「非ひ正規せいき教員きょういんの研究けんきゅう」書評しょひょう　独自どくじデータで描えがく「帳尻ちょうじり合あわせ」

評者ひょうしゃ：神林かんばやし龍りゅう／朝あさ⽇新聞しんぶん掲載けいさい：2022年ねん04月がつ30日にち

「使つかい捨すてられる教師きょうしたち」の知しられざる実態じったい非ひ正規せいき教員きょういんの研究けんきゅう著者ちょしゃ：佐藤さとう明彦あきひこ出版しゅっぱん社しゃ：時事通信じじつうしん出版しゅっぱん局きょくジャンル：教育きょういく・学習がくしゅう参考さんこう書しょ

ISBN: 9784788718050
発売はつばい⽇： 2022/02/15
サイズ: １９ｃｍせんちめーとる／１６７ｐ

「非ひ正規せいき教員きょういんの研究けんきゅう」　［著ちょ］佐藤さとう明彦あきひこ

　世よの中なかに薄々うすうす知しられていることだが、公立こうりつ小中学校しょうちゅうがっこうで非ひ正規せいき教員きょういんが増ふえている。子供こどもの教育きょういく問題もんだいは社会しゃかいにとって重要じゅうようなはずだが、この国くにのシルバー民主みんしゅ主義しゅぎは、総論そうろん賛成さんせいあとは棚上たなあげの典型てんけい例れいとしてしまった。本書ほんしょのように、文部もんぶ科学かがく省しょうの公開こうかいデータのみならず、独自どくじに入手にゅうしゅした情報じょうほうを見みせられると、なるほど、危機きき的てき状況じょうきょうだと納得なっとくがいく。
　もともと非ひ正規せいき労働ろうどう者しゃについての客観きゃっかん的てき材料ざいりょうを得えるのは案外あんがい難むずかしい。民間みんかんの場合ばあい、非ひ正規せいき労働ろうどう者しゃの多数たすうは、実じつは無期むきの労働ろうどう契約けいやくを結むすんでいるものの職場しょくばでは正社員せいしゃいんとは呼よばれない労働ろうどう者しゃだからだ。しかし研究けんきゅう者しゃ、司書ししょや学芸がくげい員いんなどを含ふくめた公的こうてき部門ぶもんの場合ばあい、非ひ正規せいき労働ろうどう者しゃはまさに有期ゆうきの労働ろうどう契約けいやくを結むすぶ人ひとびとと一致いっちする。より教科書きょうかしょ的てきな非ひ正規せいき労働ろうどう市場いちばとして理解りかいでき、現在げんざいの労働ろうどう市場いちば改革かいかく論ろんの行ゆく先さきのひとつを暗示あんじする。
　本書ほんしょによれば、教員きょういん市場いちばの特徴とくちょうは需要じゅよう予測よそくが難むずかしいことにある。日本にっぽん全体ぜんたいでは子供こどもの数かずはほぼ決きまっているのだから、教員きょういんの必要ひつよう数すうが予測よそくできないとはにわかには理解りかいしがたい。しかし、私立しりつ校こうとの競争きょうそうや、親おやの転勤てんきんに伴ともなう突然とつぜんの引ひっ越こしを考かんがえると、確たしかに各校かくこうの子供こどもの数かずを正確せいかくに予測よそくするのは難むずかしい。新しん学期がっきまでの帳尻ちょうじり合あわせが最終さいしゅう的てきに公立こうりつ校こうに押おし付つけられているとすれば、あらかじめきちんと準備じゅんびするよりも、必要ひつよう数すうが決きまってから調達ちょうたつする方ほうが楽らくだと教育きょういく委員いいん会かいが考かんがえるのは、まさに非ひ正規せいき労働ろうどうの「合理ごうり性せい」の説明せつめいと一致いっちする。ただし、本書ほんしょで強調きょうちょうされるように、このシステムは、発注はっちゅうすれば納品のうひんしてくれる下請したうけよろしく、呼よべば元気げんきに出でてきてくれる経験けいけん者しゃがいることが前提ぜんていである。遠とおざからず人材じんざいが枯渇こかつすれば維持いじできない。
　日本にっぽん社会しゃかいにおける公立こうりつ校こうの位置いちづけが所詮しょせん（しょせん）帳尻ちょうじり合あわせ（もう少すこしマイルドにいえばセイフティ・ネット）に過すぎないという寂さびしい現実げんじつとともに、社会しゃかいのバッファがすり減へっていることを感かんじさせる読書どくしょだった。
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さとう・あきひこ　１９７２年ねん生うまれ。教育きょういくジャーナリスト。著書ちょしょに『ＧＩＧＡスクール・マネジメント』など。