日本にっぽんはアフガニスタンからの難民なんみんにどう向むき合あってきたのか

2001年ねん９月がつ11日にち、米国べいこくで起おきた同時どうじ多発たはつテロから20年ねんが経たつ。当時とうじのジョージ・W・ブッシュ政権せいけんは、この事件じけんの首謀しゅぼう者しゃは国際こくさいテロ組織そしき「アルカイダ」の指導しどう者しゃオサマ・ビン・ラディン氏しと断定だんてい。容疑ようぎ者しゃらをアフガニスタンのタリバン政権せいけんがかくまっているとして「報復ほうふく攻撃こうげき」を開始かいしした。ビン・ラディン氏しは2011年ねん、パキスタン北部ほくぶの潜伏せんぷく先さきで米べい海軍かいぐん特殊とくしゅ部隊ぶたいに殺害さつがいされている。

ジョー・バイデン大統領だいとうりょうは今年ことし4月がつ、アフガニスタンからの米べい軍ぐんの撤退てったいを８月がつ末まつで完了かんりょうさせると発表はっぴょうしていた。タリバンが国くにを制圧せいあつする可能かのう性せいを問とわれ、バイデン氏しは「アフガニスタンには30万まん人にんの国軍こくぐんがいる」と、アフガニスタン政府せいふ軍ぐんには十分じゅうぶんな力ちからが備そなわっていることを強調きょうちょうしていた。その後ごもタリバンは各地かくちで支配しはい域いきを拡大かくだいし、８月がつ15日にち、ついに首都しゅとカブールを制圧せいあつした。

９月くがつ７日にち、アフガニスタン東部とうぶジャララバードを拠点きょてんとするNGO、「ユア・ボイス・オーガニゼーション（YVO）」代表だいひょうのサビルラ・メムラワルさんが取材しゅざいに応おうじてくれた。YVOでは女性じょせいたちの識字しきじ教育きょういくなどを支援しえんしてきたが、タリバンがNGOの活動かつどうに対たいしてどのような方針ほうしんをとるのか分わからず、全すべての活動かつどうが止とまっている。

「今後こんご、女性じょせいにどこまでの権利けんりが認みとめられるか分わかりません。この20年間ねんかん、女性じょせいたちは教育きょういくや仕事しごとを通とおして社会しゃかい進出しんしゅつするなど、権利けんりに対たいする意識いしきは変かわってきました。もう90年代ねんだいのアフガニスタンには戻もどれません」

NGO職員しょくいんとして活動かつどうすることで、どこまでのリスクが自身じしんに及およぶのかも不明瞭ふめいりょうだ。恐おそれを感かんじている間あいだにも、支援しえんを必要ひつようとする人々ひとびとは後ごを絶たたない。

「ずっと続つづく経済けいざいの低迷ていめいに、コロナがさらに重かさなり、人々ひとびとは疲弊ひへいしています。２日にち前まえにも生活せいかつに困窮こんきゅうした近隣きんりんの男性だんせいが相談そうだんに来きましたが、明日あした食たべるパンにも困こまっていると言いいます。彼かれは以前いぜんまで、国軍こくぐんの兵士へいしだったといいます」

日本にっぽん政府せいふは８月がつ末まつに自衛隊じえいたい機きを派遣はけんしたものの、退避たいひできたのは日本人にっぽんじん１人にんに留とまり、日本にっぽん大使館たいしかんの現地げんち職員しょくいんをはじめとした現地げんちスタッフは取とり残のこされたままだ。また、それ以前いぜんの問題もんだいとして、NGO職員しょくいんらには家族かぞくの帯同たいどうができないことが伝つたえられていたと報ほうじられている。サビルラさんはこう語かたる。「人間にんげんは一人ひとりで存在そんざいしているのではありません。家族かぞくを置おいて一人ひとりで避難ひなんするべきというのは、支援しえんではありません」。

そもそも日本にっぽん政府せいふは、アフガニスタンから逃のがれてきた人々ひとびとと、これまでどう向むき合あってきたのだろうか。米国べいこく同時どうじ多発たはつテロが起おきた直後ちょくごの2001年ねん10月がつ、日本にっぽんで難民なんみん申請しんせいをしていたアフガニスタン人じん９人にんが、突如とつじょ一斉いっせい摘発てきはつされ、即刻そっこく収容しゅうようされてしまうという事件じけんが起おきた。当時とうじ結成けっせいされたアフガン難民なんみん弁護べんご団だんの一人ひとりである児玉こだま晃一こういち弁護士べんごしは、その時ときのことを、こう振ふり返かえる。「当事とうじ者しゃたちの主張しゅちょうによると、アルカイダの幹部かんぶリストに載のっている人物じんぶつと、名前なまえが同おなじだからという理由りゆうで連つれて行いかれたようなのですが、事実無根じじつむこんでした。通常つうじょうの非ひ正規せいき滞在たいざい者しゃに行おこなわれる摘発てきはつと違ちがい、大だい人数にんずうの機動きどう隊たいが押おしかけてきたと聞きいています」。

こうした「言いいがかり」によって突如とつじょ自由じゆうを奪うばわれた９人にんは、解放かいほうを求もとめて提訴ていそする。約やく1ヵ月かげつ後ご、９人にんのうち５人にんは、東京とうきょう地裁ちさいの民事みんじ３部ぶで「難民なんみんである可能かのう性せいが高たかい」として解放かいほうが認みとめられた。当時とうじの裁判所さいばんしょの決定けっていは、５人にんを収容しゅうようしたことは「難民なんみんの移動いどうに対たいして、必要ひつような制限せいげん以外いがいの制限せいげんを課かしてはならない」と定さだめる難民なんみん条約じょうやく第だい31条じょう２項こうに反はんするとするとした、画期的かっきてきなものだった。ところが、東京とうきょう地裁ちさい民事みんじ２部ぶの決定けっていは、他たの４人にんの収容しゅうようを認みとめる真ま逆ぎゃくのものだった。

個別こべつ事情じじょうは異ことなるにしても、９人にんは同様どうようの書類しょるいを裁判所さいばんしょに提出ていしゅつしている。「４人にんには東京とうきょう入管にゅうかんに説明せつめいに行いきました。当然とうぜん“なぜ５人にんの解放かいほうが認みとめられて、自分じぶんたちの収容しゅうようは続つづくのか”と問とわれます。“裁判官さいばんかんが違ちがった以外いがいの理由りゆうがない”と伝つたえるしかありませんでした」。

その後ご、収容しゅうようが続つづく４人にんの中なかで、洗剤せんざいを飲のむなど自殺じさつを試こころみる者ものまでいたという。

一方いっぽう、解放かいほうされた５人にんは、「逃にげ隠かくれすることは何なにもない」と会見かいけんに臨のぞみ、窮状きゅうじょうを訴うったえた。ところが法務省ほうむしょうからは、「報復ほうふく」のような措置そちがなされる。当時とうじの入国にゅうこく管理かんり局きょくは、５人にんの銀行ぎんこう口座こうざの残高ざんだかなど、プライバシーで守まもられるべき情報じょうほうを記者きしゃ会見かいけんの場ばで晒さらしたのだ。難民なんみん認定にんていで重要じゅうようなのは、国くにに帰かえれば命いのちの危険きけんがあるのかどうかであり、口座こうざにどれほどの資金しきんがあるのかなどは、難民なんみん該当がいとう性せいとは何なんら関係かんけいのない情報じょうほうのはずだ。その後ご、追おい打うちをかけるように、５人にんの解放かいほうの決定けっていは、東京とうきょう高裁こうさいで覆くつがえされ、12月末まつに再ふたたび収容しゅうようされることとなった。

「彼かれらの再さい収容しゅうようには同行どうこうしました。きつかったですね。僕ぼくらは収容しゅうようされている人ひとを外そとに出だす仕事しごとをしているはずなのに、何なにをやっているんだろう、という気持きもちでした」

結局けっきょくその９人にんを含ふくめ、茨城いばらき県けん牛久うしく市しの東日本ひがしにっぽん入国にゅうこく管理かんりセンターに収容しゅうようされていたアフガニスタン出身しゅっしん者しゃは、2002年ねん４月がつ26日にちまでに全員ぜんいん解放かいほうされていった。「収容しゅうよう者しゃの間あいだで自殺じさつ未遂みすいなどがまた相次あいついで起おこり、血ちを吐はくなど体調たいちょう不良ふりょう者しゃもいたことから、入管にゅうかん当局とうきょくが方針ほうしん転換てんかんをしたようです」。い換いかえれば、そこまでの事態じたいが起おこらなければ、収容しゅうよう者しゃを解放かいほうしない、ということでもある。９人にんは解放かいほう後ごも難民なんみん認定にんていは受うけられず、彼かれらは日本にっぽんを離はなれていった。

児玉こだまさんは、最低限さいていげんの知識ちしきさえ持もたず難民なんみん申請しんせい者しゃにインタビューをする調査官ちょうさかんの問題もんだいも指摘してきする。アフガニスタン出身しゅっしん者しゃの難民なんみん不ふ認定にんてい処分しょぶんの取消とりけしを求もとめる裁判さいばんの中なかで行おこなわれた、2002年ねんの証人しょうにん尋問じんもんで、当時とうじの大阪おおさか入管にゅうかん難民なんみん調査官ちょうさかんの杜撰ずさんな姿勢しせいが浮うき彫ぼりになった。調査官ちょうさかんは、国連こくれんや法務省ほうむしょうから研修けんしゅうを受うけたことは一いち度どもないと答こたえ、国連こくれん難民なんみん高等こうとう弁務べんむ官かん事務所じむしょ（UNHCR）が作成さくせいした「難民なんみん認定にんてい基準きじゅんハンドブック」についても、見みたことがあるかどうか「覚おぼえていない」としている。さらに「当時とうじのアフガンの情勢じょうせいについてははっきりわからない」とし、その言葉ことばを裏付うらづけるように、タリバンのことを「タリバン族ぞく」と、民族みんぞくのように記しるしていたことが分わかっている。

当該とうがい調査官ちょうさかんは、出入国しゅつにゅうこく違反いはん調査ちょうさなどをする入国にゅうこく審査しんさ官かんの担当たんとうも兼かねていた。「日本にっぽんへの入国にゅうこく・滞在たいざいを認みとめるべきか」という判断はんだんと、「保護ほごされるべきか」という認定にんていは、本来ほんらい全まったく異ことなる専門せんもん性せいが必要ひつようなはずだ。こうして真ま逆ぎゃくともいえる役割やくわりを、同どう一いち機関きかんが担になう構造こうぞう的てきな問題もんだいは20年ねん経たった今いまも根本こんぽん的てきには変かわっていない。

８月がつ末まつ、アフガニスタンからの退避たいひにあたり、現地げんち人じんNGO関係かんけい者しゃなどが家族かぞくの帯同たいどうを認みとめられなかったことと、日本にっぽんが難民なんみんに対たいしてほぼ門戸もんこを閉とざしてきたことは、「共通きょうつうしたマインドのもとで起おこったこと」だと児玉こだまさんは語かたる。「家族かぞくを置おいて自分じぶんだけ、ということは中なか々できないでしょう。家族かぞくを持もち、生活せいかつをしている人間にんげんと認識にんしきしていないのではないかと思おもいます」。

今後こんご、現地げんちに取とり残のこされてしまった人々ひとびとや、アフガニスタンからの難民なんみん申請しんせい者しゃへの適切てきせつな対応たいおうが必要ひつようである一方いっぽう、難民なんみん認定にんていのあり方かたや入管にゅうかん行政ぎょうせいの根本こんぽんが変かわらなければ、また人権じんけん侵害しんがいや無む期限きげん収容しゅうように苦くるしむ人々ひとびとを生うみ出だしてしまうかもしれない。排他はいた的てきな現状げんじょうにしがみつくのではなく、人権じんけんという軸じくで、構造こうぞう的てきな問題もんだいに切きり込こめるかどうかが、改あらためて問とわれている。

（2021.９.10 ／ 写真しゃしん・文ぶん 安田やすだ菜さい津つ紀き）

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