本書の冒頭に、ダメな勉強法が列挙されている。「本・教科書を何度も読む」「要点をノートに書き出す」「重要だと思う文に下線を引く」などがその例だが、著者の安川氏によると、これらの勉強法の効果が薄いことは既に科学的に立証されているという。
ここまで読んで評者は思わず天を仰いだ。それ、全部やってたよ、と。否、私一人に限るまい。それが効果の薄い勉強法であるとはつゆ知らず、今述べたようなやり方で勉強したつもりになっていた人は、少なくないのではなかろうか?
ではどのような勉強法が真に効果的なのか。安川氏がまず勧めるのは「アクティブリコール」という方法だ。一度脳ミソに刻み込んだ情報を意図的に思い出すことで記憶を定着させるというものだが、これによって学習効果は飛躍的に高まるらしい。その他、勉強時間の間隔をあける「分散学習」や、学んだことを自分自身に説明してみる「自己説明」といった方法も、その有効性は科学的に立証されているのだとか。
安川氏は慶応義塾大学医学部のご出身だが、これらの勉強法を巧みに組み合わせた結果、アメリカ合衆国の医師国家試験に上位1%以内という好成績で合格されたとのこと。「最高の勉強法」の効果は著者自身の快進撃によっても検証済みであり、今、資格試験などにチャレンジしている人が本書から学ぶことは多いだろう。
かく言う私も本書を読んで、なんだかすっかり頭が良くなったような気がしてきたのだが、これは優れた自己啓発本特有の落とし穴。立派な業績を上げられている著者とは異なり、我々読者はまだ何も達成していない。重要なのは、「最高の勉強法」を手に入れた我々が、いかにこのノウハウを実地に応用するか、なのだ。=朝日新聞2024年7月13日掲載
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KADOKAWA・1760円。2月刊。6刷8万4千部。「ユーチューブで約300万回再生された動画の書籍化。『科学的根拠』という信頼が、フェイクニュースや情報過多の今、読者に響いたのでは」と担当編集者。