「マンガと図鑑ずかんでおもしろい！　わかる元素げんその本ほん」　大人おとなも引ひき込こむ構成こうせいに感嘆かんたん

　かつて「学習がくしゅうまんが」というものをせっせと読よみあさった時期じきがあった。半はん世紀せいき以上いじょうも昔むかし、小学校しょうがっこう低てい学年がくねんの頃ころだ。
　調しらべると今いまも様々さまざまな学習がくしゅうまんがが出版しゅっぱんされている。この本ほんも学習がくしゅうまんがではあるが、ちょっと毛色けいろは違ちがう。「大人おとなのための学習がくしゅうまんが」というべきか。

　子こどもの自分じぶんがせっせと読よんだ学習がくしゅうまんがは、子こどもが主人公しゅじんこうでそこに疑問ぎもんに答こたえるお兄にいさんや大人おとなが登場とうじょうするという形式けいしきが多おおかった。子こども向むけなのだから、主人公しゅじんこうは子こどもなのだ。

　が、本書ほんしょの主人公しゅじんこうは仕事しごとを引退いんたいした年配ねんぱいのハカセ。ハカセの相手あいてとなるのは、宇宙船うちゅうせんの墜落ついらくで一部いちぶ記憶きおくを喪失そうしつした宇宙うちゅう人じんなのである。

　宇宙うちゅう人じんのかけるゴーグルには「見みたものがどんな元素げんそでできているか」を表示ひょうじする機能きのうがある。ハカセはその機能きのうを手てがかりに宇宙うちゅう人じんの記憶きおくを取とり戻もどしていく。宇宙うちゅう人じんが記憶きおくを取とり戻もどすプロセスがそのまま、元素げんその解説かいせつになっているという構成こうせいだ。つまり読者どくしゃは、解説かいせつするハカセの側がわに立たって読よみ進すすむことになる。

　大人おとな向むけの学習がくしゅうまんがとして、これは実じつにウマい構成こうせいだと感嘆かんたんする。大人おとなには、その年齢ねんれいまで生いきてきた誇ほこりや自負じふ心しんがある。それを「こんなことも知しらないのね」と解説かいせつされると、「バカにされている」と反発はんぱつして本ほんを閉とじてしまうかも知しれない。

　読者どくしゃを解説かいせつする側がわのハカセに引ひき寄よせることで、無用むようの反発はんぱつを防ふせぎつつ、確実かくじつに新あらたな知識ちしきを伝達でんたつする――しかも内容ないようは妥協だきょうなしだ。炭素たんそや酸素さんそや水素すいそといったよく知しっている元素げんそから、テクネチウム、プロメチウムのようなそもそも自然しぜん界かいに安定あんていして存在そんざいしない元素げんそ、９３番ばんのネプツニウム以降いこうの人工じんこう的てきに作つくられる元素げんそまで全ぜん１１８種しゅがどんなものか、性質せいしつ・特徴とくちょうから用途ようとまでを、びしっと、ただし平易へいいに解説かいせつしている。
　もちろん子こどもが読よんでも楽たのしいだろう。親子おやこで一緒いっしょに読よみながら、知識ちしきを深ふかめるのもよいと思おもう。＝朝日新聞あさひしんぶん2022年ねん10月がつ8日にち掲載けいさい