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子こどもだけで生いきていくことを描えがいた本ほんはありますか？

ユートピア？　サバイバル？

　『ハイジ』『小しょう公おおやけ女おんな』『トム･ソーヤーの冒険ぼうけん』など、長年ながねん読よみ継つがれてきた児童じどう文学ぶんがくのなかには、親おやのない（または保護ほごを失うしなった状態じょうたいにある）子こどもを描えがいたものが多おおくあります。ジェリー・グリスウォルドは米国べいこくの古典こてん児童じどう文学ぶんがくの多おおくが孤児こじという状況じょうきょう設定せっていを用もちいていることを指摘してきした上うえで、その背後はいごに幼児ようじ期きから児童じどう期きへの移行いこうに伴ともなう情緒じょうちょ的てきな不安ふあんやアイデンティティの獲得かくとくという共通きょうつうの課題かだいを見出みいだしています*¹。日本にっぽんの創作そうさく児童じどう文学ぶんがくの始はじまりとされる巖谷いわや小波さざなみ『こがね丸まる』もまた、孤児こじとなった主人公しゅじんこうが親おやの敵討かたきうちをする物語ものがたりでした。孤児こじ物語ものがたりは児童じどう文学ぶんがくの基本きほん的てきなタイプの一ひとつと言いえるでしょう。

　子こどもは大人おとなの保護ほごを必要ひつようとする存在そんざいです。逆ぎゃくから見みれば「自分じぶんの思おもいどおりに生いきていけるわけではありません」し、「与あたえられた居場所いばしょで生いきる」ことを強しいられた人々ひとびとともいえます*²。それだけに、子こどもだけで生いきていくという状況じょうきょう設定せっていは、多おおくの子こども読者どくしゃにとって現実げんじつではかなえられない夢ゆめや願望がんぼうであるでしょう。他方たほう、本人ほんにんが望のぞまないにもかかわらず子こどもだけで生いきることを強しいられるとするなら、それはまちがいなく苛酷かこくな状況じょうきょうです。それゆえに、孤児こじないし孤児こじ的てきな状況じょうきょうを描えがく本ほんには一種いっしゅの理想郷りそうきょうを描えがいた楽たのしい作品さくひんと、困難こんなんに直面ちょくめんしながらサバイバルしていく作品さくひんとがあります。一ひとつの作品さくひんが両方りょうほうの側面そくめんをもち合あわせることも珍めずらしくありません。

古典こてんから現代げんだい作品さくひんまで

　スウェーデンの作家さっか、アストリッド・リンドグレーンの『長ちょうくつ下したのピッピ』*³シリーズもまた孤児こじの物語ものがたりです。幼おさないころに母親ははおやを亡なくし、船乗ふなのりだった父親ちちおやも行方ゆくえ不明ふめいのピッピは、町まちはずれの古ふるい屋敷やしき「ごたごた荘そう」に1人ひとりで住すんでいます。大金持おおがねもちで怪力かいりきの持もち主ぬし、学校がっこうにも通かよわず誰だれの命令めいれいにも従したがわないピッピは、子こどもにとって今いまなおあこがれの存在そんざいでしょう。

　ロバート・ウェストール『海辺うみべの王国おうこく』*⁴には空襲くうしゅうで家族かぞくとはぐれた後のち、放浪ほうろう生活せいかつのなかで両親りょうしんや兄弟きょうだいのことを次第しだいに忘わすれ、やがて出会であった人物じんぶつと新あたらしい家族かぞくをつくろうとするハリーという少年しょうねんが登場とうじょうします。ハリーは戦時せんじ下かという苛酷かこくな状況じょうきょうを生いき延のびる子こどもであると同時どうじに、一時いちじ的てきにではあれ自分じぶんの意思いしで家族かぞくを選えらぶチャンスを手てに入いれた子こどもでもあります。ここに１でふれたような二に面めん性せいを見みることができます。

孤児こじ物語ものがたりの現代げんだい的てき意義いぎ

　子こどもと大人おとなとの関係かんけいが変化へんかするなかで、孤児こじ物語ものがたりの系譜けいふは多様たよう化か、拡張かくちょう化かしながら現在げんざいにいたっています。『たまごやきとウインナーと』*⁵では、育児いくじ放棄ほうきされて2人にんきりでくらす幼おさない兄妹きょうだいが描えがかれます。作中さくちゅうには親おやが家いえにいない理由りゆうが明示めいじされていません。毎日まいにちの食卓しょくたくが淡々たんたんと描写びょうしゃされることで、逆ぎゃくに兄妹きょうだいが直面ちょくめんしているきびしい状況じょうきょうが浮うかび上あがります。児童じどう虐待ぎゃくたいをとりあげた作品さくひんなどは、きびしい状況じょうきょう下かを自みずからの力ちからで生いき抜ぬくという点てんで「現代げんだいの孤児こじ物語ものがたり」と捉とらえることもできるでしょう。

　養護ようご施設しせつと里親さとおやの家いえを転々てんてんとする『トレイシー・ビーカー物語ものがたり』全ぜん3冊さつ*⁶や、『ミンのあたらしい名前なまえ』*⁷などは、親子おやこや家族かぞくの意味いみを考かんがえさせる物語ものがたりです。また、過去かこを舞台ぶたいにした『ウィロビー・チェースのおおかみ』*⁸は、親おやの庇護ひごがないゆえに、子こどもたちが才能さいのうや生いきる力ちからを発揮はっきして、「悪党あくとうの大人おとな」と対決たいけつする痛快つうかいな物語ものがたりです。

　子こどもは成長せいちょうの過程かていでさまざまな困難こんなんや試練しれんにぶつかります。そして、周囲しゅういの人々ひとびとに助たすけられながらも、自分じぶんの力ちからでそれらを乗のり越こえていかなくてはなりません。そのような局面きょくめんで、フィクションのなかでサバイバルする子こどもたちの姿すがたは大おおきなはげましや共感きょうかんの対象たいしょうになるでしょう。グローバル化かや高度こうど情報じょうほう化かが進行しんこうし、社会しゃかいのありようが見定みさだめにくいなかで、サバイバルという主題しゅだいはますます重要じゅうよう性せいを増ましていると考かんがえられます。