コラム：シネマ映画えいが.comコラム - 第だい24回かい

2022年ねん12月16日にち更新こうしん

「さかなのこ」はワンダーを提供ていきょうしてくれる“すっギョいおはなし”　配信はいしん限定げんてい特典とくてんにも注目ちゅうもく

第だい24回かい目めとなる本ほんコラムでは、12月16日にちからプレミアム配信はいしんが開始かいしされる「さかなのこ」をピックアップして、見みどころなどを紹介しょうかいします。

【作品さくひん概要がいよう】

魚類ぎょるいに関かんする豊富ほうふな知識ちしきでタレントや学者がくしゃとしても活躍かつやくするさかなクンの半生はんせいを「監督かんとく：沖田おきた修一しゅういち×主演しゅえん：のん」のタッグで映画えいが化か。さかなクンの自叙伝じじょでん「さかなクンの一いち魚さかな一いち会かい　まいにち夢中むちゅうな人生じんせい！」をもとに、フィクションを織おり交まぜながらユーモアたっぷりに描えがき出だす。

【物語ものがたり】

小学生しょうがくせいのミー坊ぼうは魚さかなが大好だいすきで、寝ねても覚さめても魚さかなのことばかり考かんがえている。父親ちちおやは周囲しゅういの子こどもとは少すこし違ちがうことを心配しんぱいするが、母親ははおやはそんなミー坊ぼうを温あたたかく見守みまもり、背中せなかを押おし続つづけた。高校生こうこうせいになっても魚さかなに夢中むちゅうなミー坊ぼうは、町まちの不良ふりょうたちとも何故なぜか仲なかが良よい。やがてひとり暮くらしを始はじめたミー坊ぼうは、多おおくの出会であいや再会さいかいを経験けいけんしながら、ミー坊ぼうだけが進すすむことのできる道みちへ飛とび込こんでいく。

●のん以外いがいは考かんがえられない！　最高さいこうの配役はいやくとなった“さかなクンの分身ぶんしん”

お魚さかなへの大おおきな愛あいと膨大ぼうだいな知識ちしき、優やさしくユーモラスなキャラクター。老若男女ろうにゃくなんにょ問とわず愛あいされる“スター”さかなクンの半生はんせいを映画えいが化かする。企画きかくを知しった際さいの感想かんそうは「なんて無謀むぼうな企画きかく…！」。ところが、実際じっさいに作品さくひんを鑑賞かんしょうしてみると、その不安ふあんが杞憂きゆうだったことに気きづきました。いやいや、むしろ「2022年ねんの最愛さいあい映画えいが」の1本ほんに挙あげてしまうほど、大好だいすきな作品さくひんになってしまったんです。

大おおきな要因よういんのひとつは、主演しゅえん・のんさん（ミー坊ぼう役やく）の存在そんざい。沖田おきた監督かんとくは「子供こどもの頃ころから、ずっと変かわらずに好すきでいる。好すきが、人生じんせいを決きめていく。そんな強つよい気持きもちを、さかなクンの生いき方かたを元もとに、映画えいがにしたいと思おもいました。その純粋じゅんすいな役やくを、のんさんにお願ねがいしました。お二に人にんとも何なにかが似にていると思おもいました。何なにかは言葉ことばにできませんが…」とコメントを残のこしています。

女優じょゆう、映画えいが監督かんとく、創作そうさくあーちすと、ミュージシャン……。のんさんは、これまでずっと「自分じぶんが“好すき”なもの」と真まっ直すぐ向むき合あってきました。だからこそ、モノマネではなく、さかなクンの本質ほんしつをとらえた“分身ぶんしん役やく”が似合にあってしまうのではないでしょうか。男おとこなのか、女おんななのか、顔かおが似にているのか、似にていないのか――そんな疑問ぎもんがどうでもよくなる。「のん＝ミー坊ぼう」以外いがいの代案だいあんが考かんがえられない。それほどのハマリ役やくなんです。そして、その点てんを、演えんじる本人ほんにんがしっかりと認識にんしきしている点てんも重要じゅうようなポイントでしょう。

のん「『自分じぶん以外いがいにさかなクンを演えんじられる人ひとがいるのだろうか？』と考かんがえたこともありました。性別せいべつ問とわず思おもい浮うかべてみたんですが……やっぱり私わたしが一番いちばんしっくりくるなって思おもったんです。だからこそ『演えんじてみたい』と思おもいました」（映画えいが.comでのインタビュー抜粋ばっすい）

劇場げきじょう公開こうかい時じ、SNSに投稿とうこうされた感想かんそうを読よみ漁あさっていました。「のんが演えんじてくれてよかった」「のん以外いがいは考かんがえられない」。そんなコメントを見みつけるたびに「そうなんですよ……素晴すばらしいキャスティングなんですよ…！」と深ふかく頷うなずいていたのは言いうまでもありません。

●さかなクンが全面ぜんめん的てきに協力きょうりょく！　本人ほんにん演えんじる“ギョギョおじさん”が異色いしょくの存在そんざい感かん

さかなクンが“原作げんさく者しゃ”という立場たちばに留とまらず、全面ぜんめん的てきに協力きょうりょくしているという点てんも注目ちゅうもくすべきポイント。題字だいじの執筆しっぴつ、バスクラリネットの演奏えんそう（劇げき中ちゅう音楽おんがく）に加くわえて、魚類ぎょるいの監修かんしゅうも。2021年ねん初夏しょかに行おこなわれた撮影さつえいでは、魚さかなに移動いどうのストレスを与あたえないために、魚さかなが暮くらしている沼津ぬまづや館山たてやまに人間にんげんが移動いどうする“お魚さかなファースト”が徹底てっていされています。ちなみに、劇げき中ちゅうの学校がっこうシーンは、さかなクンの母校ぼこう！　さかなクンの人望じんぼうがあるからこそ実現じつげんしたシーンなんです。

そして忘わすれてならないのが、ミー坊ぼうの人生じんせいに大おおきな影響えいきょうを与あたえる“ギョギョおじさん”としての出演しゅつえん。のんさんは、この“ギョギョおじさん”のことを「本当ほんとうに素敵すてきな存在そんざい」と感かんじていたそう。

のん「子こどもにとっては、憧あこがれの大人おとな。ミー坊ぼうが憧あこがれる気持きもちもわかりました。その一方いっぽうで、親おや世代せだいが心配しんぱいしてしまう気持きもちもわかってしまうんです。でも、映画えいがを観みた人ひとは、誰だれもが『ギョギョおじさんは変へんな人ひとじゃない！』と思おもえるはずです。それに沖田おきた監督かんとくも“驚おどろきの演出えんしゅつ”もしちゃっていますよね……（笑）。これが成立せいりつするのは、さかなクンしかいないと思おもいました」（映画えいが.comでのインタビュー抜粋ばっすい）

映画えいがにおける「原作げんさく者しゃの出演しゅつえん」は取とり立たてて珍めずらしいものではありません。ところが“ギョギョおじさん”は物語ものがたりの行方ゆくえを左右さゆうする存在そんざい。「さかなクンの“影かげ”のような存在そんざい。もしも歯車はぐるまが1つズレていたら……」という発想はっそうで生うみ出だされた超ちょう重要じゅうような役やくになっているので、ぜひ注目ちゅうもくしてみてください。

（そういえば、私わたしが幼おさない頃ころにもいました“●●おじさん”。大人おとなからは奇異きいの視線しせんで見みられていて、子こどもからは面白おもしろ半分はんぶんで好すかれていて……いつの間まにかいなくなってしまいました。どこに行いったんだろう）

●「笑わらってなるものか」というハードルを飛とび越こえてきた　沖田おきた監督かんとく流りゅうのユーモア

沖田おきた作品さくひんに欠かかせないもの――それは「笑わらい」。本ほん作さくにもたっぷり詰つめ込こまれていますのでご安心あんしんを。例たとえば「さかなクンの一いち魚さかな一いち会かい　まいにち夢中むちゅうな人生じんせい！」に記しるされている「釣つりを通つうじて、不良ふりょうと仲良なかよくなる」というエピソードを大幅おおはばに膨ふくらませ、爆笑ばくしょう必至ひっしのシーンが多数たすう生うみ出だされています。

ミー坊ぼうと絆きずなを深ふかめる不良ふりょうの総長そうちょう役やくを演えんじた磯村いそむら勇いさむ斗とさんは、当時とうじの撮影さつえいについて、このように振ふり返かえっています。

磯村いそむら「不良ふりょうといっても“可愛かわいいおバカさんたち”という言葉ことばが似合にあうようなキャラクターたち。沖田おきたさんが描えがく世界せかいなので、不良ふりょうたちのシーンにも、どこかクスっと笑わらえるところがあるんです。そこでは沖田おきたさんに気きに入いられようと、同どう世代せだいの俳優はいゆうたちが自分じぶんの武器ぶきを出だして勝負しょうぶをしています。でも（武器ぶきが）無なくなってくると『次つぎはあれにするか…』『これは沖田おきたさんにハマるかな』と裏側うらがわでめちゃくちゃ話はなしていました。後半こうはんは大喜だいぎ利とぎ大会たいかいが始はじまっていましたね（笑）。良よいシーンにしたいというプレッシャーもあったので、僕ぼくらにとっては壮絶そうぜつな現場げんばでした」

磯村いそむらさんに加くわえ、柳やなぎ楽らく優ゆう弥わたるさん、岡山おかやま天てん音おんさん、前原まえはら滉ひろしさん、三河みかわ悠ゆう冴さえさん、奥秋おくあき達也たつやさんらが、それぞれの武器ぶきを駆使くしして臨のぞんだ”笑わらい撃げきの戦たたかい”は見逃みのがし厳禁げんきん。そのほかにも「ミー坊ぼうの父ちち役やく・三宅みやけ弘ひろし城じょうさん×立派りっぱなタコさん」「ミー坊ぼう役やく・のんさん×飼育しいく員いんの酒井さかい役やく・賀が屋や壮たけし也さん」といった組くみ合あわせが織おり成なすシーン、個人こじん的てきに大だいハマりしてしまった「ミー坊ぼう役やく・のんさん×“ワンダーを提供ていきょうしたい”歯医者はいしゃ役やく・豊原とよはら功補こうすけさん」の掛かけ合あいもプッシュしておきます。

ふと、本ほん作さくをマスコミ試写ししゃ会かいで鑑賞かんしょうした時ときのことを思おもい返かえしました。アクション、ホラー、スリラー、SF、ラブストーリー……となんでもござれな性分しょうぶんではありますが、例たとえば感動かんどう作さくでは「簡単かんたんに泣ないてたまるものか」と密ひそかにハードルをあげています。それはコメディも同様どうようで、基本きほん的てきには「ちょっとやそっとで笑わらってなるものか」という感かんじです。

「さかなのこ」は、そんなハードルをゆる～く、そして軽々かるがると飛とび越こえてきました。気きづいた時ときには、ぷっと噴ふき出だしている。同おなじ上映じょうえい回かいに参加さんかされていた方々かたがたが何なん度ども笑わらっていたことを、いまだに憶おぼえています。延々のびのびと浸ひたっていたくなるといえばいいんでしょうか……沖田おきたワールドは、居心地いごこちがいいんです。あの時とき、あの空間くうかんは、2022年ねんにおける“鑑賞かんしょう体験たいけんのベスト”でした。

●ミー坊ぼうだけはずっと変かわらない――“好すき”を大切たいせつにしたくなる物語ものがたり

では、ただ笑わらえるだけの作品さくひん？　いえ、そんなことはありません。お魚さかなが好すきで好すきでたまらないミー坊ぼう。お魚さかな博士はかせ（＝さかなクン）への道程どうていは順風じゅんぷう満まん帆ほなものかと思おもいきや、そう上手うまくはいかないんです。

“好すき”を追おい求もとめていくこと。子こどもの頃ころは、そこに向むかってがむしゃらに走はしり続つづけるだけでOK。しかし「大人おとな」という立たち位置いちに近ちかづくにつれ、さまざまな選択せんたくを迫せまってくる天秤てんびんが出現しゅつげんします。片側かたがわに乗のっているのは“好すき”という思おもい。もう一方いっぽうには、社会しゃかいの節目ふしめで生しょうじる出来事できごと。例たとえば「仕事しごと」「友人ゆうじんや親おやとの関係かんけい」「結婚けっこん」「家族かぞくを持もつこと」といったこと。

ミー坊ぼうの天秤てんびんにも、多おおくの重おもりが乗のっかってきます。そこをきちんと描えがいているのが、本ほん作さく最大さいだいの見みどころなのかもしれません。何故なぜなら「それでもミー坊ぼうは変かわらない」という点てんが際立きわだつから。周囲しゅういの人々ひとびとがどれほど変かわろうと、ミー坊ぼうだけはずっと変かわらない。沖田おきた監督かんとくは、こんな発言はつげんを残のこしています。

沖田おきた監督かんとく「俺おれ、手帳てちょうに1000円えんも払はらうのが腹立はらだたしくて、自分じぶんで作つくってみたらハマっちゃった時期じきがあるんです。あの頃ころは毎日まいにち手帳てちょうのことで頭あたまがいっぱいで、『あれ？　俺おれ、手帳てちょうで商売しょうばいできるぞ』って思おもったくらい（笑）。結局けっきょく、何なにかになろうというよりも、好すきなことをやっていたら何なにかになるというか、その人ひとの道みちが決きまっていくもんだよなって。そういう人ひとの映画えいがをさかなクンで作つくるのは面白おもしろいなと思おもったんです。俺おれもさかなクンみたいになれたらいいなと思おもったし。でもやっぱり無理むりだよなってことがわかりました（笑）」

ミー坊ぼう＝さかなクンのように生いきてみたい。それはなかなか困難こんなんなことで容易よういに真似まねをすることはできません。でも、ミー坊ぼうの物語ものがたりに触ふれていると「自分じぶんの中なかにある“好すき”という感情かんじょうを、もう少すこしだけ大切たいせつにしてみよう」と思おもえるはず。そんなポジティブな効果こうかがある“すっギョいおはなし”なんです。