「日本人にっぽんじん美術家びじゅつかのパリ　1878-1942」／「共和きょうわ国こくの美術びじゅつ」　別々べつべつの視点してんで論ろんじる芸術げいじゅつの首都しゅと　朝日新聞あさひしんぶん書評しょひょうから

評者ひょうしゃ：椹さわら木野この衣ころも／朝あさ⽇新聞しんぶん掲載けいさい：2023年ねん04月がつ22日にち

日本人にっぽんじん美術家びじゅつかのパリ１８７８−１９４２著者ちょしゃ：和田わだ　博文ひろぶみ出版しゅっぱん社しゃ：平凡社へいぼんしゃジャンル：芸術げいじゅつ・アート

ISBN: 9784582207293
発売はつばい⽇： 2023/02/10
サイズ: ２２ｃｍせんちめーとる／４２９ｐ

共和きょうわ国こくの美術びじゅつフランス美術びじゅつ史し編纂へんさんと保守ほしゅ／学芸がくげい員いんの時代じだい著者ちょしゃ：藤原ふじわら貞さだ朗ろう出版しゅっぱん社しゃ：名古屋大学出版会なごやだいがくしゅっぱんかいジャンル：芸術げいじゅつ・アート

ISBN: 9784815811105
発売はつばい⽇： 2023/02/03
サイズ: ２２ｃｍせんちめーとる／３５１，９１ｐ

「日本人にっぽんじん美術家びじゅつかのパリ　1878-1942」　［著ちょ］和田わだ博文ひろぶみ／「共和きょうわ国こくの美術びじゅつ」　藤原ふじわら貞さだ朗ろう

　明治めいじに入はいり文明ぶんめいの近代きんだい化かが急いそがれると、日本人にっぽんじんの美術家びじゅつかたちは競きそってパリを目指めざした。「巴里ぱり（パリ）は世界せかいの凡（あら）ゆる美術家びじゅつかにとつて必かならず一いち度どは訪おとずれなければならない芸術げいじゅつの首都しゅと」だった。なかでもラファエル・コランに学まなび後ごの洋画ようが界かいに君臨くんりんした黒田くろだ清輝きよてるの名なはひときわ高たかい。もっとも、特定とくていの美術家びじゅつかのパリ体験たいけんについては、これまでに多おおくの研究けんきゅうや展覧てんらん会かいがなされてきた。和田わだの著作ちょさくはそれらと違ちがい「日本人にっぽんじん美術家びじゅつかの総体そうたい」がどのようなものであったかについて、膨大ぼうだいな資料しりょうを読よみ解といて一いち冊さつにまとめる。だが、読よみ解とくだけではない。著者ちょしゃはかつておのおのの画家がかが暮くらした住所じゅうしょが見みつかると、実際じっさいにその場所ばしょを訪たずねている。文献ぶんけんの渉猟しょうりょうに留とめ（とど）まらない生いき生いきとした肉付にくづけがある。
　さらに、多おおくの美術家びじゅつかはパリを起点きてんにしつつ実じつに広ひろくヨーロッパを巡めぐっていた。パリはまぎれもなく「芸術げいじゅつの首都しゅと」であったけれども、ローマやフィレンツェは芸術げいじゅつの首都しゅとであるどころか、街まちそのものが芸術げいじゅつの規範きはんなのであった。この時代じだいの日本人にっぽんじんの美術家びじゅつかがルるーブル美術館ぶるびじゅつかんで名画めいがの模写もしゃに励はげんだのはよく知しられているが、イタリアやスペインを旅たびしてより根源こんげん的てきな衝撃しょうげきを受うけたのも彼かれらの実像じつぞうであった。それが手てに取とるようにわかるのも本書ほんしょの魅力みりょくだ。
　他方たほう、藤原ふじわらの著作ちょさくは同おなじ時代じだいにフランスで美術びじゅつをめぐってどのような動うごきがあったかについて別べつの視点してんから詳細しょうさいに論ろんずる。確たしかにパリに立派りっぱな美術館びじゅつかんはある。だが、人間にんげんを謳歌おうか（おうか）するルネサンスの芸術げいじゅつを生うみ出だしたのはレオナルドであり、ミケランジェロであった。スペインにはゴヤ、ベラスケスがいる。オランダにはレンブラント、フェルメールがいる。フランスはどうしても見劣みおとりがせざるをえない。真まっ先さきに名なが挙あがるのは、かつてそのような古典こてん的てきな規範きはんから「落選らくせん」した１９世紀せいきのマネやその後ごの印象派いんしょうはの画家がかたちだ。
　しかし、そこにこそ逆転ぎゃくてんの余地よちがある。フランスに他国たこくを凌駕りょうが（りょうが）する美術びじゅつ史しのしつらえを与あたえたのは、１９２０～３０年代ねんだいの共和きょうわ国下こくがで新あらたな美術びじゅつの管理かんり者しゃとなった「学芸がくげい員いん（コンセルヴァトゥール）」たちであった。かれら美術びじゅつの「保守ほしゅ派は（コンセルヴァトゥール）」は「自国じこくの美術びじゅつを顕彰けんしょう」することで、フランス中心ちゅうしんの「ナショナルな美術びじゅつ」を、直近ちょっきんの１９世紀せいきを頼たよりに大胆だいたんに編纂へんさん（へんさん）し直なおしてみせた。先進せんしん的てきな美術びじゅつを求もとめて海うみを渡わたりようやくパリにたどり着ついた日本人にっぽんじんの画家がかたちには、知しるよしもなかったことだろう。
　だが、もしかしたらそれは、国くにと文化ぶんかとを問とわず、やがてかれらがもれなく巻まき込こまれることになる戦争せんそうの最初さいしょの兆きざしだったかもしれない。
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わだ・ひろふみ　１９５４年ねん生うまれ。東京女子大とうきょうじょしだい特とく任にん教授きょうじゅ。著書ちょしょに『三越みつこし　誕生たんじょう！』『海うみの上うえの世界せかい地図ちず』など▽ふじはら・さだお　１９６７年ねん生うまれ。茨城大いばらきだい教授きょうじゅ。『オリエンタリストの憂鬱ゆううつ』でサントリー学芸がくげい賞しょうなど受賞じゅしょう。

椹さわら木野この衣ころも（さわらぎのい）美術びじゅつ評論ひょうろん家か・多摩美術大学たまびじゅつだいがく教授きょうじゅ

1962年ねん生うまれ。『日本にっぽん・現代げんだい・美術びじゅつ』『震ふるえ美術びじゅつ論ろん』など著書ちょしょ多数たすう。企画きかく・監修かんしゅうした展覧てんらん会かいに「日本にっぽんゼロ年ねん」展てん（水戸みと芸術げいじゅつ館かん）、「平成へいせい美術びじゅつ：うたかたと瓦礫がれき　１９８９―２０１９」展てん（京都きょうと市し京きょうセラ美術館びじゅつかん）など。2022年ねん10月がつより書評しょひょう委員いいん。