銭湯せんとう業界ぎょうかいが悲鳴ひめい…ガス代だいが月つき172万まん円えんに高騰こうとう、ガス会社かいしゃは大幅おおはば増益ぞうえき、理不尽りふじんな事情じじょう

「つらい　営業えいぎょう努力どりょくではどうしようもできない勢いきおい」――。2月、東京とうきょう都と墨田すみだ区くにある「押上おしあげ温泉おんせん 大黒だいこく湯ゆ」の公式こうしきアカウントが吐露とろしたツイートが注目ちゅうもくを集あつめている。ツイートには1月がつ分ぶんのガス代だいとして「172万まん1826円えん」と記しるされた領収証りょうしゅうしょうの写真しゃしんがアップされており、銭湯せんとう業界ぎょうかいが陥おちいっている危機きき的てきな状況じょうきょうを心配しんぱいする声こえが多数たすう寄よせられている。そこで今回こんかいはエネルギー市場いちばに詳くわしいフリージャーナリストの寺尾てらお淳あつし氏しに、ガス代だい高騰こうとうの影響えいきょうを如実にょじつに受うけている銭湯せんとう業界ぎょうかいの現状げんじょうについて解説かいせつしてもらった。

銭湯せんとうのガス代だいは営業えいぎょう時間じかんや契約けいやくプランによって異ことなる

　すべての銭湯せんとうの燃料ねんりょう費ひが大黒だいこく湯ゆほどの高額こうがくになっているわけではないという。

「大黒だいこく湯ゆは平日へいじつ15時じから翌よく10時じまでという19時じ間あいだのオールナイト営業えいぎょうスタイルが特徴とくちょうの銭湯せんとうです。15時じから22時じの、7時じ間あいだ営業えいぎょうの一般いっぱん的てきな銭湯せんとうの約やく2.7倍ばいの営業えいぎょう時間じかんですので、その分ぶん、燃料ねんりょう費ひも上あがるでしょう。土曜日どようびはそこから1時じ間あいだ伸のびた20時じ間あいだ営業えいぎょう、日曜にちよう・祝日しゅくじつに至いたっては21時じ間あいだ営業えいぎょうですので、さらに燃料ねんりょう費ひがかかっています。一般いっぱん的てきな営業えいぎょう時間じかんの銭湯せんとうは、これほど高額こうがくのガス代だいを払はらっているわけではありません。もちろん浴槽よくそうの大おおきさといった規模きぼ感かんによっても変かわるでしょうし、どのガス会社かいしゃと契約けいやくしているか、どのような料金りょうきんプランにしているかでも、金額きんがくは変動へんどうしていきます」（寺尾てらお氏し）

ウクライナ侵攻しんこうで天然てんねんガス高騰こうとうもガス会社かいしゃは大幅おおはば増益ぞうえき

　ただ、高騰こうとうしているガス代だいに銭湯せんとう業界ぎょうかい全体ぜんたいが苦くるしめられている現状げんじょうは確たしかにあるという。

「結論けつろんからいうと、現在げんざいの国内こくないのガス代だいは2年ねんほど前まえまでと比くらべると2倍ばいぐらいになっています。遠因えんいんはロシアのウクライナ侵攻しんこう以降いこうの天然てんねんガスの仕入しいれ価格かかくの高騰こうとうにあります。パイプラインでEU諸国しょこくに送おくられるロシア産さん天然てんねんガスは、2020年ねん1月がつの月間げっかん平均へいきん価格かかくが100万まんBTU（天然てんねんガスの計算けいさん単位たんい）あたり3.63ドルだったのが、22年ねん8月がつは70.04ドルと20倍ばい近ちかくにまで高騰こうとうしたほか、輸出ゆしゅつ量りょうも制限せいげんしている状況じょうきょうです。日本にっぽんの場合ばあい、主おもな輸入ゆにゅう先さきはカタールやインドネシア、ブルネイからの海上かいじょう輸送ゆそうなので直接的ちょくせつてきな影響えいきょうは受うけていませんが、EU諸国しょこくもこうした輸入ゆにゅう先さきからガスを仕入しいれなければならなくなっています。

　そのため、日本にっぽんでの100万まんBTUあたりの天然てんねんガスの月間げっかん平均へいきん価格かかくは、20年ねん7月がつから21年ねん7月がつまでは10ドルを割わっていましたが、22年ねん9月がつには23.73ドルにまで上昇じょうしょう。これが月間げっかん平均へいきんの最さい高値たかねとなっています。その後ご、同年どうねん10月がつが21.84ドル、11月が19.59ドル、12月が20.58ドル、23年ねん1月がつが20.19ドル、2月がつが19.78ドルとピーク時じからは下さがってはいますが、それでも2倍ばいほどの価格かかくで推移すいいしているのが現状げんじょうですね」（同どう）

　銭湯せんとう業界ぎょうかいが苦境くきょうに立たたされているのは、国内こくないのガス会社かいしゃの対応たいおうによるところも大おおきいという。

「国内こくないのガス会社かいしゃの23年ねん3月がつ期きの通期つうき営業えいぎょう利益りえき見通みとおしを見みると、たとえば前年ぜんねん同期どうき比ひで東邦とうほうガスが140％の増益ぞうえき、東京とうきょうガスが159.6％の増益ぞうえきとなっています。これは、先さきに述のべたロシアのウクライナ侵攻しんこうによる天然てんねんガス価格かかくの高騰こうとうを理由りゆうに、国内こくない消費しょうひ者しゃへのガス料金りょうきんを値上ねあげしたことによる大幅おおはば増益ぞうえきといえるでしょう。

　国内こくないのガス会社かいしゃも確たしかに間接かんせつ的てきに打撃だげきは負おっていますが、日本にっぽんはEU諸国しょこくと違ちがって大だい打撃だげきを受うけたわけではありません。それなのにガス代だいを引ひき上あげたことでここまでの利益りえきを得えているというのは、消費しょうひ者しゃから『ガス料金りょうきんを安やすくして利益りえきを還元かんげんせよ』と思おもわれても仕方しかたないかもしれません」（同どう）

　こうした現状げんじょうに対たいし、「銭湯せんとうも値上ねあげをすればいいのでは？」という指摘してきもみられるが、そう簡単かんたんにはいかないという。

「銭湯せんとうは『公衆こうしゅう浴場よくじょう』に分類ぶんるいされており、その料金りょうきんは物価ぶっか統制とうせい令れいによって都道府県とどうふけん知事ちじが決きめる統制とうせい価格かかくとなっているので、上あげようにも上あげられません。たとえば東京とうきょう都とは現在げんざい、大人おとな（12歳さい以上いじょう）500円えん、中ちゅう人じん（6～11歳さい）200円えん、小人こども（6歳さい未満みまん）100円えんと定さだめており、銭湯せんとうごとに勝手かってに値上ねあげすることはできないのです」（同どう）

価格かかく調整ちょうせいもできない銭湯せんとう…抜本ばっぽん的てきな打開だかい策さくはないのか

　ガス代だいの高騰こうとうで苦くるしめられている銭湯せんとう業界ぎょうかい、今いまの苦境くきょうを生いき延のびる術じゅつはないのだろうか。

「非常ひじょうに難むずかしい問題もんだいです。国内こくないでは今年ことし1月がつから、電気でんき代だい・ガス代だいの負担ふたん軽減けいげん策さくである『電気でんき・ガス価格かかく激変げきへん緩和かんわ対策たいさく事業じぎょう』が始はじまっています。東京とうきょうガスは2023年ねん2月がつ検針けんしん分ぶんの単価たんかから、政府せいふ支援しえんによってガス1立方りっぽうメートルあたり税込ぜいこみ30円えんを割わり引びいていますが、1カ月かげつのガス代だいが60万まん円えん前後ぜんこうが一般いっぱん的てきな銭湯せんとう業界ぎょうかいでは、この微々びびたる減額げんがくが抜本ばっぽん的てきな解決かいけつ策さくになるわけではないため、銭湯せんとう業界ぎょうかいが救すくわれるかというと大おおいに疑問ぎもんです。

　ほかには、公衆こうしゅう浴場よくじょうからスーパー銭湯せんとうなどと同どうじ『日帰ひがえり入浴にゅうよく施設しせつ』に業態ぎょうたいを鞍替くらがえすれば、自由じゆうに料金りょうきんを決きめることはできます。しかしこういった施設しせつはたまに来くるアミューズメント施設しせつとして、多様たようなサービスを受うけられるからお客きゃくも高額こうがく設定せっていに納得なっとくしてくれているので、銭湯せんとうと同おなじ内装ないそうやサービスでは安定あんていした集客しゅうきゃくは望のぞめないでしょう。また、同おなじ土地とちで鞍替くらがえするとなると、安やすい統制とうせい価格かかくゆえに普段ふだん使づかいしてくれていた近隣きんりんの常連じょうれん層そうを失うしなうリスクもあります」

　では大黒だいこく湯ゆの苦境くきょう打開だかい策さくとしては、どのような戦略せんりゃくが考かんがえられるだろうか。

「最もっとも即効そっこう性せいがある対策たいさくは営業えいぎょう時間じかんの短縮たんしゅくではないでしょうか。平日へいじつを午前ごぜん0時じまでの営業えいぎょうとするだけで、19時じ間あいだ営業えいぎょうが9時じ間あいだ営業えいぎょうになり、燃料ねんりょう費ひをほぼ半減はんげんさせることができると思おもいます。もちろん、お店みせのコンセプトやウリなどもあるので簡単かんたんにはいかないかもしれませんが、背せに腹はらは代かえられないでしょうね」（同どう）

（文ぶん＝A4studio、協力きょうりょく＝寺尾てらお淳あつし／フリージャーナリスト）