「猫ねこと東大とうだい。」「ネコの博物はくぶつ図鑑ずかん」書評しょひょう　人ひととの「関係かんけいの絶対ぜったい性せい」問とい直なおす

評者ひょうしゃ：石川いしかわ健治けんじ／朝あさ⽇新聞しんぶん掲載けいさい：2021年ねん01月がつ09日にち

猫ねこと東大とうだい。猫ねこを愛あいし、猫ねこに学まなぶ著者ちょしゃ：東京とうきょう大学だいがく広報こうほう室しつ出版しゅっぱん社しゃ：ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼうジャンル：ペット

ISBN: 9784623089314
発売はつばい⽇： 2020/11/10
サイズ: ２１ｃｍせんちめーとる／１６４，２ｐ

ネコの博物はくぶつ図鑑ずかん著者ちょしゃ：サラ・ブラウン出版しゅっぱん社しゃ：原はら書房しょぼうジャンル：ペット

ISBN: 9784562057856
発売はつばい⽇： 2020/11/07
サイズ: ２５ｃｍせんちめーとる／２２４ｐ

猫ねこと東大とうだい。　猫ねこを愛あいし、猫ねこに学まなぶ　［編へん］東京大学とうきょうだいがく広報こうほう室しつ／ネコの博物はくぶつ図鑑ずかん　［著ちょ］サラ・ブラウン

　人ひとはネコとして生うまれ人間にんげんになる。猫ねこはネコとして生うまれネコのままである。
　出生しゅっしょうとともに「人間にんげんの尊厳そんげん」を享受きょうじゅする乳児にゅうじと、能力のうりょくは同等どうとうなのに法律ほうりつ上じょうは「物もの」として扱あつかわれる猫ねこ。両者りょうしゃの間あいだに横よこたわる関係かんけいの絶対ぜったい性せいを疑うたがうこと。それが、主客しゅかくを書名しょめいにおいて転倒てんとうさせた『猫ねこと東大とうだい。』と、原題げんだいは「或ある（あ）るひとつの自然しぜん史し」である『ネコの博物はくぶつ図鑑ずかん』とに共通きょうつうする主題しゅだいである。
　どちらも、素晴すばらしい写真しゃしんが演出えんしゅつする学がく知ちと情愛じょうあいとの両立りょうりつが見事みごと。とりわけ後者こうしゃの筆致ひっちは、さながら猫ねこ界かいの松田まつだ道雄みちおだ。文献ぶんけん注ちゅうに裏付うらづけられた猫ねこ学がくの現在げんざいを平易へいいな言葉ことばで堪能たんのうできる。カタイこといわず楽たのしんで読よめばいいニャンという意見いけんもあろうが、評者ひょうしゃとしては、後者こうしゃを先さきに読よむことをお薦すすめする。それにより、少々しょうしょう親おやバカ度どが強つよすぎる前者ぜんしゃの価値かちを正当せいとうに評価ひょうかできよう。
　肥沃ひよく（ひよく）な三日月みかづき地帯ちたいの穀倉こくそうをネズミから守まもる用心棒ようじんぼう契約けいやく以来いらい、人間にんげん社会しゃかいと「片かた利り共生きょうせい的てき」ないし「共きょう利り共生きょうせい的てき」な関係かんけいを結むすんできた猫ねこたち。一旦いったん（いったん）エジプトなどで神格しんかく化かされ尊厳そんげんの身分みぶんを獲得かくとくしたが、中世ちゅうせいヨーロッパでは一転いってん、魔女まじょの化身けしんとしての烙印らくいん（ブランド）を押おされて苦くるしんだ。しかし彼かれらは、そのつど類るい（たぐい）まれな適応てきおう能力のうりょくを発揮はっきして、種たね特有とくゆうの社会しゃかい的てきシグナルの体系たいけいを流用りゅうようし、人間にんげんとの意思いし疎通そつうを図はかってきた。これに対たいし人間にんげんは、自みずからの社会しゃかい的てき行動こうどうパターンを直接ちょくせつ適用てきようして接せっするばかりで、「ネコほど努力どりょくしていない」（サラ・ブラウン）。
　人間にんげんの協力きょうりょく者しゃから進すすんで、家族かぞくの成員せいいんとなるものも増ふえたが、人間にんげん社会しゃかいに対たいして「相対そうたい的てきに自立じりつ」した野良猫のらねこの状態じょうたい（ステータス）が、依然いぜん「最もっとも主要しゅような態様たいよう」だ。毛色けいろを基準きじゅんとしがちな飼かい猫ねこの名付なづけは、帝国ていこく主義しゅぎ的てき心性しんせいの投影とうえいであり（小森こもり陽一よういち）、「介護かいご形態けいたい」としての野良猫のらねこ保護ほごの発想はっそうが、帝国ていこく主義しゅぎ経験けいけんの植民しょくみん地ち後ご（ポストコロニアル）の変形へんけいなのだとすれば（小野塚おのづか知二ともじ）、彼かれらにも「被ひ造物ぞうぶつの尊厳そんげん」（スイス憲法けんぽう）を承認しょうにんできるか否ひかは、人間にんげん社会しゃかい自体じたいの構造こうぞうを問とうことと同義どうぎである。
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　東大とうだい教授きょうじゅらがネコについて様々さまざまに追究ついきゅう、語かたった本ほん▽Sarah Brown　ネコに関かんする英国えいこくのコンサルタント。

石川いしかわ健治けんじ（イシカワケンジ）東京大学とうきょうだいがく教授きょうじゅ（憲法けんぽう学がく）

1962年ねん生うまれ。東京大学とうきょうだいがく法学部ほうがくぶ卒業そつぎょう。著書ちょしょに『自由じゆうと特権とっけんの距離きょり　カール・シュミット「制度せいど体たい保障ほしょう」論ろん・再考さいこう』、編著へんちょに『学問がくもん／政治せいじ／憲法けんぽう　連環れんかんと緊張きんちょう』、共編きょうへん著ちょに『憲法けんぽう判例はんれい百ひゃく選せんⅠ・Ⅱ（第だい6版はん）』など。2019年ねん4月がつより書評しょひょう委員いいん。