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リシャール・コラスさん 最新小説『茶室』は、45年間暮らした地、“日本への遺言”|好書好日
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リシャール・コラスさん 最新さいしん小説しょうせつ茶室ちゃしつ』は、45年間ねんかんらした、“日本にっぽんへの遺言ゆいごん

ぶん古谷ふるやゆう 写真しゃしん和田わだ直樹なおき

日本にっぽんうつくしさをもう一度いちどてみよう」とつたえたい

―― 丁寧ていねい描写びょうしゃにおいたつような文章ぶんしょうで、情景じょうけいかぶようでした。物語ものがたりはどのようにしてまれたのですか。

 どんなテーマで小説しょうせつこうか、とかんがえたときに、はじめはなにもおもかばなかったんです。つまにも「明日あしたには担当たんとう編集へんしゅうほう連絡れんらくをして、『けない』とつたえなければ」とはなしていたほどです。ですが、翌朝よくあさめると、不思議ふしぎなことに「ストーリーができた」とつまつたえていました。長年ながねんしんのなかにあったおもなんらかのかたちしていきたい、という気持きもちがどこかにあったのかもしれません。わたし鎌倉かまくら自宅じたくにも茶室ちゃしつがありますが、そうした場所ばしょ環境かんきょうをイメージし、物語ものがたりれてみたかんじですね。いざ執筆しっぴつはじめると、まるで登場とうじょう人物じんぶつたちにかれるかのようにすすめていました。

――『茶室ちゃしつ』のなかには、太宰だざいおさむ永井ながい荷風かふう谷崎たにざき潤一郎じゅんいちろうといった近代きんだい小説しょうせつ作家さっかたちのおお登場とうじょうしています。コラスさんがあいし、影響えいきょうけてきた作家さっかたちなのでしょうか。

 そうですね。おかしないいかたかもしれませんが、この作品さくひんは“日本にっぽんについての遺言ゆいごん”とえるかもしれません。わたし日本にっぽんらしはじめた45ねんまえといまではなにがわったのか。日本にっぽんのなにがきだったのか、いまの日本にっぽんきなところはあるのか。Rがこいちる真理子まりこってみれば、日本にっぽんのクラシックな象徴しょうちょうする存在そんざいです。執筆しっぴつしていたときは、スイスに赴任ふにんすることがまっていたので「日本にっぽんはなれるからには、これをのこしたい」という気持きもちもあったのだとおもいます。

 先日せんじつすこ年下としした日本人にっぽんじん友人ゆうじんとランチをし、二人ふたり太宰だざい谷崎たにざき三島みしま由紀夫ゆきおはなしをしていたのですが、かれは「こんなに日本にっぽん文学ぶんがくについてひとかたったのはなんじゅうねんぶりだろう」とくちにしていました。日本にっぽんわか読者どくしゃたいして、「自分じぶんくにうつくしさをもう一度いちどてみようよ」という気持きもちがわたしのなかにあるのかもしれません。

しんはだかにして”本当ほんとう小説しょうせつ“のみちあゆんでみたい

――物語ものがたりのなかでは、フランスじん日本人にっぽんじん恋愛れんあい愛情あいじょう表現ひょうげんちがいについてもえがかれています。

 日本人にっぽんじん女性じょせいのパッションの表現ひょうげん仕方しかた面白おもしろいなとかんじています。普段ふだんおだやかなのに、突然とつぜん情熱じょうねつてきになる瞬間しゅんかんがある。火山かざんおなじですね(笑)。いつもは冷静れいせいだからこそ、感情かんじょう爆発ばくはつしたときとのコントラストがすごい。わたしつま出会であったときも、そうかんじました。

 真理子まりこ家柄いえがらもよく、しっかりとした教育きょういくけ、お見合みあいのはなしもあって、と非常ひじょう安定あんていした生活せいかつおくっていました。それがRとの出会であいにより、みずか人生じんせいおおきくえていく。Rはそう、わたしです。これはかくすことができないですね。

――デビューさくはるかなる航跡こうせき』(2006ねん)をはじめ、自伝じでんてき要素ようそかんじさせる作品さくひんおお発表はっぴょうされています。物語ものがたりつむぐうえで、「自分じぶん」との距離きょりかたをどうとらえていますか。

 正直しょうじきうと、本心ほんしんのようなものはまだまだかくしているとおもいます。そうかんじたのは、大江おおえ健三郎けんざぶろうさんが(さわがいのある)息子むすこさんとの日々ひびつづり(つづ)られた作品さくひんんだことがおおきいですね。大江おおえさんは、自分じぶんしんはだかにしていく。その姿すがた勇気ゆうきづけられ、「これが本当ほんとう文学ぶんがくではないか」という気持きもちになりました。わたしもこれからは、自分じぶんのなかにある“けっして綺麗きれい(きれい)ではないもの”をさらけしていってもいいのかなとおもっています。あまりほこりにおもっていないこと、せたくないことをえがくことで、“本当ほんとう小説しょうせつ”になるみちあゆんでみようかな、と。しん小説しょうせつうそ(うそ)をつかない。でも、わたしはまだしんうそをついていている部分ぶぶんがあるので、小説しょうせつではないとおもっていて。いまはそんな気持きもちになっています。

くときは、寝食しんしょくわすれ18あいだ自室じしつきこもって

――ビジネスパーソンとして活躍かつやくされながら、つづけることができたのはなぜですか。

 どものころから「くこと」は、自分じぶんにとって自然しぜん表現ひょうげん方法ほうほうひとつでした。わかころ文章ぶんしょういてきてゆきたいというおもいもありましたが、わりと現実げんじつてきなところもあって。詩人しじん外交がいこうかんでもあったポール・クローデルのように「外交がいこうかんとしてはたらきながらく」という方法ほうほう模索もさくしていた時期じきもあります。

 来日らいにちし、フランス大使館たいしかん勤務きんむてビジネスの世界せかいあしれてからは、文章ぶんしょうくことからすこはなれていたのですが、15ねんほどまえ集英社しゅうえいしゃさんからこえをかけていただき、『はるかなる航跡こうせき』をきました。これが、本当ほんとうたのしかった。いまも小説しょうせつくときは、べることもわすれ、週末しゅうまつなどに1にち18あいだくらい自宅じたくきこもっていています。「茶室ちゃしつ」には、真理子まりこ行方ゆくえ刑事けいじ登場とうじょうしますが、かれ存在そんざいすすめるなかで自分じぶん想像そうぞうえ、どんどんおおきくなっていった。そんなところにも面白おもしろさをかんじますね。

――今後こんごんでみたいテーマがありましたらおしえてください。

 小説しょうせつではないのですが、フランスの出版しゅっぱんしゃ発行はっこうしている『Dictionnaire amoureux(ディクショネール アムルー)』というシリーズで「日本にっぽん」について執筆しっぴつしています。テーマごとに、その分野ぶんや精通せいつうした著者ちょしゃ辞書じしょ形式けいしき自由じゆう解説かいせつしていくもので、わたし京都きょうと西芳寺さいほうじ苔寺こけでら)から大好だいすきな「さかなクン」まで、やく350の単語たんごげています。これが完成かんせいしたら、日本にっぽんというテーマからいちはなれるのではないかな。

 フランスの出版しゅっぱんしゃから依頼いらいされているものに、“わたしちち物語ものがたり”があります。ちちは17ねんまえくなり、ずっと「まだけない」とおもっていました。ちちだい世界せかい大戦たいせんびた世代せだい。そんなかれ人生じんせいをいつのえがいてみたいとおもっています。

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