札幌ドームが危機を迎えているようだ。
プロ野球の北海道日本ハムファイターズの本拠地で、人気アーティストなどが大規模なコンサートを行う会場としても知られる札幌ドーム。15日付北海道新聞によれば、新型コロナウイルス感染拡大によるプロ野球とJリーグの観客入場制限やイベント中止・自粛などの影響で、2020年度は赤字に転落する見通しだという。
札幌ドームはサッカーW杯日韓大会の札幌開催を目的として01年に開業し、今年で20周年を迎えるが、コロナに加え、23年度の日ハムの本拠地移転を控えており、試練を迎えている。
「札幌ドームを運営する札幌市の第三セクター、株式会社札幌ドームは、約9億円のリース料に加えてグッズ販売収入なども合わせ、総額で年間20億円以上を日ハムから吸い上げてきた。日ハムは過去に値下げを要求してきたものの、逆に市は値上げを実施。さらに日ハムはコスト削減策として、他球団でも実績のある、公共施設の運営を民間企業などに委託する指定管理者制度の採用を市側に提案していましたが、市は拒んできた。
運営主体の札幌ドームは市職員・幹部の大切な天下りなので当然といえば当然ですが、“札幌ドームを使えなくなって困るのは日ハム側”だと高を括っていたんですよ。ろくに経営努力もせず、日ハム側の声にまともに耳を貸さなかったツケが回ってきたんですよ」(地元メディア関係者)
前出・北海道新聞によれば、日ハムの本拠地移転によって札幌ドームの年間売上高は、コロナ前の19年度と比べて約半減する見通しだという。
「市の対応に業を煮やした日ハムは、16年頃から自前での本拠地球場建設の検討を始めましたが、それでも市は真面目に対応を検討しなかった。日ハムは札幌市に隣接する北広島市に総工費600億円をかけて新球場を建設しますが、そこまで金をかけても札幌ドームを出ていきたかったということでしょう。
新球場は、米メジャーリーグでは一般化し、国内でも楽天生命パーク宮城(東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地)も採用している“ボールパーク”構想を取り入れ、野球ファン以外の家族連れなども楽しめる一大アミューズメントパークを目指す方向。とても札幌市の天下り職員からなる第三セクター的な発想からは出てこない。はっきり言って、日ハムの札幌ドームとの決別は遅すぎた感すらあります」(道関係者)
当サイトは18年11月17日付記事『札幌ドーム、日ハムの要求を無視し続け“見捨てられ”移転…札幌市天下り職員たちの暴挙』で、日ハムが本拠地移転決定に至るまでの経緯を報じていたが、改めて再掲載する。
―――以下、再掲載―――
北海道日本ハムファイターズは11月5日、2023年3月に開業予定の北海道北広島市の運動公園に建設する「北海道ボールパーク」(仮称)について華やかに発表した。建設費は600億円、収容人数は3万5000人に上る。
温泉に浸かりながら野球観戦
ドーム型ではなく開閉型の三角屋根、センター後方の壁は全面ガラスという斬新なデザイン。フィールドは天然芝だ。37ヘクタールという広大な敷地に5000台の駐車場を設け、公園やキャンプ場も整備する。驚くのは観客席上段に露天風呂をもうけること。温泉に浸かりながら試合が見られる。野球専門の球場だが、観戦目的でない観客も呼べる総合レジャーパークの位置付けだ。
北広島市は歓喜に沸くが、課題は交通。同市は札幌市の南隣。札幌市は札幌ドーム(豊平区)近くまで伸びていた市営地下鉄東豊線を南へ延伸する計画はない。ボールパークの建設予定地はJRの北広島駅から遠く、新駅の建設を要望しているがJR北海道は財政難だ。北広島市も庁舎を新築したばかりの上、9月の地震での液状化被害や、道路や駅周辺の整備などが財政を圧迫する。
「市長が大馬鹿」と怒る札幌市民
一方、「お宝球団」に去られる札幌市。ある市職員OBが怒りを込める。
「秋元(克広)市長以下、市が大馬鹿だったというしかない。ドーム運営は市の天下りが牛耳り、危機感もない。『どうせ日ハムが頭を下げてくるんだろう』と高を括っていたんですよ。今後、ドームは閑古鳥が鳴き、市で唯一黒字だった東豊線も赤字になるでしょう。馬鹿を見るのは納税者の札幌市民ですよ」
2004年から札幌を拠点にしたファイターズは、第三セクター「札幌ドーム株式会社」からドームを「リース」していた。しかし、年間リース代は9億円。さらにグッズなどの売り上げもすべて市に吸い上げられる。イベントなどのたびにトレーニング機器を片付けたりしなければならず、そうした費用も球団持ち。市に払う金は20数億円に上ったが、球団の値下げ要求を市は聞かないどころか値上げまでした。
金銭面だけではない。ファウルグラウンドが広すぎ、ベンチからホームベースまで歩く距離も他球場の倍ある。観客席の傾斜も29度と急過ぎるが、最大の問題はグラウンド。コンクリートの上にロール巻にした人工芝を広げただけで堅く、選手が膝を痛める危険も高かった。選手たちは「(人工芝上で)膝からのスライディングなどは絶対にしない」と話し改善を要望していたが、札幌市の辞書に「アスリートファースト」はないのか、無視された。
Jリーグ、コンサドーレ札幌の試合では隣の屋外競技場の天然芝をドーム内に移動させているのに。こうした対応に業を煮やした球団は「独自建設」をちらつかせていた。
札幌市の対応を批判しない北海道マスコミ
2016年5月、北海道新聞のスクープでファイターズの新球場構想が表面化する。慌てた札幌市はドームの野球専門化提案もしたが折り合いがつかない。そこで2017年の4月、新球場建設地として道立産業共進会場と北海道大学構内の2カ所を提案したが、面積不足や大学の反対などで頓挫した。
その後、1972年の札幌五輪会場だった真駒内公園が浮上する。実はこの頃、札幌市は2026年冬季五輪の誘致を表明、懸念されたがスピードスケートの会場は帯広市にすることにした。昨年12月には札幌市がファイターズに示した案での真駒内公園での検討を決めた。しかし周辺住民の反対が強かった。結局、北広島市での建設が決まり、ファイターズはついにドームから去ることになった。
今年4月に札幌市が公表した「北海道日本ハムファイターズ新球場建設に係る報告について」には「H30年3月1日、真駒内公園を候補地として決定」「H30年3月26日にファイターズが北広島総合運動公園を建設候補地として決定」と記される。まともに協議していたならありえない。ファイターズが「何をいまさら」と、早くから札幌市を相手にしていなかったことの現れだ。
札幌市はファイターズが望んだ指定管理者制度(公共施設の運営を民間企業やNPOに委託する制度。マツダスタジアムで広島市が採用)も拒否していた。札幌ドームは元来、2002年のサッカーW杯日韓共催での試合誘致を目指して建設された。「サッカーと野球の2つのプロチームの本拠地」の謳い文句は脆くも崩れ去る。
札幌ドームでのファイターズの試合は、オープン戦を含めて年間70日ほどだが、その売上は札幌ドーム全体の半分を占める。市は「ファイターズの日程のために遠慮してもらっていたイベントも多かった」とするが、今後サッカーと音楽イベントなどだけでは黒字経営は難しい。
ある事情通は「指定管理制者度を拒否したのは株式会社札幌ドームに居座り、甘い汁を吸う市の天下りたちのせいですよ」と批判する。お宝球団を失ったのは、殿様商売していても自分たちの収入になんの影響もない天下りの危機感欠如がなせる業のようだ。
さらにこの事情通は「札幌市の愚かな対応を道新(北海道新聞)などの地元マスコミは積極的には報じない。みんな取り込まれているんです」と怒る。株式会社札幌ドームは市の天下りのほか、トップには北海道放送(HBC)の社長を据えるなど道内マスコミ界の重鎮を要所に配して批判を封じているようだ。取締役に北海道新聞の取締役が収まっていれば、批判をするはずもない。道内の地元テレビ局も株主に名を連ねる。
ファイターズはかつて現プロ野球解説者の張本勲が活躍した前身の東映フライヤーズ時代、本拠地の駒沢球場が1964年の東京五輪のため解体される憂き目に。日本ハムになってからも後楽園、東京ドームを本拠地にするも「根無し草球団」だった。北海道移転後、新庄剛志、ダルビッシュ有、大谷翔平、中田翔など実力選手に恵まれ、2006年から5度のリーグ優勝を果たし、短期間でファン層を拡大した。そんな球団にとり「自由に使える自前の球場」は念願でもあった。北広島移転で球団が球場を経営できない状態から脱却する。
あるファンは「600億円をかけての自前球場建設は、ファイターズの札幌市への怒りの現れですよ。でも、これで球団が北海道から出ていく可能性は完全にはなくなった」と喜ぶ。