コラム：佐藤さとう久ひさ理子さとこ　Paris, je t'aime - 第だい109回かい

日本にっぽん食しょくブームのフランス、のん主演しゅえん作さくの仏ふつ題だい「Tempura（てんぷら）」でヒット

7月がつ20日はつかから、のん主演しゅえん、大だい九きゅう明子あきこ監督かんとくの「Tempura（てんぷら）」という作品さくひんがフランスで公開こうかいされ、1週しゅう目めに1万まん5000人にんの動員どういんを集あつめた。そんな作品さくひんあったっけ、と思おもったら、これがなんと綿谷わたやりさ原作げんさくの「私わたしをくいとめて」のことだった。

映画えいがを観みた方ほうならご存知ぞんじと思おもうが、冒頭ぼうとうはヒロインのてんぷら作づくりの話はなしが出でてくる。「おひとりさま」ライフにすっかり安住あんじゅうしている31歳さいの女性じょせいが、ひょんなことから恋こいをしてしまったことで、せっせとてんぷらを作つくりつつも、これから何なにが起おこるかという不安ふあんに恐おそれおののき、その平和へいわな日常にちじょうが揺ゆさぶられていく。

大だい九きゅう監督かんとくの傑出けっしゅつしたユーモアと同時どうじに、表ひょうには出でない心理しんりを掬すくい取とる的確てきかくな演出えんしゅつは、万華鏡まんげきょうのように豊ゆたかでニュアンスに満みちたのんの演技えんぎを得えて、日本にっぽん社会しゃかいで生いきる女性じょせいたちの息苦いきぐるしさを海外かいがいの観客かんきゃくにも伝つたえているようだ。「硬直こうちょくした、あるいは孤独こどくや男女だんじょの乗のり越こえ難がたい溝みぞに満みちた社会しゃかいに対たいして問といをもたらす」（週刊しゅうかん誌しL’Obs）、「控ひかえめだが断固だんことしたフェミニズムの証あかし。そしらぬ顔かおで、日本にっぽんの男性だんせい優位ゆうい社会しゃかいの伝統でんとうに揺ゆさぶりをかける」（週刊しゅうかん誌しテレラマ）といった評ひょうが見みられる。

それにしても題名だいめいをてんぷらにするのは大胆だいたんだが、じつは日本にっぽん映画えいがと食たべ物ものというリンクは、マーケティングの点てんから考かんがえるとかなり正ただしい選択せんたくと言いえると思おもう。

もうずいぶん前まえからフランスでは和食わしょくがブームになっていて、今いまや「スシ」から前進ぜんしんして「ラーメン」「うどん」「和牛わぎゅう」「タタキ」「居酒屋いざかや」といった言葉ことばがふつうに通つうじるようになっている。「和食わしょく＜日本人にっぽんじんの伝統でんとう的てきな食しょく文化ぶんか＞」はユネスコ無形むけい文化ぶんか遺産いさんに登録とうろくされていることからも、日本にっぽん文化ぶんかにとって食しょくは欠かくことのできない要素ようそとして認みとめられているのがわかる。

フランスで日本にっぽんのアニメやマンガが大好だいすきな若者わかものたちが増ふえているのも、日本にっぽん食しょくがポピュラーになっている一因いちいんだろう。彼かれらの多おおくは和食わしょく好すきで、手頃てごろな日本にっぽん料理りょうり屋やが集あつまるオペラ界隈かいわいに行いくと、箸はしをうまく使つかいこなす若者わかものたちで賑にぎわっている。

こうした人気にんきに映画えいが配給はいきゅう会社かいしゃが目めをつけたのか、最近さいきんは日本にっぽん映画えいがのフランス語ふらんすごの題名だいめいに、食しょく関連かんれんの言葉ことばを入いれるケースが目めにつく。たとえば河瀬かわせ直美なおみの「あん」は「Les Delices de Tokyo（東京とうきょうの絶品ぜっぴん）」、エリック・クー監督かんとくによる合作がっさく「家族かぞくのレシピ」は「La Saveur des ramen（ラーメンの味あじ）」、そして今回こんかいの「Tempura」。

ちなみに「あん」は河瀬かわせ作品さくひんのなかでもっとも興行こうぎょう成績せいせきが良よく、5カ月かげつにわたりロングランを果はたし、およそ30万まん人にんの動員どういんを集あつめた。公開こうかい時じに、配給はいきゅう会社かいしゃがどら焼やきのレシピを紹介しょうかいした小しょう冊子さっしを無料むりょう配布はいふしていたのが印象いんしょう的てきだった。

今年ことしのカンヌ国際映画祭かんぬこくさいえいがさいで「ベイビー・ブローカー」を披露ひろうした是枝これえだ裕和ひろかずの次つぎのプロジェクトは、小山こやま愛子あいこのコミックをNetflixでテレビシリーズ化かする「舞妓まいこさんちのまかないさん」と聞きくが、こちらは「The Makanai: Cooking for the Maiko house」という題名だいめいで海外かいがい配信はいしんされるらしい。

さらにフランス発信はっしんで日本にっぽんロケをした公開こうかい待機たいき作さくに、スロニー・ソウの「Umami」という作品さくひんがある。日本にっぽん料理りょうりの「旨味うまみ」をテーマにしたもので、ジェラール・ドパルデュー、サンドリーヌ・ボネール、ピエール・リシャール、ロド・パラド、日本にっぽん側がわから柄本えもと明あきら、長塚ながつか京三きょうぞう、小泉こいずみ今日子きょうこ、ゆう、武田たけだ絵利えり子こら、かなり贅沢ぜいたくなキャストが集あつまっている。本ほん作さくが公開こうかいされた暁あかつきには、「旨味うまみ」という言葉ことばもポピュラーになるかもしれない。

もちろん、料理りょうりと縁えんがなくてもヒットしている日本にっぽん映画えいが（「ドライブ・マイ・カー」「万引まんびき家族かぞく」など）もあるが、今後こんごこうしたブームにますます拍車はくしゃが掛かかるような予感よかんがする。（佐藤さとう久ひさ理子さとこ）

「私わたしをくいとめて」 配信はいしん中ちゅう！