渋谷しぶやの喫煙きつえんカフェ「Lighters」にはどんな人ひとが集たかっているのか？意外いがいな客層きゃくそうと雰囲気ふんいき

　喫煙きつえん者ものにとって、受難じゅなんの時代じだいが到来とうらいしている。2020年ねんの改正かいせい健康けんこう増進ぞうしん法ほうの施行しこうにより屋内おくないの喫煙きつえんが原則げんそく禁止きんしされたことで、喫茶店きっさてんや居酒屋いざかやなどの飲食いんしょく店てんからパチンコ店てんに至いたるまで、タバコが吸すえなくなってしまった。駅前えきまえに設置せっちされた喫煙きつえんエリアなども激減げきげんしており、今いまや街まちなかで「タバコを吸すっていい場所ばしょ」がほとんど見当みあたらないのが実情じつじょうだ。

　21年ねん10月がつには増税ぞうぜいでタバコの価格かかくが軒並のきなみ上あがり、経済けいざい的てき負担ふたんも増大ぞうだい。非ひ喫煙きつえん者しゃからは害悪がいあくのように扱あつかわれることもあり、文字通もじどおり四面楚歌しめんそかの状態じょうたいだ。

　そんな中なか、紙巻かみまきタバコはもちろん、葉巻はまき、パイプも全面ぜんめん的てきに喫煙きつえん可能かのうなカフェが東京とうきょう・渋谷しぶやの公園こうえん通どおりにオープンし、愛煙あいえん家かから注目ちゅうもくを集あつめているという。そこには、行いき場ばをなくしたスモーカーたちが集たかっているのだろうか。実際じっさいに行いってみた。

全席ぜんせき喫煙きつえん可かの「Lighters」とは？

　渋谷しぶや駅えきハチ公はちこう口こうを出でてから徒歩とほ10分ふんほど。駅前えきまえの喧騒けんそうから離はなれ、アパレルショップなどが並ならぶ公園こうえん通どおりに「SMOKE＆CAFE Lighters」はある。全席ぜんせき喫煙きつえん可かをうたっており、カフェメニューも「煙草たばこに合あうコーヒー」など、愛煙あいえん家か向むけに仕立したててあるという。

　周囲しゅういにはカフェやレストランなどの飲食いんしょく店てんも多おおく、30mほど歩あるくとスターバックスコーヒー、道路どうろを挟はさんだ向むかいにはサンマルクカフェと、人気にんきコーヒーチェーンが密集みっしゅうしている。とはいえ、これらの店舗てんぽはいずれも禁煙きんえんのため、喫煙きつえん者しゃをターゲットとするLightersとは棲すみ分わけができていそうだ。

　そもそも、このご時勢じせいに、なぜ全面ぜんめん喫煙きつえん可かの飲食いんしょく店てんをオープンすることができたのか。20年ねん4月がつ1日にちに施行しこうされた東京とうきょう都と受動じゅどう喫煙きつえん防止ぼうし条例じょうれいには「喫煙きつえん目的もくてき施設しせつ」という種別しゅべつがあり、この中なかで「喫煙きつえんする場所ばしょを提供ていきょうすることが主しゅたる目的もくてきであって、たばこの対面たいめん販売はんばい（出張しゅっちょう販売はんばいを含ふくむ）をしており、『通常つうじょう主食しゅしょくと認みとめられる食事しょくじ』を主しゅとして提供ていきょうしていない飲食いんしょく店てん等とうを指さす」と定義ていぎされている。

　つまり、「喫煙きつえん目的もくてき施設しせつ」では「主食しゅしょくでない飲食いんしょく物ぶつなら提供ていきょう可能かのう」ということになり、コーヒーやお酒さけ、簡単かんたんな食事しょくじを出だせるわけで、店みせをまるごと「軽けい飲食いんしょくのできる喫煙きつえん室しつ」にすれば営業えいぎょうOKというカラクリなのだ。

　そんな“喫煙きつえん目的もくてき施設しせつ”のLightersは、20歳さい未満みまんは入いれ店てん禁止きんし。内装ないそうもオトナ系けいで黒くろやグレーを基調きちょうとしており、テーブルや壁かべには木目もくめ柄がらが施ほどこされた穏おだやかな空間くうかんが広ひろがっている。天井てんじょうにはシーリングファンが回まわり、巨大きょだいなダクトが張はり巡めぐらされて排気はいきや空調くうちょうも強力きょうりょくそうだ。店内てんないにはすでに喫煙きつえんを楽たのしんでいるお客きゃくさんがいたが、タバコのニオイがこもることもなく、まったく煙けむたくなかった。

　座席ざせき数すうはテーブル席せきとカウンター席せきを合あわせて全ぜん40席せきほど。両りょうサイドのカウンター席せきはコンセント付つきで、簡単かんたんな仕事しごとや勉強べんきょうもできそうだ。

　平日へいじつの昼下ひるさがりという時間じかん帯たいだったが、先客せんきゃくは3組くみ、黒くろいキャップにヒゲを生はやし、全身ぜんしん黒くろ系けいの古着ふるぎを着きこなす下北しもきた系けいの30代だい前半ぜんはんの男性だんせいに、髪かみの毛けを後うしろに結むすび、派手はでなシールがベタベタ貼はられたパソコンを広ひろげる学生がくせい風ふう男子だんし2人組にんぐみ。そして、いかにも渋谷しぶやのベンチャー企業きぎょうの社員しゃいんといった、20代だい後半こうはんの男女だんじょ4人にんグループ。いずれも、オシャレな店内てんないによく馴染なじんでいた。

　メニューは店員てんいんが薦すすめてくれた「ラザーニャ（1000円えん）」と「煙草たばこに合あうコーヒー（550円えん）」をセットで注文ちゅうもん。このラザーニャが「主食しゅしょく」にあたるのかどうかはわからないが、味あじはかなり本格ほんかく派はだった。店員てんいんに尋たずねると、イタリアンレストランで10年ねん働はたらいていたシェフが開発かいはつした料理りょうりを提供ていきょうしているという。

「煙草たばこに合あうコーヒー」は、苦味にがみの効きいたストンロング系けい。他ほかにも、コーヒーとアルコールを組くみ合あわせた「アマレットカフェ（750円えん）」や「エスプレッソトニック（800円えん）」などもあり、ドリンクにもこだわりのメニューが並ならぶ。

　しばらくすると、肩かたまで伸のばした黒髪くろかみに上品じょうひんなメイクを施ほどこし、上下じょうげとも白しろのパンツスタイルで決きめた60歳さいくらいのハイソなマダムが入いれ店てんしてきた。まだ昼下ひるさがりだというのに、白しろのグラスワインを注文ちゅうもんし、優雅ゆうがにタバコとワインを嗜たしなんでいた。

　予想よそうしていたような、駅前えきまえの喫煙きつえん所ところにいるようなサラリーマン客きゃくの姿すがたを見みることはなく、いかにも渋谷しぶや・公園こうえん通どおりのカフェという雰囲気ふんいきと客層きゃくそうだった。

週末しゅうまつには葉巻はまきをくゆらす中年ちゅうねん男性だんせいも

　時間じかんを変かえて、今度こんどは土曜日どようびの18時じに再訪さいほう。この時間じかん帯たいならお酒さけを楽たのしむ客きゃくが多おおそうと予想よそうしたのだが、いい意味いみで落おちついた雰囲気ふんいきだった。お酒さけを飲のんでいる人ひとはゼロで、店内てんないにいた3人にんともコーヒーを嗜たしなんでいた。中なかでも気きになったのが50代だいくらいのスーツ姿すがたの男性だんせいで、立派りっぱな葉巻はまきを優雅ゆうがにくゆらせていた。

　葉巻はまきは、喫煙きつえん者しゃですら苦手にがてと言いう人ひとがいるほどニオイが強烈きょうれつなため、吸すう場所ばしょに困こまっているはず。葉巻はまき愛好あいこう家かの男性だんせいにとっては、手軽てがるなシガーバーとして利用りよう価値かちが大おおきいのだろう。

　名目めいもくとしては「飲食いんしょくできる喫煙きつえん所しょ」のLightersだが、場所ばしょ柄がらもあってかオシャレでこだわりのありそうな客きゃくが集つどい、独特どくとくのスノッブ感かんが漂ただよう。ただタバコが吸すいたいだけの一般いっぱん的てきな喫煙きつえん難民なんみんにとっては、少々しょうしょう敷居しきいが高たかいように感かんじた。

　しかし、こうした喫煙きつえん目的もくてきのお店みせがひとつでも増ふえることは、愛煙あいえん家かにとっては朗報ろうほうに違ちがいない。ニッチな需要じゅようなのかもしれないが、全面ぜんめん喫煙きつえん可かカフェは今後こんごも広ひろがりを見みせそうだ。

（文ぶん＝田中たなか慧とし）