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『未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命―』 片山杜秀 | 新潮社
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未完みかんのファシズム―「たざるくに日本にっぽん運命うんめい

片山かたやまもりしゅうちょ

2,090えん税込ぜいこみ

発売はつばい:2012/05/25

  • 書籍しょせき
  • 電子でんし書籍しょせきあり

昭和しょうわ軍人ぐんじんたちはなにかんがえ、いちきゅうよんねん滅亡めつぼうへといたったのか。

天皇陛下てんのうへいかまんさい! 大正たいしょうから昭和しょうわ敗戦はいせんへ――時代じだいくだればくだるほど、近代きんだい進展しんてんすればするほど、日本人にっぽんじんはなぜかみがかっていったのか? すめらぎどうvs.統制とうせい世界せかい最終さいしゅうせんろんそう力戦りきせん体制たいせい、そしていちおく玉砕ぎょくさい……。だいいち世界せかい大戦たいせん衝撃しょうげきけた軍人ぐんじんたちの戦争せんそう哲学てつがくき、近代きんだい日本にっぽんのアイロニカルな運命うんめい一気いっきえがす。

  • 受賞じゅしょう
    だい16かい 司馬しばりょう太郎たろうしょう
目次もくじ
はじめに
だいいちしょう 日本人にっぽんじんにとってだいいち世界せかい大戦たいせんとはなにだったのか
小川おがわ未明みめい懊悩おうのう
たかみの見物けんぶつ」と「成金なりきん気分きぶん
徳富とくとみ蘇峰そほう日本人にっぽんじんしか
だいしょう 物量ぶつりょうせんとしての青島ちんたお戦役せんえき――日本にっぽん陸軍りくぐんいちきゅういちよんねん体験たいけん
神尾かみお光臣みつおみ将軍しょうぐんあたらしい戦争せんそう
伊勢いせ喜之助きのすけ中佐ちゅうさ弾丸だんがん効力こうりょく調査ちょうさ
だいさんしょう 参謀さんぼう本部ほんぶ冷静れいせいな『観察かんさつ
だいよんしょう タンネンベルク信仰しんこう誕生たんじょう
だいしょう 「たざるくに」のたけった戦争せんそう――小畑おばたさとし四郎しろう殲滅せんめつせん思想しそう
いちきゅうはちねん精神せいしん主義しゅぎ
殲滅せんめつせん思想しそう密教みっきょう顕教けんぎょう
すめらぎどう」とはなに
だいろくしょう 「たざるくに」を「てるくに」にする計画けいかく――石原いしはら莞爾かんじ世界せかい最終さいしゅうせんろん
銀河ぎんが鉄道てつどうよる」と『法華経ほけきょう
統制とうせい」とはなに
八紘はっこう一宇いちう」の構想こうそう挫折ざせつ
だいななしょう 未完みかんのファシズム――明治めいじ憲法けんぽうはばまれるそう力戦りきせん体制たいせい
だいはちしょう 「たざるくに」が「てるくに」に方法ほうほう――中柴なかしばまつじゅん日本にっぽんてきそう力戦りきせん思想しそう
たたかえせんけい』と『戦陣せんじんくん
天皇陛下てんのうへいかまんさい」でなぜねるか
いちきゅうよんいちねん死生しせいかん
玉砕ぎょくさいという必勝ひっしょう哲学てつがく
だいきゅうしょう 月経げっけい創意そうい原爆げんばく――「たざるくに」の最期さいご
主要しゅよう参考さんこう文献ぶんけん
あとがき

書誌しょし情報じょうほう

仮名がな ミカンノファシズムモタザルクニニホンノウンメイ
シリーズめい 新潮しんちょう選書せんしょ
雑誌ざっしからまれたほん なみからまれたほん
発行はっこう形態けいたい 書籍しょせき電子でんし書籍しょせき
はんがた 四六判しろくばん変型へんけい
ぺーじすう 352ページ
ISBN 978-4-10-603705-4
C-CODE 0331
ジャンル 日本にっぽん
定価ていか 2,090えん
電子でんし書籍しょせき 価格かかく 1,320えん
電子でんし書籍しょせき 配信はいしん開始かいし 2012/11/23

書評しょひょう

青島ちんたお戦役せんえきから敗戦はいせんへ、軍人ぐんじん辿たどったみち

山内やまうち昌之まさゆき

著名ちょめいじんすすめる〉新潮しんちょう選書せんしょわたしいちさつ(5)

 日本にっぽんほど近代きんだいそう力戦りきせん不向ふむきだったくにもない。そう力戦りきせん必要ひつよう工業こうぎょう資源しげんがまったく欠乏けつぼうし、人的じんてき資源しげん十分じゅうぶんというわけでない。とくに著者ちょしゃ強調きょうちょうするよわさは、明治めいじ憲法けんぽう体制たいせいにはそう力戦りきせんはば構造こうぞうがはらまれていたてんにある。帝国ていこく憲法けんぽう政治せいじりょく集中しゅうちゅう天皇てんのう大権たいけんへの侵害しんがいとしてきらったからだ。
 しかも、日本にっぽんは「中途半端ちゅうとはんぱおおきかった」のであり、小国しょうこくでなかったあたりに日本にっぽんみょう背伸せのびする根拠こんきょがあった。なにによらず背伸せのびは危険きけんともない、ころんだりどころわるいと国家こっかさえほろびる。この「たざるくに」が自滅じめつ自殺じさつしないにはどうすればよいのか。著者ちょしゃは、資源しげんもなく統率とうそつりょくもない日本にっぽんそう力戦りきせん時代じだいきるじゅつかんがえた軍人ぐんじんとして、小畑おばたさとし四郎しろう石原いしはら莞爾かんじ中柴なかしばまつじゅん酒井さかい鎬次らをとりあげ、「たざるくに」にふさわしい日本にっぽん陸軍りくぐん方策ほうさくなにであったのかをうのである。
 いちきゅうよんねん敗戦はいせん悲劇ひげきは、日本にっぽんだいいち大戦たいせんで「成金なりきん気分きぶん」をあじわいながら、あたらしい戦争せんそうきびしさを理解りかいできなかった知的ちてき貧困ひんこん原因げんいん一端いったんがある。青島ちんたお出兵しゅっぺいでドイツの要塞ようさいとした司令しれいかん神尾かみお光臣みつおみは、砲兵ほうへい工兵こうへいとの連携れんけいによって火器かき集中しゅうちゅうてき運用うんようし、犠牲ぎせい最小限さいしょうげんおさえながら、近代きんだいせん理想りそうたしかに理解りかいした。しかし、青島ちんたおだけでも手一杯ていっぱい日本にっぽんは、もっと規模きぼおおきな物量ぶつりょうせんともなるとお手上てあげであった。
 ソビエト・ロシアという仮想かそう敵国てきこく相手あいて本格ほんかくてき会戦かいせんひらかれるなら、どのくらいの物量ぶつりょう必要ひつようになるか見当けんとうもつかない。そこで改訂かいていされた『統帥とうすい綱領こうりょう』や『戦闘せんとう綱要こうよう』にたましいれた「作戦さくせんおに小畑おばたさとし四郎しろうは、兵隊へいたい兵器へいき弾薬だんやくりなくてたりまえだ、それでたたかってこその皇軍こうぐんだとひらなおる。また、てききょをつく夜襲やしゅう夜間やかん移動いどう駆使くしして優勢ゆうせいてき圧倒あっとうする信念しんねんをもつべきだというのだ。ただし小畑おばたは、えいべいソのような「てるくに相手あいて戦争せんそうできる能力のうりょくがない日本にっぽんにとって、やむをえないのは防衛ぼうえい戦争せんそうだけであり、避戦にてっするべきだというホンネをかくしていたというのだ。他方たほう石原いしはら莞爾かんじ日本にっぽんを「てるくに」にすればよいとかんが満州まんしゅうこく建設けんせつした。しかし、日本にっぽん進歩しんぽすればべいえいもそれ以上いじょう発展はってんするので、ソ連それんのように計画けいかく統制とうせい経済けいざい実現じつげんすることでなにとかしてべいえいせるとしんじたのである。しかし、石原いしはらは避戦の小畑おばたちがって、世界せかい最終さいしゅう戦争せんそうまでちからたくわえて将来しょうらい米国べいこく決戦けっせんをすると夢想むそうした。
 この二人ふたりことなり工兵こうへいなかしば精神せいしんりょく価値かち無限むげんだい評価ひょうかしたのは興味深きょうみぶかい。かれは、東条とうじょう英機ひできの『戦陣せんじんくん』の事実じじつじょう執筆しっぴつしゃとしておそれぬ兵士へいし教育きょういくで「てるくに」に匹敵ひってきする戦闘せんとうりょくたかめようとしたのだった。一方いっぽう酒井さかい長期ちょうきそう力戦りきせんをやれば敗北はいぼく必至ひっし日本にっぽんも、奇襲きしゅう電撃でんげきせん短期たんき勝利しょうりし、早期そうき講和こうわめば勝機しょうきはあるとしんじた。陸軍りくぐん航空こうくうたい戦車せんしゃ部隊ぶたい推進すいしんしゃであった酒井さかいは、機械きかい部隊ぶたい歩兵ほへい作戦さくせんわせて分散ぶんさん運用うんようする東条とうじょうのような旧式きゅうしき軍人ぐんじん衝突しょうとつした。東条とうじょうによる石原いしはら予備よびやく編入へんにゅうよりも酒井さかい予備よびやくのほうがいちねんはやかったというから余程よほど東条とうじょうきらわれたのだろう。
 音楽おんがく評論ひょうろんでもある著者ちょしゃ歴史れきしかん格別かくべつ独創どくそうてきというわけではないが、歴史れきしくち人物じんぶつへの見方みかたえがられるのは魅力みりょくである。

(やまうち・まさゆき 東京とうきょう大学だいがく名誉めいよ教授きょうじゅ
文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう」2012ねん8がつごう 「文藝春秋ぶんげいしゅんじゅうBOOK倶楽部くらぶ」より

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[→]〈著名ちょめいじんすすめる〉新潮しんちょう選書せんしょわたしいちさつ一覧いちらん

インタビュー/対談たいだん/エッセイ

昭和しょうわ軍人ぐんじんたちはなにかんがえていたのか

片山かたやまもりしゅう

――近代きんだい日本にっぽんとはなにだったのか? 本書ほんしょのテーマを一言ひとことでまとめるとそうなりますが、しかしアプローチの仕方しかたが、従来じゅうらい近代きんだい日本にっぽんろんとはかなりちがいますね。

ひとつには、だいいち世界せかい大戦たいせん意味合いみあいを重視じゅうししたことでしょうか。従来じゅうらい図式ずしきだと、にち戦争せんそう勝利しょうりからだい世界せかい大戦たいせん敗北はいぼくへ、というながれでていく。つまりにち戦争せんそう列強れっきょう仲間入なかまいりをたし、大正たいしょうはデモクラシーで比較的ひかくてき平和へいわ時代じだいだったけれども、昭和しょうわ初年しょねん世界せかいだい恐慌きょうこうさぶられ、軍部ぐんぶ暴走ぼうそうはじめて社会しゃかいはファッショし、日米にちべい戦争せんそう突入とつにゅうした挙句あげくほろびた。この図式ずしき間違まちがいとはえません。しかし、大正たいしょう年間ねんかんにはだいいち世界せかい大戦たいせんという、人類じんるい史上しじょうはじめて「世界せかい大戦たいせん」とばれた長期ちょうきそう力戦りきせんおこなわれた。この戦争せんそう衝撃しょうげき近代きんだい日本にっぽんかたるうえであまりに軽視けいしされてきたのではないか。むしろそこを基点きてんにすると、時代じだいながれがきれいに辿たどれるのではないか。

――しかし当時とうじ日本人にっぽんじんは、実際じっさいのところ、だいいち大戦たいせんをそんなに深刻しんこくけとめていたのでしょうか。

たしかにおおくの日本人にっぽんじんたかみの見物けんぶつめこんでいました。戦争せんそう特需とくじゅでバブルみの好景気こうけいきにもめぐまれた。しかし、徳富とくとみ蘇峰そほうのように、「成金なりきん気分きぶん」にいしれる暢気のんき日本人にっぽんじんしかりつけた思想家しそうかもいましたし、とりわけ軍人ぐんじんたちはだいいち世界せかい大戦たいせんにおおきな衝撃しょうげきけていたのです。つぎなる戦争せんそうきるとすれば、それはもっとだい規模きぼそう力戦りきせんになるにちがいない。兵器へいきにせよ兵士へいしにせよ、またそれをささえる資源しげん経済けいざいにせよ、とにかく莫大ばくだい物量ぶつりょうそなえていなければならない。だが、いま日本にっぽんには、世界せかい列強れっきょうしていけるほどの国力こくりょくはない。では「たざるくに日本にっぽんが「てるくに相手あいて戦争せんそうつためにはどうすればよいのか……。こういった冷静れいせい現状げんじょう認識にんしき痛切つうせつ危機きき意識いしき軍人ぐんじんたちは共有きょうゆうしていた。もちろん「どうすれば」というてんかんしては、かんがかた相違そうい対立たいりつがありましたけれど。

――その共通きょうつう認識にんしき相違そうい対立たいりつ目配めくばりしながら、昭和しょうわ軍人ぐんじんたちの著作ちょさく報告ほうこくしょ綱領こうりょうかれ、ひいてはいちきゅうよんねん敗戦はいせんいたる「たざるくに日本にっぽん運命うんめいえがかれていきます。

陸軍りくぐん海軍かいぐん、あるいは大本営だいほんえい公式こうしき見解けんかい統一とういつ方針ほうしんではなく、むしろ個々ここ軍人ぐんじんたちの思想しそう焦点しょうてんしぼってみたのです。昭和しょうわ軍人ぐんじんたちの戦争せんそうかん戦争せんそう哲学てつがくき、近代きんだい日本にっぽんひかりてる。従来じゅうらい研究けんきゅうにはなかった視角しかくかとおもいます。でも実際じっさい、「すめらぎどう」の小畑おばたさとしよんろうや「統制とうせい」の石原いしはら莞爾かんじ、さらには酒井さかい鎬次や中柴なかしばまつじゅんといった軍人ぐんじんたちの著作ちょさくんでいくと、かれらがだいいち大戦たいせん衝撃しょうげきにしみてかんじ、またそれを前提ぜんていとして日本にっぽんすすむべきをそれぞれ模索もさくしていたことがよくかります。小畑おばたは「たざるくに」のたけった戦争せんそうかんがえ、石原いしはらは「たざるくに」を「てるくに」にしてから「世界せかい最終さいしゅうせん」に勝利しょうりするという遠大えんだいなヴィジョンをえがき、酒井さかいは「速戦即決そくせんそっけつ」の電撃でんげきせん以外いがい日本にっぽん活路かつろはないとおもい、そして中柴なかしば物資ぶっし物量ぶつりょう不足ふそくおぎなうために「精神せいしん主義しゅぎ」を賞揚しょうようした。

――くわしい経緯けいい背景はいけい本書ほんしょ叙述じょじゅつゆずるとして、この「精神せいしん主義しゅぎ」が、やがて日本にっぽん国民こくみんにも浸透しんとうしていきます。

もっともファナティックな精神せいしん主義しゅぎしゃ中柴なかしばまつじゅんでしょう。しかし「いちおく玉砕ぎょくさい」を賛美さんび正当せいとうしようとしたかれのファナティスムでさえ、ある意味いみで、現実げんじつざしたものでした。日本にっぽんが「たざるくに」であることを重々じゅうじゅう承知しょうちしていたからこそ、背伸せのびをするために「精神せいしん」という下駄げたかせて、たざる物量ぶつりょうをカバーしようとした。日本にっぽんはじっさい背伸せのびをしぎて悲惨ひさん結末けつまつむかえたわけですが、それにしても日本人にっぽんじんはなぜ、近代きんだい進展しんてんすればするほどかみがかっていったのか。そのあたりのアイロニカルな事情じじょうは、だいいち世界せかい大戦たいせん衝撃しょうげき始点してんにし、中柴なかしばまつじゅん思想しそう終点しゅうてんにしててゆくと、鮮明せんめいになるようにおもいます。

――とはいえ、これは軍人ぐんじんばかり登場とうじょうするほんではありません。文学ぶんがくしゃはなしがまた面白おもしろい。童話どうわ作家さっかとしてられる小川おがわ未明みめいだいいち大戦たいせんをどうとらえていたか、宮澤みやざわ賢治けんじの『銀河ぎんが鉄道てつどうよる』と石原いしはら莞爾かんじの『世界せかい最終さいしゅうせんろん』はどうリンクするのか。

有島ありしま武郎たけお岳父がくふ青島ちんたお戦役せんえき将軍しょうぐんでしたしね。

――本書ほんしょ小社しょうしゃの『なみ』に連載れんさいされたものに、かなりの加筆かひつがなされて出来上できあがったものです。連載れんさいちゅうに3・11がありました。なにか意識いしきされましたか。

ここでえがいたのはおもいちきゅういちよんねんからよんねんまでの日本にっぽんです。戦後せんごはなし皆無かいむちかい。でもとしては3・11以降いこう近代きんだい現代げんだいがリアルタイムでかさなるような感覚かんかくがありました。今回こんかいわたしたちは日本にっぽん世界せかいかんたる地震じしん大国たいこくであることを痛感つうかんさせられたわけですが、原子力げんしりょく発電はつでんのリスクについては欧米おうべいみかそれ以下いかにしか見積みつもらずにやってた。かつては戦争せんそうつために精神せいしんりょくという科学かがくてき下駄げたいたとすれば、戦後せんご経済けいざい成長せいちょうのために原子力げんしりょく安全あんぜん神話しんわという科学かがくてき下駄げたいてきた。リスクを軽視けいししてまで背伸せのびをしてきるという、中途半端ちゅうとはんぱ近代きんだい先進せんしんこくとしてのありかたは、いまわっていないのではないでしょうか。

(かたやま・もりひで 慶應大学けいおうだいがく法学部ほうがくぶじゅん教授きょうじゅ
なみ 2012ねん6がつごうより

担当たんとう編集へんしゅうしゃのひとこと

日本人にっぽんじんはなぜ「天皇陛下てんのうへいかまんさい!」でねたのか

 ひゃくねんほどまえ日本にっぽんはどんなくにだったのか。そしてそれからさんじゅうねんのあいだに、このくにはどんな運命うんめい辿たどり、いったんほろびたのか。ほろばざるをえなかったのか。
 これが本書ほんしょのテーマです。大正たいしょう初年しょねんから昭和しょうわじゅうねん敗戦はいせんまでの物語ものがたり。すこしかたいいいかたをするなら、近代きんだい日本にっぽんろん著者ちょしゃはこのおおきなテーマを、まるで友人ゆうじんはなしてかせるような親密しんみつ筆致ひっちろんじていきますが、そのさい斬新ざんしんくちをふたつ用意よういしました。
 ひとつは、大正たいしょうさんねんいちきゅういちよん)に勃発ぼっぱつしただいいち世界せかい大戦たいせん意味合いみあいを重視じゅうしし、人類じんるい史上しじょうはじめて「世界せかい大戦たいせん」とばれたこの長期ちょうきそう力戦りきせん衝撃しょうげき基点きてんとして、時代じだいながれをっていくこと。もうひとつは、大正たいしょう昭和しょうわ軍人ぐんじんたちの戦争せんそうかん戦争せんそう哲学てつがくくことによって、かれらがだいいち大戦たいせん衝撃しょうげきをどうけとめ、またけとめそこなったかをきれいに腑分ふわけしながらあきらかにすること。
 そこからなにかびがってくるでしょうか。中途半端ちゅうとはんぱ近代きんだい先進せんしんこくとして必死ひっし背伸せのびしようとしたわがくに姿すがたです。たしかにひゃくねんまえ日本にっぽん世界せかい列強れっきょう仲間入なかまいりをたしていたものの、欧米おうべい列強れっきょうしていけるほどの国力こくりょくはなかった。軍事ぐんじりょく経済けいざいりょく、そして資源しげんかんして、アジアの後進こうしんこくせば「てるくに」だったけれど、欧米おうべい先進せんしんこくせば「たざるくに」でした。そんなくにが、だいいち大戦たいせんつぎ予想よそうされる世界せかいてきそう力戦りきせんにどうしたらてるのか。精神せいしん主義しゅぎたよるのか、物質ぶっしつ主義しゅぎ転換てんかんするのか。そもそも「天皇陛下てんのうへいかまんさい!」が明治めいじ大正たいしょうよりも昭和しょうわになってから声高こわだかさけばれるようになったのはなぜか。近代きんだいすすめばすすむほど、日本にっぽん国民こくみんはどうしてかみがかっていったのか……。
 本書ほんしょには「たざるくに日本にっぽんの、そんなアイロニカルな運命うんめい活写かっしゃされています。とはいえ、これは軍人ぐんじんばかり登場とうじょうするほんではありません。小川おがわ未明みめい宮澤みやざわ賢治けんじ短篇たんぺんきが要所ようしょ興趣きょうしゅえています。著者ちょしゃ硬軟こうなんとりまぜた物語ものがたりじゅつをご堪能たんのうください。

2012/05/25

著者ちょしゃプロフィール

片山かたやまもりしゅう

カタヤマ・モリヒデ

1963ねん宮城みやぎけん仙台せんだいまれ。政治せいじ思想しそう研究けんきゅうしゃ音楽おんがく評論ひょうろん慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく法学部ほうがくぶ教授きょうじゅ慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく法学部ほうがくぶ政治せいじ学科がっか卒業そつぎょう同大どうだい大学院だいがくいん法学ほうがく研究けんきゅう後期こうき博士はかせ課程かてい単位たんい取得しゅとく退学たいがく大学院だいがくいん時代じだいからライター生活せいかつはいり、『週刊しゅうかんSPA!』で1994ねんから2003ねんまでつづいたコラム「ヤブをにらむ」は『ゴジラとまる――片山かたやまもりしゅうの「ヤブをにらむ」コラム大全たいぜん』(文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう)として単行本たんこうぼんおも著書ちょしょに『音盤おんばん考現学こうげんがく』『音盤おんばん博物はくぶつ』(アルテスパブリッシング 吉田よしだ秀和ひでかずしょう・サントリー学芸がくげいしょう)、『未完みかんのファシズム――「たざるくに日本にっぽん運命うんめい』(新潮社しんちょうしゃ 司馬しば遼太ろうしょう)、『近代きんだい日本にっぽん右翼うよく思想しそう』(講談社こうだんしゃ選書せんしょメチエ)、『てぬ日本にっぽん――司馬しば遼太ろう小津おつあん二郎じろう小松こまつ左京さきょう挑戦ちょうせん』(新潮社しんちょうしゃ)、『鬼子おにごうた――偏愛へんあい音楽おんがくてき日本にっぽんきん現代げんだい』(講談社こうだんしゃ)、『尊皇そんのう攘夷じょうい――水戸みとがくよんひゃくねん』(新潮しんちょう選書せんしょ)など。

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