湯浅ゆあさ明彦あきひこ「Column of ay7」

“初はつ出場しゅつじょう初はつ優勝ゆうしょう”―。
最近さいきんのセンバツでは、2004（平成へいせい16）年ねんの愛媛えひめ・済すみ美び高校こうこうが達成たっせい。これが、商業しょうぎょう高校こうこうとなると・・・
1985（昭和しょうわ60）年ねんの高知こうち・伊野いの商しょうまで遡さかのぼらなければなりません。

2016（平成へいせい28）年ねんの88回かい大会たいかい。兵庫ひょうご県けん代表だいひょう・明石あかし商業しょうぎょうは春はる夏なつ通つうじて初はじめての甲子園こうしえん。
チームを率ひきいる狭間はざま善徳ぜんとく監督かんとくは、その偉業いぎょうを“本気ほんきで”狙ねらっていました。

初戦しょせんの相手あいては、サウスポー森山もりやま投手とうしゅを擁ようする宮崎みやざき・日南学園にちなんがくえんでした。
「緊張きんちょう？あんまりしなかったね。冬ふゆからの練習れんしゅうも上手うまく積つめたし、チームをベストの状態じょうたいに仕上しあげられたから。それと、試合しあい前まえにパッとベンチ裏うらを見みたら、知しっている顔かおばっかりやもん(笑)かっこわらい幼おさななじみに、高校こうこうや大学だいがく時代じだいの友人ゆうじんがズラーッと。金網かなあみに顔かおをくっつけるくらいの勢いきおいやから(笑)かっこわらい」
これが、甲子園こうしえんでの初はつ采配さいはい。さすがに緊張きんちょうで硬かたくなるかなと思おもいきや、真ま逆ぎゃくだったようで・・・。
「いい意味いみで緊張きんちょう感かんがなかったよ(笑)かっこわらい」そして、続つづけて「“あの時とき”を除のぞいてね・・・」

“あの時とき”とは。
試合しあいは、互角ごかくの勝負しょうぶ。明石あかし商しょうが8回かい裏うら、日南学園にちなんがくえんが9回かい表ひょうに1点てんずつ取とり合あい、２－２の同点どうてん。
迎むかえた9回かい裏うら、明石あかし商しょうが1アウト満塁まんるいのチャンス。
「１－１からのスクイズ、あれぐらいやわ、緊張きんちょうしたのは」
打者だしゃ・藤井ふじい選手せんしゅのカウントは1ボール1ストライクとなり、迷まよわず狭間はざま監督かんとくはスクイズのサインを出だします。結果けっか、見事みごとに藤井ふじい選手せんしゅは指揮しき官かんの期待きたいに応こたえ、サヨナラ勝利しょうり。
狭間はざま監督かんとくが“本気ほんきで”狙ねらう頂点ちょうてんに向むけて、幸先さいさきのいいスタートを切きりました。

2回戦かいせんの相手あいては、藤嶋ふじしま健けん人じん（現げん中日ちゅうにち）投手とうしゅが注目ちゅうもくの愛知あいち・東邦とうほう高校こうこうでしたが、エース吉高よしたか壮たけし（現げん日本体育大にほんたいいくだい4年ねん）投手とうしゅが完封かんぷう勝利しょうりで、ベスト８進出しんしゅつ。

狭間はざま監督かんとくが“本気ほんきで”目指めざす頂点ちょうてんが少すこし見みえてきた準々じゅんじゅん決勝けっしょう。相手あいては、京都きょうと・龍谷大りゅうこくだい平安へいあん高校こうこうでした。
「俺おれはもちろん、優勝ゆうしょうはずっと頭あたまにあったよ。だって“初はつ出場しゅつじょう初はつ優勝ゆうしょう”って、1回かいしかチャンスないでしょ。ただ、選手せんしゅの中なかに、東邦とうほうに勝かって、初はじめての甲子園こうしえんでベスト８に残のこって、次つぎに龍谷大りゅうこくだい平安へいあんに負まけても称賛しょうさんされるんじゃないかみたいな気持きもちが心しんのどこかに生うまれたように思おもう」
ベスト４をかけた試合しあいは、１－１で延長えんちょう戦せんに。ただ、延長えんちょうに入はいるまでに明石あかし商しょうに目立めだったバント失敗しっぱい。
龍谷大りゅうこくだい平安へいあんの大胆だいたんなシフトにも惑まどわされ、流ながれをつかめませんでした。
「どんな状況じょうきょうでも絶対ぜったいに（打球だきゅうを）転ころがすというか、チャレンジャー精神せいしんというか、思おもい切きってやろうという部分ぶぶんが足たりなかったかな」
結局けっきょく、延長えんちょう12回かいの末すえ、龍谷大りゅうこくだい平安へいあんが小川おがわ選手せんしゅのサヨナラ安打あんだで勝負しょうぶあり。
狭間はざま監督かんとくの“本気ほんき”で目標もくひょうにした夢ゆめ”は、幻まぼろしに終おわりました。
「でも、甲子園こうしえん自体じたいも学校がっこうの歴史れきし上じょう初はじめてでしょ。すべてが初はじめての中なかで、選手せんしゅはよくやってくれた。称賛しょうさんできる戦たたかいでした」

夏なつの予選よせんでは、ベスト８の壁かべを破やぶれなかった時代じだい、そして3年ねん連続れんぞく準じゅん優勝ゆうしょうに終おわった時代じだいを乗のり越こえ、2018（平成へいせい30）年ねんに初はつ優勝ゆうしょう。今年ことしのセンバツまで4季き連続れんぞくの甲子園こうしえん出場しゅつじょうを果はたし、明石あかし商しょうは、今いまや県内けんない屈指くっしの強豪きょうごう校こうになりました。

昨年さくねんの夏なつ、話題わだいを呼よんだ“狭間はざまガッツ”。
ただ、私わたしが取材しゅざいした狭間はざま監督かんとくは、確固かっこたる知識ちしきを持もった“野球やきゅう伝道でんどう師し”というイメージです。

いまだに目めに焼やき付ついているシーンが２ふたつ。
1つは、現在げんざい、埼玉さいたま西武せいぶに在籍ざいせきする松本まつもと航わたる（日本体育大にほんたいいくだいから19年ねんプロ入いり）投手とうしゅを指導しどうする姿すがた。
もう1つは、今年ことしのドラフト上位じょうい候補こうほに挙あがる中森なかもり俊介しゅんすけ（3年ねん）投手とうしゅを指導しどうする姿すがた。
どちらも、ブルペンのあらゆる角度かくどから見回みまわって、腕うでの角度かくど・頭とうの位置いち・足あしの上あげ方かたなど、こと細こまかく丁寧ていねいに言葉ことばをかけていました。
私わたしからすると、2人ふたりとも右みぎの本格ほんかく派は、ダイナミックで綺麗きれいなフォームにしか見みえないのですが、アドバイスの内容ないようが全まったく違ちがうんです。
「同おなじ学年がくねんの時点じてんで比較ひかくしたら、中森なかもりの方ほうが上うえだと思おもう。でも、航こう（松本まつもと）は自身じしんのフォームを瞬時しゅんじに把握はあくできる力ちからがあった。おまけに股関節こかんせつも柔やわらかかった。スピードは中森なかもりの方ほうが、まだまだ出でるかな。当あたり前まえですが、みんな特徴とくちょうが違ちがうんですよ」

監督かんとくやコーチを務つとめた明徳義塾めいとくぎじゅく中ちゅう・高こう時代じだいに、様々さまざまな指導しどう者しゃに出会であったという狭間はざま監督かんとく。疑問ぎもんが生しょうじたときには積極せっきょく的てきに質問しつもんし、消化しょうかし、自身じしんの指導しどうに取とり入いれてきました。

「教おしえ方かたって、極端きょくたんに言いえば“何なん億おく”とあると思おもう。教おしえ方かたが一辺倒いっぺんとうになると、その指導しどうが“ハマらない”選手せんしゅも出でてくる。それは避さけたい。でも“根気こんき”はいるよ。あと“情熱じょうねつ”やね。それしかない。だから1日にち24時じ間あいだじゃ足たりないのよ(笑)かっこわらいあの選手せんしゅはこのやり方かたが合あうかな、この選手せんしゅはこうかなって考かんがえていたら、時間じかんなんてあっという間あいだ。でも奥深おくふかいよ、ホンマに。この場面ばめんで変かわるか！というのがあるから、高校生こうこうせいは。だからこそ、よくこちらが見みてあげないと」

もちろん、野手やしゅも例れいに漏もれず。打撃だげきでのタイミングの取とり方かた、上半身じょうはんしんと下半身かはんしんのバランス。守備しゅびでは、ボールに向むかう時ときの角度かくどなど・・・。練習れんしゅうグランドを所ところ狭せましと動うごき回まわり、選手せんしゅの日々ひびの変化へんかに対応たいおうする毎日まいにち。
細こまかい技術ぎじゅつの裏付うらづけがあってこその総合そうごう力りょく。昨年さくねんの春はる夏なつ連続れんぞくベスト４の成績せいせきも、何なんら不思議ふしぎではありません。
一番いちばん印象いんしょうに残のこった出会であいが、その戦たたかいの中なかにありました。
昨年さくねんの夏なつ―。当あたり前まえに高校こうこう野球やきゅうが行おこなわれていた2019年ねんの夏なつ―。

明石あかし商しょうは初はつの決勝けっしょう進出しんしゅつをかけ、大阪おおさか・履くつ正せい社しゃと対決たいけつしました。
試合しあいは初回しょかいに、6安打あんだを集中しゅうちゅうさせた履くつ正せい社しゃが4点てんを先制せんせい。そのまま、終始しゅうしペースを握にぎり、8回かいを終おわって４点てんリード。

すると、一人ひとりの選手せんしゅに声こえがかかります。背番号せばんごう１４の百々とど（どど）亜あ佐さ斗と（当時とうじ3年ねん）選手せんしゅ。新しんチーム結成けっせい以降いこう、自みずから志願しがんして三塁さんるいコーチを担当たんとうしてきました。これが、センバツや夏なつの予選よせんも含ふくめて初はじめての公式こうしき戦せん出場しゅつじょうでした。
「実じつは、監督かんとくから直前ちょくぜんに“代打だいだでいくぞ”と言いわれていました。ただ、投手とうしゅ交代こうたいのタイミングもあって守備しゅびからになりました」
投手とうしゅは、中森なかもり（当時とうじ2年ねん）投手とうしゅから安藤あんどう碧あおい（当時とうじ3年ねん）選手せんしゅに。百々とど選手せんしゅはレフトのポジションにつきました。
履くつ正せい社しゃ・小しょう深田ふかた選手せんしゅの打球だきゅうがいきなりレフトへ。安打あんだでノーアウト1塁るい。
「自分じぶんでは捕とれた打球だきゅうだったと思おもいます。だから本当ほんとうに悔くやしいんです」
その後ご、井上いのうえ広大こうだい（現げん阪神はんしん）選手せんしゅはフォアボールで、再ふたたびベンチが動うごきます。マウンドには杉戸すぎと理り斗と（当時とうじ3年ねん）投手とうしゅが上あがり、守備しゅびシフトの入いれ替かえで、百々とど選手せんしゅは交代こうたいとなりました。

ベンチに帰かえっていく百ひゃく々選手せんしゅ。私わたしはスタンドで何気なにげなく見みていました。その時ときです。
狭間はざま監督かんとくに呼よばれて、歩あゆみ寄よっていくではありませんか。

私わたしは作戦さくせんを伝つたえるため、狭間はざま監督かんとくが選手せんしゅに声こえをかける場面ばめんは何なん度ども見みてきました。
ただ、交代こうたいしてベンチに下さがった選手せんしゅに、直接ちょくせつ話はなしをするシーンは見みたことがありませんでした。

「“ここからいい声ごえを出だして、また雰囲気ふんいきを作つくってくれ”と。さらに“最後さいごまで諦あきらめない、全員ぜんいんで戦たたかうぞ”と声こえをかけて頂いただきました」
試合しあいは１－７で終了しゅうりょう。百々とど選手せんしゅは、最後さいごの瞬間しゅんかんを“定てい位置いち”の三塁さんるいコーチャーズボックスで迎むかえました。
「代かわった直後ちょくごにも、試合しあい中ちゅうにも関かかわらず、声こえをかけて頂いただき、嬉うれしかったです。監督かんとくは、本当ほんとうに選手せんしゅのことを第だい一いちに考かんがえて下くださる方ほうでした。感謝かんしゃしかありません」
試合しあい出場しゅつじょう時間じかん、およそ4分ふん。百々とど選手せんしゅにとっては、生涯しょうがい忘わすれられない4分ふんとなりました。

常々つねづね、狭間はざま監督かんとくは話はなします、
「部員ぶいん100人にん（昨年さくねん夏なつは111人にん）の人生じんせいを変かえてしまう怖こわさがある」と。
その責任せきにん感かんを背負せおっているからこそ、日々ひび、選手せんしゅの動うごきをすべて把握はあくするために時間じかんを惜おしまず、妥協だきょうをしてきませんでした。それゆえ、控ひかえ選手せんしゅの起用きようも、声せいかけも瞬時しゅんじに判断はんだんできるのだと。選手せんしゅに本当ほんとうの気持きもちが伝つたわるのだと。
話はなせば話はなすほど涙なみだを流ながす百ひゃく々選手せんしゅの姿すがたを見みて、明石あかし商しょうの本当ほんとうの強つよさを実感じっかんしました。だからこそ、92回かい大会たいかいが楽たのしみでした。

13回かいに及およんだこのシリーズ企画きかくも、今回こんかいで最終さいしゅう回かいです。コラムをご覧らん頂いただき、ありがとうございました。
最後さいごは、明石あかし商しょうの話はなしを中心ちゅうしんに紹介しょうかいしてきましたが、これまで22年間ねんかん、高校こうこう野球やきゅうでは、たくさんの方々かたがたに取材しゅざいをさせて頂いただいてきました。センバツコラム~⑤~でも書かきましたが、私わたしは高校こうこう時代じだい、クラブ活動かつどうをしていませんでした。ですから、今いままで出会であった指導しどう者しゃの方々かたがた、全員ぜんいんが私わたしの恩師おんしです。

そして、レギュラーであっても、そうでなくとも、ベンチ入いりのメンバーに選えらばれていても、そうでなくとも、関係かんけいありません。毎日まいにち、懸命けんめいに鍛錬たんれんに励はげんできた選手せんしゅの皆みなさんを心しんから尊敬そんけいしています。
その思おもいは今後こんごも変かわりません。

スケジュールが順調じゅんちょうであれば、今日きょう、92回かい大会たいかいの決勝けっしょう戦せんが行おこなわれる予定よていでした。
先行さきゆきが見みえない情勢じょうせいですが、一いち日にちも早はやく世界中せかいじゅうの人々ひとびとに平和へいわな日常にちじょうが戻もどるよう願ねがっています。
そして、もちろん、甲子園こうしえん球場きゅうじょうに球たま音おんが戻もどってくることも・・・。

誰だれがどう見みても「エースで四よん番ばんでキャプテン」がチームの軸じく。
2008（平成へいせい20）年ねん、第だい80回かい大会たいかい。兵庫ひょうご代表だいひょう・東洋大とうようだい姫路ひめじ高校こうこうは、佐藤さとう翔太しょうた投手とうしゅが絶対ぜったい的てきな柱はしらでした。
チームの特集とくしゅう企画きかくのサポートをすることになった私わたしは、担当たんとう記者きしゃと相当そうとう悩なやみました。
当然とうぜん、佐藤さとう投手とうしゅは紹介しょうかいする、ただ、それは誰だれでも考かんがえること。藤井ふじい選手せんしゅや亀井かめい選手せんしゅといった主力しゅりょく選手せんしゅをクローズアップしようか、その他たの選手せんしゅにするか・・・。
地元じもとの放送ほうそう局きょくならではの「切きり口くち」を探さがせど探さがせど、中なか々見みつかりませんでした。

学校がっこうに到着とうちゃくするや否いなや、堀口ほりぐち雅司まさし（当時とうじ）監督かんとくの元もとへ。すると、こんな提案ていあんが。
「松葉まつばを取とり上あげてもらうのはどうですか？」
松葉まつば貴たか大だい選手せんしゅ―。初はじめて聞きいた名前なまえでした。

「玄人くろうと好このみする選手せんしゅでね、派手はでさはないんですけど、打線だせんの“つなぎ役やく”として本当ほんとうに貴重きちょうな選手せんしゅ。
普段ふだんからコツコツ練習れんしゅうする子こで、頼たよりになるんですよ。それに父親ちちおやが・・・」

聞きけば、松葉まつば選手せんしゅの父ちち・恭きょう功いさおさんは、同校どうこうのOBで、1986（昭和しょうわ６１）年ねんの夏なつの選手権せんしゅけん（68回かい大会たいかい）に出場しゅつじょう。全国ぜんこくベスト８の一員いちいんで、長谷川はせがわ滋しげる利としさん（元もとマリナーズほか）とチームメートだったとのこと。

間髪かんぱつ空あけず、一発いっぱつ回答かいとうでした。

松葉まつば選手せんしゅは、入学にゅうがく当時とうじは投手とうしゅ。1年生ねんせいの秋あきには背番号せばんごう１を着つけるなど、将来しょうらいを期待きたいされた選手せんしゅでした。しかし、その後ご、左ひだりヒジをはくり骨折こっせつ。一いち度どは復帰ふっきするも、再ふたたび左ひだりヒジを痛いためて投手とうしゅを断念だんねんし、外野がいや手しゅに転向てんこう。毎朝まいあさの書写しょしゃ山さんの走はしり込こみなど、指揮しき官かんが認みとめる懸命けんめいの努力どりょくで、2年ねん秋あきの兵庫ひょうご県けん大会たいかいから「2番ばんライト」として定着ていちゃく。

チームは、23年ねんぶりとなる近畿きんき秋季しゅうき大会たいかい優勝ゆうしょう。その中なかで、松葉まつば選手せんしゅは、チーム最多さいたの10犠打ぎだを記録きろくしました。チームにとって５年ねんぶりのセンバツでも、“つなぎ役やく”として大おおきな役割やくわりを担になっていました。

「佐藤さとうを中心ちゅうしんとしたクリーンアップに、いかに得点とくてん圏けんで回まわすかということが僕ぼくの仕事しごとです。もし、バントのサインが出でたら、一回いっかいで決きめます。そして、（全国ぜんこくベスト８の）父ちちを超こえたいです」
確固かっこたる決意けついを持もって、挑いどんだ大会たいかいでした。

大黒柱だいこくばしら・佐藤さとう投手とうしゅの好投こうとうもあって、チームは5年ねんぶりのベスト４。松葉まつば選手せんしゅは、全ぜん試合しあい「2番ばんライト」で先発せんぱつ出場しゅつじょう、打率だりつ２２２．ながら、多おおくの得点とくてんに絡からみ、目標もくひょうだった父ちちの記録きろくも超こえました。

迎むかえた準決勝じゅんけっしょう―。相手あいては、沖縄尚学おきなわしょうがく高校こうこう。東浜ひがしはま巨きょ（現げんソフトバンク）、嶺井みねい博ひろし希まれ（現げんDeNA）のバッテリーを中心ちゅうしんに、1999（平成へいせい11）年ねんの71回かい大会たいかい以来いらいとなる優勝ゆうしょうを目指めざしていました。

私わたしは、準決勝じゅんけっしょうの前日ぜんじつ、広島ひろしま市民しみん球場きゅうじょうで、そのシーズン初はつの「サンテレビボックス席せき」実況じっきょう中継ちゅうけいを担当たんとう。阪神はんしんが開幕かいまく5連勝れんしょうを決きめた試合しあいでした。試合しあい当日とうじつは、「ボックス席せき」のベンチリポート担当たんとうで、甲子園こうしえんに行いくことは出来できませんでした。
宿泊しゅくはくしているホテルでひとまず観戦かんせん。初回しょかい、松葉まつば選手せんしゅは第だい1打席だせきで、いきなりセーフティバントを見みせます。惜おしくも、東浜ひがしはま投手とうしゅの好こうフィルディングに阻はばまれアウトになりますが、その直後ちょくご、3番ばん・亀井かめい選手せんしゅと4番ばん・佐藤さとう投手とうしゅの連打れんだで、幸先さいさきよく先制せんせい。7回かいにも1点てんを追加ついかして東洋大とうようだい姫路ひめじが２－０とリード。私わたしは、阪神はんしんの練習れんしゅう取材しゅざいのため、球場きゅうじょうへ移動いどうしました。
そして、記者きしゃ席せきに到着とうちゃく。ふと画面がめんを見みると・・・。２－４、東洋大とうようだい姫路ひめじが逆転ぎゃくてんを許ゆるしていました。
丁度ちょうど、リプレー映像えいぞうが流ながれていて、嶺井みねい選手せんしゅの逆転ぎゃくてんタイムリー安打あんだ。打球だきゅうは、無情むじょうにも、ライトの松葉まつば選手せんしゅの足下あしもとに。準決勝じゅんけっしょうにふさわしい好こうゲームでしたが、東洋大とうようだい姫路ひめじのセンバツ初はつの決勝けっしょう進出しんしゅつは夢ゆめに終おわりました。

この年とし、センバツ以降いこう、私わたしは東洋大とうようだい姫路ひめじの取材しゅざいをする機会きかいはありませんでした。
当然とうぜん、松葉まつば選手せんしゅの記憶きおくは、徐々じょじょに薄うすれていきました。

それから2年ねん後ごの春はる―。新聞しんぶん記事きじに「プロ注目ちゅうもくの松葉まつば　好投こうとう」の見出みだしが。
センバツ取材しゅざいをともにした記者きしゃのもとへ駆かけ寄より、「松葉まつばって、あの松葉まつばくんやん！」

松葉まつば選手せんしゅは体育たいいく教師きょうしを目指めざして、高校こうこう卒業そつぎょう後ご、大阪体育大学おおさかたいいくだいがくへ進学しんがく。
大学だいがく入学にゅうがく後ご、大おおきな転機てんきが・・・。

「当時とうじ、関西かんさい国際こくさい大学だいがくにサウスポーの松永まつなが昴すばる大だい（現げんロッテ）投手とうしゅがいて、その対策たいさくにと、監督かんとくさんが左ひだり投手とうしゅのバッティングピッチャーを探さがしていたんです。そして、僕ぼくが選えらばれました。打撃だげき練習れんしゅうで投なげているうちに、先輩せんぱいの“松葉まつばはいいフォームで打うちづらい”という声こえが監督かんとくさんに届とどいたみたいで」

偶然ぐうぜんの“投手とうしゅ復帰ふっき”。すぐさま、1年生ねんせいの秋あきには公式こうしき戦せんで登板とうばん。いきなり、6試合しあいに投なげ、4勝しょう1敗はい。防御ぼうぎょ率りつは０．３８と、素晴すばらしい成績せいせきを残のこします。

「もちろん、またヒジを痛いためるかもという不安ふあんはありました。でも、最後さいごは自分じぶん自身じしんが一番いちばんやりたいポジションである投手とうしゅで勝負しょうぶして、大学だいがく生活せいかつを終おわれたらいいなと思おもったので」

地元じもとの姫路ひめじに帰かえって、馴染なじみの治療ちりょう院いんで定期ていき的てきなケアもしながら、ランニングや体からだ幹みきトレーニングなども怠おこたりませんでした。気きが付つけば、身長しんちょうは5㎝伸のびて、体重たいじゅうも5キロ増ふえていました。
球速きゅうそくは最速さいそく149キロまでアップ。大学だいがく4年間ねんかんで通算つうさん31勝しょう、MVP2回かい受賞じゅしょう、全国ぜんこく大会たいかいにも出場しゅつじょうしました。
そして、2012（平成へいせい24）年ねんのドラフト会議かいぎで、オリックスから堂々どうどうたる1位い指名しめいを受うけました。

「高校こうこう時代じだいはプロ野球やきゅう選手せんしゅになるなんて、夢ゆめにも思おもいませんでした。ヒジのケガで、“別べつのスポーツをした方ほうがいい”と言いわれたこともありましたし、もう野球やきゅうを諦あきらめなければならないとさえ思おもいましたから」

高校こうこう時代じだいから取材しゅざいをしてきた私わたしにとって、松葉まつば投手とうしゅは「努力どりょくは裏切うらぎらない」ということを教おしえてくれた特別とくべつな存在そんざいです。

ただ、プロ入いり後ご、一時いちじは侍さむらいジャパンに選えらばれるなど、順調じゅんちょうに見みえたプロ野球やきゅう人生じんせいでしたが、近年きんねんは不振ふしんにあえいでいます。
昨年さくねんは、オリックスから中日ちゅうにちへトレードで移籍いせきするも、新天地しんてんちの一軍いちぐんでは1試合しあいのみの登板とうばん。
プロ7年ねん目めにして、初はじめて0勝しょうに終おわったシーズンでした。

かつて「プロでは苦労くろうすることが多おおいと思おもいます。長ながく野球やきゅうするためには、その苦労くろうに自分じぶん自身じしんがどれだけ耐たえられるか。また、それをステップにして、バネにしてどれだけ“成長せいちょう”できるか、だと思おもいます」
と語かたった松葉まつば投手とうしゅ。

今季こんきは二に軍ぐんキャンプスタート、オープン戦せんでも登板とうばんはなく、一軍いちぐん昇格しょうかくに向むけて、まさに鍛錬たんれんの日々ひびが続つづいています。

無名むめいの高校こうこう時代じだい、野球やきゅうさえ諦あきらめかけた日々ひび・・・、いくつもの試練しれんを乗のり越こえてきました。
まだ、29歳さい、“成長せいちょう”するには、十分じゅうぶんな程ほど、時間じかんが残のこされています。

努力どりょくの先さきに「希望きぼうの光ひかり　みちわたり」（東洋大とうようだい姫路ひめじ　校歌こうかの一部いちぶ）と信しんじて・・・。

兵庫ひょうご県けん代表だいひょうのペナントを初はじめて買かったのは、「育英いくえい高校こうこう」でした。
1990（平成へいせい２）年ねんの夏なつ。
エース戎えびす信行のぶゆき（元もとオリックス・ヤクルト）投手とうしゅの奮闘ふんとうぶりを見みて、感動かんどうしたからです。
それは、全国ぜんこく制覇せいはから遡さかのぼること、3年ねん前まえでした。
「熱闘ねっとう甲子園こうしえん」の育英いくえい―秋田あきた経法大けいほうだい附ふ（現げん・明あきら桜さくら）の試合しあいは、ビデオが擦すり切きれるほど何なん度ども見みました。
試合しあいの途中とちゅう、右みぎひじに痛いたみを感かんじて自みずからマウンドを降おり、リリーフの森田もりた投手とうしゅをベンチから応援おうえん。
延長えんちょうの末すえ、育英いくえいはサヨナラ負まけ。試合しあい後ご、号泣ごうきゅうする森田もりた投手とうしゅの肩かたを抱いだきかかえ、球場きゅうじょうを後のちにする戎えびす投手とうしゅ。
試合しあい後ごのインタビューで「ずっと寮りょう生活せいかつだったので親孝行おやこうこうしたいです」と笑顔えがおで話はなした姿すがた、いまだに目めに焼やき付ついています。

「いやあ、名前なまえはもちろん知しっていましたけど・・・。入学にゅうがくするまで、全国ぜんこく制覇せいはをしたチームとか詳くわしくは知しらなかったんですよ」
そう話はなすのは、かつて育英いくえいのエースとしてセンバツに出場しゅつじょうした・若竹わかたけ竜りゅう士しさん（元もと阪神はんしん投手とうしゅ、現げん阪神はんしん一軍いちぐんサブマネージャー）。
「最初さいしょに練習れんしゅうを見学けんがくしたチームが育英いくえいでした。雰囲気ふんいきを見みて、このチームで甲子園こうしえんに行いくとすぐに決きめたんです」

若竹わかたけさんは、高校こうこう1年ねん時じから試合しあいに出場しゅつじょうしていましたが、2年生ねんせい（2004年ねん）の秋あき、新しんチーム結成けっせい後ごから急きゅう成長せいちょう。初はじめて背番号せばんごう１を背負せおって、兵庫ひょうご県けん秋季しゅうき大会たいかいを迎むかえます。
初戦しょせん、いきなり東洋大とうようだい姫路ひめじと対戦たいせん。先発せんぱつの若竹わかたけ投手とうしゅの力投りきとうもあり、６－３で勝利しょうり。
そして、2回戦かいせんの相手あいてが報徳ほうとく学園がくえん。場所ばしょは高砂たかさご球場きゅうじょう。報徳ほうとく学園がくえんは、この年としの夏なつ、甲子園こうしえんに出場しゅつじょう。
プロ注目ちゅうもく左腕さわん・片山かたやま博ひろし視し（のちに東北とうほく楽天らくてんに入団にゅうだん）投手とうしゅを擁ようして、夏なつ春はる続つづけての甲子園こうしえんを目指めざしていました。

「そりゃ、思おもいましたよ。なんで、いきなり東洋大とうようだい姫路ひめじ、報徳ほうとくやねん、と（笑）でも対戦たいせんが決きまったらやるしかない、それだけでした」

のちにプロに進すすむことになる二人ふたりの投なげ合あい（ともに完投かんとう）は、予想よそう外がいの展開てんかいに。報徳ほうとく学園がくえん・片山かたやま投手とうしゅが制球せいきゅうを乱みだし、序盤じょばんから小刻こきざみに得点とくてんを重かさねた育英いくえいが７－１で勝利しょうり。試合しあいが大おおきく動うごいたのは、１－１の同点どうてんで迎むかえた2回かい。勝かち越こし本塁打ほんるいだを打うったのは若竹わかたけ投手とうしゅでした。

「高校こうこう時代じだい、公式こうしき戦せんで打うった唯一ゆいいつの本塁打ほんるいだです。だって、練習れんしゅう試合しあいを含ふくめても、通算つうさん2本ほんですから（笑）
時々ときどき、本塁打ほんるいだを打うった選手せんしゅが言いうじゃないですか、“感触かんしょくはあまりありませんでした”って。まさにその表現ひょうげんがピッタリ。気きづいたらスタンドに入はいっていたんですよ」

これで気きをよくした若竹わかたけ投手とうしゅは、本人ほんにん曰いわく「知しらない間あいだ」に、球速きゅうそくがグングン上あがり、最速さいそく142㌔を計測けいそく。

「多分たぶん、いくつか自分じぶんの野球やきゅう人生じんせいを変かえた試合しあいってあると思おもうんですけど、間違まちがいなくこの試合しあいはその一ひとつです。片山かたやまくんに投なげ勝かって、自信じしんになりました」

その後ご、育英いくえいは兵庫ひょうご県けんで準じゅん優勝ゆうしょう、近畿きんき大会たいかいでも準じゅん優勝ゆうしょうで5年ねんぶりのセンバツ切符きっぷを手てにします。

2005（平成へいせい１７）年ねん、第だい77回かい大会たいかい。育英いくえいの初戦しょせんの相手あいては愛知あいち・東邦とうほう。
プロ注目ちゅうもくの右腕うわん・木下きのした達生たつお（のちに日本にほんハムに入団にゅうだん）投手とうしゅとの直接ちょくせつ対決たいけつは、1回戦かいせん屈指くっしの好こうカードと言いわれていました。
「投手とうしゅの木下きのしたくんもそうですけど、確たしかチーム打率だりつが全ぜんチームの中なかで、NO１だったんですよ（公式こうしき戦せんのチーム打率だりつ、東邦とうほうは４２５．で1位い）。県けん大会たいかいの時ときと同おなじ気持きもちになりました、またかって。でも、まあ、どこかで戦たたかわないといけないんだからと、すぐに気持きもちは切きり替かわりましたけどね」

開会かいかい式しきの前まえには、柳やなぎヶ浦うら・山口やまぐち俊しゅん（現げん・ブルージェイズ）投手とうしゅと記念きねん撮影さつえいするなど、リラックスしていた若竹わかたけ投手とうしゅ。調整ちょうせいも順調じゅんちょうで、大会たいかい4日にち目めの初戦しょせんに挑いどみました。

初回しょかい、いきなり投球とうきゅうで観客かんきゃくを湧わかせます。
「立たち上あがりって、あんまり覚おぼえていないんですよ。緊張きんちょうしすぎて（笑）でも、僕ぼくのストレートで、スタンドが“ウォー”となったのは記憶きおくにあります」
直球ちょっきゅうは最速さいそく145キロを記録きろくしていました。

試合しあいは予想よそう通どおりの投手とうしゅ戦せん、何なんと０－０で延長えんちょう戦せんへ。
実じつは、試合しあいの中盤ちゅうばんで“見みえないアクシデント”が起おこっていました。

「6回かいくらいですかね、一塁いちるいにけん制せいする時ときにプレートを外はずすでしょ。その時ときに、右足みぎあしのふくらはぎがつってしまいました。それからはストレートもスピードが落おちて苦くるしかった。頼たのむから、1点てん取とってくれと祈いのっていました（笑）」

しかし、思おもいは通つうじず、延長えんちょう10回かいの末すえ、サヨナラ負まけ。スコアは０－１でした。
「最後さいごは、スタミナ切きれでした。完全かんぜんに力負ちからまけだと思おもいました。だから、涙なみだも出でなかったんです。もちろん、土ども持もって帰がえりませんでした」

92回かいを数かぞえるセンバツの中なかで、兵庫ひょうご県けん代表だいひょうが０－１で負まけた試合しあいは10試合しあいあります。
その中なかで、延長えんちょうでのサヨナラ負まけというのは、長ながい歴史れきしでもこの試合しあいだけです（夏なつは第だい19回かい大会たいかい、中京ちゅうきょう商しょう―明石あかし中ちゅうが延長えんちょう25回かいで決着けっちゃく）。
「そうなんですか？それは初はじめて知しりました（笑）何なんでも歴史れきしに残のこるのは嬉うれしいですね」

若竹わかたけさんは、育英いくえい高校こうこうを卒業そつぎょう後ご、阪神はんしんに入団にゅうだん（高校生こうこうせいドラフト3巡じゅん目め）。一軍いちぐんでも10試合しあいに登板とうばんしました。
北海道ほっかいどう日本にほんハムにトレードで移籍いせきした後のち、2013年ねんに退団たいだん。
2014年ねんから2018年ねんまでは、社会しゃかい人じんチームの三菱重工みつびしじゅうこう神戸こうべ・高砂たかさごで現役げんえきを続つづけました。
昨年さくねん、阪神はんしんに復帰ふっき。アカデミーコーチを1年ねん務つとめた後のち、今年ことしから一軍いちぐんのサブマネージャーとして忙いそがしい毎日まいにちを送おくっています。

そんな中なか、飛とび込こんできた“センバツ中止ちゅうし”の一報いっぽう。
「もちろん、この世よの中なかの状況じょうきょうを考かんがえると、中止ちゅうし決定けっていに関かんして何なにも言いえません。でも、選手せんしゅはもちろん、保護ほご者しゃの方々かたがた、学校がっこう関係かんけい者しゃの皆みなさんも本当ほんとうに楽たのしみにされていたと思おもうんです。だから、言葉ことばが見みつからないというか、辛つらいですよね。“夏なつに向むけて頑張がんばってください”と言いうこと自体じたいは簡単かんたんですけど・・・。気持きもちの切きり替かえもすぐにというのは難むずかしいかもしれません。でも、“今いま出来できること”と“今いますべきこと”を、一いち日にちずつ考かんがえて、野球やきゅうと向むき合あってもらえたらと思おもいますね」

母校ぼこう・育英いくえいの校歌こうかには、
「花はなの色いろ」「香こうに匂におう」「春はるの園えん」と春はるを連想れんそうさせるフレーズがたくさんあります。
若竹わかたけさんは、「本当ほんとうの春はる」が92回かい大会たいかいの高校こうこう球児きゅうじたちに、いずれ必かならず訪おとずれると信しんじています。

「いつもテレビ見みてますよ」
いまだに、“笑顔えがお”で語かたってくれた表情ひょうじょうが目めに焼やき付ついています。

それは、2000（平成へいせい１２）年ねんの秋季しゅうき近畿きんき高校こうこう野球やきゅう大会たいかい1回戦かいせんでした。翌年よくねんのセンバツをかけた大切たいせつな大会たいかい。
この日ひの会場かいじょうは、甲子園こうしえん球場きゅうじょう。兵庫ひょうご県けん代表だいひょうが1日にちで3校こう登場とうじょうするとあって、ワクワクした気持きもちで取材しゅざいに行いきました。第だい1試合しあいから、
神戸こうべ国際こくさい大附おおつき―滋賀しが・近江おうみ、神かみ港こう学園がくえん―和歌山わかやま・南部なんぶ、姫路工ひめじこう―市和歌山商しわかやましょう（現げん・市し和歌山わかやま）の3試合しあい。

冒頭ぼうとうの声こえを聞きいたのは、第だい1試合しあいが終おわって、取材しゅざいの輪わが解とけた直後ちょくごでした。
当時とうじ、まだアナウンサーとして、3年ねん目め。「熱血ねっけつ！タイガース党とう」がスタートして2シーズン目め。
いきなりで、ビックリして、でもメチャクチャ嬉うれしくて・・・。
「えっ、あ、ありがとう。甲子園こうしえん出でられるよう頑張がんばってね。応援おうえんしてるわ！」
一瞬いっしゅんでその選手せんしゅのファンになりました。

その選手せんしゅとは、神戸こうべ国際こくさい大附おおつきの坂口さかぐち智さとし隆たかし選手せんしゅ。この時とき、丸刈まるがりの高校こうこう1年生ねんせい、16歳さい。背番号せばんごう「１」のエースでした。チームとして、初はつの近畿きんき大会たいかい。土壇場どたんば9回かいに逆転ぎゃくてんして、初戦しょせん突破とっぱ。当時とうじの地元じもと紙しには「見みえた初はつの甲子園こうしえん」とあります。

その年としの秋季しゅうき兵庫ひょうご大会たいかいでも、準々じゅんじゅん決勝けっしょうの三原みはら（現げん・淡路あわじ三原みはら）戦せんでノーヒットノーランを達成たっせいするなど、
県内けんない注目ちゅうもくの選手せんしゅ・・・だったようですが、勉強べんきょう不足ふそくでした。

神戸こうべ国際こくさい大だい附ふは、上記じょうきの近畿きんき大会たいかいでベスト４。翌よく春はる、創部そうぶ以来いらい初はじめての甲子園こうしえん出場しゅつじょうが決きまりました。

2001（平成へいせい１３）年ねん、第だい73回かい大会たいかい。21世紀せいき枠わくが新あらたに設もうけられた大会たいかい。21世紀せいき初はつの大会たいかい。
坂口さかぐち選手せんしゅはエースとして、センバツの舞台ぶたいに挑いどみました。

山梨やまなし・市川いちかわとの1回戦かいせん。3回かい表ひょうに神戸こうべ国際こくさい大だい附ふが2点てんを先制せんせい。“エース坂口さかぐち”も7回かいまで相手あいて打線だせんを1点てんに抑おさえ、２－１でリード。初はつ出場しゅつじょうで初はつ勝利しょうりが見みえてきた8回かい裏うらに試練しれんが待まち受うけていました。

市川いちかわの先頭せんとうバッターは、２番ばんの村松むらまつ選手せんしゅ。二塁打にるいだで出塁しゅつるいして、ノーアウト２塁るい。
続つづく３番ばんの名取なとり選手せんしゅは送おくりバント、打球だきゅうは坂口さかぐち投手とうしゅの目めの前まえに。
捕と球たま後ご、反はん時計とけい回まわりに体からだを回転かいてんさせ、三塁さんるいへ送球そうきゅう・・・まではよかったのですが、
大おおきく逸はぐれて、悪あく送球そうきゅうとなり同点どうてん。その後ご、２本ほんの安打あんだで逆転ぎゃくてんを許ゆるし、マウンドを先輩せんぱいの小野おの投手とうしゅに譲ゆずります。

「甲子園こうしえん？いっぱいお客きゃくさんも入はいっていて（21000人にん）楽たのしかったですけど、魔物まものが住すんでいました（笑）
あの8回かいです。悪あく送球そうきゅうの瞬間しゅんかん、魔物まものと目めが合あいました（笑）」

結局けっきょく、神戸こうべ国際こくさい大だい附ふは初陣ういじんを勝利しょうりで飾かざることはできませんでした。

私わたしはテレビ観戦かんせんでしたが、坂口さかぐち選手せんしゅの“笑顔えがお”がとても印象いんしょうに残のこっています。ただ笑わらっているんではないんです、とにかく「野球やきゅうが大好だいすきなんや！そして楽たのしいんや！」という気持きもちが伝つたわってきたんです。それは、初対面しょたいめんの時ときと、全まったく変かわりませんでした。

「僕ぼくのモットーは、“全力ぜんりょくプレー”“全力ぜんりょく疾走しっそう”そして、“笑顔えがお”です！」
新庄しんじょう剛志たけし（阪神はんしん、日本にほんハムなどで活躍かつやく）さんに憧あこがれたという少年しょうねん時代じだい。
理由りゆうは「どんなプレーをしても絵えになる選手せんしゅだったから」

私わたしは高校こうこう時代じだい、坂口さかぐち選手せんしゅの試合しあいを1試合しあいだけ実況じっきょうしました。
この年としの夏なつ、兵庫ひょうご大会たいかいの準決勝じゅんけっしょう、東洋大とうようだい姫路ひめじ戦せんです。
私わたしにとって、前年ぜんねん夏なつの「関西学院かんせいがくいん高等こうとう部ぶ―津名つな」戦せんに次ついで、人生じんせい2度目どめの高校こうこう野球やきゅう中継ちゅうけいでした。
試合しあいは２－１で東洋大とうようだい姫路ひめじが勝利しょうりし、春はる夏なつ連続れんぞくの甲子園こうしえんはなりませんでした。

翌年よくねんのセンバツも逃のがし、残のこるチャンスは1度ど。2002年ねんの夏なつ。
準決勝じゅんけっしょうの市立しりつ尼崎あまがさき戦せん、9回かいに5点てん差さを逆転ぎゃくてんするという劇的げきてきなサヨナラ勝利しょうりで、初はつの頂点ちょうてんまで1勝しょう。
しかし、決勝けっしょうで、この年としのセンバツで優勝ゆうしょう、のちにプロ入いりする選手せんしゅを2人ふたり（現げんロッテ大谷おおや投手とうしゅ、元もと日本にほんハム尾崎おざき選手せんしゅ）擁ようする報徳ほうとく学園がくえんの前まえに、最後さいごは力尽ちからつきました。

2003年ねんにドラフト1位いで大阪おおさか近鉄きんてつバファローズに入団にゅうだん。球団きゅうだん合併がっぺい後ご、2005年ねんからオリックスへ。
その後ご、自由じゆう契約けいやくとなり2016年ねんから東京とうきょうヤクルトへ。16歳さいの少年しょうねんは、ベテランの域いきに近ちかづく35歳さいに。今年ことしで、プロ入いり18年ねん目めの春はるを迎むかえました。

高校こうこう1年生ねんせいの秋あきに初はじめて出会であって以来いらい、20年ねん近ちかく、毎年まいとしのように取材しゅざいをしてきました。
球場きゅうじょうで会あえば、必かならずモットーの“笑顔えがお”を見みせてくれます。

2009年ねん7月がつ7日にち、自身じしんの誕生たんじょう日びに本塁打ほんるいだを放はなって、私わたしがヒーローインタビュー。
2016年ねん3月がつ30日にち、ヤクルト移籍いせき後ごに私わたしが初はじめて見みた試合しあいで、“全力ぜんりょくプレー”の三塁打さんるいだ、気迫きはくのヘッドスライディング。
2018年ねん7月がつ13日にち、プラスワンでオールスターゲームに選出せんしゅつされ、かつての本拠地ほんきょち・京きょうセラドーム大阪おおさかでの大だい歓声かんせい。

数かぞえ上あげれば、思おもい出ではキリがありません。

昨年さくねんはケガもあって、不本意ふほんいな成績せいせきに終おわり、今年ことしにかける思おもいは特別とくべつです。
「見みとってください！」
今年ことしのキャンプでも“笑顔えがお”で語かたってくれました。

そんな坂口さかぐち選手せんしゅに、母校ぼこうの校歌こうかの一節いっせつを送おくります。
「行ゆく手てにはあふれる希望きぼう」あるのみ！

「ビールいかがですかー」
初日しょにちは恥はずかしかったセリフも、大会たいかいが進すすむにつれ、自分じぶん自身じしんでも違和感いわかんなく大おおきな声こえで言いえるようになっていました。

センバツコラム～その⑧～で記しるしましたが、アルバイト代だいは二にの次つぎ。色々いろいろな方ほうにも出会であいました。

時ときには、取材しゅざい通路つうろで、たくさんの報道ほうどう関係かんけい者しゃに囲かこまれるPL学園がくえんの中村なかむら監督かんとく。
時ときには、トイレで、連日れんじつの中継ちゅうけいを担当たんとうする憧あこがれの実況じっきょうアナウンサー。
時ときには、スタンドで、私わたしを冷ひやかしに来きた高校こうこう時代じだいの友人ゆうじん。

そして、時ときにはこんなことも。
あるチームのアルプススタンドをウロウロしていると、
「ちょっと、お兄にいちゃん、こっち来きて」
40代だいくらいの男性だんせいだったと思おもいます。
“お、ビールでも買かってくれるのかな”と思おもって、急いそいで行いくと
「試合しあい中ちゅう、ずっと横よこにおって」
「え？？」
「ビールなんぼでも買かったるから、一緒いっしょに応援おうえんしてくれ！」
「は、はい！ありがとうございます！」
こうして、私わたしは、その試合しあい、ずっとその男性だんせいの側がわで応援おうえんしていました、何なん度どもビール倉庫そうこと往復おうふくしながら。
その1試合しあいだけで80本ほん程ほどのビールが、“ただ座すわっただけ”なのに売うれました。
アルバイト初心者しょしんしゃの私わたしが、1試合しあいでこれだけのビールを売うるなんてあり得えないことでした。ただただ、感謝かんしゃあるのみでした。アルバイトの責任せきにん者しゃもビックリしていました（笑）
残念ざんねんだったのは、このチームが初戦しょせんで敗やぶれてしまったこと。
まさに「一期一会いちごいちえ」の出会であいでした。

66回かい大会たいかいは試合しあい観戦かんせんよりもスタンドの空気くうきを味あじわうことが多おおかったので、試合しあいそのものはあまりじっくり見みていません。
しかし、1シーンだけ、強烈きょうれつに印象いんしょうに残のこっているものがあります。
それは、準々じゅんじゅん決勝けっしょう第だい2試合しあい、智辯和歌山ちべんわかやま―愛媛えひめ・宇和島東うわじまひがし戦せん。
それまで4万まん人にんを超こえた試合しあいが1試合しあいと比較的ひかくてき静しずかなセンバツでしたが、この日ひは土曜日どようび。
大阪おおさか・PL学園がくえんをはじめ、近畿きんき勢ぜいが4校こう登場とうじょうするとあって、スタンドはあっという間まに埋うまっていきました。この試合しあいで大会たいかい2度目どめの4万まん人にん超こえ。アルバイト中ちゅうも、通路つうろがお客きゃくさんでいっぱいで、ちょっと歩あるきづらい状況じょうきょうでした。
橋本はしもと将すすむ（のちにロッテ入団にゅうだん）捕手ほしゅを中心ちゅうしんとした宇和島東うわじまひがしは優勝ゆうしょう候補こうほの一角いっかくにも挙あげられていました。
対たいする智弁和歌山ちべんわかやまは、前年ぜんねんの夏なつに甲子園こうしえん初はつ勝利しょうり。ベスト８自体じたいもこの大会たいかいが初はじめてでした。

試合しあいは8回かい終了しゅうりょう時じ、４－０で宇和島東うわじまひがしリード。私わたしは、その時とき、バックネット裏うら付近ふきんにいました。
「宇和島東うわじまひがしがこのまま勝かつんやろな」
何なんの疑うたがいもなく、ビールを売うっていました。

しかし、9回かい表ひょう、智弁和歌山ちべんわかやまが1アウトから反撃はんげきに出でます。
1点てんを返かえして、なおも2アウト満塁まんるい。押おし出だしのフォアボールで2点てん差さ。
さらに2アウト満塁まんるい、バッター植うえ中ちゅう選手せんしゅのカウントは3ボール。
宇和島東うわじまひがし・上甲うえこう監督かんとくは、この場面ばめんで、投手とうしゅを鎌田かまた投手とうしゅから松瀬まつせ投手とうしゅに代かえます。
そして、1ストライクを取とった後のちの5球きゅう目めでした。

今いま、さも見みていたかのように書かいていますが、当時とうじの私わたしは何なにも知しりません。
でも、偶然ぐうぜん、その5球きゅう目めだけは見みていました。

甲子園こうしえんは、この日ひも快晴かいせいでした。
まぶしい陽光ようこうを植うえ中ちゅう選手せんしゅの打球だきゅうが切きり裂さいていきました。
あっという間まに右中間うちゅうかんへ。走者そうしゃ一掃いっそうの逆転ぎゃくてんタイムリー3ベース！