三菱UFJだけが悪者か？「違法な顧客情報共有」が起きた大きな原因とはPhoto by Yoshihisa Wada
＊本ほん記事きじはきんざいOnlineからの転載てんさいです。

　金融きんゆう庁ちょうが6月がつ24日にちに業務ぎょうむ改善かいぜん命令めいれいの行政ぎょうせい処分しょぶんを発出はっしゅつした、三菱みつびしUFJフィナンシャル・グループ傘下さんかの銀行ぎんこうと証券しょうけん会社かいしゃのファイアウオール規制きせい違反いはんは、同庁どうちょうによる行いき過すぎた規制きせい緩和かんわにも大おおきな原因げんいんがある。本稿ほんこうでは、わが国くにの金融きんゆうグループにおける業ごう際ぎわ規制きせいの問題もんだい点てんを洗あらい出だして検証けんしょうする。

行政ぎょうせい処分しょぶん発出はっしゅつ時じの根拠こんきょ法令ほうれいの欠陥けっかん

　今回こんかいの行政ぎょうせい処分しょぶんでは、金融きんゆう商品しょうひん取引とりひき業ぎょう等とうに関かんする内閣ないかく府ふ令れい（以下いか、府ふ令れい）153条じょう1項こう7号ごうを根拠こんきょに、三菱みつびしUFJフィナンシャル・グループ（MUFG）傘下さんかの証券しょうけん会社かいしゃと銀行ぎんこうが、法人ほうじん顧客こきゃく情報じょうほうを顧客こきゃくの同意どういなく共有きょうゆうしたことが法令ほうれい違反いはんとされている。だが、行政ぎょうせい処分しょぶんの事由じゆうとしては適切てきせつとは言いい難がたい。府ふ令れい153条じょう2項こうでは、証券しょうけん会社かいしゃと銀行ぎんこうが法人ほうじん顧客こきゃく情報じょうほうを共有きょうゆうすることを顧客こきゃくに停止ていしできる機会きかいを設もうけていれば、同意どういしたものと見みなすと規定きていされており、これは一般いっぱんに「オプトアウト」と呼よばれているものである。つまり、銀行ぎんこうや証券しょうけん会社かいしゃは、法人ほうじん顧客こきゃく情報じょうほうを顧客こきゃくの同意どういなく共有きょうゆうすることが法令ほうれい上じょう認みとめられているということだ。

　オプトアウトの方法ほうほうについては、金融きんゆう庁ちょうは監督かんとく指針ししんで「オプトアウトの機会きかいの通知つうちは、契約けいやく締結ていけつ時じに書面しょめん等とうにより行おこなうなど、法人ほうじん顧客こきゃくがオプトアウトの機会きかいについて明確めいかくに認識にんしきできるような手段しゅだんを用もちいて行いっている」ことと例示れいじしている（注ちゅう1）。ただし、監督かんとく指針ししんは行政ぎょうせい法ほう上じょう、職員しょくいんに対たいする内部ないぶ通達つうたつにとどまり、外部がいぶ効果こうかや法ほう規範きはんはなんら有ゆうしていない。上場じょうじょう会社かいしゃ等とうに至いたっては、2022年ねんの規制きせい緩和かんわにより、銀行ぎんこう・証券しょうけん会社かいしゃがオプトアウトの手続てつづき等とうを自社じしゃウェブサイトに掲載けいさいするなどすれば、個別こべつの通知つうちすら必要ひつようがない（府ふ令れい153条じょう1項こう7号ごうヌ）。従したがって、優越ゆうえつ的てき地位ちいにある銀行ぎんこうに対たいして銀行ぎんこうとの取引とりひき継続けいぞくを危惧きぐする顧客こきゃくが情報じょうほう共有きょうゆうに反対はんたいする明確めいかくな意思いしをあえて表示ひょうじすることは難むずかしい。

　金融きんゆう庁ちょうが行政ぎょうせい処分しょぶんの根拠こんきょとした府ふ令れい153条じょう1項こう7号ごうの規定きていのみであれば、法令ほうれい上じょう、金融きんゆう商品しょうひん取引とりひき業者ぎょうしゃ等とうは、顧客こきゃくからの書面しょめんまたは電磁でんじ的てき記録きろくによる情報じょうほう共有きょうゆうの同意どういを求もとめられる（オプトイン）ため、優越ゆうえつ的てき地位ちいの濫用らんようの蓋然性がいぜんせいは軽減けいげんされる。だが、前述ぜんじゅつのとおり現行げんこう法ほうはオプトアウトの仕組しくみも同時どうじに規定きていしており、明あきらかな法令ほうれいの欠陥けっかんを抱かかえている。本来ほんらい、府ふ令れい153条じょうのように相反あいはんする内容ないようを項こうで分わけることはなく、同どうじ項こう内ないでただし書がきとして明記めいきすることが一般いっぱん的てきである。その点てんでも、現行げんこう法ほう上じょうのオプトインとオプトアウトの併記へいきの仕方しかたは、行政ぎょうせい庁ちょう職員しょくいんや金融きんゆう機関きかん役やく職員しょくいんに分わかりにくく、どちらにも都合つごうよく解釈かいしゃく・運用うんようされる余地よちが生しょうじてしまう。