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「評伝 良寛」書評 日本思想の急所つく存在に挑む|好書好日
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評伝ひょうでん 良寛りょうかん書評しょひょう 日本にっぽん思想しそう急所きゅうしょつく存在そんざいいど

評者ひょうしゃ福嶋ふくしまあきらだいあさ新聞しんぶん掲載けいさい:2023ねん07がつ08にち
評伝ひょうでん良寛りょうかん わけへだてのないひら乞食こじきそうひと文化ぶんか探究たんきゅう 著者ちょしゃ阿部あべ 龍一りゅういち 出版しゅっぱんしゃミネルみねるァ書房ぁしょぼう ジャンル:伝記でんき

ISBN: 9784623094349
発売はつばい⽇: 2023/06/01
サイズ: 22cmせんちめーとる/555,12p

評伝ひょうでん 良寛りょうかん」 [ちょ阿部あべ龍一りゅういち

 良寛りょうかんさんとくと、手毬てまり(てまり)をついてどもとやさしくれる姿すがたおもかぶ。その一方いっぽうかれ詩歌しかは、水上みずかみつとむ吉本よしもと隆明たかあきらによって特異とくいな「思想しそう」としてがれ、その遺墨いぼく漱石そうせき北大路魯山人きたおおじろさんじんをも魅了みりょうした。良寛りょうかんとは宗教しゅうきょう文学ぶんがくしゃ書道しょどう、そのいずれにも回収かいしゅうしきれない多面体ためんたいであり、いわば日本にっぽん思想しそう急所きゅうしょをつく存在そんざいなのである。
 本書ほんしょはこの江戸えど時代じだい後期こうきそう生涯しょうがいをつまびらかにした画期的かっきてき評伝ひょうでんである。著者ちょしゃ良寛りょうかんの「やさしさ」をささえた強靱きょうじん(きょうじん)な宗教しゅうきょうてき意志いしあきらかにする。越後えちご名家めいかまれた良寛りょうかんは、当初とうしょ荻生おぎゅう(おぎゅう)徂徠そらい(そらい)系統けいとう経世けいせいまなべ、つまり政治せいじがく経済けいざいがくまなんだ。しかし、かれはエリートとして学問がくもんてるわりに、出家しゅっけえらび、日本にっぽん各地かくち放浪ほうろうしたのち乞食こじき(こつじき)そうとして帰郷ききょうしたのだ。
 これは常識じょうしきてきには挫折ざせつである。しかし、このをやつした「乞食こじきぎょう(ぎょう)」は、むしろ制度せいどてきにがんじがらめになった仏教ぶっきょう教団きょうだんからはなれて、本来ほんらいのブッダの精神せいしんもどることを意味いみした。民衆みんしゅうしょくいながら、かれらの葛藤かっとう共有きょうゆうし、やがてかれらに幸福こうふくをおかえしする「福田ふくだ(ふくでん)」としてのかた――それは、商業しょうぎょう主義しゅぎ批判ひはんし「く」ことをうったえた徂徠そらいかんがえを、ラディカルに実践じっせんすることでもあった。
 良寛りょうかん階級かいきゅう社会しゃかいした曹洞宗そうとうしゅう葬式そうしき仏教ぶっきょうにではなく、そのおおもとの道元どうげんの『正法しょうぼうぞう(しょうぼうげんぞう)』に回帰かいきした。さらに、都会とかいしょだんぞくさず、越後えちご民衆みんしゅうのためにしょのこした。形骸けいがいした制度せいどからるこの黒衣くろごの「からす」のようなかたが、まれ(まれ)にみる自在じざいさをかれしょあたえた。どもや女性じょせいとのへだてない交流こうりゅうふくめ、その仏教ぶっきょうしゃ本道ほんどうかえせいは、後世こうせい人間にんげんしずかにはげましつづけた。
 わたしかんがえでは、本書ほんしょ良寛りょうかんろん決定けっていばんというよりも、そのさい評価ひょうか口火くちび力作りきさくである。良寛りょうかんにはまだおおくの余白よはくがある。読者どくしゃはおせつ拝聴はいちょうという態度たいどでなく、著者ちょしゃ見解けんかいいどむつもりでむのがよいだろう。
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あべ・りゅういち べいド大どだい教授きょうじゅ仏教ぶっきょうがく日本にっぽん思想しそう研究けんきゅうせんもん密教みっきょう仏教ぶっきょう文学ぶんがく美術びじゅつ

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