コラム：（大人おとな向むけ）タイトルが気きになる昭和しょうわのお色気いろけ映画えいが - 第だい5回かい

動画どうが配信はいしんサービスの普及ふきゅうにより、これまでなかなか見みる機会きかいのなかったジャンルの作品さくひんが、気軽きがるに鑑賞かんしょうできるようになりました。こちらではタイトルが気きになりすぎて、筆者ひっしゃが思おもわずクリックしてしまった昭和しょうわのお色気いろけ映画えいがの鑑賞かんしょうレポートをお届とどけします。

※紹介しょうかいする作品さくひんはすべてR15＋もしくはR18＋指定していで、今日きょうの観点かんてんからすると不適切ふてきせつな表現ひょうげんも含ふくまれます。紹介しょうかい作品さくひんをご鑑賞かんしょうの際さいは、その旨むねご理解りかいください。また、配信はいしんが終了しゅうりょうすることもあります。

＜第だい5回かい＞「怪かい猫ねこトルコ風呂とるこぶろ」（R15＋）（1975／東映とうえい／山口やまぐち和彦かずひこ監督かんとく）

年としの瀬せを迎むかえ、忙いそがしい毎日まいにちを送おくるみなさん、気晴きばらしにとんでもない映画えいがを見みたくなることありませんか？　今回こんかいご紹介しょうかいするのは「怪かい猫ねこトルコ風呂とるこぶろ」です。何なにが起おこるのか、全まったく想像そうぞうがつかない不思議ふしぎなタイトルですね。長年ながねんカルト作さくとして知しられていたものの、今年ことしようやく初はつDVD化かされ話題わだいを集あつめた作品さくひんです。

本ほん作さく、はっきり言いうと現代げんだいのコンプラ的てきにアウトな表現ひょうげんばかりです。まず、風俗ふうぞく産業さんぎょうなんてとんでもない、というお考かんがえの方ほうは見みない方ほうがよいです。次つぎに、暴力ぼうりょくシーンが苦手にがてな方ほうもお勧すすめしません。もちろんすべて演技えんぎですが、性せい描写びょうしゃや女性じょせいのヌードがたくさん出でてきます。しかし、この映画えいがの最大さいだいの見みどころは、こういった社会しゃかい道徳どうとく的てきにNGな表現ひょうげんではないのです。一度いちど見みたら忘わすれられないラストが待まち受うける、ポルノ×ホラーの枠わくを超こえた昭和しょうわの超ちょう珍ちん作さくをご紹介しょうかいします。

映画えいがのはじまりは東京とうきょう・吉原よしはら、赤あか線せん最後さいごの日ひ。吉原よしはらは「たけくらべ」などの文学ぶんがく作品さくひん、映画えいがでは「赤あか線せん地帯ちたい」「吉原よしはら炎上えんじょう」といった名作めいさくが生うまれていますが、最近さいきんは、大正たいしょう時代じだいを描えがいた大人気だいにんきアニメ「鬼おに滅めつの刃は」の舞台ぶたいにもなっています。

このコラムを読よむような大人おとなのみなさんはどんな場所ばしょであるかは理解りかいされていると思おもいますが、江戸えど時代じだいから遊郭ゆうかくと呼よばれた場所ばしょは、時代じだいの流ながれで規制きせいされ、戦後せんごは売春ばいしゅん防止ぼうし法ほうの施行しこうにより、一部いちぶの店舗てんぽは業種ぎょうしゅやサービス内容ないようを転向てんこうして営業えいぎょうするようになりました。本ほん作さくは、今いまでは使つかわれない呼称こしょうの特殊とくしゅ浴場よくじょう「トルコ風呂とるこぶろ」での物語ものがたりです。

この物語ものがたりのキーパーソン、雪乃ゆきのを演えんじるのは、谷たにナオミさん。日活にっかつロマンポルノなどでも活躍かつやくされ、少すこし陰かげのある美貌びぼうと抜群ばつぐんのプロポーション、こんな方かたが身近みぢかにいたら、誰だれもが理性りせいを失うしなってしまうのではないか……と思おもうほど妖艶ようえんなオーラを持もった女優じょゆうさんです。雪乃ゆきのの婚約こんやく者しゃ・鹿内しかないを演えんじるのが室田むろた日出夫ひでおさん。雪乃ゆきのは鹿内しかないと結婚けっこんするため吉原よしわらでの仕事しごとを引退いんたいしたのですが、鹿内しかないの金銭きんせん問題もんだいで、トルコ風呂ふろに鞍替くらがえした新しん店舗てんぽで引ひき続つづき働はたらくことになります。

さらっとあらすじを書かきました。が、この鹿内しかないが極悪ごくあく非道ひどう、ここまでひどい人間にんげんは見みたことないよ……と呆あきれるほど想像そうぞうを絶ぜっするクズ男おとこなのです。名優めいゆう、室田むろたさんの演技えんぎ力りょくに脱帽だつぼうです。この男おとこともうひとりの悪女あくじょの策略さくりゃくで雪乃ゆきのは騙だまされ、殺ころされるんですね。そして、遺体いたいは壁かべの裏うらに塗ぬり隠かくされてしまいます。エドガー・アラン・ポーの怪奇かいき小説しょうせつ「黒くろ猫ねこ」へのオマージュを感かんじます。また、「トラック野郎やろう」シリーズのファンである筆者ひっしゃは、長旅ながたびを終おえた星ほし桃もも次郎じろうが癒いやしのひと時じを過すごすあのセットが劇げき中ちゅうで使つかわれているのを発見はっけんし、心しんが躍おどりました。

雪乃ゆきのは早々そうそうに死しんでしまい、映画えいがの後半こうはんまでは、同おなじく鹿内しかないのせいで不幸ふこうな道みちを歩あゆむことになった雪乃ゆきのの妹いもうと、真弓まゆみ（大原おおはら美佐みささん）の物語ものがたりになります。劇げき中ちゅう、いわゆるSMや緊縛きんばくというジャンルに属ぞくするシーンが何なん度どかあるので、暴力ぼうりょく的てきなお芝居しばいに耐たい性せいのない方ほうは早送はやおくりしていいと思おもいます。そして、極ごく悪人あくにんたちの愛憎あいぞう劇げき。おぞましい殺人さつじんを行おこなった後のちにいきなり発情はつじょうしたりするので、ああ、同おなじ性癖せいへき同士どうしがくっついたんだなあとついつい苦笑にがわらい。そんな陰惨いんさんなドラマの中なかにも、名めいバイプレイヤー殿山とのやま泰司やすじさん、山城やましろ新伍しんごさん、大泉おおいずみ滉ひろしさんらによる笑わらえるシーンも挟はさまれますので、飽あきずにテンポよく鑑賞かんしょうできます。そして、この欲望よくぼうの館かんで何なにが起おこったのかを、雪乃ゆきのが可愛かわいがっていた黒くろ猫ねこがすべて見みているのです……。

（※ここからネタバレです）

クライマックスに向むけたラスト15分ふん、ついに“怪かい猫ねこ”が登場とうじょうです。殺ころされてしまった黒くろ猫ねこの怨念おんねんが、雪乃ゆきのに乗のり移うつり、谷たにナオミさんの女優じょゆう魂たましいがさく裂れつします。アナログ感かんあふれる特撮とくさつとグルーヴ感かん溢あふれる音楽おんがくをバックに、白装束しろしょうぞくに白髪はくはつのかつら、当時とうじは珍めずらしかったであろうカラコンを装着そうちゃくし、ドラえもんもびっくりの真まっ白しろなヒト型がた化ばけ猫ねこの誕生たんじょうです。逆さかさ吊つりになったりと、スーパー歌舞伎かぶきさながらの怪かいアクションを体当たいあたりで演えんじる谷たにさん。怪かい猫ねこモードの雪乃ゆきのにセリフはなく、猫ねこのうなり声ごえだけなのがもうシュールすぎて、邪よこしまな心しんも吹ふっ飛とびます。ラストの表情ひょうじょうを見届みとどけると、ああ、最後さいごまで見みて良よかった…！と妙みょうなカタルシスを得えられることでしょう。

巧たくみな脚本きゃくほんと見世物みせもの小屋こや的てき演出えんしゅつで観客かんきゃくの心しんを揺ゆさぶり続つづけながら、女性じょせいの性せいや優やさしさを喰くいものにしようとする悪人あくにんたちを成敗せいばいする、見事みごとな復ふく讐譚でした。

「Amazon JUNK FILM by TOEI」で配信はいしん中ちゅう。（2021年ねん12月がつ現在げんざい）