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絶海の孤島へ なかなか行けない地、読んで旅気分 鳥飼否宇|好書好日
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絶海ぜっかい孤島ことうへ なかなかけないんでたび気分きぶん 鳥飼とりかい

奄美あまみ大島おおしま渓流けいりゅう沿ってかさのようにしげるヒカゲヘゴ。ゆたかなもり希少きしょう生物せいぶつをはぐぐむ=2016ねん10がつ

 奄美あまみ大島おおしま移住いじゅうして四半世紀しはんせいきちかくがつ。きな野鳥やちょう調査ちょうさかたわ紙上しじょう人殺ひとごろしをおこなっているが、なつ執筆しっぴつよりも海鳥うみどり調査ちょうさ優先ゆうせんしている。海鳥うみどりおおくが繁殖はんしょくしているのはしま、それもひとがあまりおとずれない絶海ぜっかい孤島ことう中心ちゅうしんとなる。一般いっぱんひとはそんな場所ばしょにはなかなか機会きかいがないかもしれないが、むだけでしまったになるほんをいくつか紹介しょうかいしてみたい。

ジョン万次郎じょんまんじろう

 最初さいしょは『漂流ひょうりゅうしま 江戸えど時代じだい鳥島とりしま漂流ひょうりゅうみんたちを』(髙橋大輔だいすけちょくさおもえしゃ・1980えん)。東京とうきょうやく600キロみなみかぶ火山かざんとうとりとうは、アホウドリの繁殖はんしょくとしてられている。一時いちじ絶滅ぜつめつ危機ききひん(ひん)したこのとりも、現在げんざいくに保護ほご政策せいさくによって個体こたいすう回復かいふくさせつつある。保護ほご活動かつどうかかわっている知人ちじんによると、みずすらもない無人島むじんとうなので、船着ふなつから食料しょくりょう装備そうび荷揚にあげするだけでまるにちかかるそうだ。わたし無理むりだな。

 鳥島とりしまにはかの有名ゆうめいジョン万次郎じょんまんじろう漂着ひょうちゃくしており、アメリカの捕鯨ほげいせん救出きゅうしゅつされている。それ以前いぜんにもこのしまながいた人々ひとびとなんくみかいて、本書ほんしょではそれらの漂流ひょうりゅうみん足跡あしあとあきらかにされている。

 著者ちょしゃはロビンソン・クルーソーのモデルとなった実在じつざい人物じんぶつ住居じゅうきょあと発見はっけんしたこともある探検たんけん。そんな著者ちょしゃ鳥島とつしま上陸じょうりくし、漂流ひょうりゅうみんがどのような生活せいかついとなんでいたのかを、痕跡こんせきからあきらかにしていく過程かてい興味深きょうみぶかい。迫真はくしんのドキュメンタリー作品さくひんだ。

 つづいて紹介しょうかいするほんは、奄美あまみ大島おおしま舞台ぶたいの『奄美あまみでハブを40ねん研究けんきゅうしてきました。』(服部はっとり正策しょうさくちょ新潮社しんちょうしゃ・1760えん)。わたしらす奄美あまみ大島おおしま前出ぜんしゅつとりとうとはちがい、6まんにんじゃく有人ゆうじんとうだ。毎日まいにち鹿児島かごしま那覇なはから大型おおがたフェリーがくし、鹿児島かごしま以外いがいにも東京とうきょう大阪おおさか福岡ふくおかなどの大都市だいとしとのあいだ旅客機りょかくき運航うんこうしている。「絶海ぜっかい孤島ことうかんとぼしいが、それでも琉球りゅうきゅう列島れっとう随一ずいいち規模きぼほこだい森林しんりんたりにすれば、気軽きがるあしれるせるはず。このもりには高密度こうみつど守護神しゅごじんのハブが生息せいそくしているのだから。

ハブにったら

 著者ちょしゃ奄美あまみにある東大とうだい研究けんきゅう施設しせつで40ねんながきにわたってこの毒蛇どくへび研究けんきゅうしてきた第一人者だいいちにんしゃだ。ハブにかまれたらまず血清けっせいを、というはなしをよくくが、本書ほんしょにもかれているようにそれは誤解ごかい現在げんざいでは血清けっせいなど使つかわず、患部かんぶ切開せっかいしてどくすのが一番いちばんとされている。どくまわって筋肉きんにくかされるのはやめすぎるが、切開せっかい手術しゅじゅつけずおとらずいたい。ハブにかまれてしまったら、いずれにしろ激痛げきつう覚悟かくごしなければならない。

 ハブに遭遇そうぐうしないのが一番いちばんだが、ヤツらはもりばかりか集落しゅうらく農耕のうこうにもいる。では、遭遇そうぐうしたときにはどうすべきか? これからさき本書ほんしょんで対策たいさくかんがえてほしい。ハブにかんするうんちくばかりではなく、自然しぜん文化ぶんかんだ記述きじゅつたのしく、奄美あまみのガイドにぴったりのいちさつ

 最後さいご沖縄おきなわけん西表いりおもてとう台湾たいわんあいだかぶ国境こっきょう孤島ことう与那国島よなぐにじまをモデルにした小説しょうせつ彼岸花ひがんばなしま』(ことほう〈りことみ〉ちょ文春ぶんしゅん文庫ぶんこ・792えん)。台湾たいわんまれの著者ちょしゃほんさくだい165かい芥川賞あくたがわしょう受賞じゅしょうした。

 日本にっぽんとも台湾たいわんともことなる架空かくう言語げんごはなされ、琉球りゅうきゅう王朝おうちょう由来ゆらい女性じょせい祭司さいしノロがべるしまながいた少女しょうじょ記憶きおくうしなっていた。自分じぶんんでいたくに記憶きおく断片だんぺんと、そのしまいきづく文化ぶんか風習ふうしゅうとのあいだにかすかな違和感いわかんいだきながらも、少女しょうじょたすけてくれた友人ゆうじんとともにしまでノロとしてきていく決心けっしんをする。

 小国おぐに寡民をえがいたようなそのしま理想郷りそうきょうなのか、それとも大国たいこく翻弄ほんろう(ほんろう)される傀儡かいらい(かいらい)国家こっかなのか。著者ちょしゃ出自しゅつじかんがわせてむと、昨今さっこん話題わだい台湾たいわん有事ゆうじあたまをよぎる。一度いちどかれた国境こっきょうせんるのは至難しなんわざだ。国家こっかかかえるむずかしさにづかされた。=朝日新聞あさひしんぶん2024ねん7がつ13にち掲載けいさい

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