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この世界、バグあってこそ 上田岳弘さん×宮内悠介さん同年生まれ作家対談|好書好日
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この世界せかい、バグあってこそ 上田うえだたけしひろしさん×宮内みやうちゆうかいさん同年どうねんまれ作家さっか対談たいだん

上田うえだたけしひろしさん(ひだり)と宮内みやうちゆうかいさん=横関よこせき一浩かずひろ撮影さつえい

ともにIT業界ぎょうかいはたらいていた

上田うえだ ぼく宮内みやうちさんはおなじIT業界ぎょうかい業務ぎょうむ経験けいけんのある作家さっか同士どうしぼくはビジネスがわ人間にんげんですが、宮内みやうちさんはコード(プログラミング言語げんご)をけるひと作品さくひんむとその対比たいひかんじられて面白おもしろかった。『偶然ぐうぜん聖地せいち』は世界せかいつくるプロジェクトに失敗しっぱいした仮想かそう世界せかいはなしとしてみましたが、ある意味いみではこの世界せかい失敗しっぱいしているのかもしれない。

宮内みやうち もともとSFてき仮想かそう世界せかいはなしかんがえていましたが、実際じっさい世界せかいにはバグ(不具合ふぐあい)があってそれを頑張がんばってなおしているひとたちがいる。いま世界せかいそのものかもしれない、と途中とちゅうづきました。

――『偶然ぐうぜん聖地せいち』は、遺体いたいくさらなかったり、タコのような怪物かいぶつそらんだりといった、説明せつめい不能ふのうなバグが世界中せかいじゅう相次あいつぎ、「世界せかい」とばれるものがデバッグ(修復しゅうふく)してまわっています。

上田うえだ 各地かくちきるバグを「たびはる」(りょしゅん)とんでいますが、これは存在そんざいするのですか?

宮内みやうち いえ、適当てきとうきました。

上田うえだ ありそうでなさそうで、あえて調しらべなかった。

宮内みやうち 基本きほんてきにほらはなしです。いまひとはググりながらむだろうとおもって。

上田うえだ その作者さくしゃ意図いとって、意地いじでもググらなかった(笑)。

――上田うえださんの『キュー』は、前世ぜんせい被爆ひばくした記憶きおくつと主張しゅちょうする少女しょうじょおもつづける医師いしと、石原いしはら莞爾かんじ思想しそうにのめり祖父そふ、そして700ねんきょうねむりからめた未来みらいおとこという3そうからっています。

宮内みやうち 「わたしなかにはだい世界せかい大戦たいせんはいっているの」と主張しゅちょうする恭子きょうこというキャラクターがきでした。上田うえださんのこれまでの作品さくひん集大成しゅうたいせいという印象いんしょうけます。これだけ要素ようそ複雑ふくざつからって、どこからおもいつかれたのだろう。

上田うえだ 恭子きょうこぼくきですね。『キュー』はデビューまえからコンセプトだけがありました。「キュー」というおとのタイトルで、1しょうごとにべつ漢字かんじ使つかうということだけがまっていた。それと石原いしはら莞爾かんじそう、と。

宮内みやうち 石原いしはら莞爾かんじ、なぜ。

上田うえだ 20さいぐらいのころかれの『世界せかい最終さいしゅうせんろん』をんですごく興味きょうみった。東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいのショックいた作品さくひん異郷いきょう友人ゆうじん』でも石原いしはら莞爾かんじしましたが、いつかもう一度いちどきたくて。コンセプトと石原いしはら莞爾かんじいままでの作品さくひんをぎゅっとみ、えいやっといたので、中身なかみ構想こうそうはちゃんとやってない。宮内みやうちさんはこういう作品さくひんく、とめてはじめるのですか。

上田岳弘さん=2019年6月12日、東京都中央区、横関一浩撮影
上田うえだたけしひろしさん=2019ねんがつ12にち東京とうきょう中央ちゅうおう横関よこせき一浩かずひろ撮影さつえい

宮内みやうち コンセプトはめます。その時々ときどきかんがえていること、問題もんだいしていること。しかし今回こんかいはぶっつけ本番ほんばんでした。エッセーでも小説しょうせつでもないものを、というのが講談社こうだんしゃさんの依頼いらいで、エッセーと小説しょうせつちがいってなにだろうと手探てさぐりではじめたら、小説しょうせつになってしまった。

上田うえだ 作家さっかだからね。

宮内みやうち わたしもとプレイングマネージャーで、企画きかくから設計せっけい、デバッグまでスケジュールをてる。計画けいかくしないとまないタイプなのに……。

上田うえだ どこかでアジャイルしきわっちゃった。

宮内みやうち そうなんです。

――アジャイルしき

宮内みやうち アジャイル、ウォーターフォール、といまして。

上田うえだ 制作せいさく過程かてい設計せっけいをきちっとつくったうえすすめるのがウォーターフォールしきで、アジャイルはトライアンドエラーが過程かていまれている。タイトルからしてアジャイルを意識いしきしているのかとおもっていました。

宮内みやうち そうではないのです。連載れんさい期間きかんが4ねんながく、そのときそのときのおもいつきをそのまませてくださって。文体ぶんたいわってしまうし、内容ないようおぼえていられないだろうとおもって、わすれてもいいようにやま目指めざはなしにしました。設計せっけいがないことで、自分じぶんなかおもわぬ想像そうぞうりょくづくこともありましたが、最後さいごはまぐれでなんとかまとまって、本当ほんとうかったです。

宮内悠介さん=2019年6月12日、東京都中央区、横関一浩撮影
宮内みやうちゆうかいさん=2019ねんがつ12にち東京とうきょう中央ちゅうおう横関よこせき一浩かずひろ撮影さつえい

上田うえだ 宮内みやうちさんが「啓示けいじあやしい」とくときに、かみからの「啓示けいじ」に「コンパイル」とルビがふってある。コンパイルはプログラム言語げんごうごくようにすること。これ、ぼくには面白おもしろいけど……というポイントがいくつもあった。

宮内みやうち 完全かんぜんにほらはなしですね。ほらはなしきなんですよ。上田うえださんの石原いしはら莞爾かんじをめぐるほらはなしっぽいパートもきです。

上田うえだ これをんだときに、宮内みやうちさんのデビューさく、あれもギャグでやってたのかなとおもったんです。

宮内みやうち 『盤上ばんじょうよる』は本人ほんにんてきには渾身こんしんのギャグがけっこうあるんです。作者さくしゃだいまじめなかおをしてへんなことをいている。ところが、普通ふつうに、シリアスにまれました。あんなはずではなかった。ねらいがはずれました(笑)。

不具合ふぐあい失敗しっぱい、いまや郷愁きょうしゅう宮内くない)/「完全かんぜん」なら人間にんげんいない(上田うえだ

――『キュー』にも『偶然ぐうぜん聖地せいち』にもバグという言葉ことばがたびたび登場とうじょうします。

宮内みやうち 『偶然ぐうぜん聖地せいち』は仮想かそう現実げんじつえがいていますが、仮想かそう現実げんじつぶつおおくはプログラムがかなり精緻せいちうごき、例外れいがいはあるとはいえ、ほとんどバグはない。しかしプログラムである以上いじょう業務ぎょうむ経験けいけんじょう、そこにバグがないはずはない、とわたしおもってしまう。そうしておのずとバグだらけの世界せかいとそれをデバッグする医師いしたちというはなしてきました。ただ、いまはテクノロジーが進歩しんぽしすぎて、ひとはなれつつあるようにかんじています。秋葉原あきはばら部品ぶひんってなにかをつくるというわけにはいかないほどテクノロジーがすすんでしまった。だからバグには郷愁きょうしゅうかんじます。

上田うえだ まったく同感どうかんですね。

宮内みやうち 上田うえださんが『ニムロッド』で引用いんようした「ダメな飛行機ひこうきコレクション」につうじるのではないでしょうか。『ニムロッド』ではビットコイン、ブロックチェーンと個々人ここじん理解りかいをテクノロジーがしていくさまえがかれる。そのなかで「ダメな飛行機ひこうきコレクション」がわたしにはかがやいてえた。

――「ダメな飛行機ひこうきコレクション」は、まとめサイト「NAVERまとめ」で過去かこ飛行機ひこうき失敗しっぱいさくあつめたもの。『ニムロッド』で重要じゅうようなモチーフとなっています。

上田うえだ 3ねんほどまえにこのまとめサイトをつけ、単純たんじゅん面白おもしろいとおもった。くつもりはなかったけれど、ビットコインについてこうとおもったときになぜかかんだんですよね。テクノロジーは人間にんげんいて、どんどん進歩しんぽしていく。しかし「ダメな飛行機ひこうき」は、テクノロジーがまだ人間にんげん配下はいかにあって、そうであるがゆえに失敗しっぱい存在そんざいしていた時代じだい産物さんぶつ。それこそ郷愁きょうしゅう対比たいひしてくことで、いまんでもらう作品さくひんとして存在そんざいるのではないかとおもった。

上田岳弘さん=2019年6月12日、東京都中央区、横関一浩撮影
上田うえだたけしひろしさん=2019ねんがつ12にち東京とうきょう中央ちゅうおう横関よこせき一浩かずひろ撮影さつえい

上田うえだ プログラミングのなかに、まれないようあたまキーをつけて、プログラマーがコメントをのこすことがあります。『偶然ぐうぜん聖地せいち』でもそれがかれていて、ぼくにはツボでした。

宮内みやうち プログラマーがとりあえずわすれないようにコメントをプログラムにのこす。ときどき残念ざんねんなコメントがあって。「なにをしているかわからないがこの1ぎょうすとなぜかうごかなくなる」とか。

上田うえだ あるんですよね。意味いみがわからないけれど、不穏ふおんなコメントが。

宮内みやうち そのプログラムをあたまから解析かいせきして原因げんいんめていくときあいだのない状況じょうきょうで、そんなコメントがてくる。

――そういうとき、プログラマーとしてはどうするのでしょうか。

宮内みやうち なかったことにします。製品せいひんとして最終さいしゅうてきうごけばいいので。

上田うえだ そう、納期のうきがすべて。

宮内みやうち 「いのちとすな、納期のうきとせ」とはいますが……。それで残念ざんねんなプログラムがけっこうまれる。開発かいはつ世界せかいでは、バグにランクがあります。Aランクバグ、Bランクバグ、と。Aランクバグは、アプリケーションがそのままちてしまうとか、絶対ぜったいなおさないといけない。いたくなるやつです。小説しょうせつにはAランクのバグは存在そんざいしない。ある意味いみ、つじつまがあわなくても出版しゅっぱんできてしまう。

上田うえだ ははは、そうかな。

宮内みやうち もちろんつじつまをあわせようと本人ほんにん努力どりょくしますけど。ほんんでいて、そのほん突然とつぜんえるようなことはないわけです。そのてんでいえば、プログラミングよりは気楽きらくさが存在そんざいして、バグのはなしたのしくわらってける。

上田うえだ ぼくはどちらかというとこの世界せかいにもバグがあるとおもっている。理由りゆうのつかないことがいっぱいあるから。もしかしたら世界せかい完全かんぜんまわっていくと、人間にんげん自体じたいまれなかったのではないか。これはあくまで想像そうぞうですが。つねにバグのようなものが発生はっせいするという余地よちが、我々われわれ存在そんざい理由りゆうなのかな、と定義付ていぎづけたくなることがあります。

2人ふたりているフィルターはている

上田うえだ 『偶然ぐうぜん聖地せいち』にしかない言葉ことばと、『キュー』にしかない言葉ことばは、けっこう対応たいおうしているようにおもいます。たとえば『キュー』で世界せかいかたちえようとする立花たちばな茂樹しげきは、もしかしたら最後さいごのこった『偶然ぐうぜん聖地せいち』の「世界せかい」かもしれない。宮内みやうちさんとはているフィルターがているとおもう。

宮内みやうち なんとなく、そうかんじますね。

上田うえだ おそらく、世代せだいや、かよってきた場所ばしょちかいというのがあるとおもう。おなどしで、早稲田大わせだだいそつで、IT経験けいけんがあって、麻雀まーじゃんをやる。

――麻雀まーじゃん関係かんけいあるのでしょうか。

宮内みやうち っている共通きょうつうみせがあって。それは重要じゅうようですよ。世代せだいとしては、ロスジェネのなかでしょうか。

上田うえだ ですね。宮内みやうちさんは、就活しゅうかつしたですか。

宮内みやうち 一切いっさいしませんでした。

上田うえだ ぼく一切いっさいしていない。そういうことじゃないかな。早稲田わせだにいる、就職しゅうしょくしないようなふらりとしたひとがどこに吸収きゅうしゅうされるか。かつては放送ほうそう業界ぎょうかいとか。ぼくらが大学だいがく卒業そつぎょうしたころは、それがIT業界ぎょうかいだった。

宮内みやうち 二人ふたりともITのスタートアップにっている。

――就職しゅうしょくしなかったのは作家さっかになるため?

上田うえだ 作家さっかになろうとおもっていたから就活しゅうかつにもはいらず、いろいろと理由りゆうをつけて卒業そつぎょうをしたというのが実体じったい

宮内みやうち わたし世界せかいたびしてみたかった。なんとなく作家さっかデビューできるかんはあった。いまにしておもえばわらっちゃうだいそれたはなしですが。ただ、あたまだけでものをくようになりそうだったので、世界せかいをまわりたい、フリーターをしたい、会社かいしゃいんもしたい、とおもっていました。

――上田うえださんは『キュー』で「いつか人間にんげんはひとかたまりになる」と登場とうじょう人物じんぶつかたらせています。

上田うえだ いままでの代替だいがわりは、お祖父じいちゃんからいたはなしといった口伝くでんで、情報じょうほう資産しさんぎがうまかった。これからさきはおそらく細密さいみつのこるとおもう。なにこったのか、そのときどうおもったのか。ツイッターのログなどでのこっていく。それをだれもが共有きょうゆうできる。つまり情報じょうほうはひとかたまりになる。人間にんげん活動かつどうをすべて情報じょうほうとしてるとひとかたまりになっていくが、肉体にくたいはどうなるか。肉体にくたいさえいつけば代替だいがわりはおそくなり、場合ばあいによってはなない。ぼくはデフォルメして「にくうみ」といていますが、そうなるという感覚かんかくがある。ただ、それでいいのか、という疑問ぎもんもある。たびはるをググらないような、ちいさな反抗はんこう大事だいじなのかな、と。

――『キュー』では、ある登場とうじょう人物じんぶつが、人間にんげん姿すがたつく場合ばあいは「さびしさ」の感情かんじょうがあればいと判断はんだんして、「人造じんぞう人間にんげん」にさびしさをあたえます。ここから、人間にんげんらしさがえてくるようにかんじます。

上田うえだ わかころは、さびしいじゃないですか。このさびしさは引力いんりょく存在そんざいするからじゃないかとおもっていました。物理ぶつり法則ほうそくとか科学かがく現象げんしょうから作品さくひん中身なかみ発想はっそうすることがおおいのです。原子げんし構造こうぞうていると、引力いんりょくでひきあう場合ばあいにどこまでもちかづいて一緒いっしょになるのではなく、最後さいごには斥力せきりょくという反発はんぱつまれる。引力いんりょくだけでなく、斥力せきりょくとセットで人間にんげん活動かつどうしているようにおもい、そう表現ひょうげんしました。

宮内みやうち AIと比較ひかくして人間にんげんらしさをかんがえる場合ばあい、AIがなに目指めざすか次第しだいになります。コップをってコースターにくという動作どうさひとつとっても、あらゆる可能かのうせい想定そうていするとAIはフリーズするという問題もんだいがかつて提唱ていしょうされていました。人間にんげんはなぜその行為こうい出来できるのか。たんおろかだから。あらゆる可能かのうせい想定そうていしない、あるいは感情かんじょうまかせてうごく。AIが人間にんげん目指めざしていくなら、人間にんげんとの微妙びみょう差異さい、たとえば人間にんげん合理ごうりせい執着しゅうちゃくがるとおもいますが、そもそもAIが人間にんげん模倣もほうする必要ひつようがあるのでしょうか。AIにはもっとさき存在そんざい目指めざしてほしい。人間にんげんとサルを比較ひかくするのではなく、ゾウとキリンと比較ひかくするような関係かんけいになっていったほうが面白おもしろいです。

宮内悠介さん=2019年6月12日、東京都中央区、横関一浩撮影
宮内みやうちゆうかいさん=2019ねんがつ12にち東京とうきょう中央ちゅうおう横関よこせき一浩かずひろ撮影さつえい

上田うえだ 宮内みやうちさんは『スペース金融きんゆうどう』で、ロボットさん原則げんそくひと危害きがいくわえない、命令めいれい服従ふくじゅうする、自己じこまもる)のような、アンドロイドへのしんさん原則げんそくいていました。それをかかげることで、人間にんげんがわがAIを支配しはいしようとするのはどうなのかな、とおもいながら、ぼくは『キュー』をいていました。我々われわれしたものだから我々われわれ利益りえきあたえよ、というのは自然しぜん発想はっそうだとおもうが、それはフェアなのだろうか。

宮内みやうち 小説しょうせつのガジェットとしてさん原則げんそく使つかいやすい。

上田うえだ そうですよね、そして実際じっさい人間にんげんはいつかAIさん原則げんそくつくるとおもう。AIにされそうになると、こわさが先立さきだつだろうし。

宮内みやうち そうなったら、ハッキングしてさん原則げんそくはらひとがいくらでもてくるはずなので、結局けっきょく名目めいもくだけになりそうながします。プロテクトははずしちゃえばいいんですから。

上田うえだ そうですね。宮内みやうちさんと藤井ふじいふとしひろしさんの対談たいだんで、藤井ふじいさんが「グーグルのクロームのソースコードをていると、もはや人間にんげんいたものとはおもえない」とはなしていた。シンギュラリティー(AIが人間にんげんえる技術ぎじゅつてき特異とくいてん)はすでに存在そんざいしている、と。

宮内みやうち ぞっとするはなしです。

上田うえだ AIの権限けんげん問題もんだいについてずっとかんがえています。人間にんげんがわにある権限けんげん手放てばなすのかどうか。みんなでかんがえるべきことだとおもう。

AIが「大量たいりょうまねく(宮内くない)/ひと基準きじゅんでない未来みらいに(上田うえだ

――シンギュラリティーをどうていますか。

宮内みやうち 楽観らっかんてきでもあり悲観ひかんてきでもあります。楽観らっかんてきというのは、たとえばAIが人間にんげん仕事しごとうばうのではなく、長期ちょうきてきにはわたしたちは仕事しごとをしなくてよくなるというはなしがあります。AIが仕事しごとをし、わたしたちはベーシックインカム(BI、政府せいふぜん国民こくみん最低限さいていげんのおかね支給しきゅうする)かなにかで経済けいざいまわしていく。ただ、そうかといって、「はいそうですか」と、おいそれとBIに移行いこうはできない。たくさんの失業しつぎょうがあり、があり、そのあとでBIに移行いこうする。その大量たいりょう期間きかんいちおとずれるのではないでしょうか。そういう意味いみでは悲観ひかんてきです。為政者いせいしゃ為政者いせいしゃでうまくいくかわからないBIをすぐに導入どうにゅうするわけにもいかないし、時間じかんはかかるとています。

上田うえだ そうなりそうですが、かなり悲観ひかんてきこえますね。

宮内みやうち 最終さいしゅうてきにはみんながきなことをやってきていける時代じだいるとかんがえれば、楽観らっかんてきなのですけど。

上田うえだ ぼくかんがえもあまりわらない。AIの倫理りんり基準きじゅんがどこかの段階だんかいつくられて、それは人間にんげん行動こうどうえるでしょう。歴史れきしなかつくられてきた、みなが公平こうへいで、同権どうけんであるべきだという倫理りんり基準きじゅんは、AIには関係かんけいがない。人間にんげんのパターンもいくつかのこしておこうか、という発想はっそうになるかもしれないが、人間にんげん基本きほんおろかだから、のこ場合ばあいおろかのたねがコンプリートできたらあとは不要ふようになるかもしれない。適正てきせいサイズを維持いじするために人類じんるい圧縮あっしゅくされるというイメージは、「にくうみ」という言葉ことばいてきました。余剰よじょう人間にんげんけずられていく、世界せかいてき圧力あつりょくかんじています。

歴史れきしプラスSFでつく物語ものがたりたてじく

――『キュー』はだい世界せかい大戦たいせん憲法けんぽうきゅうじょうれています。宮内みやうちさんにも、現代げんだいのリビングと戦時せんじちゃかさなる『ディレイ・エフェクト』など戦争せんそう題材だいざいにした作品さくひんがあります。戦争せんそうえが理由りゆうとは。

上田うえだ あらそいはどうしてもこってしまう、人間にんげん営為えいいそのものだとおもう。社会しゃかい発展はってんしているからこそ戦争せんそうきる。戦争せんそうがなければ70おくにんまで人口じんこうえなかったのではないか。あらそいやいさかい、なにかしらのせめぎごういがなければ人類じんるいではない。まずしいくにどもがすぐにんでしまうことも、いのちのやりとりが直接ちょくせつないとはいえ、ある意味いみでは戦争せんそうです。どうしても戦争せんそうきる世界せかい実相じっそうと、戦争せんそう禁止きんしするきゅうじょう作品さくひんなか配置はいちしたかった。結論けつろんないままいていたけれど、そういうことを表現ひょうげんしたかったのだとおもう。

宮内みやうち 戦争せんそうというより、歴史れきしえがきたいというおもいがあります。ツイッターなどのSNSでは個人こじん個人こじん断片だんぺんしてつね現在げんざいばかりがせている印象いんしょういだく。それでいというひとかまわないのですが、わたしのなさをかんじてしまう。そこでなに必要ひつようかとかんがえると、歴史れきしというたてじく処方箋しょほうせんになるかもしれない。『ディレイ・エフェクト』では歴史れきし修正しゅうせい主義しゅぎおちいらずに、いかにして歴史れきしもどすかをかんがえながらきました。

上田うえだ たてじくをどうつくるかは歴史れきしプラスSFじゃないかな。宮内みやうちさんは『カブールのえん』や『偶然ぐうぜん聖地せいち』で家族かぞくいているけれど、あたらしい家族かぞくかたち模索もさくしたのですか。

宮内みやうち 『カブールのえん』は日系にっけいせい主人公しゅじんこうはなしで、家族かぞくについてはかなり意識いしきしました。『偶然ぐうぜん聖地せいち』は適当てきとうです。

上田うえだ 家族かぞく血縁けつえんは、たまたまこのおやからまれたからといって一生いっしょうつきあうもの。一生いっしょうつきあう理由りゆうがどんどんっているなか、最終さいしゅうてき血縁けつえんしかないのはせつないですし、とはいえ、そこにこだわりがしょうじるのはなぜかとかんがえる。『キュー』でもまご祖父そふ登場とうじょうして、ぼくたてじくもとめていたのかな、とおもった。

――ともに作品さくひんおおくが、かまえのおおきな物語ものがたりです。

上田うえだ 世界せかい仕組しくみに興味きょうみがあるから。自分じぶんが、世界せかいがなぜ存在そんざいするのかという根本こんぽんてき疑問ぎもんがあった。その視点してん小説しょうせついていると表明ひょうめいするために、デビューさくの「太陽たいよう」は宇宙うちゅう規模きぼになった。だんだん日常にちじょう表現ひょうげんできるようになってきたけれど、最初さいしょ地球ちきゅう裏側うらがわにいってましたね。

――自分じぶんが、世界せかいがなぜ存在そんざいするのか、という疑問ぎもんとは。

上田うえだ 自分じぶん存在そんざいするというか、まれてきたことが不快ふかいではないけれど、承諾しょうだくはしていない、無礼ぶれいはなしだとおもっている。平等びょうどうなんですよ。おやではなく、世界せかいたいして、承諾しょうだくしていないよというおもいがずっとあった。ぼく小説しょうせついているのは、そのあたりが根本こんぽんなのかもしれない。

宮内みやうち わたしぎゃくに、もっとまわりのことをかなければ、かなければ、とおもいながら、なかなかそうはいかず。ひとのつながりや世界せかいよこじくに、歴史れきしたてじくにしたくて、おのずと風呂敷ふろしきひろがっていってしまう。自分じぶんまわりに興味きょうみがないのもあって。でもしん小説しょうせつ必要ひつようなのは個人こじん内面ないめんという、あるしゅたてじくよこじく中心ちゅうしんであるてんなのかもしれません。これからは座標ざひょう原点げんてん、ゼロポイントをもうすこふかめなければとおもっています。

上田うえだ ぼくもあまりこまかく人間にんげん描写びょうしゃしない。

宮内みやうち だれがどんな髪形かみがたをしてどんな格好かっこうをして、といったことをあまりかないところは共通きょうつうしていますよね。

上田うえだ 正直しょうじき興味きょうみない。

宮内みやうち 本質ほんしつではないから。

上田岳弘さん(左)と宮内悠介さん=2019年6月12日、東京都中央区、横関一浩撮影
上田うえだたけしひろしさん(ひだり)と宮内みやうちゆうかいさん=2019ねんがつ12にち東京とうきょう中央ちゅうおう横関よこせき一浩かずひろ撮影さつえい

――宮内みやうちさんはSFと純文学じゅんぶんがくおこなったりたり。上田うえださんも純文学じゅんぶんがくながらSFてきかたもされます。小説しょうせつのジャンルはどうかんがえていますか。

宮内みやうち たまたまきたいことがおおくて、結果けっかてき越境えっきょうしている。たまたまSFで、たまたま純文学じゅんぶんがくであったりと。安易あんいにマッシュアップすると先人せんじんきずいたジャンルにフリーライドすることになるので、SFらしいSF、純文学じゅんぶんがくらしい純文学じゅんぶんがくにもしっかりまなければ、とおもっています。

上田うえだ 基本きほんてきにジャンルについてはかんがえていなくて、きたいものをいている。デビューまえ純文学じゅんぶんがく新人しんじんしょう応募おうぼしていたのは、純文学じゅんぶんがく本来ほんらい文学ぶんがく源流げんりゅうというか、なんでもありとされているはずのものなので、そこからデビューするのがすじかなとおもっていた。きたいものをく。文学ぶんがく本来ほんらい差別さべつきゅうです。構成こうせい中村なかむら真理子まりこ

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