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「英雄」書評 天秤にかけられる命と家族と金|好書好日
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英雄えいゆう書評しょひょう 天秤てんびんにかけられるいのち家族かぞくきむ

評者ひょうしゃ藤田ふじた香織かおりあさ新聞しんぶん掲載けいさい:2022ねん09がつ17にち
英雄えいゆう 著者ちょしゃ真保しんぼ 裕一ひろいち 出版しゅっぱんしゃ朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱん ジャンル:日本にっぽん小説しょうせつ文学ぶんがく

ISBN: 9784022518583
発売はつばい⽇: 2022/09/07
サイズ: 20cmせんちめーとる/346p

英雄えいゆう」 [ちょ真保しんぼ裕一ひろいち

 もし、「あなたにとって、いちばん大切たいせつなものは?」とかれたら、おそらくおおくのひと健康けんこういのち)、家族かぞく、おかねのいずれかだとこたえるだろう。
 けれど、本当ほんとうだろうか。適当てきとうおもみではなく、確信かくしんをもってそうえるのか。本書ほんしょみながら、そんなことをかんがつづけた。
 主人公しゅじんこうとなる植松うえまつ英美ひでみ中学ちゅうがくはいころ自分じぶんだけ弟妹ていまいとは父親ちちおやちがうとおしえられた。しかしその名前なまえかされぬまま、はは秋子あきこななねんまえ他界たかい。ところがさんじゅうさいちかくなったあるよる突然とつぜんふたりの刑事けいじ実家じっかたずねてきたことをに、実父じっぷ素性すじょうらされる。
 いちねんはんほどまえ東京とうきょう足立あだち河川敷かせんしきむねはつ弾丸だんがんかれ死亡しぼうした男性だんせいが、そのひとだった。南郷なんごう英雄ひでお享年きょうねんはちじゅうなな南郷なんごう北関東きたかんとう拠点きょてん運輸うんゆ建設けんせつ小売こうりぎょう幅広はばひろ展開てんかいするグループ企業きぎょう創業そうぎょうしゃであり、くなった当時とうじ主要しゅようさんしゃ運営うんえい管理かんりしていくやまふじホールディングスの相談役そうだんやくつとめていた。
 実父じっぷ大手おおて企業きぎょう創業そうぎょうしゃだったおどろき。射殺しゃさつされたという衝撃しょうげき。いくつかの事情じじょうかさなり、英美ひでみ実父じっぷひととなりや、だれに、なぜころされたのかをりたいとねがうごしていく。
 その合間あいまに、バブル崩壊ほうかい平成へいせいよんねんから、昭和しょうわじゅうねんまで時代じだいさかのぼ(さかのぼ)るかたち南郷なんごう半生はんせいかたられるのだが、このパートがきわめて興味深きょうみぶかく、むねせまる。
 戦争せんそうされ、きるためだけの過酷かこく労働ろうどうさけ博打ばくち(ばくち)でやりごすだけだったじゅうはちさい青年せいねんが、自分じぶんに「将来しょうらい」があると気付きづいたきっかけ。仕事しごとよろこび、会社かいしゃこしおおきくしていくなかでまもろうとしたもの。てたもの。
 周囲しゅうい社員しゃいんは、南郷なんごう家族かぞくは、かれのなにをて、どこまで理解りかいしていたのか。我欲がよく打算ださんこび(こ)びとあまえ、じょうあきらめと覚悟かくごいのち家族かぞくかね天秤てんびん(てんびん)にかけられ、それぞれのしんらす。
 れいきる読者どくしゃむねをもく「英雄えいゆう」の姿すがたがここにある。
    ◇
しんぽ・ゆういち 1961ねんまれ。1991ねん連鎖れんさ』で江戸川えどがわ乱歩らんぽしょうけデビュー。著書ちょしょに『奪取だっしゅ』『灰色はいいろきたかべ』など。

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