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「徴産制」書評 男が子を産むのは荒唐無稽か?|好書好日
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しるし産制さんせい書評しょひょう おとこむのは荒唐無稽こうとうむけいか?

評者ひょうしゃ諸田もろた玲子れいこあさ新聞しんぶん掲載けいさい:2018ねん04がつ28にち
しるし産制さんせい 著者ちょしゃ田中たなか ちょう 出版しゅっぱんしゃ新潮社しんちょうしゃ ジャンル:小説しょうせつ文学ぶんがく

ISBN: 9784103353522
発売はつばい⽇: 2018/03/22
サイズ: 20cmせんちめーとる/250p

しるし産制さんせい [ちょ田中たなかちょう

ひえーッおとこむ? 本書ほんしょんでかせたら明治めいじまれの祖母そぼ卒倒そっとうしたにちがいない。けれど、夢物語ゆめものがたりがいともたやすく現実げんじつになってゆく日常にちじょうたりにしてきたわたしは、さほどおどろかないだろう。たとえ結婚けっこんしようという男女だんじょが、どちらが子供こどもむかでもめている光景こうけいにしたとしても。
 本書ほんしょ舞台ぶたいは2090年代ねんだい日本にっぽん悪性あくせい新型しんがたインフルエンザでわか女性じょせい大半たいはんんでしまったため、国家こっか存続そんぞくをかけて徴兵ちょうへいせいならぬしるし産制さんせい導入どうにゅうされる。わかおとこが2年間ねんかんだけおんなせい転換てんかんして制度せいどだ。
 農家のうかのショウマ、野心やしん官僚かんりょうハルト、フリースクールの教師きょうしタケル、妻子持さいしもちのキミユキ、実業じつぎょう片腕かたうでとなって自由じゆう平和へいわのリバーランドの開園かいえんにかかわるイズミ。5にんおとこたちはそれぞれの事情じじょうからちょうさんおとことなり、おんなということなるせい体験たいけんする。やすらぎをいだすものもいれば、これでもかと辛酸しんさんをなめるものもいる。が、なや葛藤かっとうして、男女だんじょえたおのれのアイデンティティーを発見はっけんしてゆく過程かていはいずれも感動かんどうてきだ。
 荒唐無稽こうとうむけいというなかれ。ほんさくを、わたしはファンタジーとはおもわない。ブラックユーモアでもない。これは未来みらい現実げんじつだ。
 わらってみ、ほろりとさせられ……とはいえ、この小説しょうせつすご(すご)さはその手腕しゅわんだけではない。風刺ふうしいている。ショウマの郷里きょうり過疎かそ人口じんこうの1わり移民いみんで、中国人ちゅうごくじんだい規模きぼ農場のうじょう経営けいえいしている。拉致らちされたタケルの悲惨ひさん状況じょうきょうは、まさに戦時せんじ慰安いあんしょのようだ。しるし産制さんせい反対はんたいする集団しゅうだん安保あんぽ闘争とうそうからテロを無気力むきりょく従順じゅうじゅん愛国あいこくみん去勢きょせいされてゆく近代きんだいおもわせる。現代げんだいへの警鐘けいしょう随所ずいしょにちりばめられている。
 死後しご、もう一度いちどまれて日本にっぽんすえをぜひともたいものだとつよおもった。さて、そのときは父親ちちおやはらからまれるのか。AIの四角しかくはこのふたをけて、オギャーとまれるのだろうか。おお……!!
    ◇
 たなか・ちょうこ 64ねんまれ。2011ねんに「おんなによるおんなのためのR—18文学ぶんがくしょう大賞たいしょう著書ちょしょに『劇団げきだん42さい♂』など。

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