関電かんでん原発げんぱつ差さし止とめ、事実じじつ誤認ごにんだらけの仮処分かりしょぶん決定けってい　狭せまい視野しやと不可解ふかかいな人事じんじ、司法しほうの信用しんよう失墜しっつい

関西電力かんさいでんりょく高浜たかはま原子力げんしりょく発電はつでん所しょ（「Wikipedia」より／藤谷ふじたに良りょう秀しゅう）

「事実じじつ誤認ごにんがいっぱい書かいてあります」

　原子力げんしりょく規制きせい委員いいん会かいの田中たなか俊一しゅんいち委員いいん長ちょうは先週せんしゅう15日にちの定例ていれい記者きしゃ会見かいけんで、司法しほう判断はんだんに対たいして明確めいかくに反論はんろんした。福井ふくい地裁ちさいが前日ぜんじつに下くだした関西電力かんさいでんりょく高浜たかはま原子力げんしりょく発電はつでん所しょ運転うんてん差さし止とめの仮処分かりしょぶん決定けっていで、「新しん規制きせい基準きじゅんは緩ゆるやかにすぎ、適合てきごうしても原発げんぱつの安全あんぜん性せいは確保かくほされていない」と同どう委員いいん会かいをやり玉だまに挙あげたことに応おうじたものだ。読者どくしゃの中なかには、原発げんぱつの再さい稼働かどう差さし止とめを高たかく評価ひょうかした人ひとが多おおいかもしれない。この決定けっていを出だした樋口ひぐち英明ひであき裁判さいばん長ちょうは、使命しめい感かんや正義せいぎ感かんが強つよい熱血漢ねっけつかんのようでもある。

　しかし、仮処分かりしょぶんには、田中たなか委員いいん長ちょうが指摘してきした事実じじつ誤認ごにんとは別べつの問題もんだいもある。裁判官さいばんかんが、原発げんぱつの事故じこリスクだけにこだわりすぎていることだ。その結果けっか、地球ちきゅう温暖おんだん化かの防止ぼうしや安定あんてい的てきなエネルギー供給きょうきゅうといった国政こくせいレベルの公共こうきょうの利益りえきの観点かんてんが、すっぽりと抜ぬけ落おちてしまった。異動いどうで担当たんとうを外はずれた裁判官さいばんかんにこうした決定けっていを下くだす機会きかいを与あたえたことも含ふくめて、司法しほうと裁判所さいばんしょへの信頼しんらいを損そこないかねない事態じたいといわざるを得えない。

　裁判さいばん長ちょうを務つとめた樋口ひぐち氏しは、1983年ねんに判事はんじ補ほとなり、裁判官さいばんかん歴れきが30年ねんを超こえるベテランだ。2014年ねん5月がつには、大飯原発おおいいげんぱつの運転うんてんをめぐり、差さし止とめ判決はんけつを下くだしている。今回こんかいは、住民じゅうみんらが高浜たかはま、大飯おおい両りょう原発げんぱつの運転うんてん差さし止とめの仮処分かりしょぶんを求もとめていた。樋口ひぐち裁判さいばん長ちょうは3月がつ11日にち、原子力げんしりょく規制きせい委員いいん会かいの新しん規制きせい基準きじゅんの審査しんさにパスした高浜原発たかはまげんぱつのケースを大飯原発おおいいげんぱつと切きり離はなし、早期そうきに決定けっていを下くだす方針ほうしんを提示ていじ。これに「議論ぎろんが尽つくされていない」と反発はんぱつした関西電力かんさいでんりょくが裁判官さいばんかん交代こうたいを求もとめる忌避きひを申もうし立たてる事態じたいになったものの、福井ふくい地裁ちさい、名古屋なごや高裁こうさい金沢かなざわ支部しぶのいずれでも却下きゃっかされたという。

　関電かんでんの時間じかん稼かせぎ戦略せんりゃくが、かえってやぶ蛇へびになった印象いんしょうは免まぬかれない。その後ご、樋口ひぐち裁判さいばん長ちょうは4月がつ1日にち付づけで名古屋なごや家裁かさいに異動いどうとなったが、名古屋なごや高裁こうさいが福井ふくい地裁ちさい判事はんじ職務しょくむ代行だいこうの辞令じれいを発令はつれいしたため、引ひき続つづき本件ほんけんを担当たんとうし、仮処分かりしょぶん決定けっていを下くだすことになった。

新しん規制きせい基準きじゅん自体じたいを突つき放はなす

　仮処分かりしょぶんの決定けってい文ぶんは、資料しりょうを含ふくめてA4用紙ようしで67枚まいだ。主文しゅぶんには「高浜たかはま発電はつでん所しょ3、4号機ごうきの原子げんし炉ろを運転うんてんしてはならない」とある。次ついで、「債権さいけん者しゃ（住民じゅうみん）の主張しゅちょう」「事案じあんの概要がいよう」「争点そうてんと債権さいけん者しゃ、債務さいむ者しゃ（関西電力かんさいでんりょく）の主張しゅちょう」が順じゅんに説明せつめいされている。そして、最後さいごに「裁判所さいばんしょの判断はんだん」が続つづく構成こうせいだ。ここで印象いんしょう的てきなのは、冒頭ぼうとうの「原子力げんしりょく発電はつでん所しょの特性とくせい」の部分ぶぶんだ。「他たの技術ぎじゅつの多おおくが運転うんてんの停止ていしによって、その被害ひがいの拡大かくだいの要因よういんの多おおくが除去じょきょされ、たとえ爆発ばくはつを伴ともなう事故じこであっても短時間たんじかんのうちに収束しゅうそくの方向ほうこうに向むかうのとは異ことなる」と、裁判官さいばんかん自身じしんが原発げんぱつに強つよい危険きけん性せいを感かんじていることがうかがわれる。

　そのうえで、「4つの原発げんぱつで5回かいにわたり想定そうていした地震動じしんどうを超こえる地震じしんが平成へいせい17年ねん以後いご10年ねん足たらずの間あいだに到来とうらいしている事実じじつを重視じゅうしすべきは当然とうぜん」と、政府せいふの基準きじゅん地震動じしんどうの合理ごうり性せいに疑問ぎもんを投なげかけた。（1）宮城みやぎ県けん沖おき地震じしん時じの女川おながわ原発げんぱつ、（2）能登半島のとはんとう地震じしん時じの志賀しが原発げんぱつ、（3）中越なかごえ沖おき地震じしん時じの柏崎かしわざき刈羽かりわ原発げんぱつ、（4）東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさい時じの福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ、（5）東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさい時じの女川おながわ原発げんぱつと問題もんだいの5例れいの列挙れっきょも忘わすれていない。「地震じしんの記録きろくと周辺しゅうへんの活かつ断層だんそうの調査ちょうさ分析ぶんせきという手法しゅほう」や「活かつ断層だんそうの評価ひょうか方法ほうほう」に大差たいさがない以上いじょう、「本件ほんけん（高浜たかはま）原発げんぱつの地震じしん想定そうていだけが信頼しんらいに値あたいする根拠こんきょは見みい出だせない」と切きり捨すてた。