「しき」書評しょひょう　ダンスから生うまれる繊細せんさいな言葉ことば

評者ひょうしゃ：佐伯さえき一いち麦むぎ／朝あさ⽇新聞しんぶん掲載けいさい：2018年ねん09月がつ15日にち

しき著者ちょしゃ：町屋まちや良平りょうへい出版しゅっぱん社しゃ：河出書房新社かわでしょぼうしんしゃジャンル：小説しょうせつ

ISBN: 9784309027180
発売はつばい⽇： 2018/07/18
サイズ: ２０ｃｍせんちめーとる／１７２ｐ

しき　［著ちょ］町屋まちや良平りょうへい

　公園こうえんや鏡かがみ張ばりのビルの前まえなどでダンスの練習れんしゅうをしている若者わかものを見みかけることがある。それはまちの一いち風景ふうけいに過すぎなかったが、本書ほんしょを読よんで、その繊細せんさいな感情かんじょうの襞ひだ々にまでフォーカスが当あてられた思おもいがした。
　１６歳さいの「かれ」が、ものにしようと夜よるの公園こうえんで練習れんしゅうしているのは、ネットで観みた〝踊おどってみた〟ダンス。それは、すぐに答こたえの出でない考かんがえや悩なやみを抱かかえきれないから、そうしたことから距離きょりを置おいて、自分じぶんの身みの丈たけに合あった好すきなことに熱中ねっちゅうしているといったふうで、家いえや学校がっこうへの反抗はんこう（そもそも男おとこ親おやや教師きょうしが出でてこない）や無軌道むきどうな恋愛れんあい、部活ぶかつもの、いじめといった旧来きゅうらいのテーマとは異ことなる、現代げんだいをリアルに反映はんえいした青春せいしゅん小説しょうせつと感かんじられる。
　ふつうの小説しょうせつは、あらかじめ書かこうとするテーマや事柄ことがらがあって言葉ことばを与あたえるが、この小説しょうせつでは、ポップミュージックに合あわせて身体しんたいを動うごかし、そこから生うまれてくる言葉ことばの動うごきを大事だいじにしている感触かんしょくがある。〈ことばでかんがえていることもからだと切断せつだんできない〉と「かれ」は考かんがえる。
　ダンスは、反抗はんこう期きがなかった「かれ」の思春期ししゅんき特有とくゆうの性欲せいよくと密接みっせつに関係かんけいしているものの、本人ほんにんはまだ気付きづいていない。語かたり手てである３０代だいの作者さくしゃはそれがわかっているので、三人称さんにんしょうを用もちい、その視点してんはほかの登場とうじょう人物じんぶつたちへとしばしば移動いどうするが、それも個性こせいがまだ未み分化ぶんかな１６歳さいたちを表あらわすのに効果こうか的てきだ。そして、何なによりもの美点びてんは、「四季しき」を「しき」とひらがなに開ひらくタイトルのセンスに表あらわれており、「しき」はまた「式しき」にも通つうじ、本ほん作さくで開ひらかれているのは固定こてい化かされた「スタイル」なのだとも思おもえた。ひらがなはダンスの動うごきを思おもわせる。
　読後感どくごかんは一見いっけん淡あわいが、〈かしかってきて〉とせがむ反抗はんこう期きの弟おとうとや、河原かわはらの友ともだちのつくもなどの姿すがたがじわじわと蘇よみがえってくる。実際じっさいにある動画どうがを視聴しちょうしてみると、自おのずとこちらの身体しんたいと言葉ことばも動うごき出だす実感じっかんがあった。
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　まちや・りょうへい　１９８３年ねん生うまれ。「青あおが破われる」で２０１６年ねんに文芸ぶんげい賞しょうを受うけ作家さっかデビュー。本ほん作さくは芥川賞あくたがわしょう候補こうほに。

佐伯さえき一いち麦むぎ（サエキカズミ）作家さっか

　１９５９年ねん生うまれ。雑誌ざっし記者きしゃ、電気でんき工こうなど様々さまざまな職しょくに就つきながら、８４年ねんに『木きを接つぐ』で海燕うみつばめ新人しんじん文学ぶんがく賞しょう。９１年ねんに『ア・ルース・ボーイ』で三島みしま由紀夫ゆきお賞しょう、２００４年ねんに『鉄塔てっとう家族かぞく』で大佛だいぶつ次郎じろう賞しょう、１４年ねんに『還かえれぬ家いえ』で毎日まいにち芸術げいじゅつ賞しょう、『渡良わたら瀬せ』で伊藤いとう整せい賞しょう。ほかに『雛ひなの棲家』『石いしの肺はい』『光ひかりの闇やみ』など著書ちょしょ多数たすう。１７年ねん４月がつより書評しょひょう委員いいん。