アンジェラ・アキが語かたる、ミュージカル音楽おんがく作家さっかになったわけ【前編ぜんぺん】

アンジェラ・アキ　Angela Aki

徳島とくしま県けん出身しゅっしん。日本人にっぽんじんの父親ちちおやとイタリア系けいアメリカ人じんの母親ははおやを持もつ。2005年ねんにシングル「HOME」でメジャーデビュー。同どう曲きょくのほか、『第だい75回かいNHK全国ぜんこく学校がっこう音楽おんがくコンクール 中学生ちゅうがくせいの部ぶ』の課題かだい曲きょくとなった「手紙てがみ ～拝啓はいけい 十じゅう五ごの君きみへ～」など、多数たすうの代表だいひょう曲きょくを持もつ。2014年ねん、ミュージカル音楽おんがく作家さっかを目指めざして留学りゅうがくするため、無む期限きげん活動かつどう停止ていしを発表はっぴょう。2023年ねん11月、ミュージカル『この世界せかいの片隅かたすみに』の音楽おんがく担当たんとうとして日本にっぽんでの活動かつどう再開さいかいを発表はっぴょう。2024年ねん2月がつ、同どう作さくから自身じしんで歌唱かしょうした「この世界せかいのあちこちに」のリアレンジバージョンを配信はいしんリリース。同どう曲きょくを収録しゅうろくするアルバム『アンジェラ・アキsings「この世界せかいの片隅かたすみに」』が発売はつばい中ちゅう。ミュージカル『この世界せかいの片隅かたすみに』は5月30日にちまで東京とうきょう都と・日生劇場にっせいげきじょうで上演じょうえん後ご、北海道ほっかいどう、岩手いわて県けん、新潟にいがた県けん、愛知あいち県けん、長野ながの県けん、茨城いばらき県けん、大阪おおさか府ふ、広島ひろしま県けんを回まわり、7月がつ28日にちまでつづく。

記事きじの後編こうへんはこちら：アンジェラ・アキが語かたる、ミュージカル音楽おんがく作家さっかになったわけ【後編こうへん】

すべてを止とめてアメリカへ――その裏うらにあった揺ゆるぎない信念しんねん

2014年ねん8月がつ、日本武道館にほんぶどうかんで迎むかえた全国ぜんこくツアー『アンジェラ・アキ Concert Tour 2014 TAPESTRY OF SONGS -THE BEST OF ANGELA AKI』のファイナル公演こうえんをもって、シンガーソングライターとしての無む期限きげん活動かつどう停止ていしに入はいったアンジェラ・アキは、ミュージカル音楽おんがく作家さっかを目指めざして渡米とべいし、南みなみカリフォルニア大学だいがくに入学にゅうがくした。

アンジェラ・アキ武道館ぶどうかん2014 トレーラー映像えいぞう

彼女かのじょが渡米とべいを決断けつだんするきっかけは、友人ゆうじんであるカナダ生うまれの作家さっか、アンドリュー・デイビッドソンが2008年ねんに出版しゅっぱんし、世界中せかいじゅうで翻訳ほんやくされたベストセラー小説しょうせつ『ガーゴイル　転生てんせいする炎ほのおの愛あい』にあった。

「アーティスト活動かつどうを停止ていしする2年ねん前まえくらいに、彼かれがこの作品さくひんを一緒いっしょにミュージカル化かしようって声こえをかけてくれて。2年ねんくらいかけて作つくってたんですけど、ことごとく壁かべにぶち当あたって。自分じぶんの今いまの技量ぎりょうでは成なし遂とげられないなっていうのを痛感つうかんしました。

才能さいのうがあるとか、ないとかそういうことじゃない、単純たんじゅんにスキルの問題もんだいだったんですね。だから、これはまず、しっかりとした教育きょういくを受うけるためにも音大おんだいに入はいらないといけないなと思おもって。

そこで、日本にっぽんで活動かつどうしながら、日本にっぽんの音大おんだいに入にゅうろうかなというのも考かんがえたんですけど、自分じぶんが教室きょうしつにいることによって、場ばの空気くうきがおかしくなってしまったら、せっかく一生懸命いっしょうけんめいに頑張がんばろうとしている人ひとたちにも迷惑めいわくだし、これは自分じぶんのことを誰だれも知しらないところに行いって、一いちから学まなび直なおすしかないなと思おもったんです。

たまたま知しり合あいだったアメリカ人じんのプロデューサーが、ロサンゼルスの大学だいがくを勧すすめてくれて、そこで学まなぶことを決心けっしんしました。自分じぶんがやりたかったミュージカルの音楽おんがく作家さっかになるためには、いったんすべてを止とめて、学生がくせいになるしかなかったんですよね」

アンジェラ・アキ「HOME」Music Video

日本人にっぽんじんの父ちちとイタリア系けいアメリカ人じんの母ははの間あいだに生うまれたアンジェラ・アキは、2005年ねん9月がつに、幼少ようしょう期きを過すごした徳島とくしまへの思おもいを込こめた1stシングル「HOME」でメジャーデビュー。翌年よくねんには日本武道館にほんぶどうかんで史上しじょう初はつとなるピアノ弾ひき語がたりによる単独たんどくライブを開催かいさいし、同年どうねんの末すえには『NHK紅白こうはく歌合戦うたがっせん』にも出場しゅつじょうした。

2007年ねんに働はたらきながら歌手かしゅを目指めざしていたアメリカ・ワシントンD.C.での青春せいしゅん時代じだいの思おもいを詰つめ込こんだ5枚まい目めのシングル「サクラ色さくらいろ」がヒットし、2008年ねんには『NHK全国ぜんこく学校がっこう音楽おんがくコンクール 中学ちゅうがくの部ぶ』の課題かだい曲きょくとして書かき下おろした8枚まい目めのシングル「手紙てがみ ～拝啓はいけい 十じゅう五ごの君きみへ～」がロングセールスを記録きろく。今いまでも歌うたい継つがれる合唱がっしょうの定番ていばん曲きょくとなった。

アンジェラ・アキ　『手紙てがみ ～拝啓はいけい 十じゅう五ごの君きみへ～ 2014』

そんな順風じゅんぷう満まん帆ほな音楽おんがく活動かつどうのすべてをいったん止とめることに迷まよいはなかったのだろうか。

「いろんな葛藤かっとうがありました。自分じぶんのスタッフたちもいたし、音楽おんがくを通とおして同おなじ目線めせんでつながってるリスナーもたくさんいた。でも、自分じぶんの心情しんじょうを話はなしたら、みんなが自分じぶんの強つよい思おもいをわかってくれて、背中せなかを押おしてくれたんですね。それに、自分じぶんのなかでは、ミュージカル音楽おんがく作家さっかにならないといけないっていうか、私わたしはこれをやるために生うまれてきたのかもしれないというぐらいの強つよい信念しんねんがあったんです。

例たとえば、日本にっぽんでのファンクラブをキープしながら、1年ねんに1回かいライブをするために帰国きこくして、日本にっぽんでの活動かつどうをなんとなく継続けいぞくしながら勉強べんきょうするっていう、経済けいざい的てきに安全あんぜんな道みちもあったんだけど、そうじゃなくて、一いち回かいすべてを手放てばなすしかないと思おもったんです。すごく迷まよいましたけど、最後さいごは潔いさぎよく、中途半端ちゅうとはんぱにやるくらいならやらないほうが良よいし、やるなら全部ぜんぶで飛とび込こもう、と」

刺激しげきと充実じゅうじつ感かんに満みちたアメリカでの音大おんだい生せいの日々ひびを振ふり返かえる

アメリカの大学だいがくには2014 年ねん秋あきから2年間ねんかん通がよい、その後ごの3年間ねんかんは別べつの大学だいがくでもオンラインで受講じゅこう。計けい5年間ねんかんを勉強べんきょうに費ついやしたが、音大おんだい生せいとしての日々ひびを振ふり返かえる彼女かのじょの目めはキラキラと輝かがやいていて、満面まんめんの笑えみを湛たたえている。

「すっごく充実じゅうじつしてましたね。日本にっぽんで自分じぶんが何なにをやってたかを誰だれにもひと言ことも言いわずにいたんですけど、本当ほんとうに楽たのしくて。20歳さい年下とししたの子こたちとテスト勉強べんきょうを一緒いっしょにしたりとか、仲良なかよくなっていろんな話はなしをしたり。みんなでご飯はんに行いくと、『あ、みんなはまだ未成年みせいねんだからビールは飲のめないんだ』っていうような違和感いわかんはところどころであったんだけど（笑）。

“私わたしは音楽家おんがくかになるんだ”っていう、とってもピュアでフレッシュなエネルギーに囲かこまれて、自分じぶん自身じしんも遜色そんしょくのない真まっ直すぐなエネルギーとマッチしたんですね。ものすごく波長はちょうがあったし、みんなと同おなじバイブレーションのなかで2年間ねんかん過すごしてきた感かんじがあった。本当ほんとうに才能さいのうのある素晴すばらしい人ひとたちにも出会であえたし、とっても刺激しげき的てきな2年間ねんかんでしたね」

2016年ねんには、東京とうきょうディズニーシーの新しんミュージカルショウ『アウト・オブ・シャドウランド』の楽曲がっきょくの作詞さくしを依頼いらいされ、ブロードウェイミュージカル『ファン・ホーム』でトニー賞しょう5部門ぶもんを受賞じゅしょうし、ほかの作品さくひんでもグラミー賞しょう、ピューリッツァー賞しょうを受賞じゅしょうしている作曲さっきょく家か、ジェニーン・テソーリとの制作せいさくに挑いどんだ。

「アメリカで勉強べんきょうしているときにお話はなしをいただいたんですけど、ジェニーンはブロードウェイミュージカル界かいの作曲さっきょく家かのなかでトップ3に入はいるくらいすごい人ひとなんですよ。今いまでもあり得えないなと思おもうくらい、信しんじられないオファーで。

彼女かのじょとミュージカルを作つくることによって、彼女かのじょの脳のうみそのなかを1年間ねんかん、ほじくり回まわせました（笑）。本当ほんとうに、作品さくひんに関係かんけいない質問しつもんもいっぱいしたし、彼女かのじょが当時とうじまだ製作せいさく中ちゅうだった『ファン・ホーム』のオープニングナイトにも行おこなったし、その打うち上あげでも彼女かのじょたちと一緒いっしょに過すごさせてもらって。ブロードウェイのレベルを身近みぢかで知しることができた、本当ほんとうに貴重きちょうな体験たいけんでした」

日本にっぽんでの音楽おんがく活動かつどう再開さいかいには不安ふあんがあった

音楽おんがく大学だいがくの学生がくせいとして、刺激しげきにあふれた日々ひびを過すごすなかで、シンガーソングライターのアンジェラ・アキとして人気にんきを博はくした日本にっぽんでの日々ひびを思おもい起おこすことはなかったようだ。

「逆ぎゃくに、普通ふつうの人ひとになろうと思おもってたから、必要ひつよう以上いじょうにニュースなども見みずに、日本にっぽんの楽曲がっきょくにもほとんどふれずにいました。昨年さくねん、日本にっぽんでの活動かつどうを再開さいかいしようってなったときも、自分じぶんをもらってくれるレコード会社かいしゃ、どこかあるかな……って。10年ねんも日本にっぽんから離はなれてて、もう誰だれも自分じぶんの音楽おんがくを知しらんし、みたいな。

たまに田舎いなかの親戚しんせきから、『うちの子こどもが卒業そつぎょう式しきで“手紙てがみ”歌うたったよ』って連絡れんらくがくるんですよ。でも、それは徳島とくしまだから歌うたってくれてるのかな、徳島とくしま最高さいこうって思おもってました（笑）。本当ほんとうに、謙遜けんそんとかじゃなくて、全然ぜんぜん知しらなかったんです。

アンジェラ・アキ - 手紙てがみ ～拝啓はいけい 十じゅう五ごの君きみへ～ / THE FIRST TAKE

今年ことし、『THE FIRST TAKE』を撮とりにいったときに、スタッフの方々かたがたに、新曲しんきょくだけでなく、今いま15歳さいの中学生ちゅうがくせいの子こたちと『手紙てがみ ～拝啓はいけい 十じゅう五ごの君きみへ～』もやってくださいって言いわれたんです。でも、『今いまの中学生ちゅうがくせいは“手紙てがみ”を絶対ぜったい知しらんでしょ』って言いって。そこで初はじめて知しったんですよ。いやいや、今いまの中学生ちゅうがくせいも歌うたってるんですよ、これを、みたいな。

だって『手紙てがみ～拝啓はいけい 十じゅう五ごの君きみへ～』をリリースしたときに生うまれた人ひとたちじゃないですか。『今いまでも歌うたってくれてるの？』って。この1年ねんでいろんな発見はっけんがありましたね」

後編こうへんでは、ミュージカル音楽おんがく作家さっかとしての第一歩だいいっぽを踏ふみ出だした喜よろこびを語かたる。

後編こうへんにつづく

文ぶん・取材しゅざい：永堀ながほりアツオ