流行りゅうこう写真しゃしん通信つうしん 第だい19回かい：遠藤えんどう文香あやかは「ヴィジョンを降おろして」ファッションとアートを横断おうだんする

「ヴィジョンが降おりてくるんです」と遠藤えんどう文香あやか（えんどう あやか）は自分じぶんの写真しゃしんについて語かたる。ストロボの光ひかりを浴あびて発光はっこうする動物どうぶつたち、不穏ふおんな雲くもや波なみ、まるでCGのように非ひ現実げんじつ的てきな輝かがやきを見みせる鉱石こうせき、遠藤えんどうがライティングや入念にゅうねんなレタッチを施ほどこして仕上しあげる写真しゃしんは、現実げんじつを撮とりながらもアナザーワールドを垣間見かいまみせる。

最近さいきんは『ヴォーグ・ジャパン』などでファッション写真しゃしんも精力せいりょく的てきに発表はっぴょうし、そこでも遠藤えんどうヴィジョンは強烈きょうれつな一貫いっかん性せいを示しめしている。

7月がつ19日にち〜8月がつ4日にちに六本木ろっぽんぎのギャラリー「Post-Fake」にて、中野なかの泰やすし輔と二人ふたりで組くんだユニット「Nihki」の展覧てんらん会かい「SPIRAL DANCE」展てんを行おこない、同時どうじに同名どうめい写真しゃしん集しゅうを出版しゅっぱんした遠藤えんどうは、この秋あきにロンドンに移住いじゅうする。アート領域りょういきからもファッション領域りょういきからも高たかい注目ちゅうもくを集あつめる彼女かのじょの次つぎなる展望てんぼうを伺うかがった。

実じつは遠藤えんどうは東京藝術大学とうきょうげいじゅつだいがく大学院だいがくいん卒そつという、写真しゃしん家かとしては珍めずらしい学歴がくれきの持もち主ぬしだ。

「絵えは小ちいさい時ときからうまかったので絵えの勉強べんきょうは頑張がんばって、東京藝術大学とうきょうげいじゅつだいがく大学院だいがくいん美術びじゅつ学部がくぶデザイン科かに入はいりました。でもデザインがやりたかったわけではないんです。デザイン科かが一番いちばんいろんなジャンルが勉強べんきょうできると聞きいてましたから、写真しゃしんも映像えいぞうも絵えも立体りったいも何なんでもやってみたかったからなんです。実じつはその中なかにデザインは入はいっていなかったんですが（笑）」

藝大げいだい在学ざいがく中ちゅうにデザインの仕事しごとにも関かかわるようになる。

「頑張がんばって作つくってもクライアントの指示しじで修正しゅうせいで崩くずされたりしますから、デザインはやっぱり表現ひょうげんではないなと。『卒業そつぎょうしてから毎日まいにちこんな作業さぎょうを続つづけていくのは無理むりだ』と」将来しょうらいに対たいして不安ふあんを抱だいた遠藤えんどうは写真しゃしんを撮とり続つづける。

「写真しゃしんは小ちいさい頃ころから撮とっていて、好すきだからこそ仕事しごとにしたくないなと、あくまで自分じぶんのために撮とってましたね。藝大げいだいの授業じゅぎょうの一環いっかんでアートディレクターの田中たなか義久よしひささんによるアートブック・フェアのサイン計画けいかくに参加さんかしたんです。田中たなかさんは写真しゃしん集しゅうのデザインを多おおく手てがけているので、写真しゃしんをまとめて見みせたら、『本ほんを作つくってあげる』と言いわれたんです。それからちゃんと写真しゃしんと向むき合あってみたいと思おもって休学きゅうがくしました。そういう時間じかんがあったからこそ、写真しゃしんの卒業そつぎょう制作せいさくができたんです」

大学院だいがくいんの卒業そつぎょう制作せいさく作品さくひんとして2021年ねんに発表はっぴょうした「Kamuy Mosir」は様々さまざまな偶然ぐうぜん——運うんも不運ふうんも——が重かさなり大おおきな注目ちゅうもくを集あつめる。

「制作せいさく開始かいしの時期じきが2020年ねんなので、コロナ禍かでどこにも行いけなくなり、人ひとにも会あえなくなり、鬱うつで死しにたい気持きもちが続つづいていました。部屋へやに閉とじ込こめられた超ちょう無力むりょくな自分じぶんが社会しゃかいの檻おりから出でられなくて、自分じぶんを家畜かちくと重かさね合あわせたんだと思おもいます。とにかく自然しぜんと動物どうぶつを撮とらなきゃと感かんじて、突然とつぜん北海道ほっかいどうに行いきました。その場所ばしょに導みちびかれたという感覚かんかくでしたね。

コロナ不ふ況きょうでデザインの仕事しごとが全すべてなくなって、卒業そつぎょう制作せいさくもお金かねもかかって、口座こうざの残高ざんだかが1万まん円えんを切きって、このままホームレスになっちゃうかもと思おもった時ときに、卒業そつぎょう制作せいさくの展示てんじ会かいに遠山とおやま正道せいどうさん（元もとスープストックトーキョー代表だいひょう取締役とりしまりやく／現げんチェーンミュージアム代表だいひょう取締役とりしまりやく）が会場かいじょうに来きて、私わたしの卒そつ制せいの作品さくひんを全部ぜんぶ買かってくれたんです」

その瞬間しゅんかんから遠藤えんどうのキャリアが急上昇きゅうじょうしょうする。

「その後ご、遠山とおやまさんが企画きかくをやったKITTE丸まるの内うちの私わたしの作品さくひん展てんに信しんじられないくらい人ひとが来きたんです。特とくにファッション関係かんけいの人ひとが。そこからファッション系けいの仕事しごとが来くるようになって、卒業そつぎょうしてからフリーでなんとか生いき延のびられています」

ファッション写真しゃしんを撮とるとは依頼いらいが来くるまで想像そうぞうもしなかったという。

「大学院だいがくいんの時ときに、グラフィックデザイナーの松下まつした計けい先生せんせいの紹介しょうかいで、ファッションデザイナーでcoconogaccoを主宰しゅさいする山縣やまがた良和よしかずさんと共同きょうどうプロジェクトをいくつかやりましたが、ファッションに詳くわしくはありませんでした。ファッション写真しゃしんを見みるのは大好だいすきで、ヴィヴィアン・サッセンとハーレー・ウィアーはかなり好すきで少すこし影響えいきょうも受うけていると思おもいます」

「SPIRAL DANCE」展てんでは、遠藤えんどうは再ふたたび自然しぜんのテーマに舞まい戻もどる。

「『SPIRAL DANCE』は、スターホークによって書かかれた本ほんのタイトル（※日本にっぽん版ばんタイトルは『聖せい魔女まじょ術じゅつ』国書刊行会こくしょかんこうかい）で、魔女まじょの儀式ぎしきの踊おどりの名前なまえです。その魔女まじょは自然しぜんと地球ちきゅうは神聖しんせいだと説といてます。今回こんかい、私わたしたちは題材だいざいを見みたままに撮とるというより、上うえからヴィジョンを降おろして作つくっていく感かんじでしたね」

「ヴィジョンを降おろす」というコンセプトが遠藤えんどうの中なかで中心ちゅうしん的てきな手法しゅほうとなっている。

「私わたしは撮とっているときに没入ぼつにゅうするんですよ。一種いっしゅのトランス状態じょうたいというか。撮影さつえい中ちゅうは時間じかんも音おととかも消きえて、自己じこも消きえて、世界せかいと一体いったいとなる感覚かんかくなんです。魔女まじょとかシャーマンはそういう状態じょうたいでヴィジョンを降おろすように、私わたしも写真しゃしん撮影さつえいに非ひ現実げんじつ的てきなものを見みているんです」

遠藤えんどうの作品さくひん集しゅう『Swaying Flowers』（roshin books）に寄稿きこうしている写真しゃしん研究けんきゅう者しゃで著書ちょしょ『アートとフェミニズムは誰だれのもの？』でも知しられる村上むらかみ由ゆかり鶴づるは遠藤えんどうの写真しゃしんをこう評ひょうする。

「遠藤えんどうさんの写真しゃしんの新あたらしさは実際じっさいにプリントを見みたときに写真しゃしん自体じたいが（比喩ひゆではなく）発光はっこうして見みえるところにあるのではないでしょうか。プリントなのに、ライトボックスに入はいっている写真しゃしんのようです。カメラと一体化いったいかして『自分じぶんにはこう見みえていた』というヴィジョンを降くだ霊れいの儀式ぎしきのようにイメージに降おろす作家さっか性せいと、発光はっこうするようなトーンがぴったり合致がっちしていると思おもいます」

遠藤えんどうはこれから新あたらしい表現ひょうげんを求もとめて、9月からロンドンに移住いじゅうするという。

「この手法しゅほうにとらわれている気きもするから、もうちょっといろいろやってみたい。絵えも再ふたたび描えがきたいと思おもっています。表現ひょうげんやメディウムの幅はばを広ひろげたい気持きもちがありますね。私わたしにとって、写真しゃしんも絵えも同おなじ創作そうさくするものだと思おもってます」

ロンドンに移うつり住すむ遠藤えんどう文香あやかにどのようなヴィジョンが降おりてくるのか。村上むらかみ由ゆかり鶴づるはこのように期待きたいする。

「現在げんざいの遠藤えんどうさんの写真しゃしんがもつトーンが徐々じょじょに変成へんせいしていくことや、あるいは全まったく新あたらしい色いろの美学びがくが発明はつめいされることにも期待きたいしています。どんなヴィジョンを見みせてくれるのか、楽たのしみです」

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