楽器がっき演奏えんそうでダイエット効果こうか…指揮しき者しゃのコンサート1回かい当あたりのカロリー消費しょうひ量りょうは？

　演奏えんそう会かい後ごに、「指揮しきは全身ぜんしん運動うんどうですね。あれだけの運動うんどうをすると大変たいへんではないですか？」と、聴ききに来きてくれた知人ちじんから尋たずねられることがよくあります。

　しかし、実じつはそれほど大変たいへんではないのです。もちろん体力たいりょくは使つかいますが、例たとえるならば、大だい音響おんきょうのクラブで2時間じかん踊おどったあとに同おなじ質問しつもんをされても、「疲つかれてなんかいないよ。楽たのしかった！」と返事へんじするのとよく似にているかもしれません。

　ところが、クラブでも音楽おんがくがなければ30分ふんも踊おどることはできないでしょう。指揮しき者しゃも同おなじで、2時じ間近まぢかくも指揮しきをすることができるのは、オーケストラが音おとを出だしてくれているからです。オーケストラなしで本番ほんばんさながらに腕うでを動うごかそうとしても、10分間ふんかんも続つづかないに違ちがいありません。では、なぜ音楽おんがくがあれば苦くになることなく、1時間じかんでも2時間じかんでも指揮しきを振ふったり、踊おどったりできるのでしょうか。

　オーケストラを指揮しきしたり、クラブで踊おどることはなくても、ジョギングやウォーキング、ジムでのトレーニングなどの運動うんどう時じに音楽おんがくを聴きく方ほうは多おおいと思おもいます。東京大学とうきょうだいがくの池田いけだ祐二ゆうじ教授きょうじゅによると、運動うんどう時じの音楽おんがくは体からだに多おおくのメリットをもたらし、脳のうを活性かっせい化かさせてドーパミンを分泌ぶんぴつさせるそうです。ドーパミンは体からだに心地ここちよさを与あたえる効果こうかがあるので、運動うんどうのつらさが鈍にぶり、疲労ひろうを感かんじにくくさせます。しかも、ダイエット効果こうかも高たかめるそうです。

　楽器がっきを演奏えんそうするオーケストラ楽員がくいんはどうでしょうか。オーケストラのなかでも代表だいひょう的てきな楽器がっきであるヴァイオリンを例れいに取とります。見みた目めはいかにも上品じょうひんに、優雅ゆうがそうに演奏えんそうしていますが、よくよく観察かんさつすると、実際じっさいには、右腕うわんを大おおきく動うごかして弓ゆんで音おんを出だし、左手ひだりての腕うでは楽器がっきを支ささえながら、親指おやゆび以外いがいの指ゆびをめまぐるしく動うごかしています。仮かりに、1小節しょうせつの中なかに16個この音符おんぷがあり、それが100小節しょうせつの曲きょくだったとしたら、1600回かいも指ゆびを動うごかすことになります。

　こんなことを長時間ちょうじかんできるのは、音楽おんがくを演奏えんそうすることによって発生はっせいするドーパミンの助たすけがあるからこそでしょう。大阪大学おおさかだいがく大学院だいがくいんの木下きのした博ひろし教授きょうじゅの研究けんきゅうによると、ゆっくりとウォーキングするのとヴァイオリンを弾ひくのとでは、カロリーの消費しょうひ量りょうは変かわらないそうです。

　体重たいじゅうが60キロあるヴァイオリン奏者そうしゃが、約やく75分ふんかかるベートーヴェンの交響こうきょう曲きょく第だい9番ばんを演奏えんそうしたとします。もちろん、個人こじん差さはあるにせよ、約やく200キロカロリーの消費しょうひとなるそうです。ウォーキングに換算かんさんすると、4キロも歩あるいたのと同おなじです。演奏えんそうをするためには、カロリーを多おおく必要ひつようとする脳のうもフル回転かいてんするので、その分ぶんも合あわせて200キロカロリーですが、ヴァイオリン奏者そうしゃの方々かたがたにスリムな方ほうが多おおいのは納得なっとくします。ちなみに、このデータには基礎きそ代謝たいしゃも含ふくまれているので、ヴァイオリンを弾ひけばエネルギー消費しょうひ量りょうが200キロカロリー増ふえるというわけではありません。

楽器がっき演奏えんそうでダイエット？

　楽器がっき演奏えんそうをしながらダイエットができるとなれば、一石二鳥いっせきにちょうです。肺活量はいかつりょうも必要ひつような管楽器かんがっきにダイエット効果こうかがあるのは当然とうぜんですが、管楽器かんがっき以上いじょうにヴァイオリンが飛とび抜ぬけてエネルギー消費しょうひ量りょうが多おおいことは、僕ぼくも意外いがいでした。

　また、ピアノ演奏えんそうもダイエット効果こうかがあります。たとえば、音大おんだい受験じゅけんやリサイタルに備そなえて毎日まいにち6時じ間あいだ練習れんしゅうするとすれば、体重たいじゅう45㎏の女性じょせいなら560キロカロリー消費しょうひし、65㎏の男性だんせいならば、800キロカロリーの消費しょうひとなります。決けっして少すくない運動うんどう量りょうではないので、十分じゅうぶんなエネルギー補給ほきゅうが必要ひつようだそうです。

　そんななか、もっともダイエット効果こうかがある楽器がっきを調しらべてみると、打楽器だがっきでした。特とくに大おおきな和わ太鼓たいこなどは、1時じ間あいだ叩たたくと400キロカロリー。ジョギングと同おなじくらいのカロリー消費しょうひ量りょうとなります。とはいえ、これは極端きょくたんな例れいですし、そこまでやるとやはりくたくたになってしまうので、軽かるいウォーキング程度ていどのオーケストラ楽器がっきの演奏えんそうだからこそ、オーケストラコンサートのような長時間ちょうじかんにわたる演奏えんそうが可能かのうなのでしょう。

　ところで、音楽おんがくを聴ききながらドーパミンも出だして気持きもち良よく運動うんどうする際さいに、さらにダイエット効果こうかが高たかまる方法ほうほうがあります。それは簡単かんたんな話はなしで、曲きょくのチョイスです。まずは、速はやいテンポの曲きょくを選えらべば、無意識むいしきで運動うんどうのスピードを上あがり、苦くにならずにダイエット効果こうかも上あがるそうです。1分間ふんかんに120回かいから140回かいのテンポを刻きざむ音楽おんがくがもっとも効果こうか的てきとのことで、クラシック音楽おんがくであればモーツァルトなどはおすすめです。そして、クラシックやポップス、ジャズなどジャンルにこだわらずに、自分じぶんの好すきな音楽おんがくを聴きくことが、ますます効果こうか的てきだそうです。

　しかし、速はやいテンポの曲きょくを聴ききながら運動うんどうしていると、心拍しんぱく数すう、血圧けつあつ、呼吸こきゅう数すうが無意識むいしきのうちに増加ぞうかしてカロリーを消費しょうひするので、運動うんどう後ごには疲つかれてしまうこともあるでしょう。そんなときは、ゆっくりした曲きょくを聴きけば、心拍しんぱく数すう、血圧けつあつ、呼吸こきゅう数すうを下さげる効果こうかがあり、それだけでなくストレスホルモンまでも減少げんしょうさせるそうです。そんなクールダウンの時間じかんには、バッハの『G線上せんじょうのアリア』や、マーラーの交響こうきょう曲きょく第だい5番ばん第だい4楽章がくしょう『アダージェット』など聴きかれると良よいと思おもいます。

指揮しき者しゃは1回かいのコンサートでどのくらいカロリーを消費しょうひする？

　もちろん、音楽おんがくの力ちからでカロリーを消費しょうひしても、それ以上いじょうに暴飲ぼういん暴食ぼうしょくを重かさねるとダイエット効果こうかは台無だいなしになります。たとえばオペラ歌手かしゅなどは、歌うたって、演技えんぎして、時ときには踊おどって、全身ぜんしん運動うんどうそのものなので、ものすごく効果こうかがあるはずなのです。歌うたを歌うたうだけでもダイエット効果こうかが期待きたいされるので、どんどん痩やせていくことは間違まちがいありません。

　彼かれら自身じしん、ファンによく「オペラを一本いっぽん歌うたえば、毎回まいかい2キロは体重たいじゅうが減へります」と言いうのですが、それにもかかわらず、多おおくのオペラ歌手かしゅは体格たいかくが良よく、もう少すこし突つっ込こんだい方いかたをすると、ほどほどに太ふとっている方ほうが多おおいのです。彼かれらの計算けいさんでは、2日間にちかん歌うたったら4キロ、3日間にちかん歌うたったら6キロ減へっていくはずなのですが、そうは思おもえないのです。

　本番ほんばん後ごに観客かんきゃくからたくさんの「ブラボー」をもらい、興奮こうふんしきった体からだを冷ひやすためにビールをがぶ飲のみするだけでなく、歌手かしゅは食欲しょくよく旺盛おうせいなので、本番ほんばん中ちゅうに2キロ痩やせても、その後ごの打うち上あげで2キロ戻もどすのかもしれません。

　最後さいごに、指揮しきはどうでしょうか。あれだけ動うごき回まわっているにもかかわらず、実じつはヴァイオリンよりも消費しょうひカロリーはやや少すくなくチェロと同おなじくらいで、60㎏の指揮しき者しゃがベートーヴェンの『第だい九きゅう』を振ふっても、180キロカロリーくらいだそうです。

　ずいぶん前まえになりますが、僕ぼく自身じしんを使つかって実験じっけんしたことがあります。あるオーケストラを指揮しきしたときのことです。本番ほんばん直前ちょくぜんのホールでリハーサルをした後のち、一度いちどホテルに帰かえって軽かるくシャワーを浴あび、体重たいじゅうを量はかり、燕尾服えんびふくに着替きがえてホールに戻もどってコンサートを指揮しきしました。しかもプログラムの後半こうはんは、チャイコフスキー交響こうきょう曲きょく第だい4番ばん。最初さいしょから最後さいごまで音おとのエネルギーに満みちあふれたパワフルな作品さくひんで、その後ごにはアンコールを指揮しきするのも精しらげ一いち杯はいなくらいくたくたに疲つかれる曲きょくです。

　加くわえて、僕ぼくが今いま以上いじょうに指揮しき台だい上じょうで大だい暴あばれしていた若わかい頃ころです。休憩きゅうけい中ちゅうにも水みずすら飲のむことなくコンサートを終おえ、ホテルに戻もどってから楽たのしみにしていた体重たいじゅう計けいに乗のりました。当時とうじ、僕ぼくはダイエットをしていたのです。ところが、驚おどろいたことに体重たいじゅうはコンサート前まえと同おなじで、全然ぜんぜん変かわっていませんでした。

　コンサート時じにかいた汗あせの分ぶんくらいしか体重たいじゅうは減へっておらず、プログラム前半ぜんはんの曲きょくも合あわせて250キロカロリー、多おおめに考かんがえても300キロカロリー消費しょうひした程度ていどでは体重たいじゅう計けいの数字すうじは変かわらないのです。そしてその後ご、“打うち上あげ”と称しょうして関係かんけい者しゃと暴飲ぼういん暴食ぼうしょくしたので、むしろ増ふえてしまったのかもしれません。