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ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」 「絶望」すら贅沢な収容所で 人文書院・井上裕美さん|好書好日
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ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチのいちにち」 「絶望ぜつぼう」すら贅沢ぜいたく収容しゅうようしょで 人文書院じんぶんしょいん井上いのうえ裕美ひろみさん

 どうどく療法りょうほうではないが、からし(つら)い状況じょうきょうになると、収容しゅうようしょえがいたほんをついってしまう。おかげで、ひととつきあっていても、こいつは収容しゅうようしょなか信頼しんらいできるやつ(やつ)かと値踏ねぶみし、自分じぶん壁新聞かべしんぶんつくろうなどとかんがえる。

 この小説しょうせつは、スターリン時代じだい収容しゅうようしょでのいちにちだ。主人公しゅじんこう高潔こうけつ人物じんぶつでもなく、どこか調子ちょうしのよい平凡へいぼん農夫のうふシューホフ。さむさと過酷かこく労働ろうどう地獄じごく状況じょうきょう何事なにごともなかったいちにち淡々たんたんえがかれる。処世しょせいじゅつにたけたかれ生活せいかついたにつき、手際てぎわがよい。パンをかくし、いちさら余分よぶんにちょろまかす方法ほうほうなど、細部さいぶ描写びょうしゃ収容しゅうようしょのリアルとなっている。

 会田あいだ雄次ゆうじ『アーロン収容しゅうようしょ』もそうだが(くためのぬすみもおなじ)、とにかくものはなしがよくる。しょくへの執着しゅうちゃく当然とうぜんだ。絶望ぜつぼうする言葉ことば感情かんじょうをもつのは贅沢ぜいたく(ぜいたく)でさえある。

 抑留よくりゅうについてのほん編集へんしゅうし、抑留よくりゅうしゃほうのおはなし直接ちょくせつうかがいしたことがある。かかんだ体験たいけんおもい。

 いま社会しゃかいおおきな収容しゅうようしょのようになりつつあるとおもった。ソルジェニーツィン『収容しゅうようしょ群島ぐんとう』にもえがかれるが、収容しゅうようしょではならずものはばをきかせ、知識ちしきじん階層かいそう底辺ていへんにおかれる。すべてに理由りゆうかされない。囚人しゅうじん囚人しゅうじん搾取さくしゅして既得きとく権益けんえき手放てばなさない。政治せいじは、囚人しゅうじんあたまのようなものかもしれない。みなくだけでせいいっぱいになってしまう。収容しゅうようしょ映画えいが監督かんとくエイゼンシュテインをろんじないまでも、この小説しょうせつ主人公しゅじんこうのように、だれかにものすことができるだろうか。善良ぜんりょう人間にんげんたくまし(たくま)しさをしんじたい。=朝日新聞あさひしんぶん2020ねん12月9にち掲載けいさい

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