「これからは“個の時代”」――。インターネットの浸透により個人の影響力が高まり、活躍の場が増えるという意味合いの流行(はや)り文句だ。けれど、その潮流に希望を抱く人は少数派ではないか。様々な仕事に関わる人々を取材していると、そう感じることがある。実際のところ、独創的なアイデアを生み出せて、かつ周囲に発表できる人はほんの一握りだからだ。
一方で、世間で評価されるクリエーターや経営者の隣には、優秀な“右腕”が必ずいるものだ。壮大なビジョンを打ち上げるリーダーの行動が「大風呂敷を広げる」と言うのなら、広げた風呂敷を黙々と畳み、しかるべき場に収める役割も欠かせない。筆者は自ら背負ってきたその役割を「畳み人(にん)」と呼び、その仕事の流儀を詳細に披露する。
例えば、実行に伴うコスト計算、リスク回避のための準備、そして、孤高のリーダーに寄り添うメンタルサポート。印象に残るのは、畳み人が徹底して保つ「冷静さ」だ。
どんな時代にも引く手あまたとなる最強のポジション、「畳み人」。その才能は決して特別なものではなく、経験と意識付けによって磨かれるものだろう。筆者のメッセージが道筋を明るく照らす。=朝日新聞2020年4月4日掲載