メキシコ由来ゆらいの日本にっぽんのタコスをバンコクで食たべてもらう。ややこしくも楽たのしい海外かいがいチャレンジの顛末てんまつ

東京とうきょうは中延なかのぶから海うみを越こえてバンコクへ。なぜ市内しないにタコス屋やが少すくないのか

タコスとそうざいの店みせ〈みよし屋や〉をスタートさせておよそ1年ねん。唐突とうとつだが、タイ・バンコクでのポップアップストアの出店しゅってんが決きまった。いや、誰だれに招待しょうたいされるわけでもなく海うみを渡わたるのだから「決きめた」が正ただしいだろう。いま、バンコクがすごいよ、パワフルで面白おもしろいよ。ここ数すう年ねん、よく耳みみにしてきたセリフ。

その喧騒けんそうはどんなものなのだろう。最後さいごにタイを訪おとずれたのは20年ねんほど前まえのことだから、自分じぶんの目めでいまの街まちの様子ようすを見みて、「すごい」を体感たいかんしたかった。どうせなら、タコスを携たずさえて渡航とこうしてみたらより面白おもしろいのではないか。そう思おもい、タイのカルチャーを紹介しょうかいする書籍しょせき『New New Thailand』を著あらわした、編集へんしゅう者しゃの竹村たけむら卓たくさんに声こえをかけた。彼かれとの打うち合あわせから間あいだもなく、僕ぼくたちはバンコク・タコス旅たびを決きめた。

まずは2024年ねん3月がつ。卓たくさんの友人ゆうじんたちへの挨拶あいさつとリサーチを兼かねて5日間にちかん滞在たいざいすることにした。卓たくさんと、店みせのレシピを考かんがえてもらっているand recipeの山田やまだ英えい季きさんとの3人にんでの旅たび。まず会あったのはバンコクを中心ちゅうしんにタイ国内こくないに30店舗てんぽ以上いじょうを展開てんかいするカフェ〈CASA LAPIN〉の珈琲こーひー豆まめの焙あぶ煎せんじ家かであるタンタと、CEOのジェイだ。

卓たくさんが事前じぜんに話はなしをしてくれていたから展開てんかいはスムーズだ。彼かれらのカフェでのポップアップに加くわえて、〈エムスフィア〉という大型おおがたショッピングモールで4月がつに行おこなわれるコーヒーとスピリッツのイベントのフード部門ぶもんでの出店しゅってんを提案ていあんしてくれた。もちろん、二ふたつ返事へんじで「YES」だ。

せっかくだから、タンタとジェイにタコスを食たべてもらうことにした。日本にっぽんから試食ししょくのための用意よういをしてきたのだ。作つくるのは、豚肉ぶたにくを使つかったカルニータスと、夏なつ野菜やさいを中心ちゅうしんとしたベジタブルミックスの2種しゅ。山田やまださんに料理りょうりをしてもらっている間あいだ、僕ぼくはふたりにずっと気きになっていたことを聞きいてみる。

「タコスで使つかう食材しょくざいって、タイ料理りょうりの材料ざいりょうとも似にているけど、どうして市内しないにタコス屋やが少すくないの？」という質問しつもんへの回答かいとうは至いたってシンプル。「タコスっていうカルチャーを知しらないだけさ」。ただ、タンタとジェイは海外かいがい渡航とこうする機会きかいが多おおいこともあって、もちろんタコスは知しっていた。

できあがったばかりのタコスを2ピースずつおそるおそる彼かれらの前まえに出だすと、若干じゃっかんややこしい“メキシコ由来ゆらいの日本にっぽんのタコス”を勢いきおいよく頬張ほおばってくれた。飲のみ込こむと同時どうじに立たてた親指おやゆびに安堵あんどしたのを覚おぼえている。ジェイに至いたってはおかわりを2回かいも。

さらに〈CASA LAPIN〉にいたスタッフたちにも食たべてもらうことにしたのだけど、バンコクもしくはタイの地方ちほうで生うまれ育そだった彼かれらには、添そえてあるライムの使つかい方かたやタコスをどうやって食たべるのか分わからない様子ようすで、タンタの「タコスを知しらないだけさ」はさっそく実証じっしょうされたわけだ。

もうひとり、僕ぼくたちのタコスを食たべてもらった人ひとがいる。ミュージシャンのパイラだ。彼女かのじょは長年ながねんロンドンで活動かつどうしていて、最近さいきんバンコクに戻もどってきた。海外かいがい居住きょじゅうをしていたうえに、食たべることが趣味しゅみだと話はなす彼女かのじょにとって、タコスは馴染なじみのあるメニューのひとつ。

2ピースを口くちにしてから彼女かのじょは実じつに正直しょうじきに感想かんそうを述のべてくれた。「カルニータスはおいしい。でももっと味あじが濃こくていいかもしれない。ベジタブルミックスはとにかく味あじが薄うすいからバンコクの人ひとたちには理解りかいされないかも。私わたしは日本にっぽん食しょくの繊細せんさいな感かんじが好すきだけど、ここで評価ひょうかされるためにはもっと強つよい味あじのタコスにしたほうがいいと思おもう」と。

そしてパイラは料理りょうりを担当たんとうする山田やまださんにひと言こと告つげて試食ししょくの場所ばしょを後のちにした。「もっとエモーショナルなタコスが食たべたい。あなたのアングリータコス、それが食たべたいの」。もちろん、このセリフが山田やまださんの料理りょうり魂たましいに火ひをつけたことは言いうまでもない。そして、同時どうじに彼かれはパイラのファンになった。

「エモーショナルなタコス」への回答かいとうとは。直前ちょくぜんのバタバタ劇げきの末すえに迎むかえた本番ほんばん当日とうじつ

挨拶あいさつとリサーチを終おえ帰国きこく後ご、僕ぼくたちはミーティングをした。パイラのアドバイスはもちろん、滞在たいざい中ちゅうにタイ料理りょうりを食たべ続つづけた結果けっか、“着火ちゃっか”した山田やまださんが出だした答こたえは五味ごみをより強つよく際立きわだたせること。そして、タイの人ひとたちがよく食たべる食材しょくざいのひとつ、シュリンプをベジタブルミックスの代かわりに提供ていきょうすること。

そのためにレシピのブラッシュアップをしてもらうことにした。同時どうじに卓たくさんと画策かくさくしたのは〈CASA LAPIN〉でパーティー。知しられなくては意味いみがない。黙だまっていてもその機会きかいはないのだから、より多おおくの人ひとたちに来きてもらおうと〈CASA LAPIN〉でのパーティーを企画きかくすることにしたのだ。タンタやジェイはもちろん、〈co-incidence.process.coffee〉を営いとなむサンドたちの力ちからを借かりて集客しゅうきゃくしてもらおうと考かんがえた。

できる限かぎりの準備じゅんびをして迎むかえた4月がつ末日まつじつ。卓たくさん、山田やまださん、僕ぼくの3人にんに加くわえて、舌しただけではなく目めでも楽たのしんでもらうためにグラフィックデザインを手掛てがけるBob Foundationの朝倉あさくら洋美ひろみさん、〈みよし屋や〉店長てんちょうのショウを加くわえた5人にんでイベントに臨のぞんだ。タンタが普段ふだん使つかっている業者ぎょうしゃから食材しょくざいを仕入しいれたのだが、「パン粉ぱんこ」をオーダーしたのに「クルトン」だったり、パーティーには音楽おんがくが必要ひつようだと気きが付ついて急きゅうにDJを手配てはいしたり、支払しはらいのための両替りょうがえや電子でんし決済けっさいなどの問題もんだいに直面ちょくめんしたり、海外かいがいで新あたらしく何なにかをするってこういうことだと実感じっかんさせられることがたくさんあったが、仲間なかまたちの柔軟じゅうなんな対応たいおうのおかげで何なにとか難題なんだいを乗のり越こえて、イベント当日とうじつを迎むかえることができた。

〈エムスフィア〉での客足きゃくあしは思おもったよりもずっと少すくなかったけれど、〈CASA LAPIN〉でのパーティーには、100人にんを超こえる人ひとたちが来きてくれて、提供ていきょうしたタコスの数かずは200ピースを上回うわまわった。そこには、タンタやサンド、滞在たいざい中ちゅうにできた友人ゆうじんたちの顔かおがある。もちろん、パイラも。山田やまださんの出だした“アングリータコス”への答こたえは、彼女かのじょがとにかくたくさんの皿さらを自分じぶんの席せきに持もっていってくれたことに表あらわれていたと思おもう。

タコスを携たずさえて僕ぼくが体感たいかんしたバンコクは、噂うわさに違ちがわずパワフル。そしてやさしい。「こんなイベントまたやりたいよね」とメンバーと、氷こおりの入はいったビールを飲のんでいると機材きざいを置おいて帰かえってもいいと言いってくれる人ひとにも出会であった。スーツケース3つ分ぶんのポップアップ機材きざいは、バンコクにある。だから、また行いくしかない、よね。次回じかいは、ちょっと仲間なかまたちを増ふやして9月がつに再訪さいほうする予定よてい。コップンカップ、バンコク。また行いくよ。