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「ミャンマー情勢」本でひもとく なぜ軍の政治支配が続くのか 元朝日新聞社ヤンゴン支局長・五十嵐誠さん|好書好日
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「ミャンマー情勢じょうせいほんでひもとく なぜぐん政治せいじ支配しはいつづくのか もと朝日新聞社あさひしんぶんしゃヤンゴン支局しきょくちょう五十嵐いがらしまことさん

国軍こくぐん拘束こうそくされたアウンサンスーチー写真しゃしんかかげ、抗議こうぎすわみをする若者わかものら=3月さんがつ12にち、ヤンゴン、AFP時事じじ

 アジア最後さいご経済けいざいフロンティア――。2010年代ねんだい民主みんしゅ経済けいざいブームになかで、そうもてはやされたミャンマーで先月せんげつ国軍こくぐんがクーデターで権力けんりょくうばった。10ねんまえ改革かいかく開放かいほう路線ろせん転換てんかんしたはずのぐんは、みずかひらいたフロンティアのとびらふたたじようとしているかのようだ。

 1962ねんのクーデター以降いこうぐんはこのくに政治せいじ支配しはいしてきた。11ねん民政みんせい移管いかんしたさい事前じぜんぐん政治せいじ関与かんよ規定きていした憲法けんぽう制定せいてい。アウンサンスーチーひきいる文民ぶんみん政権せいけん誕生たんじょうしても、その憲法けんぽうがさらなる民主みんしゅはばんだ。そして今回こんかいのクーデター。なぜぐん支配しはいつづくのか。最新さいしんのものをふく日本人にっぽんじん研究けんきゅうしゃ著作ちょさくからかんがえてみたい。

 ぐん権力けんりょく基盤きばん武力ぶりょくだ。独裁どくさい国家こっかではそれが同胞どうほうであるはずの市民しみんけられる。ミャンマーでもクーデターに反発はんぱつする人々ひとびと躊躇ちゅうちょ(ちゅうちょ)なくじゅうけられ、おおくの犠牲ぎせいしゃている。かえればすうねんまえぐん暴力ぼうりょくせい世界せかい印象いんしょうづけた出来事できごとがあった。17ねんやく70まんにん難民なんみんになったイスラム教徒きょうとロヒンギャの人々ひとびとたいする残虐ざんぎゃく行為こういだ。

同胞どうほうからの排除はいじょ

 『ロヒンギャ危機きき』は、ロヒンギャ武装ぶそう集団しゅうだん警察けいさつ襲撃しゅうげきはしはっしたぐんがわの「過剰かじょう暴力ぼうりょく行使こうし」の前提ぜんていとして、1948ねんのミャンマー独立どくりつにロヒンギャが「国民こくみん他者たしゃ」へと排除はいじょされる過程かてい分析ぶんせきする。注目ちゅうもくするのは英国えいこくからの独立どくりつ運動うんどうなかまれたナショナリズムの排他はいたせいだ。植民しょくみん地下ちかでインドけいなどの移民いみんらすふくあい社会しゃかいができたが、ナショナリストたちは「民族みんぞく言語げんご仏教ぶっきょう」をまもるとして移民いみんやイスラム教徒きょうと同胞どうほうから排除はいじょした。独立どくりつ運動うんどう出身しゅっしんのネーウィンひきいるぐん主導しゅどう政権せいけんは82ねん国籍こくせきほう改正かいせいし、ロヒンギャは国籍こくせきうばわれる。

 独立どくりつ共産党きょうさんとう少数しょうすう民族みんぞく武装ぶそう勢力せいりょくとの内戦ないせんなかで、ネーウィンは「国家こっかへの忠誠ちゅうせいしんのない人々ひとびと排除はいじょ」をすすめたという。それがロヒンギャを国籍こくせきへといやったのだが、「てき」となす相手あいておな国民こくみんでも容赦ようしゃなく弾圧だんあつする姿勢しせいは、現在げんざいのミンアウンフライン最高さいこう司令しれいかんにも共通きょうつうしてはいないだろうか。

 ぐん信条しんじょう理解りかいするうえで参考さんこうになるのが90年代ねんだい軍事ぐんじ政権せいけんくにちゅう看板かんばんてて宣伝せんでんした政治せいじスローガンだ。「国軍こくぐんだけがはは国軍こくぐんだけがちち」「国軍こくぐん民族みんぞく大義たいぎをけっして裏切うらぎらない」。ぐんはナショナリズムのになである自分じぶんたちだけが「国家こっかただしい方向ほうこうみちびくことができる」とかんがえていると『アウンサンスーチーのビルマ』は指摘してきする。一方いっぽうで、軍政ぐんせいたたかったスーチーはナショナリズムのにな国民こくみんいちにんひとりだとなしているという。

若者わかものひきいる反軍はんぐん

 そのスーチー目指めざしたのが「国民こくみん和解わかい」だった。和解わかいにはぐん国民こくみんとの対立たいりつ解消かいしょうふくまれ、ぐん批判ひはんもと軍政ぐんせい幹部かんぶ責任せきにん追及ついきゅう封印ふういんした。だが、これがぐんへの融和ゆうわ姿勢しせいととらえられ、批判ひはんけることになった。

 ぐん支配しはいについて社会しゃかい構造こうぞう観点かんてんから示唆しさあたえるのが『ミャンマーの体制たいせい転換てんかん農村のうそん社会しゃかい経済けいざい』だ。著者ちょしゃはミャンマーのむら開放かいほうてきで、コミュニティーを形成けいせいするのは村人むらびと同士どうししゃ関係かんけいのネットワークだと指摘してき村人むらびとにはしゃ関係かんけいが1、2ほんれてもいいという「絶縁ぜつえん自由じゆう」があり、軍政ぐんせい命令めいれい監視かんし共同きょうどうたいてきなつながりを使つかえなかったとする。むらには意外いがい自由じゆうがあり、これが逆説ぎゃくせつてき圧政あっせい長続ながつづきさせたとろんじる。

 だが、この10年間ねんかん人々ひとびと不完全ふかんぜんながらも軍政ぐんせいとは比較ひかくにならないほどの自由じゆう享受きょうじゅした。いまの反軍はんぐん運動うんどうは、このあいだ大人おとなになった若者わかものたちを中心ちゅうしん公務員こうむいん農村のうそんにもひろがる。排他はいたてきなナショナリズムや社会しゃかい構造こうぞうえてぐん政治せいじ支配しはい伝統でんとうやぶれるか。ミャンマーは歴史れきし転換てんかんてんにある。=朝日新聞あさひしんぶん2021ねん3がつ20日はつか掲載けいさい

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