香港(「Thinkstock」より)
香港で2017年に実施される次期行政長官の選挙制度が民主的でないとして始まったデモ。民主派デモ隊の最大拠点である香港島・金鐘(アドミラルティ)の幹線道路の一部で今月、香港警察がバリケードなどの強制撤去を行い、デモは収束に向かった。
今回のデモは、次期香港行政長官選挙への立候補について、以下の新しい制限が設けられたことに端を発した。
「候補者は1200人の指名委員会で過半数の支持を得た者から2~3名に絞る」
「指名委員会は政界、工商・金融界、専門業界、労働・宗教界の4大分野から選出する」
つまり、反中国政府的な人物は事実上立候補できない。立候補者は事実上政府が選ぶということだ。この発表を受け、民主的な選挙に変更するよう訴える若者や市民が蜂起し、民主化デモが政治・経済の中心であるアドミラルティや商業地区の銅鑼湾(コーズウェイベイ)、九龍半島中部の繁華街・旺角(モンコック)を埋め尽くした。
そんなデモ隊が、マスクをした男たちの集団に襲撃される事件が起こった。香港の中心部では白昼、デモ参加者にマスク姿の男たち数十人が襲いかかり、大勢の報道陣の目前で乱闘を繰り広げたが、男たちは香港で暗躍するチャイニーズ・マフィアだとみられ、「中国政府が黒社会と協働している」との非難の声が香港で高まっている。
白いマスクの集団が最初に姿を見せたのは、労働者階級が住む九龍地区の繁華街、モンコックの民主派の拠点だった。10月初めに起きたデモ反対派とデモ参加者との衝突で香港警察は19人を逮捕。うち8人は暴力団関係者だったと発表した。香港紙は親中国派団体が資金提供したとの見方を伝えている。モンコックで学生らに暴行を働いたのは同じ型の白いマスクをしたグループや、同じ青色の帽子をかぶったグループなど数十人単位の男ら。入れ替わり立ち替わり現れ、座り込んでいた学生に殴りかかるシーンが何度も映像で流れた。
そのため、「警察と香港自治区行政府は、黒社会と結託しているのではないのか」とする疑惑が強まった。香港政府の黎棟国保安局長は記者会見で「警察が黒社会を容認したり、協力したりしているというのは、事実の捏造だ」と反論している。
中国社会に根付く黒社会
中国の「黒社会」は日本の「裏社会」と同じ意味で使われる。米国ではチャイニーズ・マフィアと呼ばれ、その背景や実態は日本の暴力団とは比較にならないほどの大きな広がりと深さをもっている。黒社会は犯罪組織のネットワークを指し、中国の伝統的な秘密結社をその源流にしている。
日本では秘密結社は小説の世界でしか存在しないが、中国人には身近な存在である。昔から多くの中国人は、すべての構成員が平等に扱われ互いに助け合う「家」としての秘密結社に引き寄せられた。毛沢東、周恩来と並ぶ革命の英雄である朱徳が秘密結社の構成員だったことは広く知られている。この秘密結社が変質したのが黒社会だ。だから黒社会は秘密結社の位階、儀式、暗号、掟などを取り入れ、中国の社会に深く根を下ろしている。
今年2月、四川省の大物実業家で同省の政治局協商会議の常務委員(地方議会の最高幹部)である劉漢という人物が起訴され、中国メディアを賑わした。金融、証券、不動産、鉱山などの企業を傘下にもち、総資産は6680億円に上る。劉氏の正体は黒社会の指導者で、中国メディアによると9人の殺人に関わっていた。劉氏の手先である地下組織は自動小銃、拳銃、手榴弾などで武装していた。私兵を雇い、裏で殺人にも手を染め、裏の力で政界や経済界の表の社会を支配するという現在の中国社会が抱える病巣を、はっきりと映し出した。
日本では暴力団と抗争
黒社会は世界中にネットワークをもつ。香港をはじめとして、マカオ、台湾、中国大陸といったアジア圏に加え、欧州、北米、南アフリカ、オ-ストラリア、ニュージーランドなどの華人社会に広がりをみせている。その数は世界中に150万人とも200万人ともいわれており、世界最大の犯罪ネットワーク集団なのだ。
日本では、東京の新宿・歌舞伎町が黒社会の最大の拠点とされ、バブルの頃から台頭してきた。当初は、青龍刀で対立相手の首を切り落とすような過激な抗争を繰り広げていた。
02年9月、日本のヤクザが黒社会の人物に射殺される事件が起き、その存在が知られるようになった。シノギ(=商売)絡みのトラブルといわれている。歌舞伎町の中心部の大型喫茶店で、まだ人通りも多い午後7時ごろに起きただけに、世間に大きな衝撃を与えた。日本のヤクザは大同団結して、徹底した黒社会の排除に乗り出した。中国人クラブに米軍が使用する催涙ガスが投げ込まれ、主犯の中国人は惨殺された。この事件を機に歌舞伎町の黒社会は一掃された。構成員は他の都市へ分散していったが、黒社会の関与をうかがわせる事件は大阪のミナミでも発生しているという。
日本ではいまだに、黒社会という存在は何をしでかすかわからない不気味な存在として語られているのである。
(文=編集部)