お話 はなし を聞 き いた⼈
Weird the art(ウィルド・ザ・アート)
1997年 ねん 、東京 とうきょう 生 う まれのラッパー。4MC2DJスタイルのヒップホップクルー・Flat Line Classicsのメンバー。2024年 ねん 2月 がつ に最新 さいしん EP「Backstage」を発表 はっぴょう した。
村上 むらかみ 春樹 はるき はノンバーバルな状況 じょうきょう を言語 げんご 化 か してる
――読書 どくしょ はしますか?
有名 ゆうめい なアーティストさんが紹介 しょうかい してる本 ほん とか、あとたまに本屋 ほんや さんに行 い ってタイトル買 か いして、帰 かえ りにそのまま読 よ むみたいなことが多 おお いですね。
――本屋 ほんや さんに行 い くと予想 よそう 外 がい の出会 であ いがありますよね。
そうですね。活字 かつじ が読 よ みたい時 とき は小説 しょうせつ や新書 しんしょ の棚 たな を見 み ますし、たまに神保 じんぼう 町 まち に行 い ってアートブックを扱 あつか う古書 こしょ 店 てん で画集 がしゅう を探 さが したりもします。空山 そらやま 基 はじめ さんの画集 がしゅう とか、レン・ハンという中国 ちゅうごく の写真 しゃしん 家 か がすごく好 す きです。
――レン・ハンさんはどんな作風 さくふう のフォトグラファーなんですか?
2017年 ねん に亡 な くなられてしまったんですが、中国 ちゅうごく って性的 せいてき な表現 ひょうげん への規制 きせい が厳 きび しいんですが、レン・ハンはよくヌードを撮 と ってました。でも世界 せかい 観 かん がやばくて。見 み た瞬間 しゅんかん にファンになりました。
――では今回 こんかい はどんな本 ほん を持 も ってきていただいたのでしょうか?
村上 むらかみ 春樹 はるき さんの『カンガルー日和 びより 』(講談社 こうだんしゃ 文庫 ぶんこ )です。自分 じぶん はシリーズものとか、長 なが いストーリーの小説 しょうせつ が苦手 にがて なので短編 たんぺん を読 よ むことが多 おお いです。リリックを書 か いたり、メタファーを考 かんが えたりしてる時 とき に本 ほん を手 て に取 と ります。いろいろ読 よ んだんですけど、個人 こじん 的 てき にこれが一番 いちばん すごかったです。
――具体 ぐたい 的 てき に『カンガルー日和 びより 』のどういう面 めん をリリックの参考 さんこう にしたんですか?
言語 げんご 、比喩 ひゆ 、表現 ひょうげん 方法 ほうほう とか、自分 じぶん 的 てき にすべてが詰 つ まってると思 おも いました。僕 ぼく が特 とく に好 す きなのは「眠 ねむ い」という短編 たんぺん 。彼女 かのじょ と一緒 いっしょ に彼女 かのじょ の友達 ともだち の結婚式 けっこんしき に行 い ったけど、眠 ねむ くなるほど退屈 たいくつ だって話 はなし なんですよ。その中 なか で「僕 ぼく はナイフとフォークを手 て に取 と ってT字 じ 定規 じょうぎ で線 せん を引 ひ くようにゆっくりと肉 にく を切 き った」という文章 ぶんしょう があって。すぐ情景 じょうけい が頭 あたま に浮 う かぶじゃないですか。でもこういうノンバーバル(非 ひ 言語 げんご )な状況 じょうきょう を言語 げんご 化 か するのはすごく難 むずか しい。村上 むらかみ 春樹 はるき さんの短編 たんぺん はいろいろ読 よ んだけど、『カンガルー日和 びより 』が一番 いちばん 好 す きでしたね。
――「眠 ねむ い」以外 いがい にも気 き に入 い った短編 たんぺん はありましたか?
「とんがり焼 しょう の盛衰 せいすい 」かな。これ小学校 しょうがっこう の時 とき 、国語 こくご の教科書 きょうかしょ に載 の ってたんです。当時 とうじ パンチあるなあと記憶 きおく に残 のこ ってて、20代 だい 半 なか ばに『カンガルー日和 びより 』を読 よ んでたら再 ふたた び巡 めぐ りあったんですよ。「 また出 で てきたわ、この話 はなし 」みたいな(笑)。
――また巡 めぐ りあっちゃった(笑)。
久 ひさ しぶりに読 よ んだら、子供 こども の頃 ころ よりも内容 ないよう が理解 りかい できて結構 けっこう 嫌 いや な気持 きも ちになりました(笑)。お菓子 かし 会社 かいしゃ の説明 せつめい 会 かい に行 い く話 はなし なんです。簡単 かんたん にいうとこの短編 たんぺん が資本 しほん 主義 しゅぎ の搾取 さくしゅ 構造 こうぞう に対 たい する比喩 ひゆ なんです。
――村上 むらかみ 春樹 はるき の作品 さくひん は読 よ み終 お わった後 のち になんとも言 い えない気持 きも ちになることありますよね。
うまく飲 の み込 こ めない話 はなし が多 おお い。「あとは自分 じぶん で考 かんが えて」みたいな。本当 ほんとう にすごい文章 ぶんしょう だと思 おも いますね。
全体 ぜんたい 像 ぞう をつかむリスナーに浸透 しんとう したい
――ウィルドさんはどのようにリリックを書 か かれるんですか?
曲 きょく によりけりですけど、リリックはふだんから書 か き溜 た めているので、ビートを聴 き いてフローが浮 う かんだら、テーマやタイトルの題材 だいざい に当 あ てはめていくことが多 おお いです。でも言 い いたいことが先 さき にあって、ゴールからスタートに遡 さかのぼ っていくような書 か き方 かた もします。
――最新 さいしん 作 さく で特 とく に気 き に入 い ってるラインを教 おし えてください。
「Ourback$」の「ビーフリードCalorie高 たか めても味 あじ がないとバツ」ですね。自分 じぶん は結構 けっこう 難 むずか しいい回 いまわ しするんですけど、調 しら べてもらえれば意味 いみ はわかると思 おも います。
――なるほど。「Ourback$」のテーマは、高度 こうど 消費 しょうひ 社会 しゃかい への揶揄 やゆ という点 てん で「とんがり焼 しょう の盛衰 せいすい 」にもつながってるんですね。
直接的 ちょくせつてき にどうこうってわけではないんですけどね。村上 むらかみ 春樹 はるき さんの考 かんが え方 かた や方法 ほうほう 論 ろん を自分 じぶん なりに応用 おうよう してリリックに落 お とし込 こ みました。
――それこそ音楽 おんがく もサッと聴 き いて、パッとわかるものがより好 この まれる傾向 けいこう にありますしね。
はい。でも別 べつ に良 よ いか悪 わる いかではないです。ただ僕 ぼく はちゃんと曲 きょく を聴 き くリスナーは何 なん 周 しゅう も聴 き いてようやく全体 ぜんたい 像 ぞう を掴 つか みにいくと思 おも うんです。そういう人 ひと たちに(自分 じぶん の曲 きょく が)浸透 しんとう してったらいいなって思 おも いはありますね。
――音楽 おんがく 好 す きに浸透 しんとう するという意味 いみ では、今回 こんかい の取材 しゅざい でもお世話 せわ になったクラブ「恵比寿 えびす BATICA」でFlat Line Classicsのみなさんが開催 かいさい されている「Deep Drunkers」は音楽 おんがく 好 す きが集 あつ まるとても良 よ いパーティーですよね。年末 ねんまつ に初 はじ めて遊 あそ び行 い きましたが、排他 はいた 性 せい もなくピースフルな雰囲気 ふんいき に感動 かんどう しました。
それは嬉 うれ しいです。僕 ぼく らは見 み た目 め 怖 こわ いかもしれないけど、実際 じっさい に話 はな すと穏 おだ やかな人 ひと たちだと思 おも うんですよ(笑)。あのパーティーに来 き てくれる人 ひと たちはしっかり中身 なかみ を見 み て来 き てくださってる気 き がします。
――「Deep Drunkers」というパーティー名 めい どおり、演者 えんじゃ もお客 きゃく さんもものすごくお酒 さけ を飲 の むけど、別 べつ に強制 きょうせい されないし、暴力 ぼうりょく 性 せい もなくて。陽気 ようき な酔 よ っ払 ぱら いというか。
毎回 まいかい イエーガーマイスターが20本 ほん 以上 いじょう 空 そら になるんです(笑)。それだけ飲 の んだら、普通 ふつう は変 へん な感 かん じになっちゃう人 ひと とか出 で て来 く ると思 おも うんですよ。僕 ぼく ら自身 じしん はもちろんパーティーが荒 あ れないように意識 いしき してるけど、お客 きゃく さんもそこを感 かん じてくれてる気 き がしてて。みんなであのピースな雰囲気 ふんいき を作 つく り上 あ げてるんだと思 おも います。
「恐怖 きょうふ 」と「不安 ふあん 」の違 ちが いとは
――次 つぎ の本 ほん は新書 しんしょ ですね。
はい。『心 しん の免疫 めんえき 力 りょく 「先 さき の見 み えない不安 ふあん 」に立 た ち向 む かう』(PHP新書 しんしょ )という本 ほん です。1年 ねん くらい前 まえ に無性 むしょう に活字 かつじ を読 よ みたくなって家 いえ にある本 ほん を読 よ んでたんです。軽 かる い気持 きも ちで読 よ んでたけどすごいインスピレーション受 う けちゃって。この本 ほん がきっかけにソロアルバムを制作 せいさく しようと思 おも いました。
――どんな内容 ないよう なんですか?
自分 じぶん はもともと恐怖 きょうふ と不安 ふあん の違 ちが いに興味 きょうみ があって。恐怖 きょうふ は実態 じったい のあるものに抱 いだ く感情 かんじょう で、不安 ふあん は実態 じったい のないものに抱 いだ く感情 かんじょう なんですね。不安 ふあん は一番 いちばん 人 じん をネガティヴにさせると思 おも うんですよ。この本 ほん は実例 じつれい をあげながら、どうやって不安 ふあん に立 た ち向 む かっていくかが書 か かれています。
――ではソロアルバムもそこがテーマになってくるんですか?
そうですね。タイトルは「After Maniacs」になる予定 よてい です。“躁状態 じょうたい の後 のち ”をテーマに制作 せいさく しています。自分 じぶん は東京 とうきょう でしか暮 く らしたことがないからかもしれないけど、現代 げんだい 社会 しゃかい には欲 よく とエゴが渦巻 うずま いていると思 おも うんですよ。そういった実態 じったい のない不安 ふあん が自分 じぶん にのしかかってきた時 とき 、あなたはどう対処 たいしょ しますか?みたいなことを伝 つた えたい。僕 ぼく 自身 じしん はあんまし不安 ふあん に左右 さゆう されることはないんですけど、若 わか い子 こ が市販 しはん 薬 やく をOD(過剰 かじょう 投与 とうよ )してストレスを和 やわ らげてるみたいなニュースを見 み ちゃうと、思 おも うことがあって。
――SNSだけが原因 げんいん ではないと思 おも うけど、リアルな人間 にんげん 同士 どうし のつながりがどんどん薄 うす れてきてる気 き がします。思 おも うにSNSって結局 けっきょく 独 ひと りなんですよね。
うん。SNSって心 しん の距離 きょり は遠 とお い感覚 かんかく がありますよね。友達 ともだち と集 あつ まって遊 あそ ぶのとは違 ちが うというか。もしヒップホップが好 す きで孤独 こどく だったら「Deep Drunkers」に遊 あそ びにおいでって感 かん じです(笑)。
――めっちゃオープンマインドですもんね。
それはこのハコ(BATICA)のおかげもあると思 おも います。みんな「家 いえ 」だと思 おも ってる。荒 あ れる現場 げんば とか見 み たことないし。初 はじ めてFlat Line Classicsを見 み に来 き た人 ひと が自分 じぶん に話 はな しかけてくれて、そこから実際 じっさい に友達 ともだち になった人 ひと もいますからね。BATICAにはそういう雰囲気 ふんいき があるんですよね。
――ソロアルバムはそろそろリリース予定 よてい なんですか?
それがちょっと壁 かべ にぶち当 あ たってまして(笑)。なんかラップのフローとトラックのBPMが合 あ わなくて、トラックを取 と り替 か えたりしてたら1曲 きょく に2〜3カ月 かげつ ぐらいかかってしまい……。
――ラップのフローと、言 い いたいことと、BPMのバランスを取 と るのは難 むずか しい?
ヒップホップはリズムが重要 じゅうよう な音楽 おんがく ですからね。キー(声 こえ の波長 はちょう )がビートにあってるかとか。自分 じぶん 1人 にん のラップで頭 あたま からケツまでしっかり持 も たせないといけないってなると、いろいろ気 き になってきちゃって今 いま は難航 なんこう してます……。まあ楽 たの しみに待 ま ってください(笑)。
純粋 じゅんすい な熱 ねつ は持 も って活動 かつどう しています
――では最後 さいご に紹介 しょうかい していただけるのは?
小泉 こいずみ 綾子 あやこ さんの『無敵 むてき の犬 いぬ の夜 よる 』(河出書房新社 かわでしょぼうしんしゃ )という本 ほん です。スピード感 かん のある文章 ぶんしょう で、かつ読 よ みやすかったので1日 にち で読 よ めました。主人公 しゅじんこう は子供 こども の頃 ころ に事故 じこ で小指 こゆび と薬指 くすりゆび を失 うしな った北九州 きたきゅうしゅう の中学生 ちゅうがくせい です。虚無 きょむ 感 かん に覆 おお われた日々 ひび を暮 く らしていると地元 じもと でめっちゃかっこいい先輩 せんぱい と出会 であ うんですね。主人公 しゅじんこう はその人 ひと に心酔 しんすい して、先輩 せんぱい はビッグになるって言 い って東京 とうきょう に行 い くんです。でも「やらかし」ちゃって。主人公 しゅじんこう も後 ご を追 お うんですが……って話 はなし ですね。
――面白 おもしろ そう。
すごく面白 おもしろ かったです。オチは言 い いませんけど、主人公 しゅじんこう の好奇心 こうきしん が全部 ぜんぶ 空 そら 回 まわ っちゃうんです。思春期 ししゅんき の怖 こわ さっていうのかな。思春期 ししゅんき って怖 こわ いもの知 し らずだし、経験 けいけん の時期 じき でもあるじゃないですか。でもこの主人公 しゅじんこう は自分 じぶん ではなく先輩 せんぱい に注力 ちゅうりょく しちゃうというか。それで自分 じぶん が無敵 むてき になった気 き がしたんだろうなって。
――ピュアさという意味 いみ ではFlat Line Classicsにも通 つう じる本 ほん ですね。
方向 ほうこう 性 せい は全然 ぜんぜん 違 ちが いますけど(笑)。でもこの本 ほん にあるような純粋 じゅんすい な熱 ねつ は持 も って活動 かつどう しています。自分 じぶん たちは音楽 おんがく が好 す きってだけ。悪 わる い要素 ようそ が全然 ぜんぜん ない。ラップしてることも全部 ぜんぶ リアルだし。
――「Deep Drunkers」に行 い ったことで、そこがより明確 めいかく にわかった気 き がしました。
ありがとうございます(笑)。
――最後 さいご に今後 こんご の活動 かつどう の予定 よてい を教 おし えてください。
クルーとしては次 つぎ のアルバムの制作 せいさく に着手 ちゃくしゅ した段階 だんかい です。前作 ぜんさく よりもハードルをあげて、良 よ い意味 いみ で期待 きたい を裏切 うらぎ っていきます。自分 じぶん 個人 こじん としては、ソロアルバムをリリースすることですね。今年 ことし になってソロでもライブに呼 よ んでいただけるようになりましたし。ソロアルバムが落 お ち着 つ いたら、もっと新 あたら しいことにも着手 ちゃくしゅ していきたいと思 おも っています。
インタビューを音声 おんせい でも!
好 こう 書 しょ 好日 こうじつ 編集 へんしゅう 部 ぶ がお送 おく りするポッドキャスト「本 ほん 好 す きの昼休 ひるやす み 」では、Weird the artさんのインタビューを音声 おんせい でお聴 き きいただけます。Spotify ではFlat Line Classicsの音楽 おんがく も一緒 いっしょ にどうぞ。