての生活経験などを実務経験として勘案するなどを検討すべきである。
T−9 権利擁護
【表題】サービスの希望者及び利用者の権利擁護制度
【結論】
○ 障害者総合福祉法における権利擁護とは、サービスを希望し、または利用する障害者のそれぞれの生活領域(居宅、グループホーム、入所施設等における生活、日中活動や就労の場等)や場面(精神科病院からの退院促進を含む地域移行)において、本人が孤立してかかえる苦情や差別的な取扱い、虐待その他の人権侵害から、障害者総合福祉法の目的と理念にかかげる権利を擁護し、侵害された権利の救済を図ることによって、本人がエンパワメントしていく過程をいう。
○ 上記の権利擁護は、サービスを希望する、または利用する障害者の申請から相談支援、支給決定、サービス利用、不服申立のすべてにわたるプロセスに対応する。
○ 国は、上記の障害者総合福祉法における権利擁護を実現するための体制整備を行うとともに、差別的取り扱いや虐待等の関係する法制度との柔軟で効果的な連携協力を図るものとする。
【説明】
現在、権利擁護と相談支援に関しては、支援を提供する主体や支援の内容において、必ずしも、それらの違いや相互関係又は役割分担などの深まった議論がなされているとは言い難い面もある。
しかしながら、相談支援の内容の一部として、もしくは別個の問題として「権利擁護」が独自の分野として、その必要性が強く語られてきたことも、また明白である。
そこで、本骨格提言においても、障害者総合福祉法における権利擁護の意義を盛り込み、かつまた、他の法律における権利擁護との関係等について、触れることにしたものである。
【表題】第三者の訪問による権利擁護(オンブズパーソン)制度
【結論】
○ 国は、都道府県ないし政令指定都市単位で、障害者のそれぞれの生活領域(居宅グループホーム、入所施設等における生活、日中活動や就労の場等)や場面(精神科病院からの退院促進を含む地域移行)において、障害者の求めに応じ、障害者本人を含む権利擁護サポーター等の第三者が訪問面会を行う権利擁護のための体制整備を行うものとする。
※ 入院中の精神障害者の権利擁護、障害児の権利擁護についてはVを参照 のこと。
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【説明】
入院・入所者、グループホーム、就労の場や自宅で暮らす障害者等への権利擁護制度の創設は、障害者がその場で安心安全な生活を送るうえでも、施設等からその生活を地域に移行するうえでも重要である。
周知のように施設や自宅等における虐待等、障害者に対する人権侵害事例が後を絶たず、これを防止することは喫緊の課題である。
今般成立した虐待防止法はこれに有効に対処するべきものであるが、虐待発生後の対策に重点があり、必ずしも事前の防止という観点からの具体策は用意されていない。そこで、事前の防止対策を講じることが求められるが、なかでも日頃から施設や自宅等に第三者の目が届くようにすることが事前の防止策として有効である。
そのような観点からみると、施設での権利侵害等に対しても、独自の調査と改善を求める機関として機能しているオンブズパーソン制度(元々スウェーデンで始まった行政に対する苦情処理と監察を行う第三者機関制度)を、障害者総合福祉法において、障害者本人の側に立って権利侵害の調査や改善を行うことを目的とする「第三者の訪問による権利擁護(オンブズパーソン)制度」として創設する必要がある。
また、地域移行プログラムによる地域移行支援は、障害者の意思とその決定を確認し、それを実現するためのものであり、入所者・入院者、グループホーム等の居宅者が自らがどのような生活を選ぶのか、本人の意思を基本として支援するものである。地域移行と定着の過程で、本人の意思を無視したり、支援側のプランを押し付けたりしないよう、入院・入所者、グループホーム等の居宅者に対しては権利擁護サポーター等が配置されるのも有効で、そのサポーターを当事者が担うこともあり得る。
【表題】権利擁護と虐待防止
【結論】
○ 障害者総合福祉法においては、サービスを提供する事業者の責務として、虐待や人権侵害をしてはならないことを明記するとともに、事業者が虐待の発生を未然に防止し、発生した虐待を早期に発見し、侵害された権利を回復するための体制を整備する責務を明記すべきである。
○ 虐待が発生した場合には、サービスを提供する事業者やその関係者等は早期の発見と通報を行い、都道府県の権利擁護センターや市町村の虐待防止センター等と連携協力しなければならない。
○ 都道府県及び市町村は、事業者による虐待防止体制の構築に関して、職員研修、情報の提供、財政等の支援を行うものとする。
※ 第三者の訪問による権利擁護と虐待防止法についてはVを参照のこと。
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【説明】
現行の障害者自立支援法の「市町村の責務」では、障害者等に対する虐待の防止と早期発見、そのための関係機関と連絡調整を行うことなどが明記されている。障害者総合福祉法においては、事業者の責務及び市町村と都道府県の責務として、虐待の防止と早期発見、権利擁護のための必要な援助を行う効果的な仕組みをつくることをより明確にする必要がある
【表題】サービスに関する苦情解決のためのサポート
【結論】
○ 障害者総合福祉法で提供されるサービスに関して苦情を解決するためには、@寄り添い型の相談支援、Aサポート機関、の二つが必要である。
○ 寄り添い型の相談支援とは、苦情という形で問題化する以前の段階での相談であり、障害者本人とその関係者からの話を丁寧に聞きとる事前相談を基本とする支援をいう。相談支援機関には、とくに本人の意向に沿った支援をする役割が求められる。
○ サポート機関とは、本人がサービスに対する苦情をかかえた場合、本人の側に立って、権利擁護の観点から苦情解決に向けて対応するサポート機関(相談機関も含む)であり、これを設置することが必要である。
※ 苦情解決機関(社会福祉法)についてはVを参照のこと。
【説明】
苦情解決においては、そもそも、サービスに関する苦情という形で問題化する以前の段階において、障害者本人とその関係者からじっくり話を聴取する事前相談や寄り添い型の相談支援の仕組みが必要である。
上記を満たした上で、それでも改善されない、あるいは実際に起こってしまった苦情については、実態として権利を保障するための苦情解決に向けた相談を含むサポート機関が必要である。このサポート機関においては、自身の意向を伝えにくい障害者に関しては、第三者が本人の意向をくみ取る支援の仕組みが必要である。
【表題】モニタリング機関
※ モニタリング機関についてはVを参照のこと。
【表題】権利擁護と差別禁止
※ 権利擁護と差別禁止についてはVを参照のこと。
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T−10 報酬と人材確保
【表題】報酬と人材確保の基本理念
【結論】
○ 障害者の地域で自立した生活を営む基本的権利を保障するために必要なサービスを確保するため、適正な事業の報酬と必要な人材を確保すべきである。
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【説明】
障害関連事業の現状として、報酬制度と人材確保の課題は深刻で、事業報酬の劣悪さが人材の確保を困難にし、限界を超えている。
事業所を支える中核となる人材の人件費は、昇級していかなければならないが、事業種別、障害程度区分、利用定員、各種加算を組み合わせた現在の報酬基準では、ベテラン職員の雇用の維持さえ難しくなり、経営的にも疲弊し、正職員の常勤雇用率が下がり、雇用期間限定の臨時・契約・パート率が大幅に増加し、支援の質の低下が著しい。
しかしながら、真に障害者の基本的人権保障を担う人権感覚溢れた人びとが障害者と共にインクルーシブな社会を構築するために、活力ある良質な人材の養成とその確保が障害福祉を成立させる不可欠な前提条件となる。
障害福祉の報酬水準は、障害者の人権の価値評価、尊厳の水準と連動している。障害福祉を実践する人材が枯渇し自らや家族の生活の維持さえ危ぶまれるような状況であればこの国が障害者の人間としての基本的価値を蔑んでいることを意味する。
したがって、以下の事項を旨として、障害者の地域で自立した生活を営む基本的権利を保障するために必要なサービスを確保するため、適正な事業の報酬と必要な人材を確保すべきである。
【表題】報酬における基本的方針と水準
【結論】
○ 報酬における基本的方針は、以下のとおりである。
・ 支援の質の低下、現場を委縮させない報酬施策を実施する。
・ わかりやすい報酬制度にする。
・ 利用者に不利益をもたらさない。
○ 報酬における水準は、採算線(レベル)を利用率80%程度で設定し、安定的な障害サービスを提供するために、事業者が安定して事業経営し、従事者が安心して業務に専念出来る事業の報酬水準とする。
○ なお、常勤換算方式を廃止する。
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【説明】
措置から契約制度への移行に伴い、措置委託費の丸投げから、一人ひとりの要支援者への個別支援のための社会保障費の支払いの集積が報酬となる形への転換が図られた。その後、障害者自立支援法施行により給付抑制政策が導入され、報酬基準が切り下げられ、障害福祉の質の低下がもたらされた。それらの弊害を解消するために、一人ひとりへの支援を意識した障害福祉の基本的あり方を基本としながら、支援の質の低下、現場を委縮させない報酬施策が実施されることが、改革の方針である。
事業者にとって複雑なシステムは非効率的である。利用者にとっても、一般国民にとっても、わかりやすい簡潔な制度にしなければならない。
利用者負担、地域間格差等により、利用者に不合理な負担、不利益を被らせることは障害福祉の理念に反することであり、あってはならない。
障害者自立支援法の報酬額の採算レベルは、入所施設系で利用率(実利用者/利用定員)が90〜95%に設定されており、利用者の入院等による減算に対応していくために定員を超過する等の運営を必要としている。そこで、定員超過の恒常化による支援水準の低下を改善するためには、採算ラインを80%程度と設定する必要がある。そうすれば、定員数を満たすことで職員の加配やベテラン職員の確保が可能となり、事業者にも利用者にも余裕が生じ、利用者の地域移行についての取り組みも可能となる。経営者にインセンティブを与え、事業展開への財源確保とモチベーションを高めることが必要である。
国は経営実態調査に基づき報酬改定を行っている。
しかし、多くは報酬のみが収入であり、報酬が減額されればその範囲で収支を合わせて黒字にするため、その黒字を根拠に改定されれば、報酬は際限なく引き下がる。福祉報酬は社会保障費=ナショナルミニマムであり、自助努力の貯蓄を理由に水準を引き下げてはならない。
【表題】報酬の支払い方式
【結論】
○ 報酬の支払い方式に関して、施設系支援にかかる場合と在宅系支援にかかる場合に大別する。
○ 施設系支援にかかる報酬については、「利用者個別給付報酬」(利用者への個別支援に関する費用)と「事業運営報酬」(人件費・固定経費・一般管理費)に大別する。前者を原則日払いとし、後者を原則月払いとする。
○ 在宅系支援にかかる報酬については、時間割り報酬とする。
○ すべての報酬体系において基本報酬だけで安定経営ができる報酬体系とする。
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【説明】
報酬の日額払か月払いについて、統合した視点を持ち、建設的な議論に発展させることが肝要である。
障害福祉を実践する担い手が事業を維持出来ない状況は、障害者の生活人権が安定的に保障されないことを意味する。障害者の幸福追求権が保障されるためには、障害のある人の支援(事業)を選択する自由(権利)と障害関連事業における固定費(人件費を中心に)の安定的な確保を両立させることが必要である。その際、次の三点に留意すべき。
一点目は、報酬の財政規模の増額が必要条件である。障害者自立支援法の支出水準を固定費相当分とし、日額分が重ねられるイメージである。二点目は、契約制度は維持するとしても、市町村が障害者の支援を保障する公的責任は明確化しておくことである。三点目は、利用者負担の増加につながらないようにすることである。
以上のような観点から、施設系支援にかかる報酬については、「利用者個別給付報酬」(利用者への個別支援に関する費用)と「事業運営報酬」(人件費・固定経費・一般管理費)に大別する。概ね、前者を2割、後者を8割程度とする。
「利用者個別給付報酬」は原則日払いとする。但し、利用率80%を上回れば全額支払い、それ以下の場合は、利用実績に応じた日割り計算で事業所に支払われる。
「事業運営報酬」は原則月払いとする。すなわち、施設利用定員による月額を定額で支払う。但し、施設全体の6ヶ月の平均利用率を次の6ヶ月間は掛けて月額を算出する。これにより、利用しなかった分は報酬減となるので、在宅給付との併給にも抵抗は少ない。個々の利用者の利用状況に日割り(利用率)を導入するのではなく、施設全体の利用率で算定する。その適用は次の6ヶ月期に適用とする。
在宅系支援にかかる報酬については、時間割り報酬とする。
現在の報酬は、報酬本体では経営維持が困難であり、加算により初めて維持出来る。「報酬本体だけ」で求める事業水準(指定基準に定められる水準)を確保すべきであり、加算はあくまで、その標準的水準に対する付加価値的なものと位置づけるべきである。
【表題】人材確保施策における基本的視点
【結論】
○ 人材確保こそが障害者地域生活実現の鍵である。
○ 障害福祉に対する公的責任を障害者本人やその家族に転嫁してはならない。
○ 支援者の確保は、地域における雇用創出である。
○ 重層的な人的支援のネットワーク化を重視し、人材を循環させる。
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【説明】
障害者の安定した地域生活の展開し、施設や医療機関等からの地域移行を実質化するとともに、家族依存の色彩が根強く残る障害福祉施策により、成人した障害者の生活まで家族が抱え込まざるを得ない現実を変えるためには、@労働及び雇用・日中活動の場、A居住の場、B所得保障、C人的な支え、D保健医療の5つの分野が一定の水準で確保される必要があり、人的な支援体制の確保は、その根幹である。
人間と人間の触れ合い、パーソナルな支援こそが改革を成功させるためのキーワードであり、そのため優良な「人材」の確保が、地域生活の成立条件である。人と人の関係を基本とする人的支援策の遂行にあっては、親を中心とする家族に責任が転嫁されないよう、障害福祉の「公的責任の原則」を明確にする必要がある。成人した障害者の生活まで家族が抱え込まざるを得ない現実の中で、「家族支援」も重要な施策の柱である。
本格的な人的な支援策を成功させるためには、大幅な人員増が必要である。そのことを労働政策の観点からみると、社会福祉を志そうとする若者に未来を拓き、雇用創出・失業改善に大きな役割を果たすことになる。
地域相談支援センターやグループホーム等、地域支援の組織は小規模であり人員にも限りがあるため、人材確保といった観点からも、他機関との連携が求められる。支援員、看護師、ケースワーカー等が必要に応じてネットワークで本人支援を行うことになるが、受け皿を複数用意しておくことが必要である。当事者主体と障害当事者の権利保障を重視し、障害者の地域生活構築のため、重層的なネットワークへの変革が必要である。
【表題】福祉従事者の賃金における基本的方針と水準
【結論】
○ 障害者の安定した地域生活を支える人材を確保し、また、その人材が誇りと展望をもって支援を継続できるようにするため、少なくとも年齢別賃金センサスに示された全国平均賃金以下にならないよう事業者が適切な水準の賃金を支払うこととする。
○ そのためには、事業者が受け取る報酬の積算に当たっては、少なくとも上記水準の賃金以下とならないような事業報酬体系を法的に構築すべきである。
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【説明】
福祉従事者の賃金は、年齢別賃金センサスに示された全国平均賃金以下である場合も多く、過酷な労働環境で働いている。しかし、そのような環境においても、福祉従事者は誇りと意欲を持って障害者支援に取り組んでいる。かような状況において、労働条件等の雇用環境により、働くことを断念することがない賃金水準を確保することが強く求められる。
本来福祉サービスは、国の責務として行うべきところを、民間に代行させている性格を有している。しかも、サービスの向上といった面から、資格や職員配置等は厳格な縛りがあるなど、一般民間事業者が取り得る経営合理化などといったことには縁のない世界であるともいえる。
上記水準の賃金を確保するために、次の二つを含めた実現可能な方策を考えるべきである。
一つは、少なくとも年齢別賃金センサスに示された全国平均賃金以下のレベルに陥るような事業報酬は、これを見直し、年齢に相応した賃金の支払いを受けて働き続けられる事業報酬体系を法的に構築することを検討すべきである。国としては、一定の条件のもとに障害者福祉の事業を民間に委ねている以上、当然のことと考えられる。
もう一つは、国家公務員給料表の「福祉職俸給表」による給与支給を確保できる水準に近づけることを検討すべきである。これにより、標準的給与水準が明確になり、異動の際にも、前歴換算や評価が容易になる。共通の給料表に基づくことにより官民格差が是正できる。
【表題】人材養成
【結論】
○ 人材の養成においては、現場体験を重視した研修システムが必要である。支援を提供するうえで必要となる「資格」は支援の質の最低基準の保障と支援者の社会的評価、モチベーション維持等のためのものであると位置づけるものとする。
○ 相談支援や権利擁護に必要な障害者の人材確保として、国はピアカウンセラーの養成を積極的に支援するものとする。
○ 国及び都道府県は、制度運営主体である市町村の人材養成を支援するものとする。
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【説明】
人材養成は、現場体験を重視した研修システムを基本とするべき。可能な限り間口を広く取り、多くの人材の中から適した人材を探り当てる作業が不可欠である。継続的な関係性の中での人間関係が基礎にあり、支援が成り立つ。正規雇用関係の中で、長期にわたって関係性を持てることが信頼関係を障害者と作り上げる基本である。
また、当事者の気持ちにもっとも寄り添えるのは同じ障害をもつ当事者である。そこで、相談支援や権利擁護に必要な障害当事者の人材確保として、また共に生きる社会の担い手としてもピアカウンセラーの養成とそのためのシステムづくりに対して資金を含めた公的支援が求められる。
制度運営主体である市町村においては、規模の大小、財政力の強弱、人口構成の偏りなど個々に異なる事情を抱えており、市町村のマンパワー確保に向けて地域間格差の問題を解消するようなきめ細かな対策が必要である。
U 障害者総合福祉法の制定と実施への道程
U−1 障害者自立支援法の事業体系への移行問題
【表題】障害者自立支援法の事業体系への移行問題
【結論】
○ 障害者自立支援法に基づく事業への移行期限終了後も、一定の要件の下で、従前の運営費の10割を保障するなどの支援策を継続する。
【説明】
障害者自立支援法以前の体系から障害者自立支援法の事業に移行することで、経営努力にもかかわらず大きく減収となる事業所は、移行期限である平成24年3月まで移行できない上に、移行後の運営に大きな不安を抱えている。また、移行を予定していた事業所の中には、東日本大震災や福島原子力発電所事故の影響で、期限内の移行が不可能になったところもある。
こうしたことを踏まえ、現行の事業運営安定化事業による10割保障を移行期間終了後も継続し、移行可能となるようにすべきである。
U−2 障害者総合福祉法の制定及び実施までに行うべき課題
【表題】市町村及び都道府県の意見
【結論】
○ 障害者総合福祉法の制定及び実施に当たっては、市町村及び都道府県の意見を踏まえること。
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【説明】
今後、障害者総合福祉法を制定及び実施するに当たっては、制度の実施主体である市町村及び都道府県の意見を踏まえ、十分な調整を行うことが必要である。
【表題】利用者負担
【結論】
○ 応能負担でも低所得者には軽減策をとり、利用者負担を原則無償にする。
○ 障害者総合福祉法実施以前にも自立支援医療における低所得者の全額公費負担を実現する。
※ 障害者の医療費公費負担制度の見直しについてはVを参照のこと。
○ 障害福祉サービス、補装具、自立支援医療、地域生活支援事業、介護保険の利用者負担を合算し過大な負担とならないようにする。
○ 所得区分の認定においては利用者本人を基本とし配偶者を含めないこと。
【説明】
所得保障がなされない中で低所得者には過度な利用者負担を課すべきでない。
つなぎ法では応能負担になるが、障害者総合福祉法ができるまで、低所得者には応能負担の軽減策を講じ、現在のように無償になるような配慮が必要である。
また、自立支援医療の負担については、「基本合意文書」の「四 利用者負担における当面の措置」において、「なお、自立支援医療に係る利用者負担の措置については、当面の重要な課題とする。」とされていることを踏まえた検討が求められている。
利用者負担の合算では、障害福祉サービス、補装具、自立支援医療、地域生活支援事業、介護保険の利用者負担を合算し、軽減できるようにする。
【表題】地域での自立した暮らしのための支援の充実
【結論】
○ 障害程度区分に連動する国庫負担基準を支給決定量の上限としてはならないことについて自治体に徹底させる。国庫負担基準を超える分の国から市町村への財政支援を行う。
○ 地域生活支援事業の地域格差の解消の為に予算を確保する。
○ 移動支援の個別給付化、重度訪問介護の知的・精神障害者、障害児への対象拡大を行う。
【説明】
障害者総合福祉法への移行に向けて、平成24年4月1日から可能な施策は実施する。必要な支援の量が障害程度区分に連動する国庫負担基準を超える場合、相談支援とケアプランを検証した上で支給できるように、国が市町村に財政支援を行う。
移動支援、日中一時支援等は地域生活支援事業ではなく、個別給付にする。
【表題】報酬構造の見直し、加算の整理と報酬改訂
【結論】
○ 各種の加算を整理し、可能なものは基本報酬に組み入れていく。
【説明】
複雑な加算制度を基本報酬に組み入れることで、事務処理を簡素化していく事が必要である。但し、人的な支援を手厚く実施していく場合や看護師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、等の専門職を加配した場合などの配置加算は考慮する。
【表題】福祉・介護人材処遇改善事業助成金
【結論】
○ 福祉・介護人材処遇改善事業助成金は基本報酬に組み込む。
【説明】
福祉・介護人材処遇改善事業助成金は、福祉・介護人材の処遇改善に取り組む事業者に対して、平成23年度末までの間、職員(常勤換算)1人当たり月額平均1.5万円を交付するものであるが、対象職員が限定されていること、諸手続きが複雑であること等の問題点がある。こうした点を解消する観点から、基本報酬に組み入れて事業所全体の賃金の底上げを図る。なお、現政権のマニフェストでは、「介護労働者の賃金を月4万円程度引き上げます」としており、引き続き、取り組みを強める。
【表題】通所サービス等利用促進事業の交付金
【結論】
○ 通所サービス等利用促進事業の交付金は報酬に組み込む。
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【説明】
日中活動支援を利用するには送迎は必要である。また、医療的ケアを必要とする人の送迎には看護師の添乗も必要になる。現行の生活介護には送迎経費も含まれているとの解釈があるが、他の通所事業には送迎経費は含まれていない。送迎を行う事業所への通所サービス等利用促進事業の交付金は、実績に応じて報酬に含まれるようにする。
【表題】障害者総合福祉法の策定及び実施のための調査等
【結論】
○ 地域生活移行に向けた施設入所者、入院患者への実態調査等を実施する。
○ 新たな支給決定の仕組みのための試行事業や研究等を実施する。
【説明】
既に厚生労働科学研究費、総合福祉推進事業等で先行研究や試行調査が行われているが、加えて障害者総合福祉法の策定及び実施に関する調査等のための予算確保を行う。
障害程度区分に代わる新たな支給決定の仕組みの開発及び実施に関しては、試行事業による検証等、十分な準備を経るべきであり、またその過程は当事者、家族、事業者に的確に情報提供されなければならない。国は、そのために必要な予算を確保する。
障害者総合福祉法の骨格や内容について、当事者向けの分かりやすい資料を作成する必要がある。作成に当たっては、当事者の意見・助言を受ける。
U−3 障害者総合福祉法の円滑な実施
【表題】障害者総合福祉法を補完する基金事業
【結論】
○ 障害者総合福祉法を円滑に推進し、その実効性を高めるために必要な事業であって、報酬体系に組み込むことが困難なものについては新たに基金を創設し、基金事業として実施する。
【説明】
現行の基金事業の成果を検証するとともにその位置付けを見直し、障害者総合福祉法を補完する上で有効な事業は、継続あるいは創設する。
例えば、施設、病院からの地域生活移行や、親元からの地域生活移行を推進するための基盤整備事業は重要である。具体的には、入所施設定員や精神科病院の病床数の削減を伴って地域生活への定着を支援する事業や、入所施設を事業転換して地域生活を支援する先駆的な事業所への支援などが考えられる。利用者個人に対しては、現行の「地域移行支度経費支援事業」(入所、精神科病院から地域生活への移行を促進するため、地域での生活において必要となる物品の購入について、一人当たり3万円の支援)のような事業が考えられる。
【表題】障害者総合福祉法の体系への移行を支援するための基金事業等
【結論】
○ 障害者自立支援法に基づく事業体系から障害者総合福祉法に基づく支援体系への移行を円滑に推進するために十分な経過措置期間を設けるとともに、利用者と事業者双方を支援する基金事業を設ける。
○ 都道府県が実施する基金事業と市町村が実施する基金事業を設ける。
○ 基金事業の期間は2段階とする。
@法成立時から法施行時まで
A法施行時から5年間
【説明】
障害者自立支援法への移行に関しては様々な基金事業が実施され一定の成果があったが、基金事業のメニューの選択は都道府県に任せたため、都道府県格差が生じた。こうした点を踏まえ、障害者総合福祉法の支援体系への移行に当たっては、基盤整備のような全国共通の事業は格差が出ないようにする。
この基金事業は、都道府県、市町村及び事業所が障害者総合福祉法への移行を円滑に行うことを支援するためのものであり、その領域は市町村の体制整備も含む自治体支援、就労支援、相談支援、権利擁護、人材養成・研修等の幅広い分野にわたる。
この基金事業は@法成立時から法施行時まで、A法施行時から5年間の二期に分けて実施する。
U−4 財政のあり方
(1) 障害福祉予算
【表題】積算の根拠となるデータの把握
【結論】
○ 国は、従来の障害者の定義にとらわれずに、公的支援を必要とするとするすべての障害者の実数、生活実態(世帯状況、就業状況、収入、障害に伴う支出等)、市区町村ごとの障害関連の社会資源の実態を把握し、予算措置に必要な基礎データを把握すべきである。
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【説明】
本来であれば、障害者総合福祉法についての骨格提言にあたり、あわせて財政面の積算(予算規模の推計)を行なうべきかも知れない。しかし、そのためには基礎的なデータが余りにも不足している。例えば、知的障害者やいわゆる谷間の状態に置かれている障害者の実数(知的障害者については、国際比較などからみて発表されている数値を疑問視する見解が少なくない)、障害者の生活実態(世帯状況、就業状況、収入、障害に伴う支出等)、また市区町村ごとの障害関連の社会資源の実態(事業種類別の設置数等)などについても正確な数値は公表されていない。したがって、国は、障害に関連した予算措置に必要な基礎データを把握すべきである
【表題】財政についての基本的な視点
【結論】
○ 障害関連の財政規模については、OECD加盟国の平均値並みの水準を確保すること。
○ 財政における地域間格差の是正を図り、その調整の仕組みを設けること。
○ 財政設計にあたっては、一般施策での予算化を追求すること。
○ 障害者施策の推進と経済効果等の関連を客観的に推し量ること。
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【説明】
積算作業の前提として、また制定後の障害者総合福祉法がより実質的で効力のある法律となるために、財政面でとくに留意すべき4つの視点がある。
1.障害関連の財政規模については、OECD加盟国の平均値並みの水準を確保すること。
障害者福祉の予算水準のあり方を考える上で、参考になるのがOECD諸国との比較である。
地域生活をささえる支援サービスの予算規模(障害者に対する現物給付。ほぼ障害者自立支援法によるサービス費用に相当)について、OECD諸国の対GDP比平均を計算したところ、0.392%(小数点第4位を四捨五入)であった(OECD SOCX2010。平成19(2007)年データ。34カ国のうち、データなしのアメリカ・カナダを除く32カ国を集計)。
ところが、日本は0.198%(1兆1138億円に相当)であり、OECD諸国のなかで第18位であった。これを平均値並み(GDPの0.392%)に引きあげるには、GDP比0.193%(約1兆857億円)の増額が必要であり、総計で現在の約2倍に当たる2兆2,051億円となる。また10位(0.520%)以内では約2.6倍に当たる2兆9,251億円となる。(平成19(2007)年の日本のGDP総額は562兆5,200億円)。
以上のデータから見ても、日本の障害者福祉予算の水準は、OECD諸国に比して極めて低水準であり、少なくともこれをOECD加盟国の平均値並みの水準に引き上げることが求められるが、その際、支出・給付面と国民負担率等の負担面を合わせて総合的に検討を行うべきである。
2.財政における地域間格差の是正を図り、その調整の仕組みを設けること。
障害者が障害のない人と分け隔てられることのない平等な地域生活を営むためには、市区町村を中心とする地方自治体において、最低限の社会資源を確保できるだけの財政力の担保が必要である。財政力に大きな開きがあるなか、現行の国庫負担基準については、結果的に施策水準の自治体間格差を助長するものとなり(基準を超えることに対応できる自治体とそうでない自治体との格差が顕在化)、また社会資源の地域偏在も目に余るものがある。
国は、ナショナルミニマムの保障という観点から都道府県並びに市町村が実質的に地域主権を発揮し、その責務を果たせるだけの財源を安定的に確保するとともに、財政の調整を図る仕組みを設けるべきである。
3.財政設計にあたっては、一般施策での予算化を追求すること。
従来、障害者に対する財政は、いわゆる特別枠の設定という形でこれが進められてきた。例えば、障害者自立支援法に伴う予算に関しては、自立支援医療から障害児関連施策、福祉的就労等に至るまで、そのすべてが障害者自立支援法関連予算という枠組みで編成されている。特別枠の膨張は予算獲得の戦略上、決して有利な条件とは言えず、他方、ユニバーサル政策の潮流からみても障害者の福祉施策に関する予算を特別の枠で設定することは好ましい形とは言い難い。
医療、障害児、住宅、就労に関連する施策の予算については、できる限り国民一般の施策に参入することを追求すべきである。
4.障害者施策の推進と経済効果等の関連を客観的に推し量ること
障害者の福祉施策関連予算については、決して一方的な消費だけではなく、高齢者や子どもの支援策と合わせて、それ自体が地域の経済効果に波及するという見解が示されつつある。企業以上に全国規模で満遍なく設置の可能性が大きい事業所は障害者等の事業所であり、いわゆる雇用創出の観点からだけでも有効性が期待される。
また、経済面の波及効果だけではなく、偏見や無理解が根深い障害分野にあって、障害関連の事業所の存在そのものが地域住民に対する啓発効果や教育効果をもたらすことになろう。障害分野への財政支出は、地域のあり方や社会のあり方にもポジティブな影響をもたらすのだということを押さえるべきである。なお、これらに関する記述は、すでに厚生労働白書(平成22(2010)年版、156頁)においてもなされている。
【表題】障害者福祉予算の漸進的な拡充
【結論】
○ 障害者福祉予算の拡充が必要である。
○ 予算の引き上げに際しては、障害者総合福祉法の施行に伴うサービス利用対象者の増加状況と福祉サービスの拡充を踏まえ、目標達成年次を定めて漸次的に推進する。
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【説明】
我が国は世界的にも突出した財政赤字を抱え、大震災からの復興・再生にも多額の費用が必要とされている。さらに、世界でも類を見ない少子高齢化社会を迎えている。当然、それを支える年金、医療、福祉等の社会保障制度のあり方とその財源確保は、我が国にとって大きな課題となっている。
障害者施策に係る制度並びに予算の問題は、これらと切り離して検討することは困難である。
したがって、障害者施策への予算配分の強化については、国民の理解を得る取り組みが重要と考える。特に、現行の障害者施策における質的充実に係る大幅な予算の拡充を求める場合は、医療や年金、福祉等を含めた社会保障全般との関連のなかでの取組みによって、漸進的に進めていくことが適当である。
(2) 支援ガイドラインに基づく協議調整による支給決定の実現可能性
【表題】支援ガイドラインに基づく協議調整による支給決定の実現可能性
【結論】
○ 支援ガイドラインに基づく協議調整による支給決定は、財政的にも実現可能である。
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【説明】
支援ガイドラインに基づく協議調整モデルにおける費用につき、全国に先駆けて、平成15年度支援費制度の時点でガイドライン(*)に基づく支給決定方式を採用した二つの自治体(A市、B市。この内、A市は重症心身障害児者の地域生活モデルをガイドラインに組み込んでいる)の予算措置から見ても、支援ガイドラインに基づく協議調整による支給決定は、財政的にも実現可能である。
両市のガイドラインは、行政と障害者・家族、支援関係者の合議の下で策定されるため、これに基づく協議調整を経て支給決定された支援内容は、障害者本人や家族の満足度も高い。そのため、本骨格提言では障害者自立支援法の障害程度区分に代わる新たな支給決定の仕組みとしてこれに着目し、「支援ガイドライン」に基づく協議調整による支給決定を提案している(「T−3選択と決定(支給決定)」参照)。
A市、B市における人口に占める手帳所持者の割合は、A市は4.01%、B市は6.21%である(全国平均は5.07%)。手帳所持者のうち区分認定を受けた者の割合は、全国平均3.68%に対して、A市は9.36%、B市は14.59%といずれもかなり高い。にもかかわらず、平成21年度の資料によれば、A市は障害福祉サービスに関する財政支出が全国平均の1.03倍、B市は1.15倍とほぼ全国平均にとどまっている。
さらに重度障害者の地域生活支援の一つの指標となる重度訪問介護についてみると、A市は全国平均の3倍、B市は7.5倍の利用者がおり、A市の障害福祉サービス費全体の19.5%、B市の障害福祉サービス費全体の19%を占めており、重度訪問介護の利用が、全国平均の数倍となっている。それにもかかわらず、総費用が全国平均程度にとどまっているのは、A市・B市ともに、訪問系サービスの利用が全国平均を超えている一方、単価の高い旧施設入所系サービスの利用が少ないことがデータ分析からは推察される。
支援ガイドラインに基づく協議調整モデルでは費用が青天井になるので障害程度区分は必要だという主張があるが、A市では、支援費の開始に合わせてガイドラインをホームページ等に公表したこともあり、初期には利用者の増加がみられたが、次第にガイドラインに基づく協議調整が有効に機能して、総利用量は平準化している。
現在の漸増分は、他自治体からの移動などによるものと思われる。
すべての自治体が、一定以上の支援ガイドラインに基づく協議調整を行うようになれば、徐々にその問題も減少すると思われる。
以上の通り、公開されている限定された資料から見てもA市やB市の支援ガイドラインに基づく協議調整は、アメリカ・カナダ・イギリス・スウェーデン等税方式でサービス支給決定を行っている国々で一般的であるだけでなく、わが国においても実行可能で、それほど多額の費用を要することなく、かつ区分認定にかかる費用も負担等も省略できるものと考えられる。
さらに、このモデルは地域移行の促進と地域生活の充実に寄与すると考えられ、障害者権利条約の批准の方向性にも合致するものと思われる。
(なお、本稿で用いたデータは、国民健康保険団体連合会にデータが上がる障害福祉サービス費の比較のみで、自立支援医療、補装具、地域生活支援事業、市の補助事業や、生活保護の介護扶助の利用等については検討されていない。)
(*)A市、B市においてこれまで採用されてきたガイドラインを本稿では一括して「ガイドライン」と記す。このガイドラインに着目して、本骨格提言で提案しているものを「支援ガイドライン」と呼ぶことにする。
(3) 長時間介助等の地域生活支援のための財源措置
【表題】長時間介助等の地域生活支援のための財源措置
【結論】
○ 国は、長時間介助に必要な財源を確保する。
○ 地域移行者や地域生活をする重度者に関する支援サービスに関して、他の支援サービスの場合における負担と支給決定のあり方とは、異なる仕組みを導入する。
○ 国は、地方自治体が、国庫負担基準を事実上のサービスの上限としない仕組みを財源的に担保するとともに、地方公共団体の財源負担に対する十分な地方財政措置を講じる。
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【説明】
どんなに重度の障害者であっても、障害者権利条約第19条の「他の者と平等な選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利」を実現することが求められる。長時間介助も、その人の障害特性やニーズ、医療的ケアの必要度等に応じて、日中の介助のみが必要な人から、24時間のパーソナルアシスタンスが必要な人まで、必要とされる介助内容は様々である。ただ、どんなに重度の障害者でも、またどこに住んでいても、地域社会で暮らす権利が満たされる為に必要な支援量は提供されるべきである。上記を満たし、各人のニーズに応じた支援が適切に届けられるために、財源を確保して支援することが必要である。
地域移行者の中には、出身自治体と居住自治体が分かれているケースが少なくない。住民票がある住所では地域生活が出来なかったため、入所施設や病院に長期間、社会的に入院・入所している、という住民票住所と実際の居住地が異なるケースなどである。こういう人が地域移行した場合、移行先が住所地となるため、施設や病院に近い自治体、あるいは重度者の地域移行を先進的に進めてきた自治体は、過剰な負担を強いられる可能性がある。これが、地域移行を阻害する要因の一つでもある。
そこで、施設・病院から地域移行する人や親元から独立して別市町村で暮らす障害者については、出身自治体が一定年度の財政負担(恒久的かどうかは検討)をした上で、居住自治体での支給決定をすることも検討してはどうか。例えば、入所施設や病院への入院・入所者の地域生活移行等を促進するため、居住地と出身地で費用を負担してはどうか。(下図参照)
ただし、入所施設やグループホーム、ケアホーム利用者の自立支援給付についての現行の居住地特例は当面継続しつつ課題を整理し、施設・病院等から地域移行する人等の扱いと併せて、そのあり方を慎重に検討することが必要である。
また、現状では国庫負担基準という形で実質的な予算上限を設定しているため、少なからぬ自治体が、国庫負担基準を事実上のサービス上限としている。はじめに予算ありき、ではなく、まずは障害者のニーズを中心に検討すべきである。そのニーズを積み上げる形で、必要な支給決定がなされる必要がある。障害者総合福祉法においては、障害者の実態とニーズに合わせ、「地域で暮らす権利」を保障するための財源を確保すべきである。
したがって、国庫負担基準については次のような考え方が考慮されるべきである。
(1) 地域で生活をする重度の障害者について、現行の国庫負担基準以上の負担は国の負担とすることを原則とする。ただ、そのことが無理な場合、例えば都道府県での基金化も含め市町村負担を大幅に引き下げる対応を考えるべきである。
(2) ホームヘルプについては、8時間を超える支給決定をする場合は、8時間を超える部分の市町村負担は5%程度に下げ、都道府県が45%を負担し、8時間以内の支給決定をする場合および8時間以上の支給決定の場合の8時間分については、市町村負担を26%とし、都道府県負担の1%を確保して使うようにする案を提示した。(下図参照)
なお、ホームヘルプにかかる国の負担割合は現行5割であるが、地域格差なく、必要とされるサービス提供が保障されるためには、現行以上の国の負担割合を検討すべきである。
上記の図で8時間を境にしている理由は、重度訪問介護の区分6の国庫負担基準が約40万円で、月212時間程度の単価となり、1日当たり7時間超であることから、8時間を境にしている。
V 関連する他の法律や分野との関係
V−1 医療
医療合同作業チームでは、障害者の医療をめぐる現状を踏まえつつ、障害者は保護の対象ではなく権利の主体であるとの考えに立ち、障害当事者の経験に即した視点から、諸課題への解決策につながるよう、制度の在り方につき検討を行った。(第1期(平成22(2010)年10月〜12月)には精神医療を中心に、第2期(平成23(2011)年1月〜6月)には、障害の種別を問わず、障害者の生活を支える地域医療を主題として検討)
【表題】「地域における障害者の生活を支える医療」の実現に向けた理念と制度基盤の構築
【結論】
○ 障害者が地域で暮らし社会参加できるようにするためには、適切な医療の提供が不可欠である。医療は、福祉サービス及び保健サービスとの有機的連携を確保しながら提供される必要があるという、障害者総合福祉法の理念は医療保健の分野にかかる法律においても確立されるべきである。
○ また、包括的なサービス提供の基盤となるものとして、個々の障害者に対する相談支援の際、当該障害者の福祉・保健・医療にわたるニーズに合った総合的な相談支援が自己決定への支援と一体的に提供されることが必要である。このような本人の希望を踏まえた総合的な支援が障害者総合福祉法のみならず、医療保健の分野にかかる法律においても実施できるよう、制度基盤の構築が有機的連携の下になされなければならない。
【説明】
障害者に対する医療は、疾病に対する治療を提供する医療(医学モデルに基づく医療)とは在るべき姿を異にする。医学モデルではなく個々の障害者の生活の状況を基盤として、日常生活を支える不可欠のサービスとして、医療が、保健、福祉、生活支援のサービスと有機的連携を確保しつつ提供されることが重要である。このような観点から、障害者に対する地域医療をさらに向上発展させていくための理念と制度基盤の構築が、障害者総合福祉法のみならず医療法、地域保健法等の関係法令のもとでも必要である。
【表題】障害者の医療費公費負担制度の見直し
【結論】
○ 障害者の医療費公費負担制度の見直しに際しては、現行の自立支援医療制度のみならず、特定疾患治療研究事業、小児慢性特定疾患治療研究事業、高額療養費制度、都道府県の重度心身障害児者医療費助成制度等を総合的に検討の対象とする必要がある。
【説明】
地域で生活する障害者は、障害の種類にもよるが、外来等により反復継続して医療を受ける必要がある場合が多く、その経済的負担は本人の負担能力に比して過重となりやすい。また、必要な医療が適時的確に受けられるようにすることは障害の重度化を予防する観点からも重要であり、経済的負担の過重感からこれが妨げられることがあってはならない。こうした観点から、自立支援医療のみならず、様々な医療費公費負担制度に基づき講じられている負担軽減の仕組みを総合的に検討していく必要がある。
難病等の慢性疾患患者の多くは長期にわたる医療費に加えて、遠方の専門医療機関への通院交通費等の経済的負担が重く、緊急な対応が必要である。
【表題】医療的ケアの担い手の確保
【結論】
○ 重度の障害者の地域生活を支援するため、日常的に必要となる医療的ケアの担い手を増やしていく必要があり、介護職員等に関する法令上の規定の整備や医療関連職種に関する法令との調整が必要である。
○ また、障害者の高齢化に伴い、医療的ケアを必要とする人が増えることからも、その担い手を増やしていく必要がある。
○ その際、介護職員等が不特定多数の対象者へ当該医療的ケアを行う場合(入所施設でのケア等)と、担い手が個別的に特定の対象者へ特定のケアを行う場合(学校や在宅でのケア等)を区別し、それぞれに相応した柔軟な実施体制の整備が図られるべき。
【説明】
平成23(2011)年の社会福祉士法及び介護福祉士法の改正により、平成24(2012)年度から、たんの吸引と経管栄養について、看護師等だけでなく、一定の研修を受けた介護職員等も行うことができるようになった。
研修受講の便宜を図りつつ、これらの医療的ケアを担う介護職員等を増やしていくとともに、医療的ケアを日常的に必要とするより多くの障害者が地域で円滑に生活を送れるよう介護職員等が実施できる医療的ケアの範囲をさらに拡大することも検討する必要がある。
【表題】重度身体障害児者、重症心身障害児者の医療と地域生活
【結論】
○ 重度身体障害児者や重症心身障害児者にとっては、障害者総合福祉法による長時間介助サービスと相まって、地域生活を送るうえでのニーズに即した医療サービスが身近なところで受けられる体制と、日常的な医療的ケアが日頃介助している介助者によって行いうる体制を構築することが必要である。同時に、ショートステイも含めた施設への入院・入所機能の確保も重要である。
【説明】
障害が重度であっても、地域で生活できるよう支援を講じていくことが重要である。このためには、長時間介助サービスの提供と相まって、日常的な医療の提供が確保されること、また、生命と生活のセーフティネットとしての施設機能が確保されることが重要であり、そのような体制を充実させるための関係法令の整備が必要となる。
【表題】難病等のある障害者の医療と地域生活
【結論】
○ 難病その他の希少疾患等のある障害者にとっては、身近なところで専門性のある医療を受けることができる体制及び医療を受けながら働き続けることのできる就労環境が求められ、このための法令の整備が必要である。
○ 難病等について検討する会を設置するものとする。
【説明】
難病等のある障害者について、概念整理を進める必要があるが、難治性慢性疾患のある人も含むよう幅広くとらえ、それらの人に対しては障害者総合福祉法にもとづく生活支援が講じられるとともに、医療及び就労分野の法令において、医療を受けながら地域生活、特に働き続けることができる環境の整備について規定していくことが必要である。
新たに設置する難病等について検討する会においては、上記項目をはじめ、特定疾患治療研究事業の対象疾患や難治性疾患の研究のあり方、小児慢性特定疾患のキャリーオーバーの検討、「長期高額医療の高額療養費の見直し」等の議論を踏まえつつ、検討を行うものとする。
【表題】精神障害者の医療と地域生活
【結論】
○ 精神障害者にとっては、障害者総合福祉法において、安心して地域社会で自立した生活を送るための生活支援や相談支援が求められるが、医療の分野においては福祉サービスと連携しつつ、地域の身近なところで必要な通院医療や訪問診療を受けられる体制が求められる。なお、総合病院における精神科の設置が求められる。
○ 精神障害者が調子を崩したとき、家族との関係が一時的に悪化したとき等に、入所・入院ではなく精神障害者自身の選択及び医学的判断で利用可能なドロップインセンター(自立訓練等の提供とともに、安心して駆け込み、身をおける居場所としての機能も併せ持つシェルター)として、必要時にすぐに使えるレスパイトやショートステイが必要である。その際、障害程度区分に依らず使える仕組みとすることが必要である。
【説明】
地域移行、支給決定、相談支援の項におけるセンターの機能は、この項とも密接に関係する。(※ なお、人権保障の観点からの社会的入院の解消、地域移行等については、別項で記述する。)
【表題】発達障害者の医療と地域生活
【結論】
○ 発達障害者にとって、地域で生活できるためには、障害者総合福祉法に基づく生活支援とともに、身近なところで専門的な治療を受けられる体制の確立・整備が求められる。
【説明】
特に、発達障害の診断・治療に係る指針等を普及させ、これらを担う能力を十分に備えた医師等の医療従事者を増やすことにより、医療の質を上げる(不必要な投薬を避け、適切な支援を提供する)体制の確立・整備が求められる。
【表題】精神障害者に係る非自発的入院や入院中の行動制限
【結論】
○ 関係する法律(精神保健福祉法、医療法等)を抜本的に見直し、以下の事項を盛り込むべきである。
・ 精神障害者が地域社会で自立(自律)した生活を営むことができるよう、権利の保障を踏まえた規定を整備することにより、いわゆる社会的入院を解消すること
・ 非自発的な入院や入院中の行動制限については、人権制約を伴うものであることから、本人の意に反した又は本人の意思を確認することができない状況下での適正な手続に係る規定とともに、医療内容に踏み込んだ人権保障の観点から第三者機関による監視及び個人救済を含む適切な運用がなされることを担保する規定を整備すること
・ その際、第三者機関の必要経費は、国庫が負担すること
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【説明】
精神科病院への入院や医療の提供は、原則、本人の自由な意思に基づいて行われるべきであり、これは自己決定権という基本的人権の一つである。やむを得ず非自発的入院や入院中の行動制限が行われる場合においては、この基本的人権の手続的な保障としての障害のない人との平等を基礎とした実効性のある適正手続が確保されるよう法制度の整備が必要である。
【表題】入院中の精神障害者の権利擁護
【結論】
○ 精神科病院における権利擁護については、障害者総合福祉法における第三者の訪問による権利擁護制度と連携協力する観点から、精神保健福祉法の見直しの課題として、入院中の精神障害者も含む精神科病院における権利擁護を定着させるための制度(例えばオンブズパーソン制度)を位置づける必要がある。
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【説明】
精神科病院の入院者については、現行の精神保健福祉法においては精神医療審査会があるが、現状では種々の問題を有しており、機能していない。そのため、入院中の精神障害者も含む精神科病院における権利擁護を定着させるための制度(例えばオンブズパーソン制度)が必要になっている。大阪府では、精神科病院に市民が訪問し、利用者の声をもとに処遇や療養環境の向上を目指す精神医療オンブズマンが制度(現在の療養環境サポーター活動 )として取り組まれている。
【表題】精神障害者に対する精神医療の質の向上
【結論】
○ 精神障害者の入院ニーズを精査し、国並びに都道府県は精神科病床の削減計画を立て、入院に代わる地域医療の体制を構築することが必要である。
○ 医師や看護師等の精神医療に充てる人員の標準並びに診療報酬を一般医療より少なく設定している現行の基準を改め、適正な病床数と必要な人員を配置し、精神医療の質を向上するための根拠となる規定を設ける必要がある。
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【説明】
推定で7万人と言われている、いわゆる「社会的入院」を解消するためには、
入院に代わる地域医療の体制の構築は不可欠であり、これは地域移行、資源整備の項における計画とも密接に関連する。
精神医療の提供に当たっては、一般医療と同様、インフォームドコンセントを得るという原則を徹底するとともに、身体拘束や閉鎖空間での処遇等の行動制限を極小化するべきであり、そのためにも、地域医療の体制の構築と精神医療の質を向上するための根拠となる規定を設けることが必要である。
【表題】保護者制度
【結論】
○ 保護者制度の問題点を解消するために、扶養義務者等に代わる人権擁護制度の確立を検討すべきである。
【説明】
医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」の問題点を解消するために、自らの判断と選択による医療の利用が保障されるべきことを確認するとともに、非自発的入院に関し、障害者権利条約の求める人権擁護の観点から新たな仕組みを検討し、その仕組みの導入に伴い保護者制度は廃止する。
【表題】障害を理由とした医療提供の拒否の禁止
【結論】
○ 障害者、特に精神障害者の身体疾患合併症に対しては、一般病院において入院治療は可能であるにもかかわらず、実際の医療現場では障害者、特に精神障害者であるとの理由で身体的治療を拒否されることが多い。よって、全ての障害者を対象とした「障害を理由とした医療提供の拒否」を禁止するよう制度を改正し、医療法施行規則第10条3項についても廃止を検討する。
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【説明】
精神障害者が精神疾患を持ちながら地域で生活するには、一般病院を含め身近なところで通院や往診などを受診できることが重要となる。特に身体疾患合併症に対しては「障害を理由とした医療提供の拒否」はあってはならず、このことは精神障害者にのみならず障害者全般に関わる重要課題である。その際、精神疾患の治療の場を他疾患と同様に一般医療の中に組み込み精神科医療へのアクセスをよくすることは、再発予防や早期発見につながるため医療法施行規則第10条3項についても廃止の検討が必要である。
【表題】障害者に対する歯科保健・歯科医療の充実
【結論】
○ 障害者、特にアテトーゼや行動障害を伴う障害者に対し、身近なところで歯科保健サービス及び歯科医療を提供する体制の整備・充実のため、院内で治療できるよう、物的設備の整備支援、歯科医師等に対する障害に関する研修、訪問治療等につき、医療法等の関連法令の規定の見直しが必要である。
【説明】
障害者にとって、歯科治療を円滑に受けることが困難な状況が依然として存在する。歯科医療及び予防は、障害者にとって、健康保持、学習発達(特に障害児)、生活機能の回復向上に重要であり、現状の改善が不可欠である。
V−2 障害児
障害児合同作業チームは「障害者制度改革の推進のための基本的な方向性について」(平成22(2010)年6月29日閣議決定)で示された次の2点について、論点整理をした。
・地域の身近なところで提供されるべき障害児やその保護者に対する相談支援と療育等の在り方について
・障害児への支援が、利用しやすい形で提供されるための具体的方策について
1. 児童福祉法関係
【表題】権利擁護
【結論】
○ 障害児を含むすべての子どもの基本的権利を保障する仕組みの創設が望まれることから、児童福祉法でオンブズパーソンを制度化するよう、現行法に基づく権利擁護システムの検証を引き続き進め、社会保障審議会児童部会に検討の場を設け、制度の在り方について検討を進めるべきである。
【説明】
子どもは、児童福祉法に規定されている理念を踏まえ、ひとしく愛護されなければならないことはもとより、権利の主体とされなければならない。
障害の有無や程度にかかわらずすべての子どものための権利擁護の仕組みを市町村に設けるために、オンブズパーソンを、国連の児童の権利に関する委員会の勧告(CRC/C/JPN/CO/3,
2010.6.)を踏まえ、児童福祉法での制度化を目指して検討の場を設けるべきである。
障害児は、契約当事者が保護者であり、特に、施設への入所については家庭生活を奪われることにもなるため、子どもの視点から最善の利益を保障できる権利擁護の仕組みが必要である。既に自治体で取組まれている先行事例等もあることから、社会保障審議会児童部会で検討を進め、オンブズパーソンの制度化を図るべきである。
【表題】早期支援
【結論】
○ 母子保健法に基づく障害の早期発見を、保健指導や医療の保障にとどまらず、障害児が地域の子どもとしての育ちを保障されるよう、児童福祉法の子育て支援事業と連携し実施するべきである。
○ 健康診査等による要支援児に対しては、家庭への訪問・巡回等、家庭での育児支援や児童一般施策の活用を基本的な在り方とし、児童及び保護者の意思に基づいて、児童発達支援センター、医療機関及び入所施設等を活用できるよう児童福祉法に定める必要がある。
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【説明】
母子保健法は、学校保健安全法、児童福祉法等に基づく事業と協調するよう規定されているが、現状は、障害の発見から療育や特別支援教育へと「特別な支援過程」につながるだけのことが多い。障害の発見を地域の子育て支援、さらに地域の学校への就学につなぐことの出来る制度設計が必要である。
【表題】障害を理由に制限されない一般児童施策
【結論】
○ 児童福祉法の保育所の入所要件には、障害を理由に利用を制限する規定がないことを踏まえ、今後の「総合施設(仮称)」及び「こども園給付(仮称)」の制度化において、障害児の入園が拒否されないように応諾義務を課す必要がある。また、必要な支援が確保されるよう、必要な規定を児童福祉法、「総合施設法(仮称)」及び「こども園給付(仮称)」に係る新法に設ける必要がある。
○ 障害児が、児童福祉法の放課後児童クラブへの参加を希望する場合には、障害を理由に拒否されるべきではない。また、指導員の加配や医療的ケアを必要とする子どもには看護師の配置や移動支援等、必要な支援が講じられるべきである。
【説明】
児童一般施策と障害児施策の両方があることによって、障害児が児童一般施策を利用しにくい、あるいは利用できないということがないようにするべきである。
子ども・子育て新システムの「子ども・子育て会議(仮称)」や「新システム事業計画(仮称)」等も、上記の理念の下に検討が進められるよう障害児、家族及び支援者が参画し、障害を理由に利用が拒否されないよう、かつ、必要な支援が確保されるよう児童福祉法、「総合施設法(仮称)」及び「こども園給付(仮称)」が制度化されるべきである。
放課後児童クラブについても、同様に整備されるべきである。
【表題】療育
【結論】
○ 障害者基本法の「可能な限りその身近な場所において療育その他これに関連する支援を受けられるようにするため」の規定を踏まえ、児童福祉法の療育の規定を整理するべきである。
○ 地域社会の身近な場所において専門性の高い療育(障害児に対する発達支援、育児支援、相談支援及び医療的支援)を利用できるように、児童福祉法の見直しを行う必要がある。
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【説明】
障害児の個々の特性を踏まえた専門性の高い療育を身近な地域で得られるようにすべきである。児童福祉法に「療育の指導等」が規定されているが、規定の仕方が狭いため、地域社会の身近な場所で、思春期までの継続した療育が利用できるように整理すべきである。
【表題】通所による支援
【結論】
○ 児童発達支援センターは、地域の障害児を受け入れ、専門的療育を行うのみならず、積極的に地域に出向いて、家庭や児童クラブ等で障害児支援を行うことができるよう児童福祉法の必要な見直しを行うことが必要である。
○ 地域における障害児支援の機能強化を促進するために、保育所等訪問支援事業、巡回支援専門員整備事業及び障害児等療育支援事業の拡充を図るとともに、障害児支援の専門性を相互に提供し合えるようにするべきである。そのために、保育所等訪問支援事業の対象に児童発達支援事業および同センターも加えることが求められる。
○ 児童発達支援センターは、様々なニーズのある障害児に対応できる職員配置基準が必要であるため、保育士及び児童指導員に加え、看護師や療法士等の専門職を適正に配置できるようにする。
【説明】
障害児が地域の身近な場所で、必要な支援が利用できるようにするためには、
児童発達支援センター等の機能強化が必要になっている。とりわけ、人口過疎地域においては、深刻な課題である。機能強化のために、児童発達支援センターが地域に出向いて支援を行えるようにすべきである。また、これまで障害児通園施設が障害種別に分かれて培ってきた「専門性」を、他の児童発達支援センターや放課後等デイサービス事業所等に提供して相互のレベルアップを図ることに加え、福祉型センターには看護師や療法士等を、医療型センターには保育士等の必要な職員を確保して発達支援機能を向上させるべきである。
【表題】障害児入所支援
【結論】
○ 障害児の自立生活にむけて、「自立支援計画」の策定を障害児入所施設に義務付けること。その根拠規定を児童福祉法、児童福祉施設最低基準に設け、運営ガイドラインを整備するべきである。
○ 入所時、入所後であっても、地域の子どもとして意識されるよう、児童相談所等に加え、市町村も関与できるようにすべきである。
○ 地域生活への移行にあたっては、在宅生活が可能となるよう地域資源を整備し、家庭に帰れない場合でも、障害児専門の里親制度の拡充や障害児を対象とするファミリーホーム等、できるだけ家庭に近い養育環境を整備すべきである。また障害児入所施設の小規模化やユニット化を促進することが求められる。
○ 新生児集中治療室(NICU)から在宅生活への移行において、障害が発見された直後の親に対するカウンセリングや、養育指導等の移行支援を担っている医療型障害児入所施設の母子入園支援は、有効であることから、これを拡充するべきである。
○ 入所施設は、社会資源の一つとして、保育所を含む地域機関や家庭への訪問、巡回型の支援が行えるようにし、すべての障害児入所施設にショートステイ枠を増設するべきである。
【説明】
児童養護施設等に義務付けられている自立支援計画は、障害児入所施設には義務付けられていない。障害児入所施設に、児童相談所等との協議にもとづき将来の自立生活に向けた「自立支援計画」の策定を義務化するべきである。地域の子どもとして育つことができるよう、市町村も入所決定等で関与できるようにし、長期休暇等のように自宅で過ごす際に、措置で入所した子どもであっても居宅サービス等、必要なサービスを利用できるようにすべきである。
入所施設は、小規模化し、できるだけ家庭に近い環境で養育できるよう整備するべきである。そのために、地域移行が可能となるようショートステイ枠の創設やファミリーホーム等の環境整備が必要である。
【表題】地域の身近な場所での相談支援体制
【結論】
○ 相談支援は、障害が特定されない時期から、身近な地域の通いやすい場で提供されるようにすべきである。障害児に固有のサービスと児童一般施策との併行利用に当たっては、相談支援事業者でのサービス利用の手続を簡素化し、本人・保護者の同意に基づいて福祉サービスの代理申請を可能にすることなど、障害児と家族のための利便のためのワンストップ化を進めることが求められる。
○ 地域子育て支援拠点事業に、専門的な研修を受けた相談支援員を職員として配置し、障害児相談支援事業所と連携を図ることが必要である。
【説明】
相談支援は、地域の身近な場所においてワンストップ型で提供されなければならない。相談支援事業者でのサービス利用の手続の簡素化が必要である。また、障害児に関する相談に対応できる職員の養成が必要である。
【表題】ケアマネジメントと「個別支援計画」
【結論】
○ 「個別支援計画」は、障害児・家族にとって身近な地域における支援を利用しやすくするため、福祉、教育、医療等の利用するサービスを一つの計画として障害児相談支援事業所が策定するべきである。6カ月程度の適当な期間で見直され、中期・長期的な見通しをもちつつ、支援の調整、改善が図られケアマネジメントされるよう児童福祉法の必要な見直しを行うことが求められる。
○ 「個別支援計画は、必要とする支援を受けつつ、障害児が意思(自己)決定したものに基づき、策定されるべきである。個別支援計画に障害児の意見表明の欄を設け、被虐待児童の場合を除き、保護者の同意なくしては実行できない仕組みの構築が求められる。
○ 乳幼児期の「個別支援計画」は、保護者・きょうだいへの支援を含むものとして策定されるべきである。
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【説明】
障害児に対するケアマネジメントは、単にサービス利用計画の策定にとどまらず福祉、教育、医療等の総合的な計画として策定され、必要な期間で見直され、サービス調整を障害児及び保護者の同意のもとに行うべきである。
その際、「地域での育ち」を促進し、きょうだい支援を含めたものとするとともに、特に乳幼児期には保護者への「育児支援」を含めるべきである。
【表題】要保護児童対策地域協議会と地域生活支援協議会の連携
【結論】
○ 児童福祉法の要保護児童対策地域協議会と障害者総合福祉法の地域生活支援協議会(子ども部会)とで検討が重なる子どもについては、保護者の同意の下に合同で協議会を持てるようにすべきである。
【説明】
要保護児童対策地域協議会と地域生活支援協議会が、それぞれに障害児の検討をするのではなく、一元化すべきである。また、要保護児童対策地域協議会の構成員として、障害児福祉関係者(障害児相談支援事業所や児童発達支援事業所等)が加わり、検討できる体制を整えるべきである。
【表題】家族支援ときょうだい支援
【結論】
○ 障害児が家族の一員として、地域の子どもとして成長できるよう、児童福祉法において育児支援、家族支援を行うべきである。保育所等訪問支援事業の対象に「家庭」を加える必要がある。
○ きょうだいのグループ活動等を支援し、障害児ときょうだいが一緒に参加できる事業を児童発達支援センター等が実施できるよう児童福祉法の必要な見直しを行うべきである。
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【説明】
障害児のいる家庭の孤立化を防ぐために、保育所等訪問支援事業の訪問対象に家庭を加え、保護者への障害理解、育児支援、家族支援等を行うべきである。また、きょうだいへの支援は現在のところ事業化されていないことから、活動支援や一緒に参加できるプログラムを実施できるようにすべきである。
2.学校教育法関係
【表題】寄宿舎
【結論】
○ 特別支援学校の寄宿舎の本来の目的は通学を保障することにあり、自宅のある地域社会から分離されないよう運用されるべきである。寄宿舎の実態を調査し、地域社会への移行に向けた方策を検討する必要がある。
【説明】
寄宿舎は本来広域学区である特別支援学校への通学保障のために設置されたものであるため、学校が休みになる土・日や長期休暇は家庭に戻るように、運用されるべきである。寄宿舎については、小舎制に再編することや、ファミリーホーム等から通学できるようにすることも含め、今後の在り方を検討すべきである。手話等の習得には一定の集団形成が必要であるという指摘があることから、寄宿舎の在り方を検討する際にはこの点を考慮する必要がある。
V−3 労働と雇用
就労合同作業チームは、従来、障害者自立支援法等で規定されてきた福祉的就労を障害者総合福祉法でどのように規定するかの検討とあわせ、障害者雇用促進法等を中心としてすすめられてきた一般就労・自営施策のあり方についても検討するため設置された。委員は、障がい者制度改革推進会議構成員4名と総合福祉部会構成員6名から構成された。
本作業チームで検討した主な内容は、次のとおりである。
@ 障害者基本法に盛り込むべき就労に関する基本的事項
A 障害者総合福祉法の守備範囲(労働分野との機能分担など)
B 福祉と労働及び雇用にまたがる制度と労働者性の確保のあり方
C 就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、生産活動に取り組む生活介護事業、地域活動支援センターや小規模作業所のあり方
D 雇用率制度及び差別禁止と合理的配慮を含む、一般就労・自営のあり方
E 多様な就業の場としての社会的雇用・社会的事業所・社会支援雇用のあり方
1.障害者雇用促進法に関わる事項
【表題】雇用の質を確保するための法改正
【結論】
○ 量だけでなく質としての雇用を確保するため、障害者雇用促進法を改正し、障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、障害に基づく差別(合理的配慮の提供の拒否を含む)の禁止、職場での合理的配慮の提供を確保するための規定を設ける。障害者雇用促進法にこれらの規定を設けることが困難な場合には、それに代わる新法(労働法)で規定する。
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【説明】
障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度は、主に量としての雇用の確保を意図したものであり、障害者権利条約第27条で求められる、質としての雇用の確保を担保するものではない。
したがって、公的機関及び大企業に限らず中小の企業においても、障害者が他の者と平等な雇用条件や昇給・昇進、希望職種・業務の充足といった雇用の質が確保できるようにするために、労働の権利、障害に基づく差別(合理的配慮の提供の拒否を含む)の禁止、職場における合理的配慮の提供の確保等に関する必要な規定を設けるべきである。
【表題】雇用施策の対象とする障害者に就業上必要な支援を認定する仕組み
【結論】
○ 障害者雇用率制度に基づく雇用義務の対象を、あらゆる種類の障害者に広げると共に、それに伴って大幅な引き上げが求められる雇用率達成のため事業主への支援を拡充する必要がある。また障害者が職場で安定的に就業するための合理的配慮の提供を含む、就業上必要な支援を明らかにする総合的なアセスメントを整備する。
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【説明】
個々の障害者が具体的な就業の場においてどのような支援(合理的配慮の提供を含む)を必要とするかについて、当該障害者の就業にかかわるすべての利害関係者(障害当事者及び事業主も含む)がチームとしてアセスメントを行う仕組みを整備する必要がある。そうしたアセスメントは、状況の変化に応じた柔軟な見直しが求められる。
【表題】障害者雇用率制度および納付金制度の見直し
【結論】
○ 障害者雇用率制度の対象者の拡大に関連して、法定雇用率および納付金制度は、調査に基づいて課題と限界を検証し、法改正などに向けて必要な見直しを行うべきである。
|
【説明】
法定雇用率については、社会モデルに基づいた障害の範囲の拡大、就労系事業等への仕事の発注額等に応じて当該企業の障害者雇用率に算定する見なし雇用の制度化等を踏まえて、大幅に引き上げる方向での見直しが求められる。重度障害者を雇用した場合、1人を2人分として算定するダブルカウントについては、社会モデルに基づいた制度に見直すべきであるとの意見があった。
一方、雇用義務の対象とする障害者の範囲の見直しが先に行われるべきであることと、それに関連して、障害種別による雇用格差が解消されるような実効性のある取り組みをすべきである、という意見もあった。
障害者雇用納付金制度は、助成額の引き上げや給付期間の恒久化に加え、助成申請手続きの簡便化も必要である。また、助成金は事業主の申請により給付されるため必ずしも障害者の雇用を支えるために有効に活用されていないとの指摘がある。障害者の権利性を確立するためにも、障害者自身も申請できるようにする必要がある。
【表題】職場における合理的配慮の確保
【結論】
○ 事業主が障害者に合理的配慮を提供するのに必要な経済的・技術的支援を受けられるような仕組みとともに、合理的配慮が提供されない場合、苦情の申し立てと救済措置が受けられるような仕組みを整備する必要がある。
|
【説明】
就労系事業、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所等での合理的配慮の実践例を企業に示すことで、企業の理解を求める。合理的配慮の類型化や事例のガイドブックの整備等も企業の取組みを進める上で有効と思われる。それにあわせ、合理的配慮に係る費用負担のあり方も整理する必要がある。
また、合理的配慮が提供されない場合、障害者が苦情を申し立て、救済措置が受けられるような第三者性を確保した仕組みについては、職場内および労働審判制度の整備を含めて平成24年度内を目途に得られる差別禁止部会および労働政策審議会障害者雇用分科会での検討結果などを踏まえ、適切な措置を講じる必要がある。
2.障害者雇用促進法以外の法律にも関わる事項
【表題】就労系事業に関する試行事業(パイロット・スタディ)の実施
【結論】
○ 安定した雇用・就労に結びついていない障害者に適切な就業の機会を確保するため試行事業(パイロット・スタディ)を実施し、賃金補填や仕事の安定確保等を伴う多様な働き方の就業系事業や、就労分野における人的支援のあり方を検証する。
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【説明】
(1) パイロット・スタディの目的
現在の国の制度では、一般就労と福祉的就労しか選択肢がなく、しかも賃金(工賃)や位置づけ(労働者か利用者か)についても大きな乖離がある。そのため、両者の間に新たな選択肢をつくることや福祉的就労に労働法規を適用すること、さらには多様な働き方を保障することなど、種々の課題がある。
こうした課題を解消し障害者に適切な就業の機会を確保するため、就労分野における人的支援のあり方や、社会的雇用・社会的事業所・社会支援雇用(これらについての詳細は、就労合同作業チーム報告参照)等、賃金補填や官公需・民需の優先発注を伴う多様な働き方の制度化について実証的に検証することが、本パイロット・スタディの目的である。
(2) パイロット・スタディの対象
パイロット・スタディの対象は全国で80か所程度とし、下記のような事業所とする。
@ 最低賃金の減額特例を受けている就労継続支援A型事業所
A 最低賃金の1/4以上の工賃を支払っている就労継続支援B型事業所
B 箕面市等、地方公共団体独自で最低賃金をクリアするための補助制度を
設け、その下で運営されている事業所の他、新たに起業する事業所等。
C 滋賀県及び札幌市等、地方公共団体独自の制度として障害者と障害のな
い者がともに働く職場形態となっている事業所。
(3) パイロット・スタディでの検証事項
パイロット・スタディでの検証事項は主に以下の諸点とする。
@ 障害者自身の働く意欲への影響やともに働く障害のない者の意識の変化
A 就労分野における人的支援のあり方
B 対象とすべき障害者や事業所の要件
C 事業者が提示する賃金への影響
D 障害従業員の心身・労働能力の変化の状況
E 収益の配分とその決定の仕組み
F 事業者の生産性・付加価値引き上げの取組み
G 民間企業と就労系事業が連携する取組み
H 総合的アセスメントの仕組みなど、新たな就労系事業の制度化にあたって予想される課題の整理。
【表題】賃金補填と所得保障制度(障害基礎年金等)のあり方の検討
【結論】
○ 賃金補填の導入を考える上で、現行の所得保障制度(障害基礎年金等)との関係を整理した上で、両者を調整する仕組みを設ける。
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【説明】
就労系事業に従事する障害者が賃金補填を受ける場合、障害基礎年金等現行の所得保障制度との関係を整理した上で年金給付を賃金補填に振り替える仕組みや、賃金補填の対象となる障害者の認定の仕組み等の検討が必要となる。平成22年6月29日に閣議決定された「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」では、「障害者が地域において自立した生活を営むために必要な所得保障の在り方について、給付水準と負担の在り方も含め、平成25年常会への法案提出を予定している公的年金制度の抜本的見直しと併せて検討し、平成24年内を目途にその結論を得る。」とされる。賃金補填と所得保障制度(障害基礎年金等)の在り方についてもそれを関連づけて検討されるべきである。
なお、賃金補填の導入に当たっては、下記の点に留意する必要がある。
@ 事業者が、モラルハザードを起こし支払う賃金を引き下げる等しないよう、生産性や付加価値を高めるとともに、障害のある従業員の能力開発により賃金補填額の縮小、あるいは賃金補填がなくとも最低賃金以上の賃金を支払うことを目指すような制度設計とすること。
A 賃金補填により労働市場の賃金決定にゆがみが生まれ、障害者以外の労働者の雇用の減少が発生しないようにすること。
【表題】障害者雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開するための体制の整備
【結論】
○ 障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開しうるよう、関係行政組織を再編成するとともに、地方公共団体レベルで雇用・就労、福祉および年金等に係る総合的な相談支援窓口(ワンストップサービス)を置く。
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【説明】
現在、一般就労・自営は労働行政等、また福祉的就労は福祉行政の所管となっているが、それらを一体的に展開するには、中央レベルの行政組織を再編成するとともに、地域レベルで就労・生活支援にかかわる、ハローワーク、福祉事務所、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターおよび地方公共団体が設置する就労支援機関、地域生活支援協議会、発達障害者支援センターならびに特別支援学校等の関係機関のネットワークが有効に機能し、かつシンプルな仕組みを整備する必要がある。
また、常時介助等を必要とする障害の重い人びとも、希望する場合には、その能力を生かして働けるような就労のバリエーションを検討することも重要である。さらに、こうした関係機関ではコミュニケーションに支援が必要な障害者が利用しやすいよう、十分な配慮がなされる必要がある。
【表題】就労合同作業チームの検討課題についてフォローし、実現化をめざすための検討体制の整備
【結論】
○ 推進会議、およびそれに代わるものとして、障害者基本法に基づき新たに設置される障害者政策委員会のもとに就労部会または就労検討チームを設置して、就労系事業にかかる試行事業の検証を含む検討課題についての結論を得る。そのメンバーは経済団体、労働団体、学識経験者(労働法、労働経済学、経営学、社会保障論等の分野の専門家等)、障害当事者団体、事業者団体および地方公共団体等から構成する。
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【説明】
就労合同作業チームではきわめて広範囲にわたる、一般就労・自営および就労系事業に係る課題について検討したが、構成員の専門領域が限られていたことや検討期間および時間が短かったため、結論を得るまでには至らなかった。 したがって、推進会議、およびそれに代わるものとして、障害者基本法に基づき設置される障害者政策委員会のもとに新たにつくられる部会または検討チームには幅広い専門領域の構成員を加え、十分議論を尽くし、結論をえる。
【表題】全国民のなかでの障害者の生活実態等を明らかにする基礎資料の整備
【結論】
○ 障害の社会モデルを基礎として雇用・就労施策を検討する基礎資料をえるために、国の基幹統計調査(全国消費実態調査や国民生活基礎調査等)において障害の有無を尋ねる設問を入れた全国調査を実施する。
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【説明】
厚生労働省では、身体・知的・精神、3障害の就業実態調査や障害者雇用実態調査を行ってきているが、いずれも、手帳所持者やすでに雇用されている人等、限定された障害者集団の状況しか明らかにできない。障害ゆえに雇用・就労の機会を得がたい者は、それらの障害者以外にも数多く存在する。いわゆる制度の谷間で公的支援を受けることができない人びとを支援してこそ、障害者雇用・就労の裾野を広げることができる。
また、障害の社会モデルを基礎とした雇用・就労施策を検討する基礎資料として全国民のなかでの障害者の経済活動や生活実態を明らかにすることが重要である。そのためには、国の基幹統計調査(全国消費実態調査や国民生活基礎調査等の全国民を対象とした大規模社会調査)において、少なくとも一時点で病気や障害によって活動が一定期間以上制限されているかどうかを聞く設問を追加し、その調査結果を分析する必要がある。
V−4 その他
T−1 法の理念・目的・範囲との関連
【「能力に応じ」という表記】
○ 社会福祉法第3条は福祉サービスの基本的理念として、福祉サービスが「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援する」ためのものと規定しているが、これは能力主義を想起させ「インクルーシブな社会を目指す」という改革の趣旨とは整合しないので削除する。
【障害者手帳】
○ 障害者基本法や障害者総合福祉法における障害者の定義については、従来の考え方の転換が図られたが、障害者手帳制度に関しては、今後その在り方が慎重に検討されるべきである。
【所管省庁を横断した総合的支援】
○ 障害者施策は、障害者総合福祉法による施策のみならず、住宅、所得保障等の施策が、所管の厚生労働省はもとより、文部科学省、国土交通省、総務省、財務省、経済産業省、法務省等全ての官庁により横断的かつ有機的な連携が取られながら実施されることに特に留意が必要である。これは、都道府県や市町村レベルでも同様である。
T−4 支援(サービス)体系との関連
【公営住宅や民間賃貸住宅の活用】
○ 公営住宅の障害者優先枠を拡大する。
○ 民間賃貸住宅の一定割合を公営住宅として借り上げること、一定規模以上の民間賃貸住宅には障害者に配慮した住宅の設置を義務付けこれに公的補助を行うこと等、民間賃貸住宅への入居を進めるために必要な施策を講じる。
○ 民間賃貸住宅におけるグループホーム設置を一層促進する。
定員を4〜5名とするグループホームは、一般の住居として扱い、建築基準法等による用途変更や防火壁等の工事を必要とする等の現在の厳しい運用を見直す。
○ 事業者に対する税制の優遇(不動産取得税、固定資産税、都市計画税等の減額もしくは免除)を設けるとともに、住居提供者に対する経済的支援策や優遇策を講じる。
【一般住宅に住む障害者への家賃補助、住宅手当等】
○ 一般住宅に住む障害者への経済的支援について、家賃補助や住宅手当の創設等を含め、関係する省庁による連携の下、検討を進める。
T-5 地域移行との関連
【地域移行・地域生活の資源整備に欠かせない住宅確保の施策】
○ 長期入院を余儀なくされ、そのために住居を失う、もしくは家族と疎遠になり、住む場がない人には、民間賃貸住宅の一定割合を公営住宅として借り上げるなどの仕組みが急務である。グループホームも含め、多様な居住サービスの提供を、年次目標を提示しながら進めるべきである。
○ 保証人や緊急連絡先が確保できないために住居が確保できない入所者・入院者に対して、公的保証人制度を確立すべきである。
T−9 権利擁護との関連
【第三者の訪問による権利擁護制度と虐待防止】
○ 平成23(2011)年6月に成立した障害者虐待防止法では、都道府県や市町村は虐待を防止するために、他団体と連携協力することとされており、この連携を強化することが重要である。それには、第三者の訪問による権利擁護(オンブズパーソン)を行う団体も想定される。
○ 障害者虐待防止法では、福祉施設で働く人等が虐待を発見した時には、市町村に通報しなければならないとされている。したがって、虐待の早期発見や通報に関しても、市町村と福祉施設で働く人やオンブズパーソンの連携が重要になる。
【苦情解決機関(社会福祉法)】
○ 苦情解決制度は、現行の社会福祉法に基づく仕組みを、権利擁護の観点から抜本的に見直す。そのポイントは下記の2点である。
・都道府県社会福祉協議会に設置されている福祉サービス運営適正化委員会の下の苦情解決合議体が、苦情を受ける当事者である事業所との関係で独立性を担保されていること。
・この合議体によるあっせん、意見具申が苦情解決に当たって有効であったかを検証し、その機能を高めること。
【モニタリング機関】
○ 障害者総合福祉法の実施状況に対するモニタリングは、障害者基本法で示された国、都道府県、市町村に設置される「障害者政策委員会」あるいは「審議会その他の合議制の機関」(以下、モニタリング機関という)において行い、その結果に関する勧告を含む意見等は、国(所管省庁の大臣)に対して、または、都道府県および市町村の関係行政機関や地域の地域生活支援協議会等に報告される。
○ 市町村のモニタリング機関は、障害者総合福祉法の当該市町村(広域連合を含む)での施策展開状況や障害福祉計画の達成状況について評価・分析・問題点抽出(調査・審議)を行い、必要に応じて、当該市町村の関係行政機関をはじめ地域生活支援協議会等の関係機関や団体に対して改善の提案を行う。
なお、市町村のモニタリング機関の設置が市町村の任意となっている問題については、障害者施策の市町村格差をなくす観点から今後の課題として引きつづき検討する。
○ 都道府県のモニタリング機関は、市町村モニタリング機関から集められた全県的課題を整理した上で、その評価・分析・問題点の抽出(調査・審議)を行い、必要に応じて、当該都道府県の関係行政機関や地域生活支援協議会等の関係機関や団体に改善の提案を行う。
○ 都道府県、市町村のモニタリング機関には、実際にサービスを利用する障害当事者の参画が不可欠である。
○ 都道府県、市町村の地域生活支援協議会では、障害福祉計画の進行管理や次期計画の作成等において、モニタリング機関から提示された内容を踏まえた検討を行い、その整備水準を高めることとする。
○ 地域の全般的な課題については、障害者や相談支援機関がモニタリング機関に課題提起をすることができるようにする。
【権利擁護と差別防止】
○ 国及び地方自治体は、障害の有無にかかわらずすべての人が地域で共に安心して暮らすため、障害の理解、権利擁護や差別の防止等の必要性等の普及啓発に向けた取組みを行う。
○ 国においては、情報の提供、相談、支給決定プロセス等の福祉サービス利用全般における不利益取扱いを禁止し、差別事案が発生した時のあっせん・調整・相手方への勧告等の仕組みを法定化した差別禁止法制の制定が求められる。
○ 地方公共団体は、国の差別禁止法制を踏まえ地域の実情にふさわしい形で差別事案の解決のためのあっせん・調整・相手方への勧告等の仕組みを盛り込んだ差別禁止条例の制定が求められる。
なお、普及啓発については、権利の形成や獲得とその支援に関して、鳥取県や島根県で進められている「あいサポート運動」のような活動が参考とされるべきである。「あいサポート運動」とは、地域の理解が不可欠という考え方をもとに、障害のある人が地域の一員としていきいきと暮らすため、住民に障害の特性や障害のある人への配慮の仕方などを理解・実践してもらう運動である。平成21(2009)年より取組まれ、一般市民、障害者団体や県内外の民間企業等が“あいサポーター”として参加協力し、暮らしやすい地域社会づくりのために運動を繰り広げている。
民事法との関連
【成年後見制度】
○ 現行の成年後見制度は、権利擁護という視点から本人の身上監護に重点を置いた運用が望まれるが、その際重要なことは、改正された障害者基本法にも示された意思決定の支援として機能することであり、本人の意思を無視した代理権行使は避けなければならない。また、本人との利害相反の立場にない人の選任が望まれる。
○ 同制度については、その在り方を検討する一方、広く意思決定支援の仕組みを検討することが必要である。
○ 同制度において、被成年後見人であることが選挙権等のはく奪をもたらす欠格事由とされているなど、様々な欠格条項と関連しており、関係法の改正が検討されるべきである。
おわりに
ある社会が
その構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合
それは弱くもろい社会である
これは、昭和54(1979)年に国連総会で決議された国際障害者年行動計画の一文です。この歴史的課題の解決がなされないまま30余年を経た今、日本では、社会保障・社会福祉をはじめとする制度のほころびが各方面から指摘され「無縁社会」と称されるまでになっています。
「推進会議」と「総合福祉部会」は、「障害の有無にかかわらず国民が分け隔てられることのない共生社会」の実現とそのための制度改革を目指しています。それは、とりもなおさず、「弱くもろい社会」から、一人ひとりの存在が心より大切にされ、誰もが排除されることなく社会的に包摂される、本当に豊かな社会づくりに寄与するものであると確信しています。
地震と津波、さらには原発事故によって未曾有の被害をもたらした東日本大震災は、障害者を含む被災地の人たちにきわめて大きな困難を与えています。被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
今、日本中が協力して災害からの新生・復興をすすめ、すべての人が尊重され、安心して暮らせる社会を作ろうとしています。本骨格提言がめざす共生社会は、この新生・復興の日本社会の不可欠の一部となると信じます。障害者がその人らしく働いたり、社会活動しながら、暮らせる社会はすべての人が暮らしやすい社会でもあります。
そうした点からも、政府が本骨格提言を受け止め、障害者総合福祉法が制定され、実施されることを心より願うものです。