詩し・歌うた・句くへの過剰かじょうなツッコミの妙みょう　「うたの動物どうぶつ記き」など山田やまだ航わたるさんが薦すすめる新刊しんかん文庫ぶんこ３冊さつ

山田やまだ航わたるが薦すすめる文庫ぶんここの新刊しんかん！

『うたの動物どうぶつ記き』　小池こいけ光ひかり著ちょ　朝日あさひ文庫ぶんこ　８１４円えん
『自閉症じへいしょうは津軽つがる弁べんを話はなさない　自じ閉スペクトラム症しょうのことばの謎なぞを読よみ解とく』　松本まつもと敏治としはる著ちょ　角川かどかわソフィア文庫ぶんこ　１０７８円えん
『江戸えど・東京とうきょう水道すいどう史し』　堀越ほりこし正雄まさお著ちょ　講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ　１２９８円えん

　（１）は古今ここんの短歌たんか・俳句はいく・詩しから、動物どうぶつが詠よまれた作品さくひんを取とり上あげて鑑賞かんしょうしたエッセイ。植物しょくぶつは昔むかしから詩歌しかの王道おうどうモチーフだが、動物どうぶつに着目ちゃくもくしたことで、より世俗せぞく的てきな作品さくひんが目立めだつ。著者ちょしゃが長年ながねん高校こうこう教師きょうしを勤つとめた歌人かじんだけに、授業じゅぎょうの合間あいまの面白おもしろい脱線だっせんという趣おもむきのある文体ぶんたいだ。詩歌しかというのは、作品さくひんが漫才まんざいでいうところのボケで、鑑賞かんしょうがツッコミなのだろう。最もっとも多おおく引ひかれているのは斎藤さいとう茂吉しげよしだが、まさに大だいボケの歌人かじんだ。

　鼠ねずみ等とう（ねずみら）を毒殺どくさつせむとけふ一いち夜や心こころ楽たのしみわれは寝ねにけり

　何なにかにつけて過剰かじょうな茂吉しげよしの歌うたに対たいして著者ちょしゃは素直すなおに面白おもしろがり、お返かえしとばかりに過剰かじょうなツッコミを入いれる。そのツッコミもまた切きれ味あじが鋭するどくて、二に度ど笑わらえる。

　（２）は青森あおもり県けんの大学だいがくに勤つとめていた教育きょういく心理しんり学者がくしゃが、臨床りんしょう発達はったつ心理しんり士しである妻つまから「自閉症じへいしょう児じは津軽つがる弁べんを話はなさない」という噂うわさ（うわさ）があることを聞ききつけ、全国ぜんこくを股またにかけて「自閉症じへいしょうと方言ほうげん」をめぐる調査ちょうさをしたレポート。調査ちょうさが進すすむにつれ、本来ほんらいの教育きょういく心理しんり学がくの範囲はんいを超こえて、「そもそも方言ほうげんとは何なになのか」「言語げんごコミュニケーションとは何なになのか」というフィールドにまで突入とつにゅう。言語げんご学がく的てきな観点かんてんからみても貴重きちょうな記録きろくとなった。

　（３）は東京とうきょう市し水道局すいどうきょくに長ながく勤つとめた著者ちょしゃによる、江戸えど期きから戦後せんご昭和しょうわにかけての東京とうきょうの水道すいどうの歴史れきし書しょ。水道すいどうの歴史れきしは、大都市だいとしの発展はってんの歴史れきしそのもの。もともと神奈川かながわ県けんだった三さん多摩たま地区ちくが東京とうきょう府ふに編入へんにゅうされたのも水源すいげん地ちの都合つごうによるもの、など東京とうきょうの見方みかたが変かわる意外いがいな史実しじつを沢山たくさん（たくさん）教おしえてくれる。＝朝日新聞あさひしんぶん2020年ねん10月がつ24日にち掲載けいさい