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おいしい店は、札幌・狸小路の奥にある。案内人・岡本仁 | ブルータス| BRUTUS.jp

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おいしいみせは、札幌さっぽろたぬき小路こうじおくにある。案内あんないじん岡本おかもとひとし

ガニやウニをさがしている場合ばあいじゃない。札幌さっぽろでおいしい時間じかんごすには、まずらないといけないのがたぬき小路こうじの7丁目ちょうめと8丁目ちょうめだ。1873ねんからつづ商店しょうてんがいはずれには、いまの札幌さっぽろかんじられる名店めいてんがひしめいている。

Photo: Tetsuya Ito / Text&edit: Hitoshi Okamoto

ぼくはたぬきななたぬきはちにしか
かなくなった。

1980年代ねんだい中頃なかごろに3ねんほど札幌さっぽろんでいたので、記憶きおくとのこすわせからはなしはじめることをゆるしてほしい。たぬき小路こうじは、ぼくにとってあめれずに目的もくてきまでけるとおみちだった。ぼくがどものころいていた「たぬき小路こうじのうた」は3代目だいめのCMソングだったらしく、作詞さくしはなんと野坂のさかあきら如である。

ちなみに作曲さっきょくはいずみたくで、うた朝丘あさおか雪路ゆきじとボニー・ジャックス。かれらをっているひとがいまどのくらいいるかわからないけれど、かなりむかしはなしだということはこれでつたわるはずだ。毎日まいにちテレビからながれてきたので「1丁目ちょうめから8丁目ちょうめ、ぐるりときれいなアーケード」という歌詞かしはいまもあたまにこびりついている。

でも札幌さっぽろ在住ざいじゅう時代じだいはしからはしまであるくことはなかった。地下鉄ちかてつ大通おおどおりえきからポールタウンという地下街ちかがいはいり、たぬき小路こうじ4丁目ちょうめ地上ちじょうて、アーケードを4丁目ちょうめから6丁目ちょうめまで。6丁目ちょうめの〈焼肉やきにくていサム〉のさきにある〈たぬき小路こうじ市場いちば〉をとおけると、たぬき小路こうじ平行へいこうしたみなみ3じょうどおりる。そこをみぎがれば、すぐさき目的もくてき和田わだ珈琲こーひーてん〉があった。

それがぼくのルート。札幌さっぽろもうとおもった理由りゆうは、いつも素敵すてき音楽おんがくがかかっているこのみせ毎日まいにちきたかったからだった。

7丁目ちょうめには〈とみこう〉のラーメンがべたくなったときにしか、あしれたことがなかった。店主てんしゅわないきゃくをどやしつける(たいがいは行儀ぎょうぎわるきゃくのほうにがある)ことでも有名ゆうめいだったが、味噌みそラーメンのあじ札幌さっぽろいちだとおもっていた。

和田わだ珈琲こーひーてん〉が閉店へいてんしてすうねんってから、そこではたらいていたアツシくんが〈フレッシュエアー〉という中古ちゅうこレコードてんたぬき小路こうじ8丁目ちょうめひらいた。ぼくが鎌倉かまくらんでいたころだ。「たぬき小路こうじに8丁目ちょうめなんてあったっけ?」というのが、そのうわさきつけて最初さいしょ自分じぶんおもったことだ。

たぬき小路こうじを4丁目ちょうめあたりから西にしかってあるいていけばわかるけれど、7丁目ちょうめからきゅう雰囲気ふんいきわる。7丁目ちょうめのアーケードはふるく、照明しょうめい全体ぜんたいくらい。さらに8丁目ちょうめまですすむとそこにはもうアーケードすらない。『さっぽろたぬき小路こうじグラフィティー』(和田わだ由美ゆみちょ亜璃西ありすしゃ)によれば、たか負担ふたんきんについて店舗てんぽたない地主じぬし合意ごういられなかったため、当初とうしょから8丁目ちょうめにはアーケードがなかったそうだ。

たぬき小路こうじに8丁目ちょうめなんてあったっけというぼくの認識にんしきただしてくれたのは〈ゴーシェ〉である。2014ねん上川かみかわぐん東川ひがしがわまちにある〈ON THE TABLE〉という食堂しょくどうで、ポップアップ・イベントがあった。札幌さっぽろのフレンチ・レストラン〈パロンブ〉のシェフが東川ひがしがわ近郊きんこう食材しょくざい使つかった料理りょうりすという内容ないようで、〈パロンブ〉のことはらなかったけれど、そのよるべた料理りょうり鮮烈せんれつだった。
シェフの小鹿こじかさんとすこばなしをしたら、ちかいうちに独立どくりつして自分じぶんみせはじめるとう。それが〈ゴーシェ〉だ。

オープンしたときつけて、すぐにってみたのが2015ねん5がつ11にち日付ひづけまではっきりとおぼえているのではなく、自分じぶんふるいインスタグラムを見直みなおしただけなんだけど)。たぬき小路こうじ8丁目ちょうめ入口いりくちちかくにあるふるいビルの2かい。それがぼくの「たぬき小路こうじ7丁目ちょうめ、8丁目ちょうめがよい」の記念きねんすべきスタートだ。

このよるしてくれたワインが、とても印象いんしょうのこっている。岩見沢いわみざわつくられたものらしかったが、ぼくは自分じぶんまれ故郷こきょうちかくでワインがつくられていることをにわかにはしんじられなかった。北海道ほっかいどうワインのおいしさに目覚めざめ、〈ばんどおさけてん〉の存在そんざいおしえてもらったのもこのである。

いいてん存在そんざいるほどに
滞在たいざい日数にっすうえていく。

そのとき札幌さっぽろ滞在たいざいはわりと長期間ちょうきかんだったので、友人ゆうじんからくべき飲食いんしょくてん情報じょうほうをいくつかあつめておいた。「とにかくここだけは絶対ぜったいってください」という指示しじしたがい、翌日よくじつは〈GRIS〉を予約よやくして、そこで完全かんぜんにノックアウトされた。最初さいしょ自分じぶん歓迎かんげいされているのか、それとも歓迎かんげいされていないのかがれないほどクールな対応たいおうだった。

北海道 札幌 〈GRIS〉店内
居心地いごこちもよく、いまのたぬき7、たぬき8を象徴しょうちょうするような〈GRIS〉。しゅうまいからフリット、せいろごはん幅広はばひろく、野菜やさい中心ちゅうしん北海道ほっかいどう新鮮しんせん食材しょくざい使つかった料理りょうりとともに自然しぜん北海道ほっかいどうさんのワインをたのしめる。
北海道 札幌 〈GRIS〉和梨のサラダ
写真しゃしんは、シャインマスカットとなしのサラダ。¥1,320。紹介しょうかいするみせおおくは〈ばんどおさけてん〉からの仕入しいれで、おいしいワインには事欠ことかかない。

みせただよう凜とした空気くうきと、自分じぶん緊張きんちょうがそうかんじさせただけだということは、かいかさねるうちにわかってきた。いまやここにらない札幌さっぽろ滞在たいざいはありないとおもうようなファンだ。ファンだから店主てんしゅ小野おの夫妻ふさいのインスタグラムもフォローしている。

そうするとときどきみせ休日きゅうじつかれらが食事しょくじをするみせ料理りょうりなどがポストされる。自分じぶん大好だいすきなおいしいものをつくるひとたちがくのだから、それはミシュランのほしよりも価値かちのある情報じょうほうだろうとおもう。それでったのが〈ちゃがつとき〉と〈クネル〉だった。

すこしは言葉ことばわすなかになったので、あるとき、インスタでかけたあのみせのどんなところがいいのかをたずねたら「一緒いっしょきましょう」とってもらえた。〈GRIS〉の定休ていきゅう札幌さっぽろくことはけようというルールは、このわった。みせ休日きゅうじつけば、かれらのおりのみせ一緒いっしょ食事しょくじができるから。

ちゃがつとき〉は〈ゴーシェ〉とおなじビルの地下ちかにあり、〈クネル〉は〈GRIS〉のすぐさきにあった。〈アルコ〉も〈バール・メンタ〉も小野おの夫妻ふさいおしえてもらったみせである。いまいちばんの心配しんぱいは、こんなにいいてんってしまったら、〈GRIS〉に回数かいすうってしまうのではないかということだ。なのに、どうやらこのエリアにはまだまだいいてんがあるらしい。こうなったら札幌さっぽろくならば、いままで以上いじょう滞在たいざい日数にっすうながくするしかない。

そうそう、アツシくんのみせ〈フレッシュエアー〉は、いまたぬき小路こうじ7丁目ちょうめにあって、時間じかんがあればばんごはんのまえることにしている。そもそも札幌さっぽろばんごはんをべようとしておもかべるみせのほとんどが、たぬき小路こうじ7丁目ちょうめと8丁目ちょうめ界隈かいわい集中しゅうちゅうしているわけだから、〈フレッシュエアー〉で中古ちゅうこレコードをさがすことは、ってみればぼくのアペロのようなものなのである。

北海道 狸小路map
半径はんけい100mほどのエリアにおいしいみせがぎゅっとひしめきあっている。なんけんかはしごをするのがたぬき7、たぬき8のただしいまわりかた