「いや、すこし迷ったのですが…」“カド番”をしのいだ藤井聡太叡王がはにかみながら答えたこと | 観る将棋、読む将棋

　藤井ふじい聡さとし太ふとし叡あきら王おうに同どう学年がくねんの伊藤いとう匠たくみ七なな段だんが挑いどむ第だい9期き叡あきら王おう戦せん五ご番ばん勝負しょうぶ第だい4局きょく。1勝しょう2敗はいで迎むかえた藤井ふじいにとっては、負まければタイトル失しつ冠かんむりという初はじめての“カド番かどばん”の一いち局きょくだ。

　中盤ちゅうばんの局面きょくめんでは、藤井ふじいが良よさそうでも、「角かく冠かんむり」ともいうべき伊藤いとう玉たまが意外いがいと粘ねばり強づよく、すぐには攻略こうりゃくできない。そこで藤井ふじいは角かくで歩ふを取とり、持もち歩ふを増ふやしたことに満足まんぞくしてすぐ角かくを引ひき、手てを渡わたしてペースダウンする。しからば伊藤いとうも右みぎ金きんをじっと上あがって桂かつら頭あたまを守まもるとともに、飛車ひしゃの横よこ利ききを通とおす。互たがいに手てを渡わたし合あう流ながれは、いかにも藤井ふじいらしく、伊藤いとうらしい。いいぞいいぞ、もっと盤上ばんじょうで主張しゅちょうしあえ。

　盤ばんの左右さゆうで駒こまがじりじりと位置いちを変かえる。やがて藤井ふじいが8筋すじで継つぎ歩ふ攻ぜめをすれば、伊藤いとうは9筋すじの歩ふを伸のばし、いよいよ攻せめ合あいだ。

初タイトルがかかる挑戦者・伊藤匠七段 — 初はつタイトルがかかる挑戦ちょうせん者しゃ・伊藤いとう匠たくみ七なな段だん

「えええー」藤井ふじいの評価ひょうか値ちの高たかさにみんな動揺どうよう

　伊藤いとうがついに▲9三さん歩ほ成なりと端はしを逆襲ぎゃくしゅうする。解説かいせつ会かいでは、8筋すじ下段げだんにいる藤井ふじいの飛車ひしゃ先さきを叩たたいてから歩ふを成なる手てを検討けんとうしていて、ここでも先手せんてを取とらないとはすごい胆力たんりょくだなと感心かんしんしていた。改あらためてここからと金きんを外はずす手順てじゅんを解説かいせつしはじめる。

　ところが藤井ふじいも藤井ふじいで、このと金きんを払はらわなかった！　佐々木ささきと門倉かどくらが思おもわず「えっ」とさけぶ。これでは飛車ひしゃが追おわれて使つかえなくなるではないか。なんのために8筋すじを継つぎ歩ふしたんだ。

「これは先手せんても元気げんきが出でてくるように見みえる」と、佐々木ささきと門倉かどくらが口くちを揃そろえて言いう。評価ひょうか値ちを見みないで解説かいせつしているので、AIの形勢けいせい判断はんだんはわからない状況じょうきょうだ。佐々木ささきが思おもわず客席きゃくせきに向むかって「評価ひょうか値ちはどうなっているんですか？」とたずねる。このへんは昔むかしの解説かいせつ会かいとは違ちがうところだし、佐々木ささきの大だいらかさが表おもてわれている。客席きゃくせきからは、むしろ藤井ふじい叡あきら王おうの評価ひょうか値ちが上あがっていると言いわれ、佐々木ささきも門倉かどくらも、ついでに私わたしも、思おもわず「えええー」と舞台ぶたい上じょうで叫さけんでしまった。みな動揺どうようが収おさまらないので、いったん休憩きゅうけいに入はいった。